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from 埼玉 vol. 22 2005.05.31 食への興味持っていますか?〜 食育について考える

このところ頻繁に耳にする言葉「食育」。2005年4月には、衆議院でも食育基本法案が可決されるなど、「食育」は国を挙げての取り組みとなっている模様。毎日の給食に食育を取り入れたり、食育についての授業を行ったりと、熱心に取り組む学校も増えているようです。この2月には食育サポートマガジン『笑う食卓』が発売され、大型書店では、高く平積みされています。皆さんは日々の暮らしの中、それを意識したことがありますか? いったい、何をもって食育とするのか、どうして今食育が必要なのか、現場の取り組みを交えて、考えてみました。

目次へ移動 食育とは何だろう

時間に追われる毎日。人が料理に割く時間は、年々少なくなっているそうです。毎日自分は何を食べているか、振り返ることはありますか?朝食はきちんととったか。昼食はどのくらい時間をかけて食べたか。外食は続いていないか。この飽食の時代でありながら、決して豊かな食生活を送っているとはいえない現状が見えてくるのではないでしょうか。

スーパーマーケットに足を運べば、輸入食材、日本各地の名産品、加工食品、スナック菓子、などなど、ありとあらゆる食品が並んでいます。昔(昭和時代と比較しても)とは、日本人の食生活が大きく様変わりしたことは、明らかでしょう。そして、食生活の激変と共に、子どもたちの体にも、憂慮すべき変化が現れているというのです。

文部科学省の「平成16年度 学校保健統計調査」によると、ここ10年肥満児の数は横ばい状態であるとされています。しかし、そのさらに10年前と比べると、確かに子どもの肥満傾向が見られるという意見もあるのです。偏食やカロリー摂取量の増加などが大きな要因でしょう。幼少時の肥満はその80%が、大人の肥満に移行するという統計もあり、いかに深刻な問題であるかがわかります。肥満児は生活習慣病予備軍とも呼べるでしょう。

また、味覚障害をもつ子どもたちも増えているといいます。その最大の原因は、亜鉛不足です。亜鉛不足が起こる原因は様々ですが、加工食品に含まれる食品添加物が実はくせもの。加工食品の多くには、長期保存や酸化・変色防止、風味・粘着性を増すなどの目的で、リン酸塩やフィチン酸などが使われていますが、これらの添加物には、亜鉛の吸収を妨げたり、食事で摂取した亜鉛を体外に排出させたりする働きがあるのです。

子どもの食事を考えるとき、何を食べるのかだけではなく、どのように食べるのかを考えることが大切だといいます。

現代日本の子どもの食事を表す「こ食」という言葉をご存知ですか?
「こ」の部分には色々な漢字があてはまります。

  • 孤食:一人きりの食事
  • 子食:子どもたちだけの食事
  • 個食:自分の好きなものを、家族がそれぞれ食べること
  • 固食:決まったものしか食べないこと
  • 小食:いつも食欲がなく、食べる量が少ないこと
  • 粉食:パンやパスタなど、粉を使った主食を好んで食べること
  • 濃食:塩やしょうゆなど、濃い味付けのものを好んで食べること

これらの「こ食」が、味覚障害を引き起こしているのだという指摘の他、キレやすい子どもをつくるのだ、という意見も出てきています。食について無関心な子どもも少なくないようです。

子どものうちから一人きりでご飯を食べていたら?やっぱり、どんなにおいしい料理が並んでいても、味気ない食事になってしまうような気がします。

いつでもどこでも容易に、口にするものが手に入る現代。あまりにも手軽なものになっている"食"について、その内容ばかりでなく、食べ方について、今一度見直してみること。そして、子どもたちにも食について、もっと興味と関心を持ってもらおうというのが、食育ということなのです。

目次へ移動 学校給食に教わる食育〜埼玉県飯能市立名栗給食センターの試み

そんなことを頭に入れながら、毎日の学校給食に力を入れて取り組んでいる小学校を見学してきました。

埼玉県の西部に位置する飯能市。市内西部の名栗という地域は、今年1月に飯能市と合併するまでは、名栗村という名の行政区でした。飯能の市街地から村へ続く道と並行して清流、名栗川が流れています。目の前には秩父の山々。村全体が奥武蔵自然公園に指定されているほど、緑豊かな土地です。

飯能市には公立小学校が14校。それぞれの学校が、学校内で給食を調理する、自校調理方式を取っていますが、名栗地域だけは、合併前の名残で、給食センターが学校給食を調理しています。

