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小さな町の大きな挑戦 ~徳島県上勝町の町づくり~|地球リポート|Think the Earth

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from 徳島 vol. 16 2004.05.31 小さな町の大きな挑戦 ~徳島県上勝町の町づくり~

徳島県の真ん中にある人口2,200人足らずの上勝町。この小さな町が、にわかに脚光を浴びています。その理由は二つ。一つはお年寄りが大活躍している第三セクター「いろどり」。そしてもう一つが、昨年9月に日本で初めて採択された「ごみゼロ宣言」です。即興的な町おこしに終わらない、アイデア溢れる町の取り組みに、住民が一丸となっているようです。小さな町の活力を探るため、全国から視察に訪れる人たちも今やひっきりなしだとか。「町づくりは人づくり」を合言葉に活動する、元気いっぱいの上勝町をレポートしました。

目次へ移動 山の上の小さな小さな町

徳島空港から南東に向かって、車に乗ることおよそ1時間。山間の道をぐんぐん登っていくと、自然の色合いがどんどん濃くなっていくのを感じます。たどり着いたのは四方を山に囲まれた、小さな町。徳島県の中央にある上勝町です。

町の周囲には雲早山(くもそうやま)、高丸山(たかまるやま)、旭ケ丸(あさひがまる)といった連山がそびえます。町の東の高丸山は、中腹に広がるブナの原生林で知られ、登山者が絶えません。 山々から流れる、旭川(あさひがわ)や勝浦川(かつうらがわ)は、遠目にも川底が見えるほどの清流。あちらこちらから響く様々な鳥の鳴き声を聞いていると、自然の中に吸い込まれてしまいそうな錯覚を覚えるほど、深い緑に囲まれています。 雄大な自然に抱かれたこの町の面積は109.68平方km。東京都世田谷区が58.08平方kmということですから、その約二倍もある広大な土地です。しかし人口は2200人足らず(世田谷区 80万2千人)。しかも44.4%が65歳以上の高齢者という、過疎・高齢化の町なのです。四国一小さな、お年寄りの町、それが上勝町です。

山にぐるりと囲まれた上勝町。四国で一番小さな町に、元気な町づくりの秘訣が詰まっている。山にぐるりと囲まれた上勝町。四国で一番小さな町に、元気な町づくりの秘訣が詰まっている。

目次へ移動 高齢化社会を支える取り組み『いろどり』

目次へ移動 町の主役をお年寄りにした第三セクター

これといった産業のない町にとって、山に囲まれた地形が農業を営むにもネックであったことは、想像に難くありません。
上勝町では、温暖な気候に適したみかんやすだちなどの柑橘類を、主な農作物としていました。しかし1981年の大寒波でみかんの生産に行き詰まってしまいます。大被害を受けた生産農家を救済するために、「みかんに代わる農作物を」とさまざまな農作物が考えられました。その中のひとつが、料亭などで使われる「つまもの」販売。それが『いろどり』です。

当時、農協の職員だった横石知二さん(現いろどり取締役)は、出張先で入ったすし屋でこのビジネスを思いついたそうです。

いろどりに参加するようになった人たちが、新たに道路沿いに出荷できるもみじや柿などを植えたため、町の景観もずいぶん美しくなったそう。いろどりに参加するようになった人たちが、新たに道路沿いに出荷できるもみじや柿などを植えたため、町の景観もずいぶん美しくなったそう。

「料理に添えられているつまものを持ち帰ろうとしている客を見て、これなら山にいくらでもあると、ひらめいたんです」と横石さん。山の中で、とりわけ女性ができる産業を、と考えていた矢先のこと。86年に葉っぱの試験的出荷が始まりました。 当初料理人の反応は薄かったそうです。横石さんは料亭に通ったり、料理人を招いたりして、つまものの役割や料理と葉の組み合わせを勉強します。それらの知識が収穫に反映されるようになると、『いろどり』の売り上げは順調に伸びていきました。今では、年間2億5千万円も売り上げる、上勝町を代表する生業になっています。

目次へ移動 高齢者が生きがいを見つけたことが、何よりの町の財産

「いろどり」を支えているのは179人の会員。中心は60~70代のお年寄りです。強力な戦力の一人、菖蒲増喜子さん(80歳)にお会いしました。

丁寧にパック詰めの作業をしながら話をしてくれた増喜子さんは、80歳とは思えないほど元気。背筋もピシッと伸びている丁寧にパック詰めの作業をしながら話をしてくれた増喜子さんは、80歳とは思えないほど元気。背筋もピシッと伸びている

