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地球リポート

from 京都、東京 vol. 09 2003.01.08 都市の中のヒューマンスピード デザインが未来にできること

ドイツ生まれの自転車タクシーが話題を集めています。この自転車タクシーが初めて東京で走ったのは、2002年10月に行われたデザインイベントでのこと。排ガスを出さず、環境にも配慮したこのタクシーの東京進出を仕掛けたのは20代の若者、インテリアショップのオーナーとNPO代表でした。注目すべきは、それが単なるオルタナティブな交通機関の提案に留まらず、水を媒介とした“新しい社会のデザイン”にまで踏み込んでいたことです。 今回は、彼らがなぜ今、このような試みを行ったのか、どんな未来を描こうとしているのかについてお話を伺いました。

目次へ移動 シティクルーザー「VELOTAXI(ベロタクシー)」

「CO2を排出しない交通手段」として支持され、ドイツの首都ベルリンで7年前から走行しているVELOTAXI(ベロタクシー)。ドイツ連邦大統領の協賛とベルリン市の協力のもと、現在80台が市民と観光客の足として活躍中で、既に欧州11カ国・20都市でも運行されています。そのVELOTAXIを日本に初めて導入したのが、京都に本拠地を構えるNPO法人「環境共生都市推進協会」。今年5月から京都で運行を開始し、10月から東京に進出。数多くのメディアでも紹介され、注目を集めています。

(左)NPO法人「環境共生都市推進協会」代表の森田記行さん (右)同事務局長の細尾友子さん

目次へ移動 ベルリンから京都へ

森田さんがVELOTAXIに出会ったのは2000年。VELOTAXIのシティクルーザーがドイツ・ハノーバー万博で使われたという情報を得たのが始まりでした。

森田「ひと目見た瞬間に、日本で走らせたい。走らせる。と思いました。まず魅かれたのはあの"形"ですね。ドイツの人の自然に対する考え方があの形に凝縮されているのかなと。環境に対する意識の持ち方っていうのが、こういうものをつくり出している。そこがすごくいいなと思いました」
細尾「フォルム自体もかっこいいですし、調べてみると、ベルリンの市民に愛されている乗り物だということが分かり、これを持ってくることで皆の役にも立てるし、自分たちも労働の対価としてお給料をもらうだけじゃない充実感が得られると感じました」

専門家からアドバイスをもらうなどしながら、準備すること2年。「走らせる!」という堅い決意を持ち続けながらも、導入例のない自転車タクシーを京都府の公安委員会に許可してもらうのは簡単ではありませんでした。
森田「こんなん、絶対無理やって言われて(笑)」
細尾「それでも森田が、何度も足を運んで・・・」
結果的に、中京区の御池、烏丸、四条、寺町の各通に囲まれた約800メートル四方の一定区域で許可が下り、営業走行開始時の出発セレモニーには、京都市長も参加。真っ赤にマッピング*(*3次元モデルキャストに2次元データであるテクスチャを貼り付けること)されたVELOTAXIが街を彩りました。

(左)ドイツ・ベルリンでは年間20万人以上がベロタクシーを利用。車体はリサイクル可能なポリエチレンで出来ています。(中央)存在感のある車体のデザインは、ドイツのデザイン会社「gewerk」によるもの。(右)今年5月17日、京都での初走時の写真。この初走行から約3ヶ月で乗車人数1万人を達成。

目次へ移動 「議定書採択の地」としての京都

京都生まれ京都育ちの森田さんにとって、京都でのスタートはごく自然な流れだったと言いますが、ドイツVELOTAXI社は、欧州以外での初導入地が京都であることに強い意義を感じていました。

細尾「CO2を排出しない乗り物が"京都議定書採択の地"に導入されることが象徴的だし、私たちの環境保全活動も応援したいと、VELOTAXI社が言ってくれました。京都の神社仏閣は中に入ると非常にきれいで、私たちも誇りに思うのですが、中心地は慢性的な渋滞もおこっているし、決してきれいではない。あそこをきれいにしないと、京都議定書採択の地だと誇れないと思うんですね。京都府も環境共生都市というフレーズを使っていますし、京都市も車を中心部から遠ざけ、"自転車や歩行者が安心して通れる、もっと人の賑わいのある街づくり"をしようじゃないかという方針をとっているんです。本当にそれを実現していこうとすると、クリアしなければならない問題が様々あるのですが、自治体も市民も、方向づけはそっちに傾いてきています」

