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地球リポート

from 横浜/福岡 vol. 11 2003.07.30 みんながHappyになる暮らし方を求めて ~カーシェアリング~

「シェアリング」という言葉が注目されています。一緒に部屋を借りるルームシェアリングというのは、若い人たちを中心に家賃や光熱費の負担を軽減しようという節約型の住まい方。ワークシェアリングといえば、一人当たりの給料と労働時間を調整して、雇用を維持しようという働き方。いずれにしてもシェアリング、つまり部屋や仕事を分け合うことで、無駄を抑え必要な部分にだけ効率よくお金を使うという方式です。では同じような言葉で、「カーシェアリング」という言葉を聞いたことがありますか?福岡と横浜で始まっている、新たな取り組みを取材してきました。

目次へ移動 スイス:公共交通の利用を促進する自動車

カーシェアリング、つまり「会員制の組織で車を共有すること」は、そんなに新しい発想ではありません。単価の高い乗用車を何名かで共有するということは昔から行われていますし、例えば私たちの周りでも会社には社有車という形での共有システムがあります。ある統計によれば、都市部で自家用車が実際に動いている時間は一日平均1時間未満。ほとんどの人が車庫においているだけで、もったいないとは思いませんか? そこで「シェアリング」という発想が産まれてきます。
カーシェアリングが始まったのは、1987年のスイス。車は利用したいが、利用回数が少ないので個人で買うつもりはないという人達、約30名が共同出資で2台の車を買ったのが始まりと言われています。その後、スイス全土に拡がった協同組合形式の組織は、1997年に「モビリティ・カーシェアリング・スイス社(Mobility CarSharing Switzerland)」という会社に統一されます。

188Mobility社の車でシェアリング

現在は、「ステーション」と呼ばれ、実際に車が置かれて貸し出しや返却を行う拠点が、スイス全土の駅前や居住地を中心に980箇所あり、54,000人の会員がシェアリングを利用しています。

スイス全土に広がるステーション

スイスでは興味深い統計があります(グラフ)。

カーシェアリングに加入してマイカーを処分した人は、この前後で車の利用が年間6,700km減ります。そして、公共交通や自転車などの移動手段が4,000km増えるのです。つまりシェアリングにより、バスや鉄道の利用が促進されるのです。スイスでシェアリングが拡がっていった理由の一つには、この国で公共交通が広く発達しているということが挙げられます。連邦鉄道を中心とした鉄道路線が全国に網の目のように張り巡らされ、都市部では路面電車やバスなどの都市交通が市民の足として発達しています。

188チューリッヒを走る市電

モビリティ社では全国での普及拡大に当たり、これら公共交通機関との連携をうまく活用していきました。例えば、モビリティ社とスイス連邦鉄道が2001年に始めたレイルリンク(Rail Link)サービスでは、国内50箇所以上の駅に駐車場を設け、鉄道利用者のシェアリングに便宜を提供しています。

(左、中央左)Rail Link社の車はエコカーSmart (ダイムラーベンツ)、(中央右)市電のそばのステーション(右)ICカード

また、チューリッヒ交通局では、路面電車の定期券とカーシェアリングの会員券が一枚のICカードになっていて、利用者であれば割安にシェアリングが利用できるのです。いわば、シェアリングという仕組みを通して、個人利用の自動車が公共交通の一部になると言っても良いのかもしれません。

目次へ移動 福岡:NPOが取り組むビジネスが地域を変える

目次へ移動 NPOからはじまったカーシェアリング

一方、日本での取り組みはまだまだ始まったばかりです。福岡の市民団体「西日本リサイクル運動市民の会」が、カーシェアリングに関心を持って勉強会をはじめたのが2001年3月。福岡市と九州電力を交えて「環境対策として有効か?」「事業性はどうか?」といった検討を行い、次の年に電気自動車30台の援助を受けて、正式にビジネスとして取り組むことが決まり準備をはじめました。

ここで注目すべきことは、会社ではなくNPO法人を設立したことです。もちろん、産みの親が市民団体だからという事もあるのでしょうが、自然とヨーロッパでの協同組合形態に近い組織が選ばれています。ここでは、カーシェアリングをはじめることが、すなわちNPOの会員になるという事につながります。会員になることで、環境問題や自動車利用に関する学習会の案内が来たり、情報交換のメーリングリストにも参加する仕組みになっています。

