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流域水循環の「見える化」で水マネジメントが変わる

2012.05.16 橋本 淳司

写真提供:公益財団法人リバーフロント研究所

徳川家康は江戸を開発し、政治経済の中心地に変えていきますが、その要となったのが利根川の治水です。当時の関東平野は水の流れが複雑にからみ、しばしば氾濫(はんらん)を起こしました。そこで家康は、東京湾に流れていた水を銚子に向かわせ、江戸は大きく発展しました。しかし、利根川の下を流れる地下水脈は、現在も写真の通り東京湾に注いでいます。

このことを伝えるのが「4次元水循環マネジメントプロジェクト」。見えなかった地下水脈を含め、流域の水循環をコンピューターで「見える化」したものです。河川水や地下水の状況を、空間的に把握するだけでなく、時間の要素も加えて未来予測できるので「4次元」水循環マネジメントプロジェクトという名称がついています。

このプロジェクトは、公益財団法人リバーフロント研究所(代表理事・竹村公太郎)が軸となり、東京大学、産業技術総合研究所、日立製作所、地圏環境テクノロジー、宇宙航空研究開発機構などの専門家たちが高度技術を持ち寄ることで完成しました。

この新しい技術より、将来に渡る持続可能な水管理計画の策定、評価、管理が可能になるとされています。というのも水源から海までの、表流水、地下水の水循環が一体的、かつ精密に明らかになるため、貴重な淡水資源、水環境の状態を的確に把握することができ、また、開発や気候変動などによる水環境の変化を予測することも可能になるためです。

流域が「見える化」されることで、人びとの水に関する認識や水管理のあり方は大きく変わることでしょう。

日本では、地下水は原則として土地所有者に利用権がある、とされています。民法第207条では土地所有権の範囲として「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」とされ、地下水利用は規制された地域を除けば自由に行われているのが現状です。 

地下水保全に向け、埼玉県が4月から条例を施行するなど各自治体がさまざまな動きを見せていますが、私有地の地下水利用は、最終的には憲法の財産権で守られています。仮に条例の実効性が最高裁で争われた場合、どのような判決が下されるかわからないとされてきました。しかし、画像によって地下水が一つの場所に留まっていないことがわかると、土地所有者の私物ではないことがはっきりします。

また、降雨で増える地下水ポイントがある一方、一度くみ上げたら容易に回復しないポイントがあることもわかります。つまり持続可能な利用ができるポイントと、不可侵にすべきポイントがはっきりするのです。

たとえばボトル水メーカーが、どのポイントから日量何トンの水をくみ上げ、下流にどの程度の影響を及ぼしているかがわかります。このような場合、くみ上げてもすぐ回復するポイントであれば利用可、くみ上げたら元に戻るまでに長期間かかるポイントであれば利用不可とするなど、科学的な判断ができるようになるでしょう。

市民も自分が流域の一員であることを意識するようになります。流域とは降った雨が収斂(しゅうれん)していく一区画。降った雨が地表、地中を毛細血管のように絡み流れ、やがてひと筋に収斂していく単位のことです。同じ流域に住む人は同じ瓶の水を使い、また、ときには洪水や渇水などの影響を受ける運命共同体に属しています。持続可能なコミュニティーをめざすなら、水を流域というくくりでとらえ、生態系を保全しながら、水の活用を考え直すことにつきる、というわけです。



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