地球温暖化対策・CO2削減要項として、車の排ガス減少を促して行くとは言え、10あるものが、突然ゼロにはならない。暮らしの質や利便性を否定せず、ポジティブに現状を好転させていくこと。そのひとつの策として、VELOTAXIを提案できることは大きな鍵となるでしょう。何より、京都で暮らす人々がその意義を感じ、前進しようとしていることに価値があると思えます。

[ 補足メモ ]
京都府は、2000年3月に二酸化炭素などの温室効果ガス排出量について、全国トップレベルの削減目標を設定。「ISO14001」の認証を受け、地方自治体としては日本最大級となる風力発電の早期実現などをうたっています。また、関西文化学術研究都市にある「地球環境産業技術研究機構(RITE)」で公園整備、下水処理における有機処理やリサイクルなどの実験事業に取り組むなど、「環境共生都市」のモデル事業を推進しようとしています。

京都府ホームページ 環境 府政情報
http://www.pref.kyoto.jp/103.html
京都市情報館
http://www.city.kyoto.lg.jp/

目次へ移動 都市に住む人の意識を変える、ツールとしてのVELOTAXI

東京でのデビューは、2002年10月10日から開催されたデザイン・イベント「 東京デザイナーズブロック (以下TDB)」での、インテリアショップ「シボネ」とのコラボレーションでした。9名のクリエイターが描いたプリントをマッピングして、5日間、TDB青山エリアを運行。道行く人々の温かい反応は森田さんが予想していた以上のものだったと言います。

森田「東京で試運転したときの、街の人の笑顔が一番嬉しかったですね。イキのいい若者がバイクで横につけてきて、"かっこいいっすね"って言っていくとか(笑)」
細尾「TDBでシボネが上げていたテーマが"未来のためにデザインができること"でした。環境問題にデザインからできることがあるはずだ、と提案されて、やらせていただきたいし、やるべきだと思いました」 森田「そこで得たものは大きかった」

ベロタクシーが何台走っても、車の台数が減らない限り、排ガス量が減るわけではありません。VELOTAXIは、乗った人はもちろんのこと、街で目にした人に"環境のことを考えるきっかけ"を生み出すもの。それは同時に、個々の心の中に未来のことを考える時間をつくること。かっこいい!楽しそうだ、乗ろう!その入り口のつくり方と伝え方がデザインであり、TDBで得たものの多くは、その伝え方や考え方だったと森田さんは言います。 また、VELOTAXIで推進していこうとしている「環境共生都市」についてはこう答えてくれました。

森田「まず一番は、そこに住んでいる"人"の意識が変わることですよね。住んでいる人たちがその街をつくっていく。環境に対して高い意識を持っている人たちが、環境共生都市をつくっていく。だからまず、都市を変えるのではなく、都市をつくる人の意識から変えていきたいと思っています」

(左)21段変速で、最高で時速25kmのスピードが出る。風を感じながらベロタクシーのスピードに身をまかせていると、都市と一体になったような気持になる。 (右)10月10日から行なわれたTDBでの走行風景。この5日間を経て、10月15日から東京(表参道・南青山エリア)での本格的な運行を開始。現在も同エリアで運行中。

[ VELOTAXI 概要 ]
http://www.velotaxi.jp/
料金:初乗り大人300円、子供200円。地図上の直線計測距離500メートルが基本料金で、500メートルを超える場合は100メートル毎に大人50円、小人30円が加算される。料金はひとり当たりで、1回の輸送は2キロまで。乗車方法は通常のタクシーと同様。空車があれば手を上げて止めてください。

営業時間:午前11時から日没まで。

京都連絡先:京都市中京区烏丸姉小路下ル場之町586-2
      新風館1F PinkTower
      電話・075-241-7645

東京連絡先:東京都港区南青山1-12-31
      NTT都市開発株式会社B棟1階
      電話・03-5772-8114

NPO法人「環境共生都市推進協会」
京都市中京区烏丸姉小路下ル場之町586-2
新風館1F PinkTower
電話:075-241-7645

目次へ移動 DESIGN=FUTURE インテリアショップ「シボネ」の試み

人にとって最もナチュラルなエネルギーのひとつである"水"を確保した"ウォーターステーション"が街中に点在し、都会生活のマストアイテムとなった水筒に給水。"ウォーターステーション"は都心の足として定着したクールな自転車タクシーの中継ポイントでもあり、ドライバーもここで、人力エネルギーの"水"を補給。

