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Climate Change

渡りをする蝶「オオカバマダラ」を救ったのはある小説だった?

2015.04.26 ささ とも

Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by TexasEagle

2015年に入って、オオカバマダラの保護に、米国政府や大手企業が次々と名乗りを上げました。この動きの背景に、米ベストセラー作家バーバラ・キングソルヴァーの小説『Flight Behaviour』(飛翔行動の意)の功績があった、というリポートが、米国誌『ザ・ニューヨーカー』の2015年4月20日の電子版で掲載されました。

北米に生息するオオカバマダラは、蝶ではめずらしく、冬を越すために長距離の渡りをします。その距離は、米国やカナダ南部からメキシコ中部の山地まで数千マイル(おおよそ3000〜5000キロ)と言われています。生息地環境の崩壊が原因で、その数は1996年の10億匹余から現在300万匹にまで激減しました。オバマ政権は2015年2月、オオカバマダラの救済に320万ドル(約3億8000万円)を支給すると発表。現在、絶滅危惧種にオオカバマダラを加えるかどうか、検討しているところです。

小説『Flight Behaviour』のストーリーは、オオカバマダラの大群が本来の渡りのルートから外れて、アパラチア南部地方の架空の村に突然やってくることから始まります。この田舎の村の信心深い住民は、何百万匹ものオレンジ色の蝶が木々の枝に重なり合っている光景を目にして、神が与えた奇跡の現象だと信じました。このうわさを聞きつけてテレビの取材やよそからの見物人などが押しかけ、村は大騒ぎとなります。そこに、ハーバード大学出身でオバマ大統領にそっくりの背の高いアフリカ系アメリカ人の昆虫学者が政府の支援で調査に訪れ、オオカバマダラの行動の謎が解き明かされていきます。この大群がカナダからメキシコの本来の飛翔ルートを断念したのは、メキシコの越冬地が伐採と土砂崩れで崩壊したからでした。つまり、オオカバマダラのこの行動は地球温暖化の兆候だというのです。オオカバマダラがアパラチア地方にやってくるというのはフィクションですが、メキシコの生息地域が危機的状況にあるというのは事実である、と本書あとがきにあります。

著者のキングソルヴァーは、2010年英女性文学賞「オレンジ賞」の受賞歴もある実力派の小説家。生物学士の学位をもち、科学者として働いた経験があり、現在は小説にも登場するアパラチア南部地方で、家族と一緒に野菜や羊を育てて暮らしています。あとがきによると、キングソルヴァーはこの小説を書くにあたって、オオカバマダラを絶滅危惧種に加えるよう訴える請願書を提出したグループの一人、鱗翅(りんし)類研究家リンカーン・ブラウワーからオオカバマダラの移動習性について助言を得たそうです。

政府の発表から約1カ月後、今度は農薬大手のモンサント社がオオカバマダラの救済事業に40万ドル(約4800万円)を提供すると発表しました。これは米国魚類野生生物財団(National Fish and Wildlife Foundation)の助成金に追加されます。モンサント社のブレット・ベガマン社長は、除草剤がオオカバマダラの幼虫が食べるトウワタの減少の一因であるとされていることから、関係者と協力して生息環境を保護・改善に取り組む意向を示しています。

『ザ・ニューヨーカー』誌のリポートによると、ある大学の演説で、キングソルヴァーは「自分がやりたいことは、人々が気候変動についてどう考えているか、あるいはなぜ考えないのか、ということについて小説を書くことだ」と述べています。また、『Flight Behavior』を大統領夫人のミシェル・オバマに届けたそうです。

小説のラストで村は洪水に飲み込まれてしまいます。その様子は「日本の災害よりを超えるものだ」と描写しています。美しい蝶から発せられた警告は、決して遠い国の話ではないのだと気づかされました。



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