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地球リポート

from 福島・神奈川 vol. 65 2013.12.26 未来を創る新しい力、再生可能エネルギーを広げよう!

私たちが安心して暮らせるための新しい力として、太陽光や風力、地熱などから作られる再生可能エネルギーに今、大きな関心が寄せられています。この機運をさらに盛り上げる取り組みが、経済産業省 資源エネルギー庁が中心となって官民連携で推進している「GREEN POWER プロジェクト」です。Think the Earthはこのプロジェクトに参加し、ビジュアルブック『グリーンパワーブック 〜再生可能エネルギー入門』を編集・制作しました。
今回のリポートでは、様々な施策を通して、再生可能エネルギーへの理解と普及を呼びかけている資源エネルギー庁の村上敬亮さんにお話を伺いました。また、日本の技術を結集し、福島県沖で進められている浮体式洋上風力発電の実証研究と、「自分で電気を作る」ムーブメントを巻き起こしている神奈川県の藤野電力の活動を紹介します。


※現在、希望する学校に『グリーンパワーブック』を寄贈するプログラムを実施中。詳しくはリーフレット(PDF 3.9MB)をご覧ください!

目次へ移動 インタビュー:村上敬亮さん

目次へ移動 ポテンシャルの高い日本の再生可能エネルギー

Q: GREEN POWERプロジェクトとは?

村上:今はまだ、日本の発電電力量の1.6%に過ぎない再生可能エネルギー(以下、再エネ)ですが、豊かな自然に恵まれ、高い技術力を誇る日本の再エネのポテンシャルは非常に高いと考えられています。石油や天然ガスなど従来のエネルー資源に乏しい日本の安定した未来を創るには、再エネの普及は必要不可欠。そのためにはまず、国民一人ひとりのエネルギーリテラシーを高めなければなりません。

 そこで2013年秋にスタートしたのが官民連携のプロジェクト「GREEN POWER プロジェクト」です。2012年夏から始まった固定価格買取制度(FIT)への理解を深めていただくとともに、再エネの普及のための様々な取り組みを行っています。

 再エネについてもっと知ってもらうため、お母さんや子どもたち、地域コミュニティに対していろいろな普及啓発活動を実施。たとえばクイズ大会や学校の授業で再エネについて学んでもらったり、簡易型の太陽光発電機に触れてもらったりしています。

 また、このプロジェクトでは日本の新しいグリーン産業とグリーン市場の創出も目指しています。再エネの作り手を後押しするため、太陽光パネルを組み立てるワークショップや、ビジネスとして再エネ事業への参入を考えている人たちに向けてのスクールを開催し、これまで大勢の方に参加していただきました。

065-002.jpg エコプロダクツ2013では「GREEN POWERプロジェクト」としてブースを出展

Q: 日本で再生可能エネルギーが普及するメリットを教えてください。

村上:まず、エネルギー自給率を上げることができるということです。現在、日本のエネルギー自給率はわずか4%しかありません。石油や天然ガスなど化石燃料のほとんどを中東やアジアの国々から輸入しているのが現状です。石油価格が高騰する中、海外から輸入する燃料費の上昇は年間3.6兆円。日本や日本経済が被るダメージは増える一方です。ダメージを減らすにはエネルギーの多様化を進め、国産エネルギーを少しでも増やす必要があります。幸い自然に恵まれた日本は太陽光や風力、地熱、水力、そしてバイオマスなどの資源は豊富にあります。この資源をもっと有効に活用することができれば、国産エネルギーの割合が増え、自給率アップにつながります。

 そして、再エネには新しい産業を創出する大きな可能性が秘められています。再エネに関わるグリーン産業には高度な技術が必要とされるため、世界に誇る高い技術力を持つ日本にとっては勝機が潜んでいます。その技術を海外へと輸出することができれば、日本の新しい大きな産業になるでしょう。

 さらに、再エネの大きな特徴は地方で取り組めるということです。太陽光にしろ、風力にしろ、地熱にしろ、自然のめぐみが豊かな場所、つまり地方により大きな可能性があります。各地域で再エネによる発電事業が盛んになれば、企業や工場を誘致するなどの選択肢も増えて、町おこしや地域おこしにつながります。

 最後にもう一つ、エネルギーを語る際に避けて通れないのが温暖化の問題です。二酸化炭素排出量の大きい化石燃料から、太陽光や風力などによる再エネへのシフトは、地球温暖化に歯止めをかけることにつながります。世界的に異常気象が増えている今、化石燃料から再エネへのシフトは世界的なエネルギー政策の動きでもあります。

Q: 再エネの普及を急ぐ理由は何ですか?

