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2018.11.30 | 河内 秀子

極右に対抗するおばあちゃんたち! 欧州で立ち上がった彼女たちの願い

「極右に反対する、おばあちゃん(Omas gegen rechts)」と書かれた大きなプラカードと、カラフルなニット帽をかぶった女性たち。彼女たちは、いまウィーンをはじめオーストリア全土、ドイツでも続々と登場して注目を集めている反極右NGOなのです。

ウィーンでこの団体が創立されたのは、昨年12月のこと。ちょうど、オーストリアでは国民党(UVP)と、極右政党オーストリア自由党(FPÖ)連立政権が始まった時でもありました。

創立者であるモニカ・ザルツァーさんは、オーストリアの新聞スタンダード紙のインタビューで、こう振り返っています。「極右政党が政権入りした頃、母が亡くなったんです。母の世代は、女性の権利を得るのがまだとても難しかった時代に勇気を持って闘った。じゃあ私だって、もう我慢できないってノーの声をあげようと思ったんです」。この時、「極右に反対する、おばあちゃん」のアイデアが産声をあげました。

モニカさんのアイデアに、Facebookで即座に「一緒にやりたい!」と手を挙げたのが、ズザンネ・ショルさん。現在68歳のズザンネさんは、ナチスに祖父母を殺され、亡命先で知り合った両親から生まれました。ジャーナリストとして長年働いてきたこともあり、激しく右側に舵を切った新政府とここ数年ヒートアップする外国人排斥の動きに、危険を感じていたと言います。

「この<オマ―おばあちゃん>という言葉がとても気に入りました。“おばあちゃん“って、ちょっと軽く見られていますよね。家で編み物したり、アプフェルシュトゥルーデル(薄い生地でリンゴを巻いた焼き菓子)を焼いて、おとなしくしているというイメージ。でも、そのおばあちゃんたちすらデモを始めるくらい、いま大変な事になっているんですよ!ってアピールになるでしょう」

あえて“おばあちゃん“的なアイコンであるニット帽をかぶって、デモをする彼女たち。参加者の年齢は65〜85歳と幅広く、ウィーンでは時々編み物ワークショップを開催し、デモの時は、興味を持っている人に配ったりもします。

実はこのニット帽、ウィーン市内の美術館Kunsthalleのミュージアムショップでも販売中。編み物男子であるショップスタッフが販売を決めたそうです。「僕は“おばあちゃん“でないけど、編むのは大好きだから、極右に反対するために頑張って手を動かしてますよ!」。このスタッフだけでなく、ワークショップには “おじいちゃん“たちも加わり、サポートしています。

4人で始まったウィーンの“おばあちゃん“たちは、あっという間に3500人のフォロワーを集め、チロルやザルツブルクなどオーストリア全国区、そして今年1月からは、ドイツ各地にも同様の「極右に反対する、おばあちゃん」たちのグループが次々と立ち上げられていっています。

独仏共同テレビ局アルテの番組でコメントを求められた、極右政党オーストリア自由党(FPÖ)党首、ハインツ=クリスティアン・シュトラーヒェは、「20人そこそこの“おばあちゃん“がデモをしているんだって? 大半の“おばあちゃん“たちは、難民の地位を濫用する人たちによって増加しているナイフ攻撃やレイプなどの犯罪に恐れをなして、外に出られないだろう?」などとコメントしていますが、彼の言葉に反するかのように、「極右に反対する、おばあちゃん」たちの数は増えるばかり。BBCなどメディアの露出も増え、知名度も高まっています。

今年10月、ドイツ・ベルリンで開催された反極右・反人種差別を訴え、24万人の参加者を集めたデモ「unteilbar」にも、“おばあちゃん“たちの姿が。10代や20代の若い参加者からも、歓声を浴びていました。

ベルリンでのデモ、unteilbar の一コマ    (c) Maja Wiens

極右政党がじわじわと難民や外国人、移民を排斥しようとしているいまの状況を1928年(ナチス政党が政権を獲得した1933年の5年前、徐々に当選し勢力を拡大していった年)のようだと、ズザンネさんは、言います。「私たちはもう、20年後のことを考える必要はない年齢になってしまっているけれど、歳を重ねた人たちが、孫や子どもたちの未来を壊させないわよーと発言していく、この“おばあちゃん“の活動が、ヨーロッパ中、世界中に広まることを願っています」

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河内 秀子
河内 秀子(かわち ひでこ) 地球リポーター

ドイツ ベルリン在住 東京出身。2000年からベルリン在住。ベルリン美術大学在学中から、ライター活動を始める。 現在雑誌『 Pen』や『 料理通信』『 Young Germany』『#casa』などでもベルリンやドイツの情報を発信。テレビのコーディネートも多数。http://www.berlinbau.net/

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