老朽化に伴い、現在の給食センターは昨年建て替えられたばかり。飯能市立名栗中学校、同市立名栗小学校、同市立名栗幼稚園の3校分の児童、職員およそ330人分の給食が、ここで調理されています。

目次へ移動 手作りのおいしさを味わってもらう

最新式の設備を整えた調理室。徹底した衛生管理はもちろん、名栗給食センターならではの調理方法がたくさんあります。
まず、野菜はほとんど調理員さんたちの手でカットされます。というと意外に思われるかもしれませんが、短時間で調理をするために、機械を使ってカットする給食センターも少なくないのだそうです。

野菜を和え物などにする場合、カットした野菜はゆでるのではなく、極力蒸して加熱。栄養分をのがさずに調理します。そんなことができるのも、建て替え時に導入された、調理器具のおかげだそうです。

次々と完成していく料理

学校によっては、調理済み加工食品を使うことも少なからずあるようですが、名栗給食センターでは、「手作りの味」を大切にしています。例えば春巻き。冷凍食品を揚げればおかずの一品になりますが、ここでは、中身もすべて調理員さんの手で作られています。

目次へ移動 毎日が意味のある献立

栄養技師の小林洋介さんが考える給食の献立は、バラエティに富んでいます。旬の食材を中心にしたメニューの数々。多い月には10品も新メニューが加わることもあるというから、その内容の充実ぶりが伺えます。

名栗給食センターの栄養技師、小林洋介さん

小林さんは、給食のメニューを考えるにあたって「毎日が意味のある献立に」ということを心がけているそうです。
そのために、

  1. 地場産物を使う
  2. 郷土料理を取り入れる
  3. 行事食は欠かさない

の3点に特に留意しつつ、世界各国の料理や旬の食材も積極的に取り入れます。そうすると、どのメニューにも何かしらのストーリーが加わるのです。

ランチルーム。イベント給食の時には、ここで給食を食べます。

壁には、食品のことがいろいろと解説されています。

昨年行われたバイキング給食のメニューが残っていました。

飯能は、自然豊かな土地柄。米作も行われています。もちろん、給食に使われるお米は、飯能産のお米です。お米は、委託して炊飯してもらうのではなく、調理室でガス炊きされます。ガス炊きのお米の評判は上々です。

炊き上がったばかりのご飯を、クラスごとに分配する調理師さん。

学校内にはしいたけのホダ木も。もちろん、これも給食の材料です。

渡り廊下の掲示板には、給食に使われている地場野菜の紹介が。

お米だけではなく、じゃがいも、たまねぎ、きゃべつ、にんじん、だいこんなどなど。季節に応じて、できる限り地場産の野菜が使われています。

本日のメニュー:ごはん、鳥から揚げの南蛮漬け、のらぼうのおひたし、おはなのすまし汁、牛乳

見学させていただいた日のメニューに、「のらぼうのおひたし」というものがありました。「のらぼう」というのは、菜の花に似ている、少し青臭い葉もので、春の野菜。飯能市、お隣の東京都青梅市、あきる野市などでは昔から馴染みの深い野菜だそうです。といっても、最近ではスーパーで売られることはほとんどなく、家庭の食卓に上ることも少なくなってきたそう。つまり、名栗の子どもたちにとっても珍しい野菜になってきているのです。給食で、地元の食文化を知る子どもたちも少なくありません。

小林さんは、「のらぼうのおひたし」のような郷土料理を大切にしています。例えば、このあたりでは昔から、いのしし肉や鹿肉を使った鍋料理が名物。なんと、昨年秋には鹿肉を使った紅葉鍋が給食に登場しました。鹿肉を初めて口にする子どもも多かったようですが、皆でワイワイつつく鍋は大好評だったそうです。

その他、名栗川の鮎解禁日にあわせて出される鮎の塩焼きや、名産物のお茶を使った新茶ご飯や、抹茶蒸しパン。季節を感じさせる、この土地ならではの料理が、一年を通して並ぶのです。

丁寧に下ごしらえをされた材料。この日の主役でもある「のらぼう」はあくが強いため茹でて加熱。ほかの野菜は蒸して加熱されるので、栄養分を逃さず調理ができるそう。

目次へ移動 子どもの食への興味を引き出すために

さて、こうして熱心に考えられ、丁寧に作られた給食。子どもたちにとって、ものめずらしいものも多々あるよう。大人と違い、子どもにとって、初めて目にするものを口に入れるのは、勇気がいるものです。

そこで登場するのが、給食時に流す校内放送の「パクパククイズ」です。その日の食材にちなんだクイズで、子どもたちの食への興味を促します。ちなみにこの日のクイズはこんな感じ。

Q1.「のらぼう」はどこで採れたものでしょうか?