村上:安定したエネルギー資源を確保するためです。エネルギー自給率4%の日本では、万が一、海外情勢の変化によって石油や天然ガスなどの供給がストップした場合、すぐとは言いませんが生活や産業に支障が出てくるのは明白です。

 高騰する燃料費によって日本の国力は大きく損なわれています。さらに、中国やインドなど新興国のエネルギー需要が急増することが見込まれる中、今後ますます必要なエネルギーを海外から調達するのは難しくなってくるでしょう。

 こういった事情から1日も早く、国産エネルギーの割合を増やさなければなりません。再エネ=エコという発想からさらに一歩踏み出さなければいけない時期にきているのです。

 もう一つ忘れてはならないことは、石油や天然ガス、それに最近注目されている新しいエネルギーであるメタンハイドレートやシェールガスなども含め、化石燃料の埋蔵量は有限だということです。でも、太陽光や風力などグリーンパワーは枯渇する心配がありません。確かに何万年もかけてエネルギーを蓄積・圧縮してきた化石燃料と比べ、目の前にある風や太陽光を利用する再生可能エネルギーが効率上不利なのは事実です。でも急峻な山から流れる川の水や地底にたまった地熱は火山国・日本ならではの資源です。木材や食品の廃棄物を利用するバイオマスも生活していく中で必ず生まれるもの。そういう風に考えていくと、日本は、実はエネルギー資源大国だと言えるのです。

 せっかくの資源を有効活用するためにも、再エネ事業者を増やさなければなりません。そのためには、再エネ事業がビジネスとして立派に成り立つ地盤を作らなければならないでしょう。再エネを日本の重要なエネルギー資源として育てていくには、再エネ推進のための政策と、国民一人ひとりの理解が必要なのです。

目次へ移動 エネルギーシフトの課題

Q: 再生可能エネルギー普及のために、取り組まなくてはならないことは?

村上:再エネの普及のカギを握っていると言われているのが、大規模開発さえできればコストダウンが可能な風力発電です。実は、ヨーロッパなど世界における再エネの柱は、低コストで大量に発電できる風力です。ところが、日本ではほかの再エネに比べて建設や手続きに時間のかからない太陽光発電が突出して多くなっています。もちろん太陽光発電も推進していく必要はありますが、より大量に再エネを普及していくには大規模な風力発電事業を推進しなければなりません。そのために取り組まなくてはならない課題が「送電網の整備」と「規制緩和」です。

 「送電網の整備」の中には問題が二つあります。一つは各地域の送電網の増強です。大規模開発さえできれば相対的にコストが安くなる風力発電の適地は、北海道~東北の一部に偏っています。この地域で得られる再エネは、その地域の電力消費量を上回るポテンシャルを持っています。しかし、このあたりの送電線はもともと人口が少なく電力需要が少ないため細いものしか引かれていない。風力発電で大量に発電しても電力需要量の高い地域へ電気を送るには受け入れる容量が小さい。この送電線の問題が壁となってせっかくポテンシャルがあるというのに誰も風力発電所を作らなかったのです。

 送電線の受け入れ容量が少ないままでは、風力だけでなく太陽光やバイオマスなどの再エネ事業も新たな参入は難しい。そのため、まずは地域の送電線の増強が必要です。最近、その第一歩として、北海道で官民一体となって新たな送電線の建設と増強事業が始まりました。今後どのようにこの事業が拡大していくか是非注目していてください。

 もう一つの問題は、地域間の電力の広域運用です。再エネの中でも風力と太陽光は自然条件で発電量が左右されます。しかし、安定して電気を送るには常に需給のバランスを一定にしておかなければなりません。電気は貯めておくことができないため、太陽光や風力が大量に導入されて発電量の変動幅が大きくなると、電力の需給バランスが崩れて電力の品質が低下、ひどい場合には停電の恐れが出てきます。そうならないようにするためには、出力を迅速に上下させることが可能なガス火力や可変速式水力の電気を組み合わせ、電気の出力をこまめに調整し、常に需給を安定させなければなりません。

