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2023.05.25 | ささ とも

モデストファッションがユニバーサルファッションへ―だれもがファッションを楽しむことのできる未来に

「モデストファッション」という言葉をご存知でしょうか? 2010年代後半からDKNYやユニクロなど世界の有名ブランドがモデストファッションのコレクションを発表するようになり、今最も注目されている新たな分野です。2023年5月15~19日に開催された、「アフターペイ・オーストラリア・ファッション・ウィーク」でも、ソマリア系オーストラリア人でムスリム(イスラム教徒)のデザイナー、アシア・ハッサン(Asia Hassan)さんのコレクションがメディアに大きく取りあげられました。

「モデスト(modest)」とは「慎み深い」「控えめ」という意味で、モデストファッションは露出を控えめにした服装のことを指します。その流行を歓迎したのがムスリムの女性たち。イスラム教の戒律の下、髪や肌、体の線を出さない「イスラム/ムスリム・ファッション」とも呼ばれる服装は、欧米などイスラム教徒の比較的少ない国に住む人たちにはなかなか手には入らなったからです。

デザイナー、アシア・ハッサンはオーストラリア・ファッション・ウィークではじめてモデストドレスを披露した

ムスリムは世界に約19億人いるとされています。主に東南アジア、中東、アフリカに暮らしていて、インドネシアで最も多く、約2億2000万人に達しています。ムスリム人口は世界中で増加傾向にあり、日本には約20万人強が住んでいるといわれています。

ムスリムの人口増加にともない、モデストファッション市場は順調に拡大してきました。「世界イスラム経済レポート(2022年版)」によると、世界のモデストファッションの消費額は2021年には2950億ドルに達し、前年(2790億ドル)より5.7%上昇しています。

モデストファッションの躍進は、若い世代の発信力も一役買ったようです。たとえば、インスタグラムのフォロワーが250万人を超えるクエート人インフルエンサーのアーシャ・アル・フラージ(Ascia Al Faraj)さん。ヒジャブ(髪を覆うスカーフ)を身に着けたモデストファッションを装いに取りいれ、その保守的なイメージからクールな(カッコいい)イメージへと変化させ、若者の心をつかみました。

*1:アーシャさんは10年ほどそのスタイルを貫いてきましたが、数年前から、自分に正直でいたい、とヒジャブを着用していません 。ヒジャブの着用をめぐる論争は欧州などで続いていますが、それも女性が声をあげることができるよう社会が変化した結果だと思いました。

また、モデストファッションのモデルも活躍しています。ソマリ系アメリカ人のハリマ・アデン(Halima Aden)さんは、はじめてヒジャブをまとって英国版『ヴォーグ』誌の表紙に登場した女性として知られています。彼女はケニアの難民キャンプで生まれ、6歳のときにアメリカに移住。「ミスUSA」でミネソタ代表を決めるコンテストに、全米ではじめてヒジャブを着用して出場してセミファイナルまで進んだことで注目されました。その後、世界的トップモデルとしてサクセスストーリーを歩んでいます。

*2:ハリマさんは3年前からモデルを休業していましたが、2023年5月に再びカメラの前に戻ってきました。

ユニセフ親善大使としてTEDで語るハリマさん

今、モデストファッションはムスリム以外でも、肌の露出を避けたい、体形をカバーしたい、でもおしゃれも楽しみたい、という女性に好まれていて、今後ユニバーサルなファッションとして浸透する予感がします。モデストファッションがただの一時的な経済効果や流行にとどまらず、イスラムの文化やルールを知り、多様性を受けいれる社会をつくるきっかけになってほしいと思います。

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ささ とも
ささ とも(ささ とも) 地球リポーター

神奈川県在住。翻訳者、ライター。 2010年からThink the Earthのリポーターとして世界の持続可能な取り組みのニュースを発信。気候変動、エネルギー、生態系など幅広い分野で世界の動きを追っていきます。翻訳書『ポストキャピタリズム:資本主義以後の世界』(東洋経済新報社)など。

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