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「未来を考えること」は「現在(いま)を考えること」|地球リポート|Think the Earth

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from 東京 vol. 06 2002.07.05 「未来を考えること」は「現在(いま)を考えること」

“NPO”や、“NGO”ということばが、メディアをはじめ、様々なところで使われるようになってきました。これにもうひとつ、“NPE=Non Profit Enterprise”という考え方を提唱している人がいます。日本フィランソロピー協会会長の、林雄二郎さん。元経済企画庁(当時)のお仕事を約30年、民間財団での社会貢献活動歴約30年という経歴を持つ人生の大先輩です。 「営利を求めない会社」、「社会貢献を目的にした企業」というのは、どういうイメージなのでしょう。・・・また、行政でも企業でもない、第三のセクターとしてのNPOの役割とはどんなものなのでしょう? 同協会理事長の高橋陽子さんとともに、お話をうかがいました。

目次へ移動 変化の兆しをみつけ、育てることが大切

-林さんはもともと、経済安定本部(経済企画庁の前身)のご出身で、戦後の日本の経済をどうやって建てなおそうかという議論をされて、日本の高度経済成長を支えてきたおひとりですよね。NPOだとか社会貢献の世界に入られた・・・そのきっかけはなんですか。

林:一つの転機になったのはフランスに行ったことですね。 フランスの経済企画庁みたいなところに行ったんですよ。そこで、ピエール・マッセさんという当時の長官と出会ったんです。マッセさんは、フランス電力公社の総裁をやっていた民間人なんですが、彼が最初に言った言葉が頭の中にこびりついていて・・・、今でもこびりついているんですけど「未来を考えることは現在を考えることですよ」と言ったんです。

~芽生えを見つける~ 現在の社会は常に動き、変化しいています。その中に、明日の社会の変化を予測させる変化の"兆候"というものが必ずあるはずです、"芽生え"がね。 いまは芽生えだから、どうってことないけれども、それが明日になり明後日になると、大きな流れになるかもしれない。それを"芽生え"のうちにみつけて、これがどういうことを意味するかということを考えることが未来を考えることです。漠然と未来を考えることをしてはいけませんというのが、マッセさんの持論でした。

私は経済審議庁(当時)で、戦後の日本の経済計画っていうのにずっと携わってきたんです。日本の経済計画は、5ヵ年計画とか、8ヵ年計画とか、必ず何ヵ年計画になってますね。
ところが、寿命を全うしたことがないんですよ。5ヵ年計画が2年くらいたつと役に立たなくなる。で、見直しをやるんですよ、いつも。おかげで失業しないで済んだわけだけども(笑)。役所は税金でいろんな事やるでしょ。だから、全国的に大きな潮流になってることはやります。でも、まだ全国的にはなってないけれども、マッセさん風に言うところの「変化の兆候」は社会のあちこちに起こる。そういうのに対して政府は、まだ局部的な事象だからということで、手をつけないことが多い。 変化の兆候を兆候のうちに見出すということをまったくしていなかったということを痛烈に反省させられました。そのことが民間の財団に行く一つのきっかけにになったんです。

目次へ移動 長いものさしで潜在的なニーズを掘り起こす

-そして、政府にいてはできなかった「変化の兆候を育てる仕事」をするために、林さんは約30年前にトヨタ財団の立ち上げに関わられました。その後も、様々な社会貢献のお仕事に関わられて、もうすでにお役所にいられたときよりこの世界にいるほうが長くなっていらっしゃいます。
「大きな流れを支える政府の仕事」と「変化の兆候を育てる財団の仕事」では、役割が違うということと同時に、タイムスケールが違うというお話もしてくださいました。

林:長い物差しで国益を考えるべきなんです。
ふつう政府は単年度主義で予算組んでるでしょ。すぐ効果があがらないと税金の無駄使いだとすぐに言われる。だから、政府は息の長いことはやりにくいんですよ。それと失敗を嫌う。だから前例を重んじる。それは他の国でも同じですよ。だけど、それをやっていると変化する社会に応じていかない。変化の兆候に着目して、いろんな試みができるのが、民間の財団やNPOなんです。なかには見当違いな失敗をすることもあるから、政府がそれをやったら税金の無駄使いになっちゃうけど、政府の考える国益の物差しとは違う物差しが必要になってくるんですよ。

-例えば・・・?