 たとえば北海道と本州をつなぐ北本連系線を整備することができれば、大量に作られる風力の電気を、北海道だけでなく東京でも活用できます。さらに、再エネによる出力量の変動を、調整能力が不足しがちな北海道ではなく、電力の大消費地である関東で調整することができるようになります。そうなれば、風力や太陽光などの電力も受け入れることができるため、再エネ事業に参入する人は増えてくるでしょう。

065-003.png 北海道幌延町。海岸沿いに28基の風車が林立するオトンルイ風力発電所。北海道北西部の海は風況が良く、もし沖合に洋上風力発電所を建設できれば数百万kwh規模の発電ポテンシャルがあるという

 そして、再エネの普及を促すために取り組まなくてはならないもう一つの課題が「規制緩和」です。火力発電所なら需要地の近くを選んで建てることも可能ですが、風力発電所は強い風が吹いている場所、地熱発電所は地熱エネルギーが高い場所、と再エネの発電所を建てる場合には立地制約が出てきます。しかもそういう場所には工場立地に伴う規制や国有財産の使用に関する規制、農地や自然公園に関する規制など、各種の規制が存在しています。

 さらに環境保護のための環境アセスメントに時間が取られすぎるという問題もあります。これらの規制を緩和することができれば、建設や手続きにかかる時間や手続きが簡単になり、より多くの発電所を建設することができます。

 従来の規制は再エネの普及が必要だと考えられていなかった時代のものです。しかし、これから再エネという新しいエネルギーへとシフトしていくためには、変えたり緩めたりしなければならないこともある。地域の皆さんの理解を得ると同時に、こうした規制についても一つひとつクリアしていかなければなりません。

目次へ移動 固定価格買取制度について

Q: 2012 年夏から始まった固定価格買取制度(FIT)は、再生可能エネルギーの普及にどのように関わっているのですか?

村上:FITは、再エネによる発電をした人からその電気を供給したいと申し出があった場合、電力会社は政府の決めた価格・期間で、全量買い取らなければならない、と定めた法律です。

 従来の化石燃料による発電に比べて、再エネによる発電は建設費用が高くコストがかかります。石油や天然ガスなど化石燃料を燃やす火力発電にかかる費用が1kWhあたり9.5円であるのに対し、発電効率がまだまだ低い再エネの場合、太陽光発電で約40円、その他の再エネも20円前後とかなり高くなっています。このままでは事業として採算がとれる見込みが立たず、再エネ事業に投資しようという新規参入者は増えません。そこで、国が買取期間と価格をあらかじめ設定し、投資回収の見通しを立てやすくすることで、再エネ市場を拡大しようと2012年7月に導入されました。

 従来の電気よりも高い電気を買うことを義務づけられた電気会社は、その資金を電気を利用するすべての人たちから徴収しています。電気料金表に新たに増えた「再エネ発電賦課金等」という項目がそれです。電気料金が月7,000円程度の一般家庭の場合、120円前後の金額が電気料金に上乗せされています(平成25年度価格)。電気を使用しているみんなの力で再エネを促進してもらう、というのがこの制度のもう一つのポイントになります。

065-004.jpg 固定価格買取制度の仕組み(『グリーンパワーブック』より)

 実はドイツをはじめ諸外国でも同様の制度が日本より早い時期から導入されています。その結果、日本より早く再エネが普及するようになったのです。

 FITの着実な運用と規制緩和や送電網の整備などによって事業環境を整備していくこと。この二つが継続されれば、日本の再エネはどんどん伸びていくでしょう。今はまだ1.6%しかない発電量も、2030年には10%以上に伸びるという試算もあります。そうなれば大型水力発電による発電量を合わせて20%以上の国産エネルギーが調達できることになり、私たちの暮らしを支えるエネルギーの一本の大きな柱ができあがります。

目次へ移動 一人ひとりに求められるエネルギーリテラシー

Q: 再エネ普及に向けて、私たち一人ひとりにできることは何ですか?