増喜子さんの一日は、『いろどり』に始まり『いろどり』に終わるといったところ。日中は収穫作業やパック詰め。お昼の集配後も、翌日の出荷に備えます

収穫作業をする増喜子さん。会員は個々人がそれぞれの土地で収穫をする。つまり庭先の葉っぱが収入源になるのだ。収穫作業をする増喜子さん。会員は個々人がそれぞれの土地で収穫をする。つまり庭先の葉っぱが収入源になるのだ。

夕方になると、町の防災無線を活躍したファックスが、『いろどり』本社から届きます。 「このファックスが毎日楽しみでなぁ」と増喜子さんはニコニコ顔。そこには、その日一日の出荷高や、激励の言葉が書かれていました。
そして夜には『いろどり』が開発した、お年寄りにも簡単に操作できるソフトを駆使して、ホームページのチェックです。これが一日の終わりの日課。
「ここを見れば、横石さんが今日一日何しよったかわかるけん」と増喜子さん。会員に向けたページには、横石さんの日記が毎日更新されます。
パソコンに向かう目的はそればかりではありません。ホームページには翌日の出荷情報が事細かに指示されているのです。暗証コードを入力すれば、自分のその日の売上高、売り上げ順位も見られます。具体的な数字と、『いろどり』スタッフから毎日届く言葉。この二つが増喜子さんのやる気を倍増させるようです。
お正月には里帰りした娘さんと孫嫁が収穫を手伝ってくれた、と嬉しそうに話します。 「あの笑顔は自信の表れ。お年寄りに自信がついたことが何より」と横石さん。現在上勝町の寝たきり老人はたったの3人しかいないそうです。社会参加しているという自信が、お年寄りを元気にするのでしょう。

いろどり取締役の横石さんと増喜子おばあちゃん。横石さんは会員の相談役でもある。いろどり取締役の横石さんと増喜子おばあちゃん。横石さんは会員の相談役でもある。

お年寄りが元気になれば町も元気になる。そんな見本が上勝町ではないでしょうか。今後日本が立ち向かうであろう高齢化社会を、勇気づけてくれている気がします。

目次へ移動 ごみゼロ宣言という挑戦

目次へ移動 34分別がごみの量を減らす

上勝町では『ごみゼロ宣言』が、昨年9月に採択されました。2020年までに、という期限つきではありますが、「焼却・埋め立てによるごみの処理を限りなくゼロに近づける努力をする」というものです。

もともと上勝町では、ごみを野焼きしていました。ごみの適正処理を図るなかで、まずは生ごみの堆肥化に取り組みます。生ごみ処理機の購入費補助制度をいち早く導入し、各家庭で生ごみの処理をしてもらうことに。その普及率は98%に及びます。現在、生ごみの回収は行われていません。

97年の容器包装リサイクル法、00年のダイオキシン類特別措置法の施行に伴い、町のごみ分別も変遷していきます。19分別が25分別になり、そして35分別。現在では、ひとつ減って34分別に落ち着きました。
焼却ではなくリサイクルで減量化を」という、当時総務課長だった笠松和市町長の提案で、町づくり推進課の東ひとみさんが、ごみの引き取り先を開拓し始めます。割りばし、紙おむつ、と個別に収集先を確保していった結果が、34分別です。

「しかしこれで良いと、終わりにするわけではありません」と笠松町長。
今まで日本は、焼却によるごみ処理に頼ってきました。しかし、焼却が大気汚染物質やダイオキシンをはじめとする有害物質を発生させることは、いまや周知の事実です。また、800度という高温での焼却は、地球温暖化にもつながります。
「800度以上で24時間365日、100t以上のごみを燃やすように国が指導する。大気汚染を国が補助しているようなものなのです」と、笠松町長は断言します。

