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地球リポート

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2019.05.29 | 佐藤由佳

「生きている」ただそれだけで祝福される場を。NPO法人たまりばの居場所づくり

「誰も置き去りにしない-No one will be left behind」

2030年までに貧困を撲滅し、持続可能な社会を実現するための開発目標として国連で採択された17のゴール、SDGs(Sustainable Development Goals)の理念です。

Think the Earthは2018年5月に出版した『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』の姉妹版である『SDGsアクションブック かながわ』を制作する中で、子どもの居場所づくりに取り組む認定NPO法人フリースペースたまりば(以下、たまりば)に出会いました。川崎市から委託を受けて川崎市子ども夢パーク内の「フリースペース えん」を運営しています。

居場所とは安心して過ごせる場であり、自分らしく振る舞うことのできる場。子どもたちは家庭や学校、地域など、さまざまな人との関係性の中で成長していきます。

しかし何かしらの原因により学校に行けなくなったり、家庭状況が不安定だったり、さまざまな事情によって居場所が失われている子どもたちが多くいます。

誰も置き去りにしない社会を実現するために、私たちには何ができるでしょうか。
学校に行けない子どもたちと20代の頃から向き合い彼らの「たまりば」を作ってきた、代表の西野博之さんにお話を伺いました。

「食の営み」を取り戻し、意欲へつなげる

フリースペース えんには、年齢も国籍も障害の有無も、バラバラの個性を持った人たちが集まります。ドアを開けると、ワイワイガヤガヤとした声が聞こえてきました。たまりばが大切にしているのは「暮らし」を取り戻すこと、「食」を共にすること。朝集まったメンバーは、お昼の献立を決め、買い物に向かう。お昼ごはんを自分たちで作るのが日課なのです。

現代は、暮らしの営みを、どこかに手渡してしまった社会だと思います。暮らしの基本である、ごはんを作って食べることすら、既存のものを買ってきて食べたり、コンビニのお弁当をチンして食べたりすることが普通になっている人も多い。

最近、貧困家庭の子どもたちに出会うと、鍋や包丁、炊飯器など基本的な調理器具を持っていないと言うんです。お弁当を買って、食べて、パックを捨てる。使い捨ての食生活や孤食になっている子がたくさんいます。

ここにきて、「自分でごはんが作れるんだ」という実感を持てると、子どもたちの目の色は変わってくるんです。「もっと美味しいものを作ってみたい」「今度はこれを試したい」。食以外のさまざまなことへの意欲にも繋がります。

子どもが一人の人間として尊重され、自分らしくいられること

決められたプログラムはなく、過ごし方は自分次第なのも、たまりばの特徴です。ゲームに夢中になる子もいれば、外でスポーツをする子もいる。片隅で編み物をしている子もいます。
学校では、いわゆる支援学級をすすめられるような、発達障害などを持つ子どもたちもいます。しかしここでは、子どもたちのさまざまな個性は“文化”として受け入れられます。

たとえば先日、ドイツから視察団がやってきて「グーテンターク」と言いながら、ドイツ人にハグをされたんですよね。日本人はシャイだから、肩をすくめて「こんにちは」と言って返す。
でも、挨拶の仕方が異なるからって、ドイツ人に「日本人のような挨拶をしなさい」と注意することはないですよね。それは、親愛の情を伝えるための文化として受け入れているから。

発達障害も、子どもたちの凸凹な個性も同じです。文化だと思えば「今君はなんで叫んだの?」「食事中に足をバタバタさせてはいけません」などと、指導することはなくなります。

 

(外には「川崎市子ども夢パーク」に集まる子も混ざって、自由につくりかえられる遊び場がある。子どもたちの自主性を大切にし、禁止や制限を極力なくしている)

 

一方で「この子は正直手がかかる子だ」とか、「なんでこんな些細なことまで気にするんだ」とか、どうかすると怒りが湧いてしまうこともある。自分はイライラするのに、他のスタッフは笑って過ごしている。これはスタッフ同士で使った「物差し」が違ったのかもしれない。西野さんは常に子どもに否定的なことを言う前に「まずは自分の物差しを疑う」ことをスタッフにも伝え、大切にしているそうです。

発達障害や困った子と言われてしまう子たちは何をもって「障害」とされるのか、考えるんです。大人が持っている「普通これくらいできるよね」の物差しで見ることで、その子の面白い部分、すごい力を見逃してしまうことがあると思います。

さっき大声で騒いでいる子がいたと思うんですが、ご両親にうかがったら、先日海外に行った時に見知らぬ外国人といきなり話しを始めたそう。誰とでも打ち解けられる、コミュニケーションをとれる力があれば、どこに行っても大丈夫だと思うんです。だからこの子が持っている力はすごい。

西野さんは、その子なりの固有の文化を受け入れ「この子には必ず何か光る部分があるはずだ」と信じているのです。

フリースペースの室内には「子どもの権利」が掲げられています。これは「川崎市子どもの権利に関する条例」に記されている、以下7つの大切な権利です。

・安心して生きる権利
・ありのままの自分でいる権利
・自分を守り,守られる権利
・自分を豊かにし,力づけられる権利
・自分で決める権利
・参加する権利
・個別の必要に応じて支援を受ける権利

国連で定められた「子どもの権利条約」がもととなっており、同条例のもとに設置された川崎市子ども夢パークは“子どもについての約束を実現する場”として、子どもと大人が一緒に作り上げていく施設。フリースペース えんの他にも、ログハウスやサイクリングロード、全天候広場などがあり、学校に行っている子も、行っていない子も、川崎市内外から多様な子どもたちが集まり、居場所となっているのです。