村上:まずは、ふだん私たちが何気なく使っている電気は何で発電されているのか? その原料は一体どこからきているのか? とエネルギーに関心を持ってください。今の私たちの暮らしは安全も含めてエネルギーなしでは成り立ちません。これから先も今の暮らしを望むのであれば、安定したエネルギー供給のためにも、海外から輸入している化石燃料以外のオプションを用意しなければならないのです。新しいエネルギー資源へとシフトしていくには、10年、20年といった中長期的な視点が必要です。将来を担う子どもたちのため、日本の未来のため、私たちの世代で方向性を決断し、今すぐ取り組みを始めなければなりません。

 それを実現するために必要なのは、発電事業に関わるプロだけでなく、電気を選んだり、規制緩和に理解を示したりすることのできる国民一人ひとりのエネルギーに対するリテラシーにほかなりません。もちろん、省エネ努力によるエネルギー消費の抑制も大切です。未来に向けて、日本で再エネがどこまで導入できるのか。それは電気や燃料を使っている私たち一人ひとりの意思と選択にかかっているのです。

065-005.jpg エコプロダクツ2013のブースにて。東京学芸大学附属世田谷小学校の子どもたちが実際に授業で再エネについて学び、作成したパネルも展示された

目次へ移動 福島復興・浮体式洋上ウィンドファーム

目次へ移動 チームジャパンで挑む、世界初の洋上風力発電

065-006.jpg 日本の技術の粋を集め、福島県沖で実証実験が進む「福島復興・浮体式洋上ウィンドファーム」の変電所(左・奥)と風力発電機(右)

 福島県いわき市の小名浜港を出航して2時間半。まず、巨大な変電所「ふくしま絆」が目の前に迫ってきました。2kmほど先に浮かんでいるのは、洋上風車「ふくしま未来」。どちらも「福島復興・浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業」の設備として、2013年に浮かべられたものです。直径80m、最大出力2MWの「ふくしま未来」の海面からの高さは106m。変電所「ふくしま絆」も海面からの高さは60mに及びます。これだけ巨大な建築物がプカプカと海に浮かびながら発電するなんて、信じられない光景です。

 「浮体はいわば船のようなもの。風速70mの風が吹いても耐えられるように巨大な特殊チェーンで係留されているんですよ」  と、同行していただいた丸紅・いわき事務所の泉井淳さんが教えてくれました。

065-007.jpg 「いろんな企業が参加しているため、異分野の先進技術にも触れることができました」と、泉井さん

 2013年11月11日、ついに風車がまわり出し、同じく洋上に浮かぶ変電所経由で陸上へと電力を送り始めました。2015年度までにさらに大きな7MW風車2基も加わり、そこから3年間の実証研究が本格的にスタートします。そしてその先に目指すのは、世界初の浮体式洋上ウィンドファームの事業化です。

 経済産業省の委託で進められているこの事業は、丸紅を筆頭に三井造船や三菱重工業、新日鉄住金、ジャパン マリンユナイテッドなど日本企業10社と東京大学がコンソーシアムを組んで進められています。スタートは震災によって東京電力福島第一原子力発電所事故が起きてから半年ほどたった頃。わずか2年でここまで成し遂げられたことに誰もが驚いたとか。

 「今までの日本の常識からすると、相当かけ離れたスピードでこの事業は進んでいます。みんなの目に見えるようにしなければ復興にはつながらないから。できるだけ早く風車を海に浮かべ、発電させることで、この事業を福島復興の象徴にしたいと考えていました」 と語るのは、事業のスタート時から全体の統轄責任者を務めている丸紅の福田知史国内電力プロジェクト部長。25年間海外でエネルギー事業に携わってきた彼にとっても洋上風力発電は初めての試みだったといいます。

065-010.jpg 「世界の電力事業を手がけてきましたが、洋上ウィンドファームを手がけるのは初めて。でも、私にしかできない仕事だと思い挑戦し続けています」と、福田さん

  "世界初"の技術がいくつも組み合わされているこの事業は、洋上風力発電の普及を目指す世界の国々からも注目されているそうです。

 「浮体式の風車を複数基浮かべたウィンドファームであること。浮体式の変電所。そして浮体同士をつなぐ特殊な電力ケーブル。この三つはいずれも"世界初"。さらに、これから浮かべる予定の7MWの風車も世界最大。そのすべてを支えているのが、日本の高い技術力です」と話す福田さん。ヨーロッパなどの海ですでに発電中の従来の洋上風力発電は、そのほとんどが海底に杭を打ち込む着床式だそうです。

