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輸入飼料に頼らない八雲牧場の自律型畜産とは 

2013.03.21 菊地 将史

photo by kikuchi masashi

広々とした牛舎の中で牛がのびのびと動き回っています。牛舎の中は素人の自分でも特有の臭いを感じません。ここは資源循環型畜産に取り組んでいる北海道八雲町の北里大学獣医学部附属フィールドサイエンスセンター八雲牧場。2009年には 「有機畜産JAS基準」、2010年には「放牧畜産基準認証」を肉用牛ではともに日本ではじめて取得しています。

八雲牧場が資源循環型畜産に取り組んだきっかけは、1991年、牛肉の輸入自由化の影響で国内畜産農家の多くが霜降り肉の生産に力を入れ、輸入穀物に依存する畜産経営が主体になってきたことが背景にあります。通常、牛肉市場は赤身肉と霜降り肉で取引額が大きく異なります。赤身肉はキロ当たり数百円程度、霜降り肉は高値の場合は3000円 前後で取引されます。霜降り肉の生産には、脂肪分を増やす作用のある濃厚飼料などの輸入穀物を与えなければなりません。また、効率的に肥育させるために放牧を行なわないことがほとんどです。そこで一般的な畜産農家では、牛を牛舎に並べて、海外から輸入した穀物飼料を与えて肥育し、霜降り肉を生産しています。

このような輸入穀物などの購入飼料に依存する畜産を「加工型畜産」と言います。牛舎特有の臭いも、実は濃厚飼料を多く与えているから発生しているのだそうです。また飼料を海外から輸入するので、飼料生産国においては国内から窒素が持ち出され、反対に輸入国においては国内に余剰窒素が蓄積されます。窒素の過剰な蓄積は悪臭、水質汚濁などの畜産公害が生じる原因になっています。さらに、濃厚飼料を海外からの輸入に頼っているので、コーンなどの国際価格と為替の変動という国際的な要因に畜産農家は左右されます。霜降り肉の市場価格は変動幅も大きく、不安定な畜産経営に陥っていると言えます。

これに対し、八雲牧場が取り組む資源循環型畜産は、極めて自律的な畜産経営です。八雲牧場の全面積 は370ヘクタール(うち放牧地は120ヘクタール)、この広大な大地で夏は250頭の牛を完全放牧し、冬の間は牛舎内で自由に動き回れるようにして育てています。八雲牧場は1994年にまず海外から輸入していた濃厚飼料を、牧場内で生育したイネ科とマメ科の混合牧草のみに切り替えました。牧場内の草地(採草地:100ヘクタール)で牧草を育て、700トンのサイレージ(牧草の漬け物のようなもの)と700個ほどのロールサイレージを生産して、冬の間のえさにしています。さらに牛舎にたまる排泄物を堆肥化して牧草地に還元(散布)し、牧草を育てています。夏は完全放牧のため放牧地の草を食べ、そこに糞尿が還元されることで土壌に栄養が行き届き、牧草がよく育ちます。こうして、牧草→牛→土の循環が成り立っているのです。

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牛の排泄物で作った堆肥は牧草地に還元される photo by kikuchi masashi


ここでポイントとなるのは、牧草をイネ科に限定せず、マメ科も加えていることです。クローバーを代表とするマメ科の植物は、根に根粒菌を宿し空気中の窒素を固定します(窒素固定)。その窒素がマメ科の茎と葉が枯れることでイネ科牧草へ移譲されます(窒素移譲)。さらにマメ科牧草はタンパク質が豊富なため、イネ科とマメ科を混合させた牧草を与えるとデントコーンで育った牛に負けないくらい大きく育ちます。

八雲牧場の取り組みが持続している秘訣は出荷先にあります。完全放牧している八雲牧場の牛肉は霜降りとはほど遠い赤身牛肉です 。そのため一般的な市場では評価が低く、まったく生産コストに合いません。そこで八雲牧場は東都生協(東京・世田谷)をはじめとした八雲牧場の取り組みに理解を示している団体・企業に安定的な価格で出荷しています。こうして事業の計画性が確保され、採算に合ったラインで持続的な畜産経営が成り立っているのです。

先進的な取り組みの一方で八雲牧場は多くの課題も抱えています。まず飼料となる牧草を牧場内で育てるので自然環境に左右されやすく、有機畜産認証を受けているため牧草に対しても農薬は一切使えません。近年はバッタが大量発生し昨年は1.6トンも駆除しており、例年50ロールほど収穫できた牧草が2ロールしかとれないこともありました。また牧草の収穫量がほぼ決まっているので、牛肉の出荷量を増やすことも困難です。さらに、出荷先の多くが首都圏のため、八雲牧場の取り組みは地元であまり知られていません。それでも、持続的な畜産を通して地球環境を守りたいという生産者の思いがあり、生協と消費者が価格のみではなく牧場の活動を評価して支え続けたからこそ、資源循環型畜産は今まで続けられたのではないでしょうか。



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菊地 将史