thinkFace
thinkEye

考える、それは力になる

dogear

contentsMenu

地球ニュース

contents

2023.12.09 | 岩井 光子

石灰石を利用してCO2を回収 アメリカ初のDAC商業プラントが稼働へ

大気中に存在する二酸化炭素(CO2)を直接回収し、除去する技術をダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)と呼びます。世界の平均気温上昇を産業革命前と比べ、1.5℃に抑えることを目指すパリ協定が採択されてから、ジオ・エンジニアリング(気候工学)と呼ばれるこうした人為的な気候変動対策は一気に現実味を帯びてきました。

「エアルーム」のCO2回収能力は現在年間千トン。1平方メートル当たり50トンを回収できるという ©️Heirloom

米サンフランシスコ州トレーシーで11月初旬、2020年に創業したばかりのエアルームが「米国初のDAC商業プラントを開設した」と発表しました。既にマイクロソフト社が31万5000トン分のカーボンクレジットの調達契約を結ぶなど、巨大企業からの関心も高く、同社は「2035年までに10億トンを除去する規模を目指す」と野心的な目標を立てています。10億トンはアメリカ全土の年間排出量の約20%に相当し、実現すれば国のカーボンニュートラル達成に大きく影響する量となります。

DACの方法はさまざまですが、エアルームが使うのは豊富な石灰石。理科の授業の一コマを思い出しますが、石灰石に含まれる炭酸カルシウムが二酸化炭素と結びつきやすい性質を利用します。

トレイが無数に積み上がる高層タワー。工場の電力には再生可能エネルギーを使用 
©️Heirloom

プラント内には、平皿のトレイを無数に積み上げた高さ12mのタワーが立ち並んでいます。トレイに乗っているのは、適度な水を加えた酸化カルシウムの粉末。外気にさらすと大気中の二酸化炭素を吸着します。

CO2を含むと粉末は石化し、カチカチに固くなります。外気に3日さらしたら、CO2を分離するためにトレイは電気窯に送られます。1500度近い高熱の中でCO2を吐き出し、酸化カルシウムに戻った白い粉末は再び戸外へ。水に浸したスポンジをギュッと絞るようにCO2を吸わせては、しぼり出すルーティンを繰り返すので、新たな資源の採掘は不要だと言います。

放出されたCO2は、事業を協働するカナダのクリーンテック「カーボンキュア・テクノロジーズ」が貯留。CO2をコンクリートに注入すると石化する性質を利用し、再び大気中に出ないように封じ込めます。

酸化カルシウムの粒子の大きさやトレイの間隔、水分量などで実証実験を重ね、自然サイクルなら数年かかる二酸化炭素の吸収時間を3日に縮めることに成功したという ©️Heirloom

同社CEOのシャシャンク・サマラCEOは、DACの技術革新を「気候変動の時間を巻き戻すタイムマシーン」と表現しますが、採算性や倫理面においてはさまざまな議論があります。

まず巨大なプラント建設に莫大な費用がかかる分、CO2の除去コストは他の方法より割高になります。業務の効率性は大きな課題です。専門家は現在、エアルームのコストは1トン当たりおよそ600ドルと見積もっていますが、サマラ氏は今後建設予定のプラントではさらなる効率化を図り、「2035年まで1トン当たり100ドル以下に抑える」と公言しています。

現在ドバイで開催中のCOP28で、化石燃料の段階的廃止の合意は大きな焦点になっていますが、アメリカでは、大手石油会社がテキサス州にDACの大規模プラント建設計画を発表。同社のCEOが「テクノロジーが我々の業界を守る」といった趣旨の発言をしたことから、石油事業の延命措置に気候工学を利用していると批判を受けました。

ユネスコもCOP28の開催に先立ち、気候工学の倫理面のリスクを警告するリポートを初めて公表。多額の資金を要する気候変動対策は「世界の不平等を悪化させる可能性がある」と指摘しています。

©️Heirloom

こうした動向も踏まえ、エアルームは石油やガス会社からの投資を受け入れない方針を決定。企業の社会的責任を果たすためにも、地元の建築建設業労働組合と提携しながらブルーワーカーに高収入のグリーンジョブを創出すると発表しました。会社の利益が地域の発展にもたらされるようコミュニティ・ガバナンスを試行していく意向で、来年1月にサンホアキン郡一帯の非営利団体が地域コミュニティを招集し、企業側と初会合を開く予定です。

企業努力に加え、政策面でのルール作りや支援も欠かせません。カリフォルニア州は昨年、DACなどCO2の回収と貯留技術の導入促進に当たり、その方法が公平で安全なものであるための指針を作る法案を可決しました。地域も巻き込みながら、DACをクリーンで公平な気候変動対策の一角に位置付けようとするスタートアップの動向は、日本にとっても気になるところではないでしょうか。

関連するSDGs

  • SDGs Icon
  • SDGs Icon
  • SDGs Icon
  • SDGs Icon
  • SDGs Icon
岩井 光子
岩井 光子(いわい みつこ) ライター

地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!

sidebar

アーカイブ

Think Daily 2000-2017