では、どう変えていくべきなのでしょう。
「そのためには、すべての製品を回収して再資源化するよう、製造業者に義務付ける法律が必要です。違反した企業や個人にも厳しい罰則規定を設けるべきでしょう。出たごみを処理する対策ではなく、ごみの発生を抑える製品をつくるようにするべきです。ごみを出せばお金が返ってくるデポジット制を徹底させれば、消費者も進んでごみを出すようになるはず。不法投棄は減るのです。」
ごみを減らすためには、国とメーカーの努力、協力が必須となってきます。すでに笠松町長は財界、環境省などへ具体的な働きかけを始めているそうです。

上勝町長、笠松和市氏。エネルギー溢れる話しぶりに圧倒される。上勝町長、笠松和市氏。エネルギー溢れる話しぶりに圧倒される。

目次へ移動 ごみ収集車はいらない

上勝町では、34分別導入後、可燃ごみはそれ以前の3割にまで減少したそうです。一般家庭ごみの再資源化率は75%以上に達しています。

ところで、上勝町にはごみ収集車が走りません。町民が唯一の集積所「ごみステーション」に持参します。お年寄りはさぞ不便を感じているのでは?と心配してしまいますが、ここでも住民の知恵が働いています。
車を持たないお年寄りのごみは、ボランティアグループ「利再来上勝(リサイクルかみかつ)」が無料で運搬。自分のごみを運ぶついでにお年寄りに声をかけるから、声をかけられた方も気兼ねなく頼めるそうです。また、集落単位で収集場所を独自に設け、住民が順番に運搬している地区もあるそうです。住民の自発的な活動が町の取り組みを支えることで、ごみは確実に減っているのです。

上勝町を訪ねたとき、折りしも町では「ゼロ・ウェイストアカデミー」というNPO立ち上げの準備をしていました。ごみについての困っている情報、開発情報などアイデアの情報収集、発信拠点としての活動を目的としているそうです。世界のごみ問題を、日本の小さな町、上勝町がリードしていく日も遠くはないでしょう。

日比ヶ谷ゴミステーション。住民は持参したゴミを箱の上の表示にしたがって分別していく。その場で確認しながらの流れ作業で、容易に34分別できる仕組みだ。日比ヶ谷ゴミステーション。住民は持参したゴミを箱の上の表示にしたがって分別していく。その場で確認しながらの流れ作業で、容易に34分別できる仕組みだ。

目次へ移動 棚田保全のために

急峻な山の中で米を作るために考えられた棚田。上勝町の水田の多くが、この棚田です。

棚田は雨水を一枚一枚の水田に留め、治水ダムの役割を果たします。また水の浄化機能もあり、川に流れ込む水をきれいにしています。

一方で、水田一枚一枚の面積が小さく、農機具の入らない棚田の耕作を人力で続けていくことは、とても大変なこと。ましてやお年寄りには過酷な労働です。多くの過疎の村で、耕作放棄地が増えているのが現状です。

上勝町では棚田保全のために、一部の棚田でオーナー制度を取り入れることにしました。徳島市など都市部の人に、棚田での農業体験をしてもらおうというもの。オーナーは秋の収穫期に、自分たちの手で育てた米を受け取ることができます。収穫の喜びをあじわってもらうことが、棚田の景観を守ることにつながるのです。
今年の参加者は締め切られてしまいましたが、「来年はぜひ」、という方は事務局へ問い合わせてみてください。景観保護に一役かってみませんか。

問合せ先 「上勝自然体験学習研究会」
〒771-4501 徳島県上勝町福原川北30
TEL 08854-4-6290 FAX 08854-4-6291
Email et-kmkt@stannet.ne.jp

日本の棚田100選にも選ばれた「樫原の棚田」日本の棚田100選にも選ばれた「樫原の棚田」

目次へ移動 商店街あげてのエコツーリズム

上勝町の町づくりはまだまだ続きます。地域活性化等を目的とした構造改革特区に、「上勝町まるごとエコツー特区」が認定されたことも、そのひとつでしょう。

エコ(環境)とエコノミー(経済)をツーリズム(交流)によって結びつける、と位置づけた上勝町のエコツーリズムは滑り出したばかりです。

まずは、歴史あるあさひ商店街を歩いてもらい、商店街の店主たちと交流してもらおうという試みが始まっています。古い商店街の店主たちは、昔ながらの伝統と知恵を語ってくれます。温かいもてなしを受けながら、上勝町で受け継がれている生活の知恵も学べるはず。

