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いのちをつなぐある精肉店の物語

2013.08.26 岩井 光子

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『うちは精肉店』は、大阪府貝塚市で7代続く北出精肉店のお話です。北出精肉店は、店で売る肉となる牛を育てるところから携わってきた昔ながらのお肉屋さんです。市場の競(せ)りで仕入れた子牛を大切に育て、大きくなったら牛を近くの市立の屠(と)場までひいていって家族総出で屠畜と解体を行います。こうして手作業で丁寧に加工した新鮮な肉を自分たちの店で販売する家族経営のお肉屋さんは、今ではほとんどありません。本の中にも住宅街をひかれていく牛の写真がお話の最初の方で出てきますが、そんな光景を見たら今の人たちは「何事??」と、さぞかしびっくりすることでしょう。

この写真絵本が作られたきっかけは北出精肉店が長年利用してきた貝塚市立屠畜場の閉鎖が決まったことでした。輸入肉の増加や業界の効率化の流れに押され、貝塚の屠場も役目を終えることになったのです。そこで2011年3月の閉鎖前に行われた同店最後の屠畜と家族総出の作業風景を、写真家で映画監督の本橋成一さんが撮影、30枚ほどの写真に説明を加えたのがこの写真絵本です。農文協から3月に出版されました。牛を気絶させたらすぐに頸(けい)動脈を切って体の血を流しきり、穴を開けないように巧みに皮をはぎ、内蔵を仕分けます。機械を使うのは牛の体を半分に割る際の電動のこぎりのみだそうです。700キロ近い牛が手作業で「食肉」に変わるまでに必要な力と技の数々には圧倒されます。

スーパーや食卓で小さく加工された肉しか目にする機会のない私たちにとって、家畜のいのちをいただく屠殺の現場は意識して知ろうとしなければ見えてこない世界になりました。30年近く前から大阪の屠場に通い続けてきた本橋さんによれば、屠殺から精肉までの過程はどんどんオートメーション化が進み、家畜は大きな工場のラインにのって効率的に肉のかたまりにされていくようになりました。牛が苦しまないようハンマーの一撃を間違いなく牛の眉間に当てるといった、北出家が行ってきた緊張感ある工程も、今では多くの現場で機械が行うようになっています。

北出精肉店の人たちは、牛は肉だけでなく、骨や血は肥料に、脂肪は油脂に、皮は皮革製品にとあますことなく生かされてきたことを経験からよく知っています。昔から牛は「鳴き声以外すてるところがない」と言われたそうです。例えば次男の昭さんが得意とするのが、牛の皮を使った太鼓の革張り。この写真絵本のラストに登場します。貝塚は岸和田と並んで秋祭り「だんじり」が盛んな土地。その祭りに向けて大太鼓の皮をなめして作るのです。革の張りを均一にするために昭さんは大太鼓の上に飛び乗って踊るように足踏みします。地域の文化ともつながる食の風景、家畜のいのちと人間との豊かなかかわりが伝わる1枚です。

この北出精肉店のお話は、現在本橋さんのプロデュースで映画撮影も進行中です。今年中には完成予定で、映画「ある精肉店のはなし(仮)」を応援する会が制作協力金を募っています。協力者はエンドロールに名前が載るほか、北出精肉店特製のおいしい牛肉の佃煮が届く特典もあるそう。関心のある方はこちらをご覧ください。



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大阪、日本 (日本

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