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2022.07.26 | 岩井 光子

ペットボトルの「水平リサイクル」がさらに進化 不純物も除去へ

暑い夏には、清涼飲料⽔がよく売れます。世界では何と 1 分間に約 100 万本のペットボトルが売れているのだそうです。安価に作れ、軽くて丈夫という利点は、裏を返せば捨てやすいということでもあり、プラスチックごみの象徴として⾮難されることもあるペットボトル。しかし、ペットボトル=悪者という認識を持てばいいのでしょうか?

ペットボトルは、実はリサイクルのポテンシャルが⾮常に⾼い容器です。⽇本のペットボトル⾃主設計ガイドラインによれば、ペットボトルの原料は PET(ポリエチレンテレフタレート)と呼ばれる単素材で作る決まりがあります。⼀種類のプラスチックで作る⽅がリサイクルしやすいからです。商品名などをボトルに直に印刷せず、ラベルを巻いて表記しているのも、異素材であるインクを PET に混ぜないためだそうです。

そんなペットボトルを無駄なく、再びペットボトルとして使うリサイクル方法が「⽔平リサイクル」。使⽤済みペットボトルにつき飲みものを⼊れても安全なレベルの PET 樹脂に再⽣し、また同じ容器を作ることから、「ボトル to ボトル」ともいいます。まだリサイクル全体の 3 割ほどですが、貴重な⽯油資源を有効活⽤できるこの⽅法を広めていこうと、⼤⼿飲料メーカーとリサイクル業者が協働で事業を⽴ち上げる動きが活発になっています。

⽇本のリサイクル⽅法は繊維製品や卵パックなどのシートに加⼯される割合が半数以上を占める。捨てずにリサイクルに回すことは⼤切だが、原料の劣化は避けられないため、カスケードリサイクル(品質の低下を伴うリサイクル)と呼ばれる
PET 樹脂(JEPLAN サイトより)

現在、国内で実⽤化されているボトル to ボトルの技術は、メカニカルリサイクルとケミカルリサイクルの⼆種。2018 年から事業化したのはサントリー。協栄産業などと開発したメカニカルリサイクルシステムでは、ペットボトルをフレーク状に粉砕して 洗浄、⾼温で処理して表面上の不純物を取り除いてからもう⼀度ペットボトルに成型します。

⼀⽅、ケミカルリサイクルは2004年、川崎市のエコタウン事業者や帝人ファイバーが事業化を見込んでいたものの、原料のペットボトルの仕入れに多額な費用がかかる状況となり、計画は中止に。2018 年にJEPLANが川崎のペットリファインテクノロジーを⼦会社化し、世界でも例のないケミカルリサイクル⼯場の商用稼働を進めてきました。今年5月からはアサヒ飲料と協働し、自動販売機横のペットボトルを回収する水平リサイクル事業を始めています。JEPLANの技術はPET の分⼦構造を BHET と呼ばれる基質の単位まで⼀旦バラバラにしてから、不純物を取り除いた後にまたつなげ、再生させて真新しいペットボトルを作ります。 分子レベルまで解いた後に不純物をほぼ除去できる技術で、半永久的にリサイクルを繰り返すことができるのが利点です。

川崎市のペットリファインテクノロジー。ラボレベルでケミカルリサイクル技術を用いて水平リサイクルに取り組む事例は世界各地にあるが、量産⼯場は JEPLAN が稼働に成功した北九州市の繊維リサイクル専⾨⼯場とここにしかない

会社や⼯場、店舗などで回収されるペットボトルはラベルやキャップはついたままで、さらに飲み残しや別のごみが混⼊していることも多いのが現状です。ケミカルリサイクル技術を用いた水平リサイクルが有望なのは、キャップやラベル、汚れのついたボトルが混ざっていても、石油由来の原料から最初に製造したボトルと同品質に再生できるという点です。ケミカルリサイクル技術は、ボトルtoボトルで処理できるペットボトルの対象を広げると共に、半永久的にリサイクルを繰り返せるという面でもメカニカルリサイクルを補完する役割が期待されています。

アサヒ飲料とのタッグで同社の⾃動販売機横の回収ボックスに捨てられたペットボトルの⽔平リサイクルが可能に。JEPLAN は 2021年4 ⽉にイオンやセブン&アイなど 5社とコンソーシアムも設⽴。業界の垣根を越えて「ボトルtoボトル」の循環システム構築を推進する計画だ (recycleharmony/CC BY-NC-ND 2.0)

メカニカルリサイクルは、ラベルやキャップを外して中をきれいに洗って分別する習慣が根づいている⽇本の市町村系ごみの利点を活かせますし、ケミカルリサイクルは事業系ごみのペットボトルを有効活⽤する道を切りひらきました。互いの得意分野を活かし、補完し合いながら⽔平リサイクルの割合を拡⼤する取り組みが広がりつつあります。必ずしもペットボトルの存在そのものが悪いわけではなく、リサイクルの技術⾰新と仕組みを整えることで風向きは⼤きく変わる。そう思わせてくれるニュースです。

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岩井 光子
岩井 光子(いわい みつこ) ライター

地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!

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