法人を設立しシステムを立ち上げて、本格的に稼動し始めたのは、2003年の4月。日本ではじめての、市民の手によるカーシェアリングビジネスがスタートしました。車の種類は1人乗りの電気自動車*から8人乗りのトヨタエスティマ*まで、環境に配慮して電気自動車かハイブリッド車ばかり6種類です。個人会員の会費は年間1万円。この他に、例えばトヨタプリウス(5人乗り)なら、1時間600円の利用料金がかかります。とはいえ、1500ccクラスの車を所有すると、ローンに駐車場代、保険料なども加えた維持費は、ガソリン代を除いても月平均約5万円。月30時間、1日1時間程度の利用なら、シェアリングは半額以下の2万円で済むのです

(左)1人乗りの電気自動車*(右)8人乗りのトヨタエスティマ*

目次へ移動 地域の特徴を活かした戦略

こうして発足したNPO法人カーシェアリングネットワークの規模は、ステーション4箇所、車が約20台で会員が130名。ターゲットは住宅地とビジネス街と交通ターミナル。一ヶ所目のステーションは、住宅街にまちづくり団体と連携して立ち上げました。

住宅街のステーション

「営業が大変だという事が分かっていたので、ある程度の会員を確保できる拠点で立ち上げました。」と語るのは代表の小池さんです。
「ところが、環境ビジネスに出資したい、電気自動車を使ってみたいというだけの人は、利用率は決して高くありません。やはり実際に利用料金で回していかないと、健全なビジネスになりません。会員からの要望もあって、休日、家族での温泉旅行にも使えるようにトヨタエスティマを配車したのですが、何故かあまり利用されないのです。一泊二日で15,000円と、レンタカーと比べても十分お得なんですがねぇ。そういう意味では、全てのことに前例がなく試行錯誤の連続です。」
二ヶ所めのステーションはJRの駅、三ヶ所めが事業所も多い住宅街、四ヶ所めは中心街寄りのビジネス街に配しました。今後のステーションの増設は、福岡の中心部との境界にあたる駅を予定しています。「渋滞しやすい市の中心部は鉄道などの公共交通を利用して、郊外を移動するためにカーシェアリングを使う、いわゆるパークアンドライド(Park & Ride)方式を想定しています。移動時間も早くなりますし、利便性も損なわれません。」

駅前のステーション

福岡のような地方都市でシェアリングを進めていくためには、ポイントとなるいくつかのターミナルに車を置くパーク&ライド方式と、コンビニのように半径500m以内、使いたいときにいつでも車がある方式のバランスが大事です。福岡でうまくいけば、全国の中堅地方都市ならどこでもそのノウハウが活用できます。だから、何としても成功させたいのです。」

目次へ移動 数十年の長さでまちづくりを考える

現状の課題は、会員数を増やすことだそうです。「現在は、九州電力と福岡市が車を提供してくれているので、少し余裕を持ってビジネスが進められる、もう少し言えば良い実験が出来ている状況です。シェアリングが事業として成立するためにも、温暖化防止対策として働くためにも、もう少し利用率を上げて適正にすることが必要です。利用が少ないと固定費が回収できない。かといって多すぎると使用が立て込んで使いたいときに使えない。だからこそ、適正な数の車を交通のターミナルに置くとか、住宅街などであれば密に配して、バランス良く利用率を上げていかないといけないんです。今の一人当たりの利用頻度を見ると、3倍の会員がいないと事業としての採算はとれません。」

当面は、試乗会などを繰り返し、カーシェアリングについて知ってもらう営業活動を進めていく予定です。「新聞やローカルTVでは随分取り上げられているので、言葉自体は知られてきてはいると思います。でも、いざ車を手放してシェアリングにするとなると不安がある。使いたいときに使えるだろうか、貸される車が汚れていたりしないかと。スイスでも普及するのに3年はかかったそうなので、私たちも3年間続けることが大事だと考えています。システムが安定して、近くにステーションがあって、比較的便利。予約が取れないときはタクシーで、遠いときはレンタカーでいいじゃぁないか。そちらの方が経済的。そうなると、次の車検の際に車を手放そうという人が出てくると思っています。」