林: 東南アジアの国の固有文化の掘り起こしを手伝ったことがありました。みんな古い歴史を持った国なんですが、固有文化がうずもれて消えている。その掘り起こしをしたいんだけれども金がない。当時、日本は高度成長で、橋かけたり道路つくったり学校建てたり病院つくったり...目に見えることには金だすけれど、古い文化の掘り起こしなんてことには資金が出なかった。けれども、潜在的なニーズを、財団のプログラムオフィサーがずっと辛抱強く調査をして、発掘してきたんです。口にだして言わないけれど、彼らが本当にやってもらいたいことはこれなんだと。それを手伝うと、「あーやっぱり日本は俺たちのこと本当に分かってくれてたんだ」と、喜んでくれるじゃないですか。これは日本の国益になるじゃないかと、私は思うんですよ。

日本語の本を東南アジアの国の言葉に翻訳する、そして彼らの出版物を日本語に翻訳する。さらに、タイの本をインドネシア語に訳したり、インドネシアのをタイ語に翻訳してタイに紹介するというようなこともやってたんですよ。
これは、やはりプログラムオフィサーがいろんな調査をやったときにわかったことだったんです。「日本人は読書好きだけど、東南アジアでどんな小説がベストセラーか誰に聞いてもわかっていない」、「日本は非常に翻訳に熱心な国で、フランスやアメリカ、イギリスの本は訳すけれど、アジアの国々のベストセラーは、誰もかえりみてくれない。」という意見を聞いたんです。それで始めたんですよ。

目次へ移動 利益を追求しない企業「Non Profit Enterprise = NPE」

-こうした、行政や企業とは違うタイムスケールで、異なる役割を果たすセクターとしての非営利組織(財団やNGO/NPO)が、じゅうぶんな役割を果たして活躍するには、自立した非営利組織が増えていく必要があるのでしょうね。そこで、NPE(Non Profit Enterprise)という考え方が、ひとつの価値観の転換をもたらしてくれる気がします。

-林さんご自身は、財団法人という組織におられて、役割や目的が違うはずのお役所の指導の元に組織を動かさなければならないことに矛盾を感じ、主務官庁制度にとらわれない非営利の会社を作ってしまえばいいじゃないかと考えたのが、NPE構想の始まりだと言います。

アメリカやヨーロッパは、ボランティア活動をやる人、寄付をする個人によって、NPOの活動が支えられているということがありますが、日本は市民社会というよりはまだ企業社会の部分が大きいですね。NPOに対する寄付金の構成比をみると、アメリカでは85%が個人寄付であるのに対し、日本はわずか5%。 そのかわり、企業寄付が日本では84%(アメリカは6%)を占めています。--NPOデータブック(有斐閣)より--
個人寄付をもっと増やしていくことも大切だと思います。 一方で、企業がそれだけ社会に関わっているということをもっとポジティブに理解して、「社会貢献を目的にした企業=NPE」が増えていけば、それは新しいかたちの非営利組織と呼べるのではないでしょうか。

目次へ移動 NPE的な、企業・組織

ジュマ・ベンチャーズ(Juma Ventures)(アメリカ)
14才から29才までの低所得、又は問題をかかえた青少年に雇用機会と職業訓練の場を提供するNPOビジネス。
http://www.jumaventures.org/

プレスオルターナティブ(日本)
既存の社会システムとは違う新しい第3のオールターナティブな社会システムを提案。公正な貿易で南の国の生産者の自立を応援する「第3世界ショップ」や、社会性のある事業に融資をする「市民バンク」を運営。
http://www.p-alt.co.jp/asante/

グラミンバンク(バングラデシュ)
通常の銀行からはお金を借りられない、最も貧しい生活の人々=主に女性=に無担保で少額のお金を貸付け、生活向上を後押し。
http://www.grameen-info.org/

Women's World Banking
女性起業家が事業を始める際、資金面、会計や会社設立などのノウハウ面でバックアップ
http://www.swwb.org/(世界組織)
http://www.p-alt.co.jp/wwb/(日本支部)

ニューマンズオウン(アメリカ)
税引き後の利益は全て社会貢献に使っている。1982年の創立からこれまでに1億2500万ドル以上を、子どもや教育・文化、災害支援、環境などの活動に寄付。俳優・ポール・ニューマンが作った会社。
http://www.newmansown.com/

-近年は、NPO法人という新しい法人制度ができたりして、非営利組織に対する理解も広まっていますが、理事長の高橋さんは、政府が予算を組んでNPO支援をしていることに対して、こんなコメントをしてくださいました。

高橋:今こそ、NPOというのは非常に大事な時期だと思います。経済的にしんどいから、行政の予算が使えるものなら使いたい・・・そうすると、ファンクション=役割が違うはずの行政とNPOが一緒になったり、下手したら下請けになったりする可能性があります。そこを、間違えないことがすごく大事です。

-受け取りながらも、きちんと活動の意義について、理解をしてもらうとか、お金に対して態度がちゃんとあるっていうことが大切ですね。

高橋: だからエコノミーが大事なんですよ。NPOも、自分で稼ぐということをちゃんとやっていかないと。いくら政府とはパートナーだからっていったってね、お金出せば口を出したくなる。それが税金から来てればなおさらです。
企業が利益をあげるのとは違って、NPOが収益をあげるための財源は、市民の寄付であったり、ボランティアであったりっていうのがあったりするのです。一方で市民が成熟していくような働きかけをしながら、また市民から応援してもらえるような、事業活動を展開していかなくてはなりません。

林:それがもうひとつのセクター・・・第3セクターという由縁なんですよ。儲かる仕事は第2セクター(企業)に渡す、全国民的になったら第1セクター(政府)に渡す、そして常に第3セクターは社会の"さきがけ"であるべきなんですよ。そして、そのためにも、NPEが必要ですよ。

-"NPE"のような、"NPO/NGO"がどんどん増えて、新しい社会の流れが生まれやすくなるといいですね。

目次へ移動 重要なのは社内広報

-日本フィランソロピー協会では、企業の社会貢献担当の方とお話しする機会も多いと思いますが、いつもどのようなお話をしているのですか?

