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2020.07.06 | 岩井 光子

ポストコロナの新しい移動手段 Luupが目指す新モビリティ社会

昨年11月、電動キックボードなどの普及を目指すマイクロモビリティ推進協議会に世界最大手のLimeが参画。国内での事業化に向け、強力なメンバーがサポートに入った

コロナ禍で出勤スタイルが変わり、自転車の売り上げが好調だそうです。シェアサイクルの登録者数も伸びていると聞きます。人混みを避けるためもあるでしょうし、日頃の運動不足解消のために出勤を自転車に切り替えた人も多いのかもしれません。

こうした移動手段の需要の変化に応えるべく、5月、電動アシスト自転車のシェアリングサービス「LUUP」を始めたのが渋谷のLuup。ロック解除に使える専用アプリからは、飲食店のテイクアウトやデリバリー情報も見られるので、外出がてらランチを選ぶ楽しみも味わえます。

LUUPのサービスでは、スマホのアプリからロック解除、初乗り100円(10分)で別の停車ポートまで自由に移動できる。滑り出し好調で、開始2日で会員登録は2千人を突破した
将来的に導入を目指す電動キックボードは、電動モーターとバッテリーを搭載し、ハンドルにアクセルとブレーキがある。最大時速は20キロほど。改良が進み、耐久性も向上している

Luupは、欧米で定着しつつある電動キックボードなどを含む電動マイクロモビリティのシェアリングサービスを日本で展開しようと、2018年に起業したばかりの若い会社です。

ただし、電動キックボードは日本の車両区分では原動機付自転車扱い。現状では、公道で走行する場合には方向指示器やナンバープレート、前照灯などの装備を車両の保安基準に合わせる必要があり、免許の携帯やヘルメット着用も義務付けられています。装備なしに走ることはできません。
CEOの岡井さんはまだ26歳と若い経営者

CEOの岡井大輝さんが電動マイクロモビリティのシェアリングサービスに行き着いたのは大学卒業後、まもなく立ち上げた事業で挫折した苦い経験が元になっています。当初チャレンジしたのは、空いた時間に働きたい人と、見守りを数時間だけ頼みたい人とをつなぐ“介護士版Uber”とも言えるマッチングビジネスでした。

潜在的なニーズに気づいたのは、認知症を患った祖母を巡る実体験から。徘徊が深刻で、昼夜問わず見守りが必要だったのにもかかわらず、肉体的には元気だったために介護認定の判定が低く、家族に大きな負担がのしかかったのです。十分な介護サービスを受けられず、同じ苦労をしている家族の負担を和らげたいと起業したものの、今度は駅やバス停が移動の起点となる都心で人と人とのニーズを結びつける難しさを痛感することになります。超高齢化社会では、より柔軟な移動手段なしで、人同士のマッチングビジネスはなかなか成立しません。

日本の交通インフラの問題点に気づいた岡井さんは、いわゆる“ラストワンマイル“(駅やバス停から目的地まで)における、より効率的な移動手段を提供しようとLuupを起業しました。同社が二輪キックボードに加え、業界で唯一シニア向け四輪キックボードやシニアカータイプのものを備えているのは、初めに立ち上げた事業が介護負担軽減を目指す事業だったこととつながります。

四輪の小型モビリティ。将来的にはアプリに登録された年齢に応じて最高速度を調整でき、イスが現れるタイプを構想

Luupでは環境が整ったら、電動アシスト自転車で始動した現サービスに、電動キックボードなどのマイクロモビリティを加えていきたいと考えています。日本でのシェアリングサービス実現のためには、現行の規制と向き合い、安全性を筆頭に様々な課題をクリアする必要があることから、Luupではこれまでゴルフ場やリゾートホテルなど私有地内でのサービス導入を先行させ、関心を寄せる全国の自治体や企業・大学とは個別に連携し、試乗会や実証実験を積み重ねてきました。岡井さんは2019年5月、マイクロモビリティ推進協議会を立ち上げ、代表に就任。同業者同士で手を取り合い、導入実現に挑むことにしたのです。同年10月には、最先端テクノロジーを活用した新事業が現行ルールの壁にぶつかる際に適用される「規制のサンドボックス制度」(新技術等実証制度)の認定も受け、関係省庁との対話を進めているところです。

予約手続きから決済まですべてスマホ一つで行えるのが、電動モビリティ市場の急成長を後押しする要因のひとつ。2025年までに世界の電動キックボードシェア市場は4、5兆円規模まで成長すると予測されている。写真は東京モーターショーでの試乗会

広報担当の松本さんは、サービス開始直後のLUUPの大きな反響から、人々の“密”を避けたい思いと同時に「今まで何となく電車やバスを利用していたけれど、新しい選択肢を探したい」という、別の移動手段を求めるニーズの高まりも感じたと言います。

近距離への移動が車から電動マイクロモビリティに切り替われば、CO2排出量が40分の1になるという試算も出ています。2035年までにカーボンニュートラルを目指すフィンランドでは、公共交通、カーシェアリング、バイクシェア、タクシーなどが定額で使い放題となる交通クラウドサービス「MaaS(Mobility as a Service)」をいち早く導入し、注目されています。目的地を入力すれば、マイカー以外の移動手段をどう組み合わせれば最適かを教えてくれるアプリ「Whim」があるので、車がなくても不便を感じることなく、同時にCO2削減にも貢献できるというものです。

ブリュッセルやニューヨーク、トロントなどでは、移動手段の変化が都市計画にも影響。車よりも歩行者の安全や通行を優先する新しいコンセプトのまちづくりが進んでいます。移動(モビリティ)を考えることは、まちを考えること。超高齢化社会が加速する日本にとって、高齢者のモビリティ問題に気候危機対策、そして、安全で住みやすいまちづくりはコロナが収束しても大きな課題であることには変わりありません。私たちもコロナ禍による生活様式の転換を一時的なものでなく、未来へつながる持続的なものへ刷新できたら良いのですが!

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岩井 光子
岩井 光子(いわい みつこ) ライター

地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!

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