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ミツバチに続いて鳥も? 農薬との因果関係を示す研究

2014.07.15 山田 由美

Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by Kelly Colgan Azar

ネオニコチノイド系の農薬「イミダクロプリド」の使用により、鳥の数が減少している可能性があるというオランダの研究結果が7月9日、科学誌「ネイチャー」オンライン版が発表されました。農薬の製造元は、これは偶然の一致だと反論。実はこれ以前にも、この農薬による影響の問題に対してはEU、各国政府、製造メーカー、環境団体、農家などが異なる見解を次々と出し、対立が起こっていました。

ネオニコチノイド系農薬は毒性のある有機リン系農薬に代わるものとして1990年代から多用されるようになりました。使用量が少なくても効果があり、人体や害虫以外の虫にも安全性が高いと、良いこと尽くめで推奨されてきたのです。タネのうちから浸透させた農薬成分が成長時にも持続するので、農作物への農薬散布が少なくて済みます。コストも手間も少なくて済むことから世界中で爆発的に普及し今では農薬市場の約40%を占めるようになりました。農薬のほか家庭用の殺虫剤としても広く流通しています。

しかし土壌や水にも浸透すると状態によっては2年3年と成分が残留し、より多くの虫を殺すことになり、虫を食物源とする鳥に多大な影響を与え、鳥類を減少させる要因になっているのでは、と今回の論文で指摘されたのです。論文第一著者のオランダ、ラドバウド大学ナイメーヘン校のカスパル・ホールマン氏は「幼鳥を産み、育てる数も減っている」と述べ、繁殖能力に影響している可能性も示唆しています。

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Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by Nottsexminer


実は近年この農薬、「ミツバチ大量死」の原因として疑われ注目を浴び始めていました。2007年春までに北半球で4分の1のミツバチが消えたとされる異常な事態は、ネオニコチノイド系農薬が原因なのではないかという論文を2012年にフランス国立農学研究所のミッシェル・アンリ博士が発表。以降同様の研究結果の発表が相次いだのです。この大量死にはいくつもの原因が指摘されており未だ確定的な結論は出ていません。しかしEUは環境に対して甚大な影響を及ぼすおそれを考え、2013年5月、ネオニコチノイド系農薬3種の使用規制を決めました(2年以内に見直すという暫定的なもので、同年12月より実施)。アンリ博士の研究は1990年代を対象にしています。これは急激に本農薬の使用量が増えた時期です。

今年に入ってからは、ハチに留まらず、自然界の幅広い種や、人体への影響の可能性が公表され始めました。イギリス、サセックス大学の生物学者、デーブ・ゴールソン教授は「昆虫を食べる鳥が減っているなら、ほかの食虫性の動物も同じことになるだろう。今我々はコウモリやネズミ、魚などの影響も研究しているが、調査対象の個体は残っていないことがほとんど。いったいアクションをとるのにどれだけの証拠が必要だと言うんだい?」と語っています。

EUが早々に禁止決定に踏み切ったのは「因果関係が十分に証明されていなくても予防的に措置を取る」という「予防原則」をよりどころとしたからでした。この決定には当時の加盟国27カ国中8カ国が反対し、いまだに異論を唱える農家も少なくありません。たった2年、たった3種の規制では因果関係がわからないのではないかとの指摘もあります。しかしEUは消極的な対応をとり、影響が拡大するのを防ぐことを選んだのです。

ホールマン氏は論文中、鳥の個体数減少に関する他の原因を排除した訳ではありません。あくまで可能性で警鐘を鳴らしたのです。しかしそれを明白でないからと見過ごす間に状況は変わっているかもしれません。

EUの禁止期間中、因果関係が明らかになる研究が進むことを願っています。



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山田 由美