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考える、それは力になる

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2020.09.11

ティーチャーズギャザリング2020を開催しました!

毎年8月に実施している先生向けの研修プログラム「ティーチャーズギャザリング」。今年は新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の影響で初のオンライン開催となりました。北海道から沖縄、そしてロンドンやフィリピンなど海外からも参加していただき、総勢150名を超える先生や企業の方たちが集まり、大いに盛り上がりました!参加できなかった方のために、当日の様子を簡単にレポートでお届けしたいと思います。
(当日のプログラムはこちら

今年からSDGsが教科書にも掲載されるようになり授業で取り入れられる一方で、「SDGsによる分断が起こっているかもしれない。」と開催の挨拶で話してくれたのは新渡戸文化学園の山本崇雄さん。「本来なら子どもたちが幸せになってほしいと願って教育をしているはずなのに、手法に囚われてしまって分断を生んでしまうことがあります。アクティブラーニングもSDGsも、「取り入れている人」「取り入れていない人」という分断が起こります。その先にある目的を合意していくことが大切です。新型コロナによって様々な変化が求められるタイミングですが、若い世代のパワフルな行動力と可能性を信じ、手法に囚われず一緒に楽しんでほしい」というメッセージを参加者に贈ってくれました。


新渡戸文化学園 山本崇雄さん

午前中は主にインプットに重きをおき、すでにSDGs達成に向けた活動や事業を実施している企業や行政、学生さんたちに話をしていただきました。

1人目は国連広報センターの根本かおる所長。根本さんは「今ほどSDGsが重要な時代はない」と言います。新型コロナは自然からの警告であり、この危機によって弱い立場の人たちの存在が浮き彫りになりました。新型コロナという人類最大の危機に対して、どう乗り越えられるか、が試されています。

キーワードは「より良い復興とSDGs」。新型コロナ危機以前のオールドノーマルな状態に戻すのではなく、新型コロナを生んでしまった既存システムを、より包摂的で格差のない、グリーンな復興をとげよう、という考えです。それはもちろん簡単なことではありません。新型コロナによる死者は世界で80万人を超え(2020年8月25日現在)、多くの人が仕事を奪われ、今でも10億人の子どもたちが学校に通えず、再開のめどがたっていません。国連開発計画(UNDP)は、2020年の人間開発指数が1990年の統計開始以降、初めてマイナスに転じる見込みを明らかにしています。

中長期的にみると、新型コロナよりさらに大きい打撃を与えるのは気候変動の問題です。シベリアの熱波、北極海の氷の融解、熱帯性暴風の大型化と頻発、バッタ発生と食料危機など気候変動に関連して生まれた事象を例にあげたらきりがありません。

SDGsはこうした大きな課題から考えると、自分には何もできない、と思いがちです。しかし、2020年7月のSDGsハイレベル政治フォーラムでは地域のアクターが非常に重要だと認識されましたし、若い人たちこそが世界を変える担い手だと言われています。この新型コロナ危機が教科書に掲載される時、世界は分断してしまったのか、それとも結束して乗り越えることができるのか、どちらになるでしょうか? ともに乗り越えた世代だと言われるためには、一人ひとりのアクションが大切だということを根本さんは繰り返し伝えてくださいました。


左)国連広報センター 根本かおる所長/右)日本環境設計 岩元美智彦さん

2人目は日本環境設計の岩元美智彦さんにお話いただきました。日本環境設計は分子レベルまでプラスチックを分解し、半永久的にリサイクルができる「ケミカルリサイクル技術」を開発したことで、今、世界中で注目されています。BS1スペシャル 「※“脱プラスチック”への挑戦~持続可能な地球をめざして~」第二部でも詳しく紹介されています。
※(NHKオンデマンドのサイトへ移動します)

岩元さんは「経済と環境が両立する持続可能な循環型社会をつくりたい」という想いで、13年前に会社を設立されました。プラスチックからプラスチックへ、100回でも1,000回でも劣化なしにリサイクルできることを可能にした、日本環境設計が開発した技術を活用すれば、プラスチックが含まれる古着やペットボトルは資源として長期間利用することができるのです。創業時、今のような技術はまだありませんでした。岩元さんは「この世界にゴミは存在しない」ときっぱり言います。技術開発と並行して「生活者」が参加できる仕組みを事業の柱に、10年かけて様々な企業を説得し、資源を回収するスキームを確立させました。

