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2018.10.16 | 宮原 桃子

広島でカンボジア料理店を営む元少年兵 「平和のために声を上げる」ことの大切さ


ここは、広島市の中心街にあるカンボジア料理店「ミリア・アンコール」。クメール語で「花の街」を意味するお店に迎え入れてくれたのは、店主のリー・サルーンさんです。穏やかな微笑みをたたえるサルーンさんですが、故郷のカンボジアでは、内戦中に3年間少年兵として戦った過酷な子ども時代を過ごしました。

普通の市民が巻き込まれ犠牲になる戦争に、サルーンさんは何を感じていたのでしょう。社会全体が戦争に突き進む時、私たち一人ひとりにできることはあるのでしょうか。サルーンさんの体験や平和の街・広島で感じていることなどを伺いました。

食べ物も水も情報もない。何が起こっているかもわからない子どもたちが、トラックで連れられ少年兵に


リー・サルーンさん(39)

サルーンさんが生まれた1978年、カンボジアはすでに長い内戦状態にあり、当時のポル・ポト政権下では100万とも200万とも言われる自国民が虐殺されていました。サルーンさんが物心ついた時から、昼も夜も戦闘が続き、とにかく食べ物がなく空腹だったそうです。わずかなお粥にバナナの樹皮などを入れたものなどを、家族で分け合って暮らしていました。村に小学校はあったものの、校舎もなくヤシの木陰が教室。毎日ロケット弾が飛んでくるような状況で、またポル・ポト時代に教師の多くが虐殺されていたこともあり、ほとんど勉強できなかったと言います。

「まだ子どもだったし、現代のようにインターネットやスマホで情報を手に入れられる時代でもなかったので、社会で起こっていることはよくわかりませんでした。子どもたちが落ちている爆弾や地雷で遊んでいるくらい、戦争が日常でした。親や先生など大人たちは、戦争について『国が決めたことだから』と話し、お金や家畜を貢げない貧しい農民たちは、兵役を断ることはできませんでした」

そして、サルーンさんが14歳くらいのとき、ある日突然学校にトラックがやってきました。学校にいた約50人の子どもたちは、先生に乗るように言われ、そのままジャングルで1-2週間にわたって戦闘の訓練を受け、戦場に行かされたのです。子どもたちは洗脳しやすく、使いやすいため、兵力として狙われたのでした。

「怖かったけれど、断ることはできませんでした。行かなければ、自分も親も殺される。戦場のジャングルでは、銃撃戦をしたり、地雷や爆弾を埋めたりもしました。食べ物も水もなく、ジャングルの木の樹液や雨水を飲み、草や葉っぱを食べてしのぎました。いろいろ感じるところはあったけれど、とにかくやらなければ、自分が殺されるので、やるしかなかった。

一番悲しかったのは、戦争から逃れようとしていた普通の人たちや、小さな子どもたちまでもが、戦闘や地雷による負傷や空腹で死んでいくのを目の当たりにしながら、自分には助けられなかったことです。ジャングルで一緒に戦っていた同級生たちが、地雷や戦闘で負傷したり、マラリアなどの病気に侵されたりした時、楽にしてほしいと懇願されて、銃で殺さねばならないこともありました」

サルーンさんは、14歳から16歳という多感な思春期に、このような壮絶な日々を3年間も耐え忍んだのでした。

「とにかく生きるしかなかった」。ジャングルを抜け、お寺の修行僧やガイドに

ジャングルでポル・ポト派との戦いに負けたサルーンさんたちは、仲間とともにさまよいながら、なんとかシェムリアップの街までたどり着きました。

「別れも告げられずに離れ離れになった家族に会いたかったけれど、村に帰ったらまた兵士にさせられるかもしれないと思い、名前も変えて、シェムリアップのお寺に身を寄せることにしたのです。とにかく生きることしか考えていなかった。生きていてよかったと思いました」

お寺で調理や掃除の手伝い、修行、勉強などをしながら過ごしましたが、少年兵時代の心の傷は深く、よく悪い夢にうなされたそうです。3年経って僧侶をやめたサルーンさんは、洗車やレストラン、バイクタクシーなどの仕事でお金を貯め、20歳の時に6年ぶりに故郷に帰ることができました。サルーンさんが死んだと思っていた両親や7人の兄弟と、涙を流して再会を喜びあったそうです。

その後、シェムリアップで観光ガイドをしながら、英語や日本語を独学で学んだサルーンさんは、青年海外協力隊員として滞在していた日本人女性と出会いました。そして結婚を機に、2010年に彼女の故郷である広島に移住することになったのです。