  1. 入間市
  2. 日高市
  3. 飯能市

正解は、3の飯能市です。今日は飯能の恵みに感謝して食べましょう!

Q2. のらぼうはどうして「のらぼう」と言うのでしょうか?

  1. 野原にボーっと生えていたから
  2. 野良さんが好きだったから
  3. 野良坊という偉いお坊さんが発見したから

正解は1番です。おもしろいですね。のらぼうはよく噛むと甘くておいしいので、 よく味わって食べましょう。

子どもたちは目の前にある珍しい食材に関しての新しい知識を得、そしてその食材に対して興味を持つのです。昨年は、生産者農家の方たちを招いて、子どもたちと一緒の給食試食会を行ったそうです。生産者を知れば、その食材にも自然と親しみがわくはずです。

また、全部食べた子どもたちには、先生が連絡帳にシールを貼ってくれます。子どもは、そんな些細なことでも、食事の動機になるんですね。

3年生のクラスでは、この通り残飯なし!

残さず食べた子には、先生からごほうびのシールを連絡帳に貼ります。

廊下の表には給食残飯なしの学年にシールが。2年生はちょっと苦戦中?

  • 食材に興味を持つ(とりわけ地元の食材は大切に)
  • 色々な味を覚える(調理方法も含めて)
  • 手作りの味に親しむ
  • 楽しく食べる

小林さんの考える食育が見えたように思います。

3年生の様子。みんな口々に「おいしい!」を連発していました。

中には野菜が苦手な子や、時間内に食べ終わらない子もいましたが、そんな子たちの分を、食欲旺盛な男の子たちが手伝ってあげることもあるそうです。

目次へ移動 『笑う食卓』の考える、食育3本の柱

『笑う食卓』

今年2月に創刊された食育サポートマガジン『笑う食卓』。服部栄養専門学校、校長の服部幸應氏が編集長の雑誌です。副編集長の山口隆雄さんに、なぜ今食育なのか、お話をうかがいました。

副編集長の山口隆雄さん

「食育には様々な方法があっていい」と前置きした上で、山口さんは、『笑う食卓』が提唱する食育の3本の柱について教えてくれました。

第一に、選食力を養うこと。
本物の味・食材を見極める目をもつことが大切だと言います。まだ記憶に新しい狂牛病や鳥インフルエンザ。何を食べたらよいのか不安だらけの時代だからこそ、選食力が重要。それは、食べ物の安全性を見抜く力をつけること、につながるのです。

第二に、食事の作法を身につけること。
核家族化が進み、生活習慣、価値観が変化し、食の面では、食べ方、料理、しつけ、マナー、行儀作法など、置き去りにされているものがたくさんあります。核家族社会ならではの食のあり方を、考える必要があるのではないか、と山口さんは話します。

第三は、自然環境に目を向けること。
おいしい野菜や穀物は、健康な大地がもたらすもの。しかし残念なことに、農薬漬けの野菜を作り続けたおかげで、土が疲弊してしまっている農地も多いのです。おまけに使われた農薬や除草剤は川に流れ込み、しまいには海水汚染につながります。食について考えれば、環境についても考えなくてはならないことは、自明の理なのです。

現在の日本の食物の自給率は、とても深刻な状態。米以外のすべての食材を、輸入しています。カロリーベースでたった40%の自給率。先進国の中で最低です。もし万が一、輸入がストップしたら? 私たちの食卓は、本当に貧しいものになってしまうかもしれません。
農・漁業人口の減少がこのまま続けば、この自給率は今後も下降していくかもしれません。同時に、日本では食品の廃棄や食べ残しの多さも深刻な問題です。それらが、食料需要を必要以上に膨らませることになり、これも食料自給率を下げる原因になっているのです。

食料の需給と自給率(財団法人 食生活情報サービスセンター)
http://www.e-shokuiku.com/selfsupply/

様々な食に関する危機感がある今だからこそ、生活の基本である食を、自分の足元から見直す時期にさしかかっているのです。

目次へ移動 基本は「食事を楽しむ」です

3本の食育の柱を実践するためには、まず

  1. よく噛むこと
  2. 食材にちょっとこだわる
  3. 男性が買い物、料理に参加する

の3つが挙げられると、山口さんは話します。

1. の「