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スマホで途上国の水くみ体験。なかなか進まぬ画面にあなたは何を感じる?  

2015.05.29 橋本 淳司

「水を使いたい」と思ってから、実際に水を得るまでに、どのくらいの時間がかかるでしょうか。機会があればストップウォッチで計って欲しいですが、日本で暮らす人のほとんどは、おそらく30秒くらいで水道の蛇口をひねり、安全な水を手に入れるのではないでしょうか。

しかし、世界を見渡すと、これは驚異的なことではないかと思うのです。現在、約7億5000万人が安全な水を利用することができず、そうしたところでは、毎日2〜3時間かけて水くみに行くところもあり、多くの場合、それは女性や少女の仕事になっています。

途上国での水くみの様子(©WaterAid/ Anna Kari)


私は、学校の授業でこうした話をするのですが、リアルな現実を伝えるのはなかなかむずかしいと感じています。写真や映像を見せたり、「水くみタンク」に20リットル(約20キロ)ほどの水を入れて背負わせたりするのですが、「かわいそうな人たちがいるんですね」で終わってしまったり、「安全な水がないならコンビニで買えばいいじゃないですか」という子もいます。

そうしたなか、「途上国の水くみ体験」ができるモバイルコンテンツがあると知りました。ジーンズで有名なリーバイス・ストラウス ジャパンが開発したものです。

スマートフォンという便利な道具をつかって、いかに水くみの不便さ、過酷さを伝えられるか。コンテンツを企画した出倉成昌さんは、「これが単なるゲームとして受け取られないことを何よりも意識した」と言います。

モバイルコンテンツの企画者・リーバイス・ストラウス ジャパンの出倉さん


「これはゲームではなく、途上国で毎日起きている現実です。だからイラストやアニメは使わず、リアルさにこだわりました。やってみて『おもしろかった』で終わってしまうのは違うと思ったし、クリアしたら賞品がもらえる、というのはもっと違うと思いました」

実際にやってみると、スマホをスクロールしてもなかなか進みません。砂利道を歩き、草むらを横切り、途中、何カ所も立ち止まらなくてはなりませんし、ようやく水くみ場にたどりついても、得られる水は十分とはいえず、衛生的でもない.........。蛇口をひねれば「あたりまえ」のように水が出る日本とは、あきらかに生活環境が違います。

「あたりまえと言っても、あくまでそれは日本の常識に過ぎないと思うんです。日本人のおかれている状況や感覚はけっして世界のスタンダードではありませんよね。たとえば、僕らがいう『水がもったいない』は『水道代がもったいない』ということが多いのでは? でも、水不足の地域の『もったいない』は、『生きるためにいかに水を大切にするか』という深刻なものです」

このコンテンツをやりながら、水くみの女性のことを「かわいそうな人」と言った学生のことを思い出し、はたしてそうだろうかと思いました。もちろん水のない状況は改善しなくていけないのですが、一方で、便利な生活を得たかわりに失ったものも多いのではないか。見方を変えれば私たちのほうが「かわいそう」な部分も多いのではないか、ということです。

水のない厳しい環境に暮らす人たちは、人間が本来備えていた生きるスキルや豊かな感受性をもち続けています。たとえば、家族のためコミュニティのためという意識をもっています。水くみをしている女性の後ろには家族やコミュニティがあり、家族に貢献しよう、コミュニティに貢献しようという気持ちをたくさんもっています。そんな話を出倉さんにすると大きくうなずいていました。

「途上国の子どもたちがなりたい職業を見ると、学校の先生や医師など、直接人に役立つものを目指しています。このメンタリティは日本人には少ない部分だと思います。大学生の進路相談を受けると、『自分にはどんな仕事が向いているのかわからない』、『自分のやりたいことがわからない』などという声を聞くことがあり、本質的な部分で途上国の人に学ばなくてはならないことが多くあるような気がします」(出倉さん)

水を共有するという感覚も違います。日本人は蛇口から出てくる水、ペットボトルに入った水のことは考えますが、その水源までイメージすることは少ないでしょう。だから水が共有のものであるという感覚をもちにくいのではないでしょうか。一方、途上国では井戸をリアルに共有していますから、その感覚も備えています。

欲しいものは何でも手に入り、面倒なことが排除されていく現代。「便利なサービス」という名のもとに、人間のやることがどんどん減っていけば、生きていくうえで必要だったスキル、感受性や想像力は失われてしまうのかもしれません。世の中は『ドラえもん』の世界に近づいていますが、僕たちはのび太がもっているような豊かな感受性を失っているのではないかと心配になります。

普段私たちが想像しにくいものの1つに、生産過程でつかわれる水があります。たとえば、ジーンズもその一生の間(原材料を育てるときから廃棄されるまで)にたくさんの水をつかいます。それをはく私たちは、洗濯の水のことをイメージしますが、ジーンズ工場でも染色のときに水をつかいますし、さらにはコットンを生産するときにも大量の水を使います。日本は水の豊富な国と言われますが、実際には生産につかわれる水の多くを他国に依存しています。

「ジーンズの一生の間の水を減らすには、洗濯の回数を減らすことはもちろんですが、じつは1本のジーンズを長くはいてもらうことが大切です。たくさん買ってたくさん捨てるよりも、1本を大切にしたほうが、綿花生産に使用される水は少なくなります。だからジーンズを一世代で終わらせるのではなく、親から子どもへと伝えていってほしい。そうした想いに共感してくださる方が一人でも増えればいいなと思います」(出倉さん)

「リーバイス®は現在、ジーンズ回収プログラム"LEVI'S® FOREVER BLUE."(5月8日~6月12日)を通じて、途上国の水と衛生を支援するNPOウォーターエイドジャパンの活動を支援しています。5月8日から6月12日の期間中、全国のリーバイス®ストアにて(※一部店舗を除く)デニム回収を実施しています。あなたのはかなくなったジーンズと引き換えにリーバイス®ストアで使えるクーポンを配布。実際に回収した約100本に及ぶジーンズは、この取り組みに賛同するアーティストの手によってカスタマイズされ、5月23・24日のGREEN ROOM FESTIVAL'15にて販売されました。その収益はすべてウォーターエイドジャパンに寄付され、東ティモールで井戸などの給水設備の設置、子ども達への衛生教育の実施に使われます。



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橋本 淳司