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2025.11.24 | アーヤ 藍

同性パートナーシップ制度開始10年 映画『これからの私たち – All Shall Be Well』が問う婚姻の平等とは

2015年11月に日本で最初の同性パートナーシップ制度が東京都の渋谷区と世田谷区から始まり、今月で丸10年を迎えました。10年の歳月の間に同制度は全国の自治体へ広がり、人口カバー率は90%(*1)を超えています。

しかし同制度はあくまで各自治体によるもので、法的な効力はありません。法的に「家族」として保障されることの重要性について“自分ごと”の視点で考えさせてくれるのが、来月12月13日(土)から公開になる映画『これからの私たち – All Shall Be Well』です。

舞台は日本と同じく同性婚が認められていない香港。パットとアンジーは40年連れ添ってきた女性カップルで、仲睦まじく穏やかな日常を送っています。二人でこれからシニア向けのファッションオンラインショップを開こうという夢も抱いていて、「まだまだこれから」のつもりだった二人ですが、パットがある日突然亡くなってしまいます。

パットとアンジーは互いの親族にも関係性をオープンにしていて、特にパットの兄家族とは近しく、パットにとって甥と姪にあたる子どもたちも、二人を叔母として慕ってきました。

家族総出で中秋節を祝う。幸せな食卓の風景そのものだ

そのためパットが亡くなってからも、兄家族たちは茫然自失としたアンジーを気にかけ、食事を作りに行くなど、「家族」の関係性は変わらないかに思えました。

しかし、ここから「法的には家族ではない」ことがアンジーと兄家族の間に徐々に亀裂を生んでいきます。葬儀の方式を決めるにあたっては、パットの生前の希望を尊重したいアンジーと、何かと吉凶を気にする義姉とで意見が分かれ、最終的な決断は「家長」の兄に委ねられることに。また、突然の死でパットは遺言を遺していなかったため、法律上一番の近親者である兄が遺産管理人となり、アンジーがパットと長年暮らしてきたマンションも、兄に権利が移ることに……。

親族以外には「パットの親友」ということにされているアンジー。葬儀でお焼香をあげるのも後ろの方で待たなければなりません

本作の妙は兄家族たちが明白な「敵」ではない点です。例えば、これまでパットとアンジーに経済的にも心理的にも支えられてきた甥と姪は、当初「マンションは当然アンジーのものだ」と味方します。しかし彼ら自身もそれぞれ経済的に苦労をしている中で、ある種「自分の『家族』を優先するのか、”叔母”のアンジーを大事にするのか」の選択を迫られていきます。

脚本も執筆したレイ・ヨン(Ray Yeung)監督はこのような設定にしたことについて、「兄家族を悪役にしてしまうと、観客が共感できなくなってしまう。大事なのは観客が兄家族と気持ちを重ね合わせることです。もし自分が彼らの立場だったら、アンジーに対してどうするかを考えてもらいたいのです」と語ります。

同性カップルの中には、家族にそもそもカミングアウトできていない人や、カミングアウトしたものの受け入れられず関係性が途絶えてしまう人もいます。しかし本作は、二人の関係性が親族からも温かく受け入れられている、いわば”一番幸運”なケース。それだけに「心で家族だと思っている」だけではいざという時に脆いことを考えさせられます。

ちなみに本作はフィクションの劇映画ですが、監督は脚本を書くにあたり、香港に暮らす同性カップルでパートナーの死を経験した人たちへのインタビューを行っています。その中で実際に、生前はパートナーの家族に受け入れられていたのに、パートナー亡き後、急に態度を変えられてショックを受けたという女性がいたそうです。

「多くの同性カップルにとって、二人が生涯を共にしてきたパートナーであること、二人の間にあったのは本物の愛であることが、周囲からも認められることが大事なのです」と監督が話すように、法的に「家族である」と保障されることは、遺産やお金の問題だけでなく、心の面でも深い意味をもつはずです。本作でも、最後にアンジーが選択する行動からそのことを感じます。

「愛し合う二人が家族として共に生きていきたいと願うことは、個人の基本的な嗜好であり、他者に影響を与えるものではありません。なぜ異性カップルなら容易に得られる基本的な権利から排除されたり、同等の権利を得るためにより多くのステップを乗り越えないといけないのでしょうか。これは公平さ(Equality)の問題です」(レイ監督)

2019年からは日本でも婚姻の平等(同性婚の実現)を求める裁判が起き始めていますが、原告の中には病気で亡くなった方もいます。同性パートナーシップ制度開始から10年。この10年は確かな前進である一方で、異性カップルと同じように「家族」として認められない状況は「公平」なのか? 本作を通じて考えてみてほしいです。

映画『これからの私たち – All Shall Be Well
2025年12月13日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
2024年 / 香港 / 93分 /

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アーヤ 藍
アーヤ 藍(あーやあい) 映画探検家

在学中にアラビア語の研修で訪れたシリアが帰国直後に内戦状態になり、シリアのために何かしたいという思いから、社会問題をテーマにした映画の配給宣伝を行うユナイテッドピープル株式会社に入社。同社取締役副社長を務める。2018年に独立。映画の配給・宣伝サポート、映画イベントの企画運営、雑誌・ウェブでのコラム執筆などを行う。アーヤはシリアでもらった名前。大丸有SDGs映画祭アンバサダー。著書に『世界を配給する人びと』(春眠舎)。

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