平和の街・広島で、カンボジア料理店をオープン。平和を伝える活動も


経営するカンボジア料理店「ミリア・アンコール」にて

広島に来た当初、サルーンさんは自動車工場で働いていました。しかし、2011年の東日本大震災の影響で、工場に部品が入ってこなくなり、仕事が立ち行かなくなりました。そこでカンボジアに一旦帰国して料理の勉強をした後、2012年に自らカンボジア料理店を開くことにしたのです。「ミリア・アンコール」では、鶏肉のレモングラス炒め(チャー・クダウ)や牛肉サラダ、カンボジアカレーなど、バラエティ豊かなカンボジアの家庭料理を提供しています。広島では珍しいカンボジア料理店は、6年を経て、たくさんの人に愛されるお店になっています。

また、お店の経営と並行して、広島の学校や大学、地域などで少年兵としての体験を語り、戦争の恐ろしさや平和の大切さを伝える講演活動にも力を入れています。「日本に暮らす今の世代の人たちの多くは、実際の戦争を知りません。私は、自分の体験を語ることで、戦争の怖さを伝えたい」。戦争と平和の歴史を象徴するような街・広島に、サルーンさんが移り住んだことに、運命的なものを感じます。

サルーンさんは、故郷で広島の被爆のこと、その後の復興と平和についても語り伝えているそうです。日本の絵本を自ら翻訳して届ける活動もしているほか、将来は故郷の村に「公民館」を作ることを目指しています。子どもだけでなく、戦争で勉強ができなかった親世代も、いつでも学べるような場を作りたいそうです。


カンボジアの学校での講演活動

声を上げることの大切さ。「鉄砲と軍隊がなければ、戦争にはならない」

平和を守っていくために、一人ひとりに何ができるかとサルーンさんに尋ねると、こんなことを語ってくれました。

「日本の若い人たちには、国や政治に興味がない人もたくさんいますが、もっと国や社会のことを考えていったらいいですよね。そして、もしも国が戦争に向かうような動きがあったら、国民は声を上げたほうがいい。日本には、鉄砲も軍隊もありませんし、そのまま平和でいてほしいです。人間は神様ではないし、欲があるから、少しでも力を持つと、もっともっとやってしまう可能性があります。鉄砲と軍隊がなければ、戦争はできません」

サルーンさんの故郷・カンボジアは、戦争が終わって平和が訪れたものの、今また政治の混乱が起きています。1985年から政権の座にあるフン・セン首相が、昨年野党党首を投獄し、野党を解散させた結果、今年の総選挙では与党が9割以上の議席を取り、一党独裁状態に。サルーンさんによると、ニュースや報道も公平性に欠け、政府に反対すれば市民でも逮捕されるような情勢だそうです。「国が変わってほしいと思います。そのためには、声を上げていかなければ」

社会が不穏な方向に動き出すとき、「これから始まりますよ」とベルが鳴るわけではありません。いろいろな動きが積み重なり、じわじわと忍び足のように進んでいくように思います。渦中に入ってしまったら、大きなうねりを止めることは簡単ではありません。

生まれた時から20歳まで内戦下で生きたサルーンさんにも、周りの大人たちにも、子どもが兵士にさせられるのを止めることはできませんでした。サルーンさんのお話を伺って、私はもう一つ思い出していたことがあります。東京大空襲を生き延びた90歳の女性が、以前私に話してくれた言葉です。「戦争中は、それがおかしいとか、反対するとか、そんな考えは浮かびませんでした。客観的な情報もなかったし、学校からも周りからもそれが正しいと教え込まれていたからです」

現代では、私たちは世界や社会の情報を、さまざまな情報源から手に入れることができます。だからこそ、日々の暮らしや社会の動きの中で、「これはおかしいのでは」と違和感や疑問を持った時に、声を上げていくこと、立ち止まってみることが大切なのではないでしょうか。思い出したくもないような辛い少年兵の体験を、広島やカンボジアで伝え続けるサルーンさんの姿に接し、「平和のために声を上げること」の大切さを感じました。

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宮原 桃子
宮原 桃子(みやはら ももこ) 地球リポーター

日本貿易振興機構(JETRO)に勤務後、フェアトレードファッション・ブランド「People Tree」にて、バングラデシュ・インド・ネパールでの衣服生産を支援する仕事に携わる。ドイツでの子育て生活を経て、帰国後は親子向けにフェアトレードを学ぶワークショップを企画する団体「フェアトレードガーデン世田谷」(本部・東京)を運営。フェアトレード絵本「ムクリのにじいろTシャツ」の筆者。現在は広島に暮らしながら、フェアトレードや環境、平和などのテーマを中心に執筆。 この社会を変えられるのは、私たち一人ひとりです!社会や世界で起きていることを「自分ごと」として感じ、考え、行動する。そんなきっかけになるような記事をお届けしたいと思います。

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