話がそれますが、上勝町では阿波晩茶というお茶が一般的に飲まれています。番茶とは違い、葉をゆでてから嫌気発酵させる、後発酵茶です。空気に触れずに発酵させると乳酸菌が発生し、独特の酸味や香りを生むそうです。

この阿波晩茶、7月末頃にいっせいに木の葉を採り(葉だけではなく枝ごと落とすそうです)作られます。あさひ商店街のあちらこちらで、茶葉をゆでたり発酵させたりする様子がみられるのだとか。他の土地では見ることのできない阿波晩茶の製造が、その時期のエコツーリズムの目玉になりそうです。

あさひ商店街のたけいち笑店、店主の武一卓也さん。エコツーリズムのリーダー的存在。「地元以外の人が入ってくれば、商店主たちも接客の面白さに目覚めると思う」と。あさひ商店街のたけいち笑店、店主の武一卓也さん。エコツーリズムのリーダー的存在。「地元以外の人が入ってくれば、商店主たちも接客の面白さに目覚めると思う」と。

エコ・ツーリズムの舞台、あさひ商店街は、交通が便利でなかったころ、木沢村と徳島を結ぶ宿場町として大切な役割を果たしてきた。昭和の面影がたっぷり残っている。エコ・ツーリズムの舞台、あさひ商店街は、交通が便利でなかったころ、木沢村と徳島を結ぶ宿場町として大切な役割を果たしてきた。昭和の面影がたっぷり残っている。

目次へ移動 おわりに

今回、かけあしで上勝町の町づくりの知恵を拝見してきました。実はこの「知恵」という言葉、お話を伺った皆さんの口から、何度も何度も出てきた言葉です。

上勝町の町づくりの原点は「知恵を出し合う」ということにあるようです。 各地区から委員を選出して、暮らしの知恵を話し合う1Q(いっきゅう)運動会という活動も行われています。知恵を集めることが、暮らしを良くし、町を良くするのだと教わりました。

お年寄りが社会参加するための、介護養護施設「ひだまり」もオープンしました。ここでは、地場の農産物を使った料理の講習会を催したり、一人暮らしのお年よりに配食サービスなどもする計画です。もちろんお茶を飲みながらの地域の人たちの交流の場にも、と前出の東さんは期待を寄せています。

ごみゼロへの活動など、2200人の町だからできること、と最初思いました。東さんにその疑問をぶつけると、逆に驚かれました。東さんは分別を推進する間「もっと人口が多ければ、もっと楽なのに」と絶えず思っていたそうです。
「都会ならごみが多い分、すぐに量がたまる。それはきちんとリサイクルに回せるということです。たとえば上勝では、リサイクルに回す量のペットボトルがたまるまでに、ほこりをかぶってしまうんですね。都会では24時間オープンしている店もたくさんある。そこをごみの回収拠点にすれば、住人は好きな時間にごみを出せるんですよ」との指摘。なるほど、であります。
環境問題について叫ばれて久しいですが、目に見えて改善されている実感はありません。それぞれの地域で、そこにあったやり方を考え、環境を見直す。環境が改善されれば、自然と町が魅力的になる。上勝町が教えてくれたことは、そんなことです。
徳島県の小さな小さな町が発信しているメッセージは、想像していた以上に大きなものでした。

上勝町 まちづくり推進課の東ひとみさん。今春から住民課も兼任し、「ひだまり」を全面バックアップ。町を良くするために奔走している一人。上勝町 まちづくり推進課の東ひとみさん。今春から住民課も兼任し、「ひだまり」を全面バックアップ。町を良くするために奔走している一人。

オープンしたばかりの「ひだまり」。間伐材の杉で建てられた。お年寄りをはじめ町民の交流の場になるよう、いろいろな催しが計画されている。オープンしたばかりの「ひだまり」。間伐材の杉で建てられた。お年寄りをはじめ町民の交流の場になるよう、いろいろな催しが計画されている。

杉本あり 略歴

大学卒業後、出版社勤務を経てイタリアへ留学。インテリアデザインを学ぶ。イタリア滞在中に学んだことは、デザインと生活は密接な関係にあるということ。 エコ・デザインなど「暮らし」と「デザイン」をテーマに取材・執筆をしている。著書に 「イタリア一人歩きノート」「イタリア一人暮らしノート」(大和書房) 「フィレンツェ 四季を彩る食卓」(東京書籍)など。

文・写真: 杉本あり

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