「環境に興味がある人は5%。興味のない95%の人たちをどうやって我々の仕組みに参加させることができると思いますか? 『正しい』だけでは人は動きません。『リサイクル=楽しい』が必要なのです。わくわくする仕組みが世界を変えるのです」と言う岩元さんのわくわくを体現するのが1985年の映画「バックトゥーザフューチャー」に出てくるゴミを原料に動く車「デロリアン」を動かすプロジェクトです。リサイクルしようと呼びかけても見向きもしなかった人たちも、デロリアンに乗って写真が撮れると聞けば、1時間待ちになるほどの人気イベントになったそうです。

岩元さんは「便利な生活の裏側に地下資源争奪の戦争がある。海洋問題やゴミ問題など、誰かの犠牲が生まれる経済をいつまでやっているのでしょうか」と問いかけます。ゴミを資源に変える技術、それを使いものづくりをするメーカー、消費者が回収の一翼を担う、そんな地上資源が循環する経済圏を作るため、岩元さんは今も様々なチャレンジを続けています。平和を願うオリンピックの金メダルは地下資源ではなく地上資源で作ろう! と6年前にプレゼンし、「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」が生まれました。

地下資源(石油や石炭など)はいつか枯渇します。2030年までに地下資源を使用しないことを目指す企業(スターバックス、エビアン、イケアなど)も出てきています。近い将来、地下資源は使わない社会がやってくるはずです。課題が山積みの中でも「どうにかなる。どうにかしよう!」と笑顔で話す岩元さんに大きな勇気をもらいました。

3番目は北海道下川町 政策推進課の和田健太郎さんと未来の学びコーディネーターの本間莉恵さんに地域を軸としたSDGsの取組についてお話いただきました。


左)北海道下川町 政策推進課 和田健太郎さん/右)未来の学びコーディネーター 本間莉恵さん

下川町の人口は3,200人、面積は東京23区と同じくらいで、そのうち森林面積が88%を占めています。経済と社会と環境が調和した持続可能な地域づくりを目指し、この豊かな森林を活かした産業を作ろうとする動きが2001年から始まりました。森林に関わる仕事を常に生み出し、幼小中高では一貫して森林環境教育を実施し、さらには内容をブラッシュアップさせて企業研修等にも発展していきました。曲がったりして製品として使用することが難しい木材はチップに加工して暖房に使うことで、CO2の削減にも貢献でき、昨年は3,800万円も節約することができました。

しかし、町としては高齢化と人口減少という大きな課題も抱えています。10年後の下川町は人口減少に伴う空き家問題や働き手や担い手の不足、子供の教育環境の縮小などが予測されています。そこでSDGs未来都市部会を設置し、2030年における下川町のありたい姿を町民のみなさんとともにゼロから作り上げるため、半年以上議論を重ねました。最初はゴール6までしかなかったけれど「未来世代に向けたゴールをいれたい」という町民委員の声を反映させ、ゴール7「子どもたちの笑顔と未来世代の幸せを育むまち」を追加しました。

このゴールを具体的にするために本間さんが未来の学びコーディネーターとして下川町で活動を始めて、ちょうど1年が経ったそうです。本間さんのミッションは「地域の資源と子どもたちをつなぐ」ことです。教育現場や地域の方など立場が違う策定委員を結成し、今のいいところ、改善したいところをじっくり話し合って2030年までに地域教育環境の増えてほしいこと、減ってほしいこと、変わらずにあって欲しいことなどを考えました。立場は違えど、子どもたちの好奇心を育むことはみんなが目指すゴールでした。「地域と学校をつなぐ」には、本間さんのような存在は非常に重要です。他の地域でもぜひ広がってほしいと思いました。

そして、4番目は10年後の大人たち(!?)からの発表です。


やさしいせいふく 左)高校2年 坂本 亮くん/右)高校2年 東郷 結さん

やさしいせいふくメンバーの坂本亮くんと東郷結さんの活動のきっかけはSDGs for Schoolのユースメンバーとしてアースデイ東京に参加し、チームTシャツを作ったことでした。そこでTextile Exchangeアジア地区アンバサダーの稲垣貢哉さんに出会い、学生ブランドを作っちゃおうぜ!と動きだし、今では13名の中高生がそれぞれ役割分担をして、組織を運営するまでに成長しました。「ファストファッションの裏にある公正ではない取引やワンシーズンしか着ないものづくりには問題がある。でもそれは誰が悪い、ではなくシステムが悪いと思う。それを変えたいのです。服は消費するものではなく、必要な分だけ、大切に作ればいい。笑顔とありがとうがうまれる服作りをしたいんです」と話してくれました。

この「やさしい価値観」はメンバー全員が共通で大切にしている想いです。2020年1月、理念に共感し、一緒に製品を作ってくれる企業を選抜する審査会を実施したというから驚きです。結果8社が関わってくれることになったそうです。現在はTシャツの製品化を目指し、2020年10月にはクラウドファンディングで資金を集める予定です。そして、ゆくゆくは組織を一般社団法人化し、やさしい価値観を伝播する制服を作りたいと、本質がブレずにチャレンジし続ける姿に想いの強さを感じました。

次の発表者は高校2年生の八木くるみさん。環境に配慮した製品しか置かない店舗「えこま」のアイデアを実現するために、一緒に発表する太田さん玉置さんを含め、現在は5人のメンバーで活動をしています。


えこま 左)八木さん/中央)玉置さん/右)太田さん

活動のきっかけは2019年にボルネオスタディツアーでRSPO認証の存在を知ったことでした。認証マークについて知らない友だちも多く、サステナブルラベル(持続可能な社会を目指す国際認証ラベル)のことをもっと多くの人に知ってもらいたい!と考えるようになりました。えこまのルールはサステナブルラベルがある商品かどうか、です。店舗実現を目指すとともに、月に1回のペースでサステナブルラベルのオンライン勉強会も実施しています。また、ハッシュタグ「♯えこまで繋げようわたしたちの未来」を使って、環境によい商品をSNSで紹介するようなキャンペーンにもチャレンジしています。身近な買い物によって地球を守るこができる、みんなが行動者になれる! という八木さんのメッセージは多くの学生に届くのではないでしょうか。

学生最後は2019年のボルネオスタディーツアーに参加した伊藤真菜美さん、伊左治夏美さん、白井花さんの3名の発表です。


左)高校3年 白井花さん/中央)高校1年 伊左治夏美さん/右)伊藤真菜美さん

環境問題の現場に行ったことで、地球の未来を考えるようになったと言います。「ボルネオに行くまではパーム油は悪だと思っていたけど、違いました。パーム農園で働いている人たちは『ここで働くみんなはファミリーだよ』と嬉しそう仕事の素晴らしさを話してくれました。パーム油を買わないと彼らの生活を壊してしまいます。一方的な視点で考えるのではなく、自分の目で確認することが大切だと思いました(白井さん)」

「問題の中にいるのは私と同じ、人でした。パームは問題だと思っていたけれど、現地の人も優しいし、素敵な人がたくさんいた。課題だけでなく、そこで生きる人の存在についても考えることが大切だと思いました(伊藤さん)」

「ボルネオで学んだことを伝えることは自分の義務だと思った」と伊左治さんは力強く言います。

帰国後は気候変動マーチや超福祉展、シブヤ大学など様々な発表の場で自分たちの体験を伝えています。現在は「チロルチョコからSDGsを考える」企画をすすめるべく、企業へのプレゼン準備をしているそうです。問題が自分ごとになった人の言葉は力強く、聞く人の心を動かします。3人の言葉から、心の変化やわくわくが伝わる素晴らしい発表でした。コロナ禍において、現場に行くのは難しくなっています。こうした豊かな体験をどうデザインするかは、今後の大きな課題になりそうです。

午後はSDGs.TVの水野雅弘さんからちょうど結果発表を終えたばかりのSDGs Quest みらい甲子園と、現在参加者を募集しているSDGsターゲットアイコンについて紹介いただきました。たとえば、SDGsみらい甲子園で北海道SDGsアクション大賞を受賞した北海道名寄産業高校からの応募動画は、農業高校の生徒たちが農家の跡継ぎとして、自分たちの代で持続可能な農業経営を目指す決意を語ったもので、感動的でした。


左上)SDGs.TV 水野雅弘さん/右上)調布市立多摩川小学校 庄子博之さん/左下)光ヶ丘女子高等学校 尾之内童さん/右下)宮城県仙台第三高等学校 西村吉史さん

続いて学校の現場での実践事例を5人の先生から共有してもらいました。

調布市立多摩川小学校の庄子寛之さんは「SDGsを学ぶ」のではなく「本物と触れ合う経験」が大切だと言います。そのひとつの事例が鹿児島県阿久根市立小学校との交流を通じての学びです。今教えている多摩川小学校では子どもの人数が増えているが日本では人口が減って子どもの数も少なくなっている地域が多いのが現状です。そこで、生徒が10人ほどの阿久根市立小学校の生徒たちとオンラインでつなぎ、お互いの環境の違いやいい点などを話し合い、地域の課題を学びました。また、山藤先生のオンライン授業では「待つ人から行動する人へ」というメッセージをもらった生徒たちが自分たちが疑問に思うことや興味を持ったニュースから学びを深め「SDGsとすべての問題はつながっている」ことを小学生が実感できるように授業デザインされていました。

光ヶ丘女子高等学校の尾之内童さんには、貧困が原因で生理用ナプキンが買えず学校に行けないアフリカの女性たちのために、竹を使ったサステナブルな生理用品を作るジェンダープロジェクトについて紹介してくれました。現在は「プレゼンごっこで終わるのは嫌だ。ちゃんと製品化したい!」という生徒たちとともにスタートアップ企業を作ろうとしているそうです。一体どうしたらこんなすごいプロジェクトが生まれるのですか? と尾之内さんに聞くと「子どもたちからアイデアが出てくるような種まきと素地づくりをして、引き出し、あとはどうアクションに移行するか。生徒たちのやる気をキープしつつ、探究心に火をつけるように、そして生徒たちの熱い想いが社会に届くように、後ろで支えるのが教員の役割だと思います。そして子どもは大人の姿を絶対に見ているので、自分自身も一緒にチャレンジを楽しむようにしています」と教えてくれました。

宮城県仙台第三高等学校で英語を教える西村吉史さんは新型コロナ危機の今、ICTを活用した様々な授業を積極的に展開されており、その中でもすぐに実践できる事例をいくつか紹介していただきました。グーグルドキュメントやコミュニケーションツール「UMU(ユーム)を使って意見をシェアする、グーグルスライドで文法の学習をする、などオンラインツールをうまく活用すればリアルよりもスムーズに学習が進められます。自律的学習者の育成にはオンラインは向いているのです。また、普段は呼べない外部の方たちもオンラインであればハードルが低くなり、授業で話をしてもらう機会が作れたとも言います。そして生徒だけでなく、自分自身(先生)も主体的に学ぶ必要があるということをご自身の経験とともに参加者へ伝えてくれました。


左)新渡戸文化学園 山藤旅聞さん/右)新渡戸文化学園 奥津憲人さん

最後は新渡戸文化小中学校・高等学校 学園の山藤旅聞さんと奥津憲人さんです。山藤さんはあえて「SDGsを言わない」SDGs教育のデザインにチャレンジしていると言います。例えば、以前であれば「みんなが着ている服の原料はどこで、誰が作ってくれたんだろう?」という問いを出して、SDGs12のターゲットと結びつけていたが、今年はそれをやめて課題に対して「みんなには何ができるかな?」と考えさせることで、生徒たちがSDGsをみつけて、様々な行動が生まれるまで待つようしていると言います。そうすると「SDGsクラブをつくりたい!」や「制服をオーガニックにしたい!」と生徒が自発的にやりたいことを見つけるようになりました。

奥津さんからは「エシカルマスクプロジェクト」に参加する一人の生徒が、オーガニックコットンの切れ端を使い、植物の草木染で一人ひとり違うデザインのマスクを作り、7人の教員にプレゼントしてくれたエピソードを紹介してくれました。大切なことはSDGsの項目を覚えることではなく、生徒ひとり一人が何を目指したいのか「未来をつくる人」をつくることを目指した教育という言葉は、参加者のみなさんにとってSDGsを授業で扱う時に改めて考えるポイントになったのではないでしょうか。

ここまではインプットの時間が続きましたが、最後は小グループに分かれて、対話の時間を作りました。「過去に大きな影響を受けた経験とそれによって培った力は何か?」「その経験や力にSDGsをかけ合わせることで何ができるか」などを話し合い、2学期の授業を作るヒントを持ち帰ってもらいました。

この1日を通じて、たくさんの感想をいただきましたが、その中でも多くの人が「わくわくした!」「未来に希望が持てた!」「学生の活動に感激した!」など、ポジティブな言葉を残してくれたことが、とても嬉しかったです。私自身コロナ禍において、日々の楽しみや人の繋がりが奪われたように感じていましたが、楽しみは新しく作れるし、できることはたくさんある! と、みなさんに元気をもらいました。参加してくれたみなさん、本当にありがとうございました!(笹尾実和子)

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