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2018.10.15

ボルネオスタディツアー2018について


SDGs for Schoolの活動の一環で2018年8月9日から16日までの約1週間、中高生と一緒にボルネオ島(マレーシア・サバ州)に行ってきました。このツアーは元々、都立高校の山藤旅聞氏、伊藤麻紀氏、私学の関口伸一氏が中心となって4年前から始めた、先生と生徒が主体的に関わるオリジナルのスタディツアーです。今年の参加者はたくさんの応募者の中から選考された22人・18校の中高生たちでした。現地で活動するNPOボルネオ保全トラスト・ジャパンの荒川共生さん、岸優子さんの案内で、この熱帯の島の現実と、自分たちの暮らしとの関わりについて参加者は生まれて初めて体感することになりました。

今回のスタディツアーの目標は「気づき、学び、行動へ」。SDGs for Schoolは、SDGsを学校に届け、子どもたちに自らの学びの意味を取り戻してほしいと考え、活動しています。そのためには、学校の教室を出て、子どもたちを「問題の現場」となるフィールドに連れて行くことも大切だと考えています。ボルネオはSDGsのテーマである経済、環境、そして社会の課題がぶつかり合う場所です。子どもたちだけじゃなく、大人の立場としても、自分に何ができるだろう? と考えさせられる経験でした。今回のツアーで一体どんな学びがあったのか、レポートでお伝えしたいと思います。

自らの目で見て感じるアブラヤシプランテーションの現場


みなさん、パーム油のことはご存知でしょうか? パーム油は私たちの生活を支える安価で優秀な植物油です。日本でも、ポテトチップスやインスタントラーメン、チョコレートや洗剤、歯磨き粉など、パーム油を使った商品に囲まれて生活しています。マレーシアでは、1950年代頃からアブラヤシ(オイルパーム)の栽培が始まり、それ以降マレーシアの経済を大きく支えています。今ではパーム油の生産量の80%以上がマレーシアとインドネシアで作られています。
ボルネオ島に広がる広大なオイルパーム・プランテーション。私たちはひとつのパーム農園を訪れ、そこで働く方や経営者の方に話を聞きました。
まず驚いたことが農園で収穫を担当している人が全員女性だったことです。オーナーに理由を聞くと「男性はみんなサボる。女性は真面目に働いてくれるから」とのこと。しかし、アブラヤシは高い幹の先端付近に実がなるため、収穫作業はとても大変です。巨大なカマを使って、ひとつずつ実を切り落とし、20キロ以上ある実を運ばなくてはいけません。大変な重労働をこなしています。


アブラヤシは「マネーツリー」と呼ばれるほど儲かるそうです。私たちが訪れた農園で働く労働者の月給はおよそ2000リンギット。サバ州の最低賃金が900リンギットなので、収入としては悪くありません。そのため、近隣の国から出稼ぎに来て、ここでお金を貯めて自分のお店を持つ、子どもを大学に行かせる、など夢と希望を持って一生懸命働いていました。
一方でプランテーションのために、豊かな熱帯雨林が伐採され、野生動物の住処が奪われていることも事実です。1980年代からアブラヤシ農園が拡大し、今やマレーシア領ボルネオ島の熱帯雨林の80%が失われつつあります。

現地学生とのディスカッションと交流

パーム油に関わる環境や経済の問題を目の当たりにしたあと、一緒にホームステイして仲良くなったマレーシアの高校生たちも交え、何を感じたかを共有し、この課題に対してどう行動すればいいのかを考えるワークショップを実施しました。ワークショップの企画とファシリテーターを務めるのが、第1回目のボルネオスタディツアーに参加した筑波大学の中島なつ子さんです。高校生として参加したとき、「もっと現地の人とはなしがしたかった」という自分の経験をもとに、今回のツアーで様々なアレンジと改善を加えてくれました。そのひとつがこのワークショップです。


アブラヤシのプランテーションの現場を見て、昨日まで知っていたこと、知らなかったこと、パーム油の良いところ・悪いところ、そして、課題解決に向けたアイデアを現地の学生と一緒に考えました。出てきたアイデアは「Parent Education=親の教育」「Advertisement message=メッセージ(広告)をお菓子の袋に入れる」「「School Festivals=文化祭で何か発表する」など実に様々でした。

パーム油の問題に関して、「これが正解です」と言えるものはありません。それでも、一生懸命考え、自分の言葉で意見を伝え合うという経験を通じて、みんながパーム油の問題を「自分事」として考えることができました。


移動時間も学びの時間に!
自らの言葉で想いを語るトークライブ

ボルネオ島は世界で3番目に大きい島なので、島での移動時間が長い場合は6時間以上かかる日も。そんな時、バスで移動する時間を無駄にしてはもったいない!参加者全員の声をもっと聴き出して欲しい、という中島さんのアイデアで生徒一人ひとりが話せる時間を作りました。移動するバスのなかで、山藤さんがラジオパーソナリティのように生徒にその日感じたこと、学んだことを聞く企画です。

実際にプランテーション見学について出てきた感想は、「アブラヤシ自体は悪くない。問題は使い方だと思った」「パーム油を使う人も、作る人も一緒に考えていかなきゃいけないと思った」「マレーシアの学生がアイデアをたくさん出していてすごいと思った」「思った以上に複雑な問題だと感じた」など、それぞれ深い想いを抱えているようでした。このツアーでは、参加者が自分の言葉で話す機会を何度も作っています。そのことが、子どもたち自身の振り返りとお互いの学びをシェアするいい時間になりました。この対話の中から行動のアイデアも次々に生まれてきました。