学校にいけないことが「死」に繋がってはいけない

子どもたちを丸ごと受け入れるような「たまりば」の空気感。それはどんな背景・想いのもと始まったのでしょうか。

西野さんが「たまりば」としてフリースペースを始めたのは1991年(のちに川崎市から委託を受けて、現在は川崎市子ども夢パーク内「フリースペース えん」を運営)。

多摩川のほとりにアパートを一室借り、学校に行けない子どもたちが集う場にしたのです。当時、いわゆる不登校の子どもたちへの眼差しは今よりも格段に厳しく、「甘えだ」「逃げだ」といった考え方が主流だったといいます。たまりばを始めたきかっけとして西野さんは、一人の小学生の男の子との出会いを教えてくれました。

小学校1年生のシュンくんは入学前から学校生活を楽しみにしていました。ところが入学して1ヶ月、学校に行こうとするとお腹が痛くなってしまい、とうとう足がもつれて倒れてしまうんです。
彼は大粒の涙を溜めながら言いました。「僕もう大人になれない」。
学校のほかの友達は2年生、3年生、中学校へと進学していくけれど、学校生活の「一段目」を踏み外してしまった自分は、もう大人にはなれないのだと。

「学校に行けなくなったら人生終わってしまうのか?そんなはずはないだろう」と、西野さんはそのことがずっと気がかりだったといいます。
辛い家庭状況を教えてくれた中学生の女の子の話も伺いました。

中学2年生のマユミは、布団をかぶって泣いてばかりいました。お母さんが布団を剥がして「学校に行きなさい」って言うんだけど、どうしても布団から出られなかった。

お母さんは「私どこで子育て失敗しちゃったのかしら」と嘆くわけです。彼女は「私って失敗作なの? 生まれて来ない方が良かったの?」と訴えます。お母さんはお父さんに「あなたからも、何か言ってちょうだい」と救いを求めます。

しかしお父さんからの一言は「お前がだらしないからだ! お前が甘やかしたから学校も行けない、でき損ないになったんだ」、そこへお舅さんが「嫁が悪い、嫁が悪いからこんなことになっている」と追い打ちをかけるんです。追い詰められたお母さんはマユミを連れ出し、無理心中を図りました。

学校に行けないことが「死」に繋がる。やり切れない思いが溢れました。幸いこの親子は命を取りとめましたが、可能性に満ち溢れた未来があったはずの命が、学校での困難や厳しい家庭環境によって失われていることは事実です。

学びの場って学校だけではないんです。でも現在の日本社会では、学校に行けないことが「死」に繋がってしまう。何人の子が死んでいったか。僕らが直接関わった中にも、悔しいけれど救えなかった命は、片手じゃ足りません。

「生きてるだけでOKじゃん」。ただそれだけで祝福される場を

今日、子どもたちがここまで、どんな不安や辛さを抱えてきたのか。厳しい家庭状況や精神状態の中でかろうじて電車に乗れたのかもしれない。「あの子はなんで学校に行かないんだ?」という険しい社会の視線をかいくぐって、たどり着いたのかもしれない。そんな想像力をはたらかせながら子どもたちと向き合い、場を作る西野さんですが、たまりばをはじめた当初、子どもたちから教えられたことがありました。

たまりばを始めたばかりの頃は「少し勉強をやらせないといけないな」とか「見てくれとしてはこうしておいた方がいい」とかって思っていたんです。だから勉強道具を置いたりもしていた。でも子どもたちは察しがいいので、勉強道具とかが並んでいるのを見つけると、「やべぇ」となるわけです。

当時は6畳間でしたから、彼らは押入れの中に入って天井板を外して、天井裏に隠れました。そして、蜘蛛の巣がかかった天井裏の掃除をはじめたんです。二週間後、見ていいよ、と言われ恐る恐るのぞいてみた。すると、小学生の女の子が「ここが私たちの居場所よ」って笑顔で言うわけです。

その時ガツンとやられましたね。勉強させなきゃとか、遅れを取りもどさせようとか、おとなが「良かれ」と思って差し出すメニューが、いま目の前の子どもをさらに追いつめることもある。丸ごとのいのちを、生きているだけでハッピーと受けとめられてはいなかったなと思って。


その子が何をやりたいのか、何をやりたくないのかをキャッチすること。安心して「やりたいことをできる場」を保証することが重要だと言います。どんな突飛な行動だとしても、モヤモヤするのは大人の問題なのだと西野さんは語りました。

子どもたちの命の声により添い「やりたいことができる場」を保証するには、同時に「何もしないこと」を保証する必要があると言います。やりたいことが出てくるまで待てるかどうか。そして子どもたちの光る部分を「面白がれる大人」でいられるか。安心できる空気感のもと、本気で向き合ってくれる大人の存在が大切なのだと、西野さんのお話から伝わってきます。

「君と出会えたこと幸せだよ」「生きてるだけでOKじゃん」って心から伝える。そういったものが子どもの心に注入されていけば、子どもたちは自ら欲をもって、自分で動き始めるんです。それだけがここのベースにあります。

撮影:濱津 和貴

佐藤由佳
佐藤由佳 スタッフ

東邦大学にて環境政策を学ぶ。「環境問題×コミュニケーション…?」と、もやもや考えていたところThink the Earthを知る。新卒ではクリエイティブ系企業に入社し、Web制作やオウンドメディアの運用担当を経験。その後フリーライターに。現在は『UNLEASH』,デザインビジネスマガジン『designing』,ポートフォリオサービスforiio『制作ノート』,『70seeds』等で執筆中。最近始めた趣味は、同姓同名集め。

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