今年10月に開催されたデザイン・イベント「東京デザイナーズブロック(以下TDB)」で「シボネ」は、そんな"ちょっと先"の未来都市空間そのものを9名のクリエイターと共に東京・青山で実際に提案し、21世紀型ライフスタイルのワンシーンを切り取って見せてくれました。

シボネ」主宰(株) ジョージズファニチユア代表取締役 横川正紀さん

近未来都市生活空間 ――未来のためにデザインができること――

水を媒介とした近未来都市のライフスタイルを表現するために、シボネが青山に描いた企画プラン。拠点となったシボネ青山店・店内には、球型のロボットも展示されました。

TDBの期間中、3ヶ所に設置されたウォーターステーション。デザインは「シボネ」全3店の内装・設計を手掛ける形見一郎氏。

参加クリエイターはVELOTAXIと水筒とTシャツをワンセットでデザイン。
クリストフ・ピエ、カリム・ラシッド、形見一郎、有田昌史、富田一彦、タイクーングラフィクス、ドイヒロアキ、樋口浩平、山本宇一。

目次へ移動 水筒はナチュラルで貴重なエネルギー"水"の象徴

「デザインが未来のために何ができるだろうっていうテーマは、TDBの根底にあるものでもあって、まずスタッフ全員に、そのことをどう考えているかを投げかけました。その時にスタッフの女の子が水筒をテーマに上げてきて、デザインが環境を救えるんだ、という話になったんです。環境のことをだんだん皆が話すようになってきて、それはやっぱり、未来のことなんじゃないか。デザインが未来を救うという切り口を追及していこう、ということになりました」

日本における2001年度のペットボトル生産量は403,000トン。使用後の回収量は162,000トンで、残り241,000トンは廃棄されています。これは前年に比べ1.7%の増加。
とは言え、ペットボトルの代りとして持ち歩きたいと思うようなデザインの水筒がない。持ち歩きたいと思えなければ、いくらそれが"正しいこと"でも広がらない。持ち歩く面倒くささに負けてしまう。

「面倒くさいなんて言ったらダメだよって言ったって、面倒なものは面倒。
それを乗り越えさせるのは、躾とかそういう問題じゃない。だからデザインが存在するのだと思っています。

「シボネ」がイメージする水筒探しの結果、選んだのはスイス・シグ社のサイクルボトル。

「水筒を持つ意味としては、もちろんペットボトルの削減があるのですが、象徴したかったのは、水というエネルギーが人間にとって、一番ナチュラルで、必要なエネルギーだということでした。僕らが近未来の都市空間に似合うと思って選んだVELOTAXIを運転するのは生身の人間で、ガソリンはいらないけれど、水はいる。いつか水がガソリンよりも高くなると言われているこの時代、ガソリンを大事に運ぶより、水を大事に運ぶべきだと思ったんです。貴重な水の象徴として水筒があり、それはもちろん、使い捨てであっていいわけがない。」

(右)期間中、9名のクリエイターによってペイントが施されたシグ社のサイクルボトル(自転車にセットできるようにデザインされたボトル)を限定数販売。軽くてシンプルなシグ社のサイクルボトルは、その機能美によってニューヨーク近代美術館(MoMA)のデザインコレクションにも選ばれている。 (左)シボネ店内やステーションに置かれた"ウォータータンク"は カナディアン スプリングス ウォータジャパン から提供された「プレミアム・ウォーター」。

目次へ移動 ひとの五感に世界を伝え返す、自転車のヒューマンスピード

「VELOTAXIが素晴らしいと思うことのひとつに、スピードがあります。テクノロジーが発達し、物事のスピードが早くなればなるほど人は幸せになるのではなく、ある一定の早さやある一定の利便性が人を幸せにするんだ。早さは必要だけれども、ある一定以上はいらないんじゃないか。ある一定以上行くと、人間性を失っていってしまうのではないか。そのある一定の早さって言うのが、VELOTAXIで風を感じて走る、あのスピードだと思うんです」
「街をなんとなく見ることができて、今日の気温、湿度なんかが分かる。そうしているうちに、きっと明日の天気もなんとなく予測できるようになると思うんですよ。雨、ふりそうだなぁとか」