 「着床式は遠浅の海には向いていますが、遠浅が少ない日本の海には深さに縛られず、どこにでも浮かべられる浮体式の方が向いています。それに、浮体式だったら、風が強く吹いていて、送電網が整備されている場所であれば、どこへでも運んで発電することができる。今後の洋上風力発電の展開を考えれば、浮体式の方が絶対に可能性は大きいと思います」

 この事業に関わっている企業では、実は震災前から将来、日本には洋上風力発電が必要になるだろうと考えて技術の開発が進められていたといいます。そして、今回一気に具体化することになったのです。しかし、暖流と寒流がぶつかる福島沖の波や潮の流れは特に激しく、技術者の手腕が問われました。

 たとえば、日立製作所が手がけた世界初の浮体式変電設備。揺れに弱い従来の変電設備を、揺れたり傾いたりしても大容量で電気が送れるよう技術を結集しました。さらに浮体式の洋上風力発電では、海中を走る送電線も潮流や波浪の影響を受けながら二つの浮体をつないで大容量の電気を送らなければなりません。この特殊なケーブルを開発したのが古河電気工業です。もちろん、どちらも世界で初めての挑戦でした。

 一部発電が開始された現在も、洋上変電所に併設された観測棟では洋上風力にかかわる技術開発や、海象・気象の観測データ収集などが進められています。"チームジャパン"の果敢なチャレンジはまだまだ続くのです。

目次へ移動 福島を風車にかかわるグリーン産業の拠点に

065-011.jpg 千葉県市川市にある三井造船のドックで組み立てられた後、東京湾を曳航して福島県沖へと向かう浮体式洋上風車「ふくしま未来」。2015 年度までに加わる2 基の風車はこの倍の大きさ。新宿の高層ビル並みの巨大な風車群がお目見えする日は近い( 写真提供 : 福島洋上風力コンソーシアム)

 現場で作業する人たちにも苦労があります。 「はじめは、洋上の波浪によるエネルギー量が予測していた以上に大きくて圧倒されました」と振り返る泉井さん。海象条件に左右されにくい風車や変電所などの浮体設備へのアクセス方法も今後の課題だそうです。陸上では容易い作業も海上でとなると困難さが増します。

 「今回は浮体式の中でもセミサブ方式と呼ばれる方式を使っています。これだと浮体の喫水を短くできるため水深の浅い港への曳航が可能になる。つまり、洋上ではなく、福島の港で風車の建設や保守点検ができるということです」と福田さん。

 福島に在住し事業に取り組む泉井さんにも思い描いている未来図があります。

 「風車に搭載する発電機などの電気機器産業やタワーなどを製作するための鉄鋼加工産業、ブレード(羽根)やナセルなどの製作、できあがった風車製品の検査機関など、風車にかかわる産業はすそ野が広い。いつか福島を風車産業の拠点にしたい。それに、風力で得た電気を売買するだけでなく、その海域の浄化に用いたり、浮体設備を魚貝類の養殖に利用したり、と新たな漁業の形を模索したい。これからも漁業関係者との共存を図っていきたいですね」

 この事業は海の資源開発だと思っている、と福田さん。海底に埋蔵された化石燃料と異なり、洋上の風は無限の資源です。

 「この実証研究事業が順調に進んでいけば、洋上風力に関する技術が日本の中で定着していくことになるでしょう。10年後、20年後、再生可能エネルギーの普及には欠かせない蓄電技術が進んできたら、エネルギー資源を輸入に頼らなくてすむ日がくるかもしれない。理論的には洋上風力発電だけで日本の全消費電力をカバーできるとされていますからね。産業としての潜在的市場の広がりは大きいと思います」

065-008.jpg 世界初となる浮体式の変電所「ふくしま絆」。浮体の底からの高さは111m

065-009.jpg 2MWの出力の風力発電機「ふくしま未来」。台風などの暴風を受けても流されないよう、各浮体は長さ830m、重量330t のチェーン6 本で海底のアンカーにしっかり繋がれている