「西日本リサイクル運動市民の会」の代表でもある小池さんにとっては、カーシェアリングは風力発電などと一緒で、環境問題に取り組むツールなのだそうです。「今のような車中心のまちづくりのあり方は問題だと思っているのですが、だからといって変えろと叫んでもしょうがない。到達点を『車を使わなくても良いまちづくり』におく。もちろん30年、40年かかるでしょう。そこまで行く途中でカーシェアリングを事業として使いこなしていく、ということだと思います。

福岡でのカーシェアリング事業を、NPOが企業や行政と組んで地域を変えていく成功事例にする。そうなれば、仙台や札幌や広島や全国に拡がっていき、温暖化の解消にも貢献するでしょう。そうしたムーブメントを起こすきっかけにしたいですね。」

目次へ移動 横浜:ITを活かしたコミュニティビジネスを全国へ

目次へ移動 ICカードで手続き簡単、電気自動車でガソリンいらず

「『日本で最初』がたくさんある横浜が、カーシェアリングの発祥の地でもあるんです。」と語るのは、シーイーブイシェアリング株式会社の高山さんです。シーイーブイは、1999年から始まったカーシェアリングに関する国の実証実験を引き継ぐ形で、設立された会社です。2002年4月からビジネスに取り組み、現在8ヶ所のステーションで24台の電気自動車を約400名の会員が利用しています。

実際に横浜の管理センターを訪問して、カーシェアリングを体験してみることにしました。

シェアリングを使う手順は、いたって簡単です。というのも、入会の際に免許証の確認や支払いの手続きを 済ませてICカードが発行されているからです。まず、インターネットか携帯電話(iモード)で、使用するステーション、車種を指定して、車の貸し出し状況を画面上で確認*(写真左上)しながら予約を入れます。もちろん、管理センターに電話を入れて予約することもできます。予約時間は15分刻みで、利用者がいなければ、直前の予約も延長も可能です。予約をしたらステーションに行き、ICカードを車の読みとり機にかざす*(写真右上)と、ロックが外れます。自動車に差し込んである充電器を抜いて*(写真左下)、車に乗り込みグローブボックスからキーを取り出せば*(写真右下)、それで出発です。返却時も予約した時間までにステーションに返却し、キーを戻してICカードでロック、充電器を差し込めば終わりです。

(左上)車の貸し出し状況を 画面上で確認*(右上)ICカードを車の読みとり機にかざす*(左下)自動車に差し込んである充電器を抜く*(右下)キーを取り出す*

会員番号の入力も使用実績の管理も、全て車載機*がしてくれるので、レンタカーのイメージを持っていると拍子抜けするくらいお手軽で、自家用車と変わりなく使えます。少し気になるのは、電気自動車しかないということ。「実証実験の引継なので、二人乗りと四人乗りの電気自動車しかありません。本当は車両価格の安い軽自動車などの方が採算性も良いのですが、、、といっても速度は100kmでも出せるので高速にも乗れますし、往復70kmくらいまでの距離は充電なしで行って来られます。むしろ、ガソリン代がかからないことで喜ばれているくらいです。」

車載機

目次へ移動 新しいビジネスモデルの拡がり

高山さんたちが目指しているのは、横浜でのビジネスだけではありません。「東京でも大阪でも、或いは地方の中堅都市でも、どこかでカーシェアリングをはじめたいと思う方に、システムを提供していく予定です。もちろん、私たちが進出する方法もありますが、シェアリングというのは結局、コミュニティで運営していくものなんですね。それぞれの地域が、いいモラルをもって維持していくのが本筋かなと思っています。