人力の適度なスピードが、人の五感に世界を伝え返す。確かに、そのことこそが、都市におけるVELOTAXIの最も重要な要素かもしれません。人は理屈ではなく、感性の部分でしか、最終的に何かを信じることはないのでしょう。

「アトラクションに参加するのと同じ気持で乗っているうちに、エネルギー削減になっていて、排ガス削減で環境保全になっている。また、人がペダルをこいで走るということには、人間が必死に生きる素晴らしさみたいなものがあって、そういうことに、ただ"かっこいい"というデザインをきっかけに入れることを、VELOは証明していると思います」

実際に乗ってみたシボネのスタッフが「乗ってみると街の音が新鮮に聞こえ、停止時は歩行者との会話がごく自然に生まれた」と話してくれたのが印象的でした。

目次へ移動 デザインはひとを幸せにする

横川さんはデザイナーとの対話の中で「デザインに限界はない」という言葉に出会い、強く心に残ったと言います。

「いわゆるマスプロダクション、必要とされて育ってきた工業があり、テクノロジーが人を幸せにするんだという時代があって、どんどん技術が進歩し、機械が高性能になり小型になっていった。僕らはそれが幸せだと信じて育った。でも21世紀になって、これ以上技術が進んでも人が幸せになるとは思えないな、楽ではあるけれど、幸せではないなと思った。テクノロジーは必要なんだけれど、限界がある。そしてテクノロジーだけでは幸せになれない。人に愛がある以上、モノづくりの中にはデザインが必要で、そのデザインというものは、形はないけれども、限界はなく、ひとを幸せにすることができる。だから、21世紀はデザインの時代だし、未来を救うのはデザインなんだ、と、つくづく思いました。その思いのもと、自分達の提案を現実化していく。絵空事ではなく、僕らは真剣にそれを考えている」

「例えば、VELOの車体を病院や学校、大きな会社の工場などに販売できるようにしたい。スピードの違いを多少つけてあげれば、デリバリーサービスもできるかもしれない。3年後には東京で100台走らせたいと本気で考えています」

「青山近辺の左側の車線を自転車専用車線にして、VELOだけではなく、さまざまなスタイルの自転車や電気がついたキックボードが走っていたりする。駅前には充電器があって、いつでも充電できる。そういう街が実現して始めて国際都市と呼べるんじゃないかとも思うんです」

目次へ移動 人に笑ってもらうことがビジネスにつながっていく時代

未来を描き、多くの人と対話し、形にしていく。そのパワーはどこから来るのでしょうか。

「単純に、良いことはすごく自慢がしたくて、一緒に笑いたいんですよね。こんなにいい自転車あるの知ってる?って教えたくて、すごいねーって驚いたり喜んだりしてもらいたい。そのために何かをすることを、僕は決してかっこ悪いとは思わない。自分の力を駆使して、それで人が笑ってくれたら、初めて自分が幸せになれる。デザインで言えば、何が売れるのかではなく、何が表現したいのかが先にある。売れること・儲けることを優先する人は、最後にどうやっても人を笑わせることができないと思う。笑ってもらうことが結果的にビジネスになる。そういう時代になってきていると思うんです。今までのセオリーから見れば、それじゃ売れない、効率が悪いとされることが沢山あるのでしょうが、僕らはそんなことよりも、やらなきゃいけないことは別のことなんじゃないの?ってことを、日々表現しているんです」

ソーシャルデザインという言葉があります。単なる形としてのデザインではなく、自分たちがどのような未来の社会を生きるのか。そのことを見据えて、社会全体をデザインして行こうという考えです。今回インタビューした方々は、こうした考えを感覚的に身につけ、ごく自然に実践しているように感じました。
彼らが語る言葉は、未来へのビジョンに満ちており、同じ時代を生きるものとして、わくわくし、勇気づけられる取材となりました。

シボネ青山店の店内

[ シボネ青山 概要 ]
http://www.cibone.com/
住所: 港区北青山2-14-6青山ベルコモンズB1
電話: 03-3475-8017
営業時間: 午前11時から午後9時
※他に国立店、自由ケ丘店がある。

取材・写真: Think the Earthプロジェクト 岡野 民

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