高橋:重要なのは社外広報だけでなく「社内広報」。社内に外のいろんなニーズをどうフィードバックしていくかというところをやってくださいと、常々言ってます。社会貢献の部署そのものが社内のメインストリームにはなっていないですから。これだけ不況になってくると、コスト管理部門だから肩身の狭い思いをしている。そこで、どう社内の他部署の事業活動に役立っているのかを、短期的ではないけれど長期的に見せていかないと。他の部署にどんどん広げていくことによって理解を深めてくださいって言っています。

目次へ移動 やらないと損しちゃうくらい、楽しいことだって思わせないと。

-最後に、おふたりに、社会貢献活動のポイントをお聞きしてみました。

林:ボランティア活動とかこういうのをやってらっしゃる方はね、社会的使命感ということを何度もおっしゃる。それは必要ですよ。だけどね、もうひとつ、"道楽"っていう要素、これが好きだからやってるんだという要素が必要ですよ。でも、"道楽"って言ったらね、ボランティア活動をやってるおばちゃまにしかられちゃった。『先生そういう不真面目なことおっしゃらないでください!』って。(笑)

高橋:不真面目こそ原動力ですよね。だから、えらいですね、ご立派ですねって言われているうちはだめですよ。なんかあそこといっしょにやらないと損しちゃうとか、楽しそうだねって思わせないと。

-そう!実際に、お二人は、本当にご自分たちのやっていることを楽しんでいらっしゃいました。

目次へ移動 NPOとNGOの違い

"Non governmental Organization(NGO)"は、1945年に調印された国際連合憲章のなかで、国連が政府以外の民間団体との協力関係を明文化した際に生まれた言葉です。今では、国連との協力関係があるかないかは関係なく、地球規模の問題に、「各国政府から独立し、非営利」の立場から取り組んでいる市民主導の組織をのことを"NGO"と呼んでいます。日本語では非政府組織と言っています。

これに対し、"Non profit Organization(NPO)"は、1998年12月に「特定非営利活動促進法」(いわゆる「NPO法」)が施行されて以来、日本国内でよく使われるようになりました。日本語では非営利組織。もともとは、アメリカの法制度・税制上使われていることばからきています。「NPO法」に定められた認証を受けた法人だけではなく、「非営利」かつ「非政府」で活動する組織は、任意団体であっても、"NPO"と呼びます。 どちらも、政府からも企業からも独立した存在という点では同じですが、日本への導入経緯から、"NGO"は「開発協力など国境を越える活動をしている組織」、"NPO"は「国内を中心に地域活動や福祉活動を行う組織」という意味で使われる傾向にあります。 他に"ボランティア組織"ということばもありますね。個人が自分の意志(善意)で行う個々の活動」をボランティアといい、そういう気持ちを持つ人たちが集まってボランティア組織をつくることがあります。神戸の震災のときのボランティア活動からも、たくさんのボランティア組織が生まれました。

(参考)
特定非営利活動法人 国際協力NGOセンター(JANIC)
http://www.janic.org/
福島県HP
http://www.pref.fukushima.jp/npo/

日本フィランソロピー協会
http://www.philanthropy.or.jp/
21世紀の日本の新しい形「フィランソロピー社会」を実現するために必要な2つの力は「人力=活動する人々」と「財力=活動するための資金」であるとの考えのもと、幅広く活動しています。

主な事業内容

声の花束
週刊誌や地域情報などの旬の情報を、パソコンを使って声で録音し、インターネットで配信する声のサイトの運営。視覚障害者、高齢者の方へ、日常生活に必要な情報を届けている。

アニモネットワークサークル運営協力
http://www.animonet.com/
パソコンネットを通じて、個人と企業の社会貢献参加を推進するサイト。

「がんばれNPO!」プロジェクト
(財)たばこ産業弘済会との共催で行っている、NPO助成プロジェクト

<フィランソロピー(Philanthropy)>
フィリア(愛)とアンソロポス(人類)が合わさった、ギリシャ語を語源とする言葉。直訳すると「慈善」「博愛」などと言われますが、一般的には「社会貢献」や「非営利団体に対する寄付」の意味で、米国を中心に広く用いられています。

取材: Think the Earthプロジェクト 原田 麻里子/上田 壮一
写真: Think the Earthプロジェクト 上田 壮一

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