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「木育」サミットで考える森林とともに暮らす意味

2015.02.05 平澤 直子

音盤の長さが同じ木琴。木の種類により出る音が違うことを活かして音階を作っている  photo by Naoko Hirasawa

1月27日、東京の新宿文化センターで「木育サミット2015」が開催されました(主催:NPO 日本グッド・トイ委員会/東京おもちゃ美術館)。木育とは、2004年ごろから出てきた概念で、「子どもだけでなく大人も木に親しみ、木の文化を理解し、木材を利用することの意義を学ぶ教育活動」のことです。昨年に続いて2回目となる本サミットは、「学び」と木育、「子育て」と木育、「暮らし」と木育の3部で構成され、企業、NPO、自治体と、多種多様な団体に属する人々が登壇し、それぞれの立場での木育について、事例を発表し、パネルディスカッションを行いました。

上記にも「木材を利用することの意義」とありますが、木の切りすぎによる地球温暖化が心配されたのは過去のことで、現在は、木を適切に使い、山の手入れをしないほうがむしろ、木がやせ細ったり、土の保水力が弱まり土砂災害が起こったり、といった環境の悪化につながるという認識が一般的です。

林野庁の資料によれば、日本の森林資源は、昭和41(1966)年には18億8700万平方メートルだったのが、平成24(2012)年には49億100万平方メートルへと増えています。一方で、利用される木材は輸入材が大半を占め、平成25(2013)年の木材自給率は28.6%にとどまっています。これは、戦争で木が焼失・減少し、戦後の近代化に必要な木材を輸入した習慣が、木が育った現在も残ってしまっていることが原因で、この20年ほど、日本では放置林が多くなっていると、パネリストの一人でトビムシの代表・竹本吉輝氏はいいます。

では今後は国産材を利用すればよい、というのは簡単ですが、そこには多数の問題が存在します。中でも、登壇者がそろって口にしていたのがコストの問題。国産材はコストが高すぎて取り入れるのが困難だというのです。それでも地球環境のため、日本の林業のため、子どもたちのため、国産材を取り入れてきた登壇者たちは、コストを下げるため、または周囲にそのコスト負担を納得させるため、さまざまな工夫をしてきたと話します。

2012年にユネスコエコパーク(※1)に登録された宮崎県・綾町では、町立の中学校を木造で建て替える際のコスト高を発想の転換で乗り切りました。大きな校舎を作るのではなく、小さな家をたくさん作って組み合わせる要領で建てることで、コストを抑えられたと、登壇した町長の前田穣氏は言います。

また、1本の木から作れるものを増やすことで、木1本から生まれる利益を上げるのも手だと言うのは竹本氏。端材でiPhoneケースを作るなど、間伐材をオシャレな製品に加工し、端材まで使い切ることで地域・木材のブランド化に成功した岡山県・西粟倉村の取り組みを念頭に置いての話でした。また、「ユーザーはコストを気にしない。好きだから買う」とも。消費者の心を先につかみ、あとから工務店がその製品を取り入れることでコストを下げられる、という新しい構造を、竹本氏と、同村の間伐材を使い、運営する保育施設の木育化を実践しているサクセスホールディングス社長の野口洋氏は話していました。

一方、施設を木育化する際のコストを上回る効果を示す必要性を説いたのが、病児保育で有名なNPOフローレンスの駒崎弘樹代表。フローレンスは2014年9月に日本初の障害児専門の保育園を東京・杉並区にオープンしたばかりですが、氏は、「障害のある子は感覚が過敏な子が多く、プラスチックや角が苦手な子が多いので、木のおもちゃは良い」と言います。しかし、福祉法人は利益が薄いため、施設全体の木育化には、木を使うことによる良い影響をエビデンスとして示す必要があると言います。

本サミットを主催する東京おもちゃ美術館には、0歳から2歳の子ども専用の、木を多用した「赤ちゃん木育ひろば」があるのですが、この広場を木仕様にしてから、来場者の滞在時間が延びた、母親がスマートフォンを見る時間が減少した、と言います。全国33の店舗に木育広場を持つ無印良品を展開する良品計画では、木育広場を作ってから客数が増えたと同社の赤峰貴子氏は言います。また、前述の綾町の中学校での調査では、校舎を木育化してから生徒のストレスが減少した、インフルエンザの罹患者数が減少したというデータがでてきました。

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播州そろばんの技術を活かしたゲーム(東京おもちゃ美術館で)


「木が良いことはみんな感覚的にわかっている。だけどコストが高い」登壇者が口々に言うこの問題。今後、こういったデータを積み重ねていくことが、日本の木育、ひいては日本の森林を守ることにつながっていくのかもしれません。

※1 生態系の保全と持続可能な利活用の調和(自然と人間社会の共生)を目的としてユネスコが認定する生物圏保存地域。世界119カ国631地域、日本では7地域(2014年6月現在)が登録されている。



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平澤 直子