シーイーブイが提案するシェアリングビジネスのイメージ

カーシェアリングをはじめるには、ステーションとなる駐車場の確保、まとまった数の会員、シェアリングする車の手配またはリース契約などが必要となります。ハードルは決して低くはありませんが、シェアリングをはじめたいという声は全国各地で上がりはじめています。小池さんや高山さんも入っているメーリングリストでは、どうすればわが町でもシェアリングをはじめられるかと、熱心な議論や情報交換が行われています。「日本ではヨーロッパのように、NPOだけでシェアリングをはじめるのは大変なんです。まだまだ、ベンチャーな取り組みにお金が回っていないんですね。ただ、車があってインターネットがつかえる管理センターがあれば、私たちのシステムを活用することで初期投資を抑えることができます。適度な利用頻度があれば十分に可能でしょう。例えば、企業が車を提供してくれたり責任能力が高い法人としてリース契約をした上で、事務所機能を持っているNPOなどが運用する、というモデルなどが考えられます。」

カーシェアリングが盛んになってきた背景には、環境意識の高まりだけでなく技術、特にITの進歩も関係しています。「GPSが搭載されているので、車の所在地を管理センターに居ながらにして知ることが出来ます。電池の充電状態やドアをロックしているかどうかなど細かい情報も、専用の車載機からNTTドコモの通信システムDopaを通じて送られてきて把握しています。あまり遠くに行き過ぎで帰ってこれなくなりそうな時などは、自動的に警告されますし、不法使用しようとしても監視しているのですぐに分かります。こうしたシステムがあることで、人手をかけずに運用できるようになってきた事は大きいですね。ICカードも、JR東日本のプリペイドカードSUICA(スイカ)と同じ方式のものを採用していますので、将来はスイスなどと同じように、1枚のカードで公共交通もシェアリングも使えるようにしていきたいと思っています。」

目次へ移動 百人に一人が変われば・・・

「渋滞というのは、交通量がほんの1~2%許容量をオーバーしたことをきっかけに始まるんです。実は進んでいると言われるスイスでも、シェアリングの利用者ってせいぜい1%の人たちだけなんですね。あくまで少数派です。でもその人たちが、シェアリングを使うことで、車の使用が1~2%減り、劇的に渋滞が解消できたりする。何かを犠牲にしなくても良いし、特別に環境意識が高くなくても良い。ほんの一握りの人が、お得だから、便利だからとカーシェアリングをはじめる。それだけでみんながハッピーになれるんです。

熱弁する高山さんの課題は、認知度を上げていくことです。「日本人は所有意識が強く、なかなか共有意識を持ちづらいのではないか、とよく言われます。特に、車は自分のお城で手放さないのではないかと。確かに、そういった面はありますが、実際には意外に逆の側面もあることが判ってきました。事故率も低いですし、みなさんとてもきれいに使うんですね。つまり、自分がまた使う可能性があれば自然と共有意識が育つようです。だから、まずは体験してみて欲しいですね。思ったよりお得で便利じゃないか、と思ってもらうことが大事。会員数は急激ではないのですが、確実に伸びています。」
ここで高山さんから提案をいただきました。「これまでは、ビジネスユースを中心に法人向けの営業が多かったので、夜間や土日の利用率が低いんです。今ならほとんどいつでも使えますよ。横浜でプライベートタイムを過ごす個人会員の方にオススメしたいですね。もちろんビジネス利用や法人の方も歓迎です。入っていただかなくても、一度試乗してみて下さい。電気自動車に一度乗ってみたいと言う人でも歓迎します。」

目次へ移動 おわりに

モノを所有するというライフスタイルから抜け出すことは難しいと思いがちですが、実は意外に簡単なのかもしれません。『そんな「物好き」な人が増えてくる。でも決して多数派になる必要はない。それでも世の中を変えるきっかけには充分なんだ。』 今回の取材したお二人から、そんなメッセージが響いてきました。私も何か私なりの物好きのネタを探してみようかな、などと思っています。

小寺 昭彦 略歴
ナチュラルステップのコンセプトに影響を受けて、13年勤めた化学会社を退職してフリーのジャーナリスト・コーディネーターへ。環境を中心とする社会問題に関心を持ち、スウェーデンなど海外や国内での企業・自治体の取材執筆のかたわら、講演会、ワークショップやエコツアーなどの企画、地域での実践活動にも取り組む。

取材・写真: フリージャーナリスト・コーディネーター  小寺 昭彦

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