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2021.10.18

地域のための会社を学生が起業する!シュタットベルケで目指す、持続可能な街づくり

みなさん「シュタットベルケ」という言葉を聞いたことありますか?
シュタットベルケ(STADT WERKE)はドイツ語で日本語に直訳すると「町の事業」と言われています。電気、ガス、水道、交通などの公共インフラを整備・運営することで収益を確保し、その収益を地域の課題解決のために活用する会社のことです。日本ではまだあまり馴染みがありませんが、ヨーロッパでは20年以上前からある仕組みで、ドイツでは1400以上のシュタットベルケがあるそうです。100%自治体が出資しているところもあれば、民間資本が入っているところなど様々です。
この仕組を使い、地域のための会社を立ち上げようとしている大学生たちが沖縄県与那原町にいました。会社名はまだありません。彼らのサポートをしているのが、みやまパワーHD(株)の磯部達さんです。日本版シュタットベルケの成功例として有名な 「みやまスマートエネルギー」を立ち上げ、現在は様々な地域活性化の事業を手掛けています。経験も実績もある磯部さんが、なぜ、大学生たちと一緒に会社を作ることになったのでしょうか?磯部さんたちと共に、これから新しい会社をたちあげる沖縄国際大学1年生の崎原結斗さん(18歳)、沖縄女子短期大学2年生の那嶺裕里恵さん(19歳)、大城貴淑乃さん(19歳)にお話を伺いました。

「MANABI-Ba for School」が始まったきっかけ
沖縄県南部に位置する与那原町(よなばるちょう)では、沖縄県が進めている大型MICE(マイス)※1の誘致計画が始まろうとしています。古きよき並みを残しつつ、最先端の技術を活用し、環境に優しい持続可能な街づくりを目指すためには、与那原に住む住民や企業、役場の人など様々な立場の人たちの声に耳を傾けなければいけない。そんな背景から生まれたのが「よなばる綱がるプロジェクト」です。その活動のひとつが、同町にある知念高校と沖縄女子短期大学の学生たちを中心にSDGsを学び、与那原の課題解決を目指す「MANABI-Ba for School」です。1年間の活動経て、地域の課題を解決するアイデアをプレゼンし、実現にむけて積極的に動いています。どうしてここまで自分ごととして、町のために活動するようになったのでしょうか。
※1 MICEとは、企業等の会議(Meeting)、研修旅行(Incentive Travel)、国際会議(Convention)、展示会などのイベント(Exhibition/Event)を総称した造語


「MANABI-Ba for School」の活動動画

Q 3人は初年度からこのプロジェクトに参加されたと思いますが、参加したきっかけは何ですか?
崎原さん:小学校の頃から与那原町に住んでいて、「与那原町をよくしよう」というメッセージに惹かれました。学校から案内された時「3年生は受験があるから参加しない方がいいよ」と言われたんですが、自分の将来の夢のためにも、今のうちに与那原の課題や現状を知った上で、SDGsを学び課題解決にチャレンジできる、いいきっかけだと思い参加しました。結果、高校3年生で参加したのは自分一人でした。

大城さん:高校の時からボランティアを通じて、自分の成長を感じること、人のためにできることが一番嬉しかったんです。出身は宜野湾市なので、大学に入ってから与那原町を知りました。今後発展していく町だと思ったし、誰かの力になりたい、SDGsについて学びたい、という気持ちで参加しました。

与那嶺さん:私の父親と兄が役場で働いていて、小さい頃から地域の仕事って面白そうだなと思っていました。大学で与那原町に来て、最初はSDGsのことはよくわからなかったけど、将来の職業と絡められそうだと思って参加することにしました。


左から与那嶺さん、大城さん、崎原さん

お話を聞いてみると、みなさんSDGsに関心があった、というよりは、地域や誰かのために役立ちたい、という想いを持っていました。実際に参加してみると「遠い存在だったSDGsが身近なものになった。世界の問題だと思っていたけど、地域の問題だった」と3人とも話してくれました。中でも印象的だったのは「高校生から斬新なアイデアが出て、2歳くらいの差でも全然違うと思いました。ほかにも地域の人たちの視点も自分とは違って学びがありました」という大城さんの言葉です。大学生と高校生の年は近いけれど、意外と意見交換をする機会は多くありません。同世代の頑張りや活躍が、いい刺激になって、活動をより活性化させていきます。

磯部さん:高校と大学をつなぐ重要性は役場の人も理解していたので、最初から高大連携プロジェクトとして取り組んでいました。それぞれの教育方針や学校の仕組みを変えるのは難しいけれど、まずは、子どもたちが交流することでいい効果を生み出し、教育制度を変えるきっかけになればと思っています。地域をよくしたい、学生にいい教育の機会を作りたい、という想いは知念高校も沖縄短期女子大学も一緒なのです。

町の人が関わり育てる会社づくり
学生たちが地域の課題を見つけ、解決するためのアイデアを発表することはどの地域の学校でもできることかもしれません。3人がすごいのは、そこから課題解決をするための会社を作ろう!と大きな一歩を踏み出したことです。会社を立ち上げることについて、不安はなかったのでしょうか?