目次へ移動 藤野電力 〜コミュニティの力

目次へ移動 選択肢のある暮らしを求めて

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 薄暮の校庭に設けられたステージにライトが点り、年に一度の「ひかり祭り」が始まりました。このアートフェスティバルで使う電力は、すべて自前の再生可能エネルギー。それを一手に引き受けているのが「藤野電力」です。「藤野電力」という名を見ると、東京電力、関西電力などの電力会社の一つのように思えますが、電気を売る会社ではありません。藤野電力は、自分の使う電力を自分の手で作りたいと考える人や地域社会を後押ししているグループなのです。

 立ち上げのきっかけは、2011年の東日本大震災による停電と原発事故。大規模発電に完全に依存する社会のもろさを肌身に感じた、神奈川県藤野地域の市民グループから藤野電力が生まれました。

 豊かな里山が広がる藤野は、太平洋戦争の際に画家の藤田嗣治らが疎開するなど、昔から芸術家の集まる土地として知られ、「森と湖と芸術の町」と呼ばれています。2005年にイギリスで始まったトランジションタウン活動(石油に依存する社会を少しずつ変えていこうという草の根運動)の、日本における草分けの地でもあり、「トランジション藤野」という市民グループが、地域通貨や食の地産地消など様々な分野からトランジションを実現しようと活動しています。藤野電力はこの中から、電力を考える1グループとして立ち上がったのです。

 藤野電力の代表を務める小田嶋電哲さんは、3.11の大規模停電とそれに続く計画停電が契機となった、と話してくれました。

 「直接的に生命に危機が及ぶわけじゃないのに、『電気が使えない』ということになんともいえない不安を感じたんです。電気が届かないことに、物理的にも精神的にもこれほど影響を受けるものなのか......と驚きました」

 しかし、藤野で一軒だけ、停電にも関わらず営業を続けている整体院がありました。そこでは震災が起きる前から、太陽光パネルを使って発電をしていたのです。 「その整体院に点る明かりが、僕たちにはすごく心強く感じられたんですよね」

 大規模発電の会社からの電力供給が止まっても最低限の電力ぐらいは自給できる。そんなことはまず無理だと思っていたけれど、身近なところに、すでにやっている人がいたのでした。

 さらに、原発事故が起きて、原子力に頼る社会にも疑問が高まり始めます。しかし現状では個人個人は使う電力を選ぶことができません。もし、電力を自給できれば、この二つが解決できます。

 「大規模電力網から自分たちの地域を切り離して完全に独立しようということではなくて、いざというときに選択肢のある生活ができるといいな、というつもりでやっています」

 そうしたスタンスは、電力であれ、地域通貨であれ、食であれ、変わりません。「もし、全国的な大規模流通が止まっても、必要最低限の生活は地域や家庭で維持できる。でも、それだけで生きていくぞ! というのではなくて、たまには外食や贅沢を楽しむのもいい」

 トランジション藤野や藤野電力の活動が長続きし、多くの人の共感を得てきた背景には、ストイックになりすぎない、我慢を強いない、こうした姿勢があるのかもしれません。

065-014.jpg 太陽光パネルの掃除をして祭りに備える小田嶋電哲さん

065-012.jpg 藤野電力が拠点とする旧牧郷小学校で行われるアートフェスティバル「ひかり祭り」は2013 年で10 回目を数える。地元の人も、地元でない人も、海外から来る人も入りまじり、参加者は例年7000 人を超える

065-015.jpg 祭りで使われる電力はすべて藤野電力が、太陽光発電と天ぷら油の廃油によるバイオディーゼル発電で作ったもの

目次へ移動 「電気は自分で作れる」ことを実感するワークショップ

 多岐にわたる藤野電力の活動の中で、最もよく知られているものの一つが「ミニ太陽光発電システム作りワークショップ」。参加者が自分の手で、50Wの太陽光発電システムを作る講座です。

 特別な知識も技術も必要なし。参加者はみな、初めて手にする工具を使って、パネルやバッテリー、インバーターなどを次々につないでいきます。

 小田嶋さんは、つなぎ方だけでなく、ワット(電力)とは何か、ワットアワー(電力量)とは何か、直流・交流とは、といった基本的なことも丁寧に教え、そうした知識がどのような時に必要になるのかもきっちり伝えています。

