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スパイスの香り漂うレシピ本が伝えたいこと

2013.04.22 岩井 光子

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誰にでも匂いや味で、ふと自分の幼いころの記憶がよみがえることがあるのではないでしょうか? 言葉以上にそうした感覚の記憶は母親の愛情や家族の温もり、故郷の風景と強く結びついているものです。

難民支援協会が今年2月に発刊したレシピ本『海を渡った故郷の味』には、政情不安定な故郷で迫害を受けるなどして、日本へ逃れてきた難民の人たちが紹介する45のレシピが掲載されています。

例えば、冷たいヨーグルトスープにキュウリの薄切りを浮かべたクルドの定番料理「トラク」、ターメリックやチリといったスパイスパウダーにレモングラスの香りを効かせたビルマの少数民族カレンの「ツブ貝のスープ」、日本でなじみのバナナよりふた回りほど大きい調理用バナナ「プランティーン」を使ったカメルーン料理などなど。ページいっぱいにレイアウトされた大きな料理写真からはエキゾチックなスパイスの香りが今にも立ち上ってきそうです。本には現地特有の食材でも上野のアメ横で売っていたり、日本にある食材で代用できることなどが書かれており、ビルマ料理が食べられるレストランの紹介もあります。

「難民は遠い国の話」、日本ではそう思われがちですが、国内には既に1万人を超える難民の人たちが暮らしています。日本語の読み書きが不得意で、頼る友人・知人も少ない彼らにとって、日本は決して安住の地ではありません。加えて難民として日本政府に認定してもらう手続きは大変複雑で、提出書類も膨大。平均して2年、長くなれば5年以上かかってしまうケースもあるそうです。2012年には過去最高の2545人が難民申請を行いましたが、うち認定されたのはたったの18人でした。欧米諸国の年間数万人、数百人単位の認定数に比べると目立って低い数です。難民支援協会では、日本に逃れてきてからも長い闘いを強いられる難民の人たちの申請手続きや住居や医療といった生活環境のサポートを行っているほか、「難民後進国」と言われる日本の受け入れ状況を改善するよう政策提言活動にも力を入れています。

著書冒頭には、母親から時折ドレスを送ってもらうエチオピア人女性の話が書かれています。必ず「洗わないで送って」と伝えるのは、「服にしみついた匂いから母親や故郷を思い出すことができるから」だそうです。離れ離れになってしまった家族を思う女性の苦しい胸の内が伝わってきます。

身の危険を感じつつ暮らした経験のない私たちが、難民の人たちの境遇を想像することはなかなか難しいかもしれません。しかし、何も接点がなければ私たちはこうした問題に無関心なままです。「何とか関心を寄せてほしい」と考えている難民支援協会では、今回のレシピ本で誰もが身近に感じる「食」という接点を用意、彼らが慣れ親しんだ故郷の味を通して日本の難民問題の深刻さを少しでも感じてもらいたいと願っているのです。



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岩井 光子