大自然を満喫!でも、このままでは・・・

長時間かけてボルネオを横断し、カラバカンにあるオーガニックファームにやって来ました。目的は、熱帯雨林を体感すること。みんなで道なき山道を、現地のスタッフと一緒に歩きました。熱帯雨林では、見たこともないような昆虫たちに出会いました(プランテーションで虫に出会うことはほとんどありませんでした)。休憩時間に出会ったサイチョウ。夜のナイトウォークでみた満天の星空。そして帰途、ボルネオ島で昆虫の研究をされているスティーブン博士と共にキパンティ・パークで見たカレハカマキリやオオクワガタ、数百種類のランの数々! 多様な生物がひしめき合っているこの地で、生命の力強さや美しさに圧倒されました。一方で熱帯雨林が伐採されている風景も目撃しました。


今回のツアーでは、生徒たちが事前に現地の人たちに聞きたい質問を用意していました。オーガニックファームの経営者に対しては「仕事を始めようと思ったきっかけは?」という素朴な質問から「持続可能な社会を作るためには何が必要だと思いますか?」という大きな問いまで。自らの言葉で質問することで、相手の想いや考えをより理解することができます。スティーブン博士から昆虫と出会える数が明らかに減っている、ということを聞いて「森林破壊から昆虫を守るには?」と真剣に聞く子どもたち。このままではいけない、という想いがどんどん強くなっていきます。

野生生物と人間の共存を目指して

ボルネオスタディツアーで過去4年間、必ず行く場所があります。旅の最終目的地「ロッカウィ・ワイルドライフ・パーク」です。ここは、サバ州野生生物局によって運営されていて、保護された野生動物たちを間近で見ることができます。

ここで1匹のボルネオゾウと出会いました。目の前でお母さんが殺されてしまったジョーくんです。ボルネオゾウはアブラヤシの若葉が好きでプランテーションを荒らしてしまうため害獣扱いされています。そのため、2013年にタワウ地区のグヌン・ラヤ森林保護区で14頭のボルネオゾウが毒殺される事件がおきました。そのうちの一頭がジョーくんのお母さんでした。近年では、ボルネオゾウが銃殺や罠のせいで次々と死んでいます。孤児になった赤ちゃんゾウは半数以上死んでしまうそうです。孤児となったゾウを、サバ州政府も保護はするものの、数が多くなってきて対応しきれなくなってきていると言います。

プランテーション開発で分断された狭い森に閉じ込められて、行き場を失ったゾウやオランウータンと共存していくにはどうすれば良いでしょう。共存の道を探るためボルネオ保全トラストは州政府や企業とも協力しながら、「緑の回廊プロジェクト」を行っています。分断された森をつなげるためには、全部で2万ヘクタールの土地を買い戻す必要があります。10年かけて、ようやく88ヘクタール買い戻せました。まだたったの88ヘクタール。愕然とする数字です。ボルネオ保全トラスト・ジャパンの岸さんは言います。「環境問題は台所から。環境問題は台所から。地球人1人ひとりが気づき行動を変えていければ未来は違ってくる筈」

学びから行動へ。次の世代につなぐ学びのバトン

自分たちの生活がボルネオの豊かな自然を壊し、野生動物の住処を奪っていることを改めて実感した生徒たち。本やネットで見た情報ではなく、今、目の前に犠牲になった動物や自然がある。それが何よりも強いメッセージになります。最後に一人ずつ前に出て、感じたこと、思ったことを話をしてもらいました。

「昆虫が減っていることが本当にショックだった。虫の本作って、熱帯雨林が減少している現状を伝え、考えてもらう機会をつくりたい」「現地に来ないとわからないことがたくさんあった。日本人にももっと来てほしい。現地の人ですら問題を分かっていないから、日本人に伝えるのはとても難しい。でも、少しでも伝えていきたい」「親への教育。今回の旅に行く前に、まずは日本の問題を考えるべきではないか?と言われた。でも、ボルネオの課題は日本ともつながっている問題だと知った。このことを教えたい」みんな、自然と次のアクションを考え始めていました。

大学生になって企画側にまわった中島さんの姿を見て、「来年のボルネオスタディツアーの企画をやってみたい!」と言う高校生がいました。ただ体験して終わるのではなく、次の世代に学びのバトンをつないでいく仕組みが出来つつあります。

過去のボルネオスタディツアーに参加した生徒たちは、ボルネオ保全学生グループ(SGBC)を立ち上げて、スタディツアーに関わるだけでなく、自ら企画して関係企業や専門家を招いたシンポジウムを開催するなど、帰国後も継続的な活動を続けています。帰国後に文化祭で、ボルネオの現状をアピールする写真展を開催した子もいました。すべて生徒の主体的な活動です。そして先生は彼らの「やりたい」を全力でサポートしています。

現場に来た子どもたちが次々と変容していく姿を目の当たりにして、フィールド授業の大切さを強く実感した今回のスタディツアー。SDGs for Schoolは、今後も国外・国内にかかわらず、本質的な学びが得られる場所や人を探し、スタディツアーの機会も増やしていきたいと考えています。また、この学びのエッセンスを学校の授業でも体験できる教材が作れないかと考えています。来年のボルネオスタディツアーは一体どんな進化を遂げるのでしょうか? とても楽しみ!です。(スタッフ:笹尾実和子)

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