 「基本がわかっていれば、システムを家に持ち帰った後にも、様々な状況に対応できます。設置や運用の状況は家ごとに違いますし、その時に何でも聞ける相手はそばにいませんから」

065-016.jpg ワークショップで使われる太陽光発電パネルやバッテリーなど

 数時間をかけてシステムが完成。各人のパネルが早くも発電を始めました。大きな電力会社に任せるしかないと思っていた「発電」が自分の手でもできることを実感する瞬間です。

 一回のワークショップの参加者は15 ~ 20人。2011年の12月から始めて、開催回数はすでに120回を超えています。つまり、1000人以上が自力で太陽光発電システムを組んだということ。ワークショップ開催の依頼はいま、全国各地から続々と寄せられています。

 世の中の多くの人が、おそらく小田嶋さんと同じように、震災や原発事故を機に電力について考え、大規模電力網や石油・原子力に頼らないエネルギーを得るために何かしらの一歩を踏み出したい、と考えている。藤野電力のワークショップは、その「一歩」を提供しているのでしょう。

065-017.jpg この日は東京都羽村市消費生活センターでのワークショップ。年代も性別もバックグラウンドも様々に異なる参加者が集まるが、小田嶋さんの指導を受けながら、一人も失敗することなく、順調にシステムが組み上がっていく

 楽しみながら二歩目を踏み出す人も現れています。たとえば、持ち帰ったパネルをカートに乗せて、いつでも日の当たる場所へ移動できるようにした人。その人とパネルが映った写真を見ると、パネルがまるでペットのよう。パネルへの愛着がにじみ出ています。

 小田嶋さんは続けます。「それに、自分が作れるエネルギーの中でどう暮らすか、ということを積極的に考えるようになりますね。単なる省エネじゃなくて、自分が作れる電力の範囲で暮らすにはどうしたらいいかな、と楽しく工夫できるようになるんです。実際、藤野電力の事務所は、この太陽光パネルで作った電力だけで運営しています。我慢じゃなくて、工夫を楽しむ。そういう楽しさを多くの人とシェアしたいと思っています」

 

 藤野電力が事務所を構えるのは、2003年に廃校となった藤野の旧牧郷(まきさと)小学校。この小学校をアーティストたちのアトリエとして使うプロジェクト「牧郷ラボ」が立ち上がり、地域の人にアーティストの活動を知ってもらうイベントを開催したことから、冒頭の「ひかり祭り」が生まれました。

 小田嶋さんが藤野に移り住んだのも、2004年の第1回ひかり祭りのチラシを見かけて、参加したことからだったそう。

 とっぷりと日も暮れ、今年のひかり祭りがいよいよ佳境を迎えようとしています。数千人の観客を魅了する、光と音を融合させたアートフェス。ここで使われる自給自足・地産地消の電力は、自然エネルギーに加えて、「コミュニティの力」という再生可能エネルギーがその源となっていました。

065-018.jpg 参加者の一人は「このパネルで作った電気を、家で何に使うかこれから考えます」と言ってパネルを持ち帰った。こうして、参加者それぞれが「自分で発電」の一歩目を踏み出す



参考サイト:
GREEN POWERプロジェクト(http://greenpowerproject.jp
福島洋上風力コンソーシアム(http://www.fukushima-forward.jp
藤野電力(http://fujinodenryoku.jimdo.com



村上敬亮 プロフィール
1968 年東京都生まれ。90 年通商産業省(当時)入省。2011 年9 月から、経済産業省資源エネルギー庁新エネルギー対策課長として、日本の再生可能エネルギー政策を担当している。12 年夏にスタートした固定価格買取制度(FIT)の導入に尽力する一方、各地の再エネ事業にアドバイザーとして関わるなど、日本における再エネ普及のために奮闘する日々が続いている。


取材・執筆:勝木美穂(インタビュー/福島) 江口絵理(藤野電力)
写真:永禮 賢(福島) 有高唯之(北海道/藤野電力)
協力:経済産業省 資源エネルギー庁 新エネルギー対策課
編集:上田壮一(Think the Earth)

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