崎原さん:与那原の課題を発見して、解決のためのアイデアを発表する場があっても、普通はできたらいいな、だけで終わってしまう。自分たちの考えたアイデアや課題解決への想いを町の大人や磯部さんの力を借りて実現できる方法がある、と聞いて、会社を立ち上げたいと思いました。基盤にあるのは「与那原町をよくしたい」という強い想いです。各チームで考えた課題解決のアイデアをどう実行に移すかも大切ですが、まずは町民のみなさんにこの活動を知ってもらいたい。自分は学生をしながら、会社の社長もやっていく予定です。

与那嶺さん:私は短大2年生なので、今年卒業ですが沖縄短期女子大学の姉妹校である岐阜女子大学のサテライト校に編入を目指しています。編入後は土日は沖縄女子短期大学のキャンパスで学び、平日は会社の仕事をする予定です。沖縄女子短期大学で取得した資格を活かして稼ぎながら、土日に学び、できれば大学院まで進みたいです。忙しくなるのは覚悟の上です。

大城さん:自分も与那嶺さんと同じく岐阜女子大学へ編入予定です。平日はこれから立ち上げる会社で仕事をして、土日は幼稚園教員やその他の資格をとろうと思っています。編入を決めたきっかけは、コロナで遠隔授業が多く、課題をやっているだけのように感じていたことが大きいです。正直、学び足りなかった。もっと自分のためになることを学びたい、と思って岐阜女子大学にいくことを決めました。そこに会社設立の話があって、ぜひ!って感じですぐに決断しました。


オンラインミーティングの様子

磯部さん:このまま問題がなければ来年の1月11日に会社を設立予定です。すでに金融機関に説明するための事業計画案は出来ています。学生のみなさんと一緒に、毎週オンラインミーティングを重ね、我々全員がある程度同じことを語れる段階になったところで、商工会や役場、地方企業などこの活動を応援してくれている人たちの出資を募っていきたいと思います。与那原町だけで終わる話ではないので、周辺の自治体にも話をしにいく予定です。

当面は私たち大人が会社の経営をみていくことになると思いますが、そもそも、地域の会社で10年、20年ずっと成長していくためには、地元の人たちが経営を支えてくれる体制が必要です。与那原町の人たちがこの会社を育てて、ずっと人材が流動する形を作らないといけない。僕はその仕組をここ1年、2年で作って、地元の人たちに託します。今日いる崎原くんや与那嶺さん、大城さんが自分の夢に向かって次のステージに進む時には後輩が育っていてほしい。人材がぐるぐるまわる仕組みをつくるために、このMANABI-Ba for Schoolがあるんです。みんなが町の一員としてずっと会社にも関わっていく、そのためには会社の収益を町のために使う、という定款や事業目的をはっきりさせることが大切だと考えています。

自分の夢も地域のための仕事も両立できる時代へ
崎原さんは与那原町で最年少議員を目指していて、与那嶺さんは学校の先生、大城さんは保育士さんになるのが夢だと言います。会社を設立したら、自分たちの夢はどうするんですか? と聞くと、みなさんどちらの仕事も両立できるイメージを最初から持っていました。議員兼社長、取締役兼保育士など、自分の夢も持ちつつ、地域のためにも働く、新しい働き方がシュタットベルケの仕組みを使えば実現できるはずです。

日本では、2016年4月の電力小売全面自由化となり、地方自治体が電力小売事業に取り組めるようになりました。与那原町以外でも、エネルギー事業を糸口に、地域の課題を解決する会社が作れる土台があります。しかし、日本ではまだシュタットベルケは広がっていません。その理由はなんでしょうか? また、シュタットベルケで会社を設立する上で重要なポイントなどを磯部さんにお聞きました。

磯部さん:まずは持続的な収入の柱を作ることが一番重要です。我々が10年間やってきたエネルギーの売買や再生可能エネルギーを地域に増やす事業は、ゼロ・カーボン宣言によって今後全自治体が動いていくと思いますし、ガソリン車が電気自動車に変わることもチャンスに繋がります。複数の環境ビジネスチャンスをこの会社の収益の柱にする予定です。

それからもうひとつ大切なのは、この指にとまってくれる象徴が必要です。ヨーロッパのシュタットベルケの象徴はプールです。レジャープールの運営は、地域の電力会社がやっているところが大半です。子どもたちの遊び場であり大人の健康をつくる場でもあるプール。みんなが楽しく集まれる場所を作り運営するのが、地域のシュタットベルケなんですね。地域の電力の売買をやるから買ってくださいと言っても誰も協力しないけど、こういう楽しい場所をつくって町のために働いてくれるのね、それだったら私も応援しますよ、という流れを作ることが重要です。自分たちが持つ商品やサービスを売り込むのではなく、自分たちの活動を知ってもらうことで、必然的に協力者も増えていくはずです。

ヨーロッパと日本との大きな違いは、町の人たちの参加率です。ベルギーやオランダ、ドイツのシュタットベルケの参加の割合は8割を超えています。日本だと一番多くて15%。小さなところでは10%を切っています。1割ぐらいの人たちは地域のために環境によい事業をするなら協力するよ、と言ってくれるんですよ。でも、残り9割は無関心層です。ヨーロッパが8割の参加率になっている理由は、子どもの頃から環境教育がしっかりされているので、環境のために自分たちができることは何か、という意識が圧倒的に高いことです。1割の参加では会社は成立しませんが、これが8割になると、収益が圧倒的に変わります。日本で残り9割の人たちに応援してもらうためには、繰り返しになりますが、自分たちが持っているサービスを売る、ではなくて、この活動に参加してもらって、会社側が町のためにできることを一生懸命探していく、という逆のアプローチが大切です。

地域型の成功例を
これから日本は高齢化社会に突入しようとしています。人口が減少し高齢化が進むと町の雇用が減り、自治体の収益・税収も減って、地域経済は停滞・縮小してしまいます。町のインフラの整備や福祉・医療関係などのお金の捻出が難しくなっていけば、いずれ公共事業を民間に渡す、という選択肢が出てくるでしょう。その事業を担う会社が、利益だけ追求する会社では、持続可能な街づくりは望めません。地域のことを第一に考え、地球環境にもよい事業を、住民と一緒につくる会社が求められるはずです。そう考えると、シュタットベルケには大きな可能性が秘められています。それにいち早く気づいた学生たちが、自らの足で今動きはじめようとしています。

大城さん:海外では若い人がチャレンジしている事例はあるのに、日本人はひと目を気にして、自分から新しいことをやろうという人が少ないように感じています。そんな中で、私たち学生が町のために会社つくる、ってなったら、すごいことが起きるんじゃないかと思っています。他の人がどう思うか気にせず、失敗するか、成功するかわからないんですけど、こういうことをしていると自信を持って言える会社にしたいです。

崎原さん: この町で自分が一番の魅力だと思うのは「与那原大綱曳(よなばるおおづなひき)」です。町民みんなで綱曳きをするんですが、沖縄の三大大綱曳きのひとつで400年の歴史があります。お祭りにも来てほしいですが、その日だけでなく、もっとたくさんの人が与那原町のことを知って、訪れたくなる場所にしたいです。

磯部さん:与那原は綱曳きの文化に支えられた地域のコミュニティの深さというか、人と人のつながりの深さがすごいんですよ。我々のように住んでいない人間でも感じるくらい。幼稚園から高校まで綱づくりは全員で参加するんです。こういう活動はちゃんとコミュニティがある地方だからこその良さ。この場所でなら、住民参加型の事業が成功する可能性があるのではないかと思っています。


インタビューを受けていただいた日のみなさん。左から与那嶺さん、磯部さん、崎原さん、大城さん

MANABI-Ba for schoolの活動は、地域の人たちを巻き込み、持続可能な街づくりを考える中で学生たちが様々な学びと気付きを得て、そして最後は課題解決するための会社まで生み出していました。まさに「地域の中で社会を学ぶとはこのことか!」と思うと同時に、若い世代が活躍する未来を想像して、気持ちが明るくなりました。

「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」による最新の報告書では、産業革命前からの気温上昇が今後20年以内に1.5℃に達する可能性が高いと言われています。化石燃料に頼ったエネルギーではなく、再生可能エネルギーへの切り替えが、企業、そして個人にも今後はより強く求められるようになってくるはずです。すでにゼロカーボンシティ宣言をした自治体は432もあります。(2021年7月末時点)いつか、みなさんの地域でも学生と大人が一緒に地域のための会社(シュタットベルケ)をつくる動きが始まるかもしれません。それはきっと新しい働き方、そしてこれからの街づくりの土台になる可能性を秘めています。与那原町の取組と、日本におけるシュタットベルケの今後に注目してきたいと思います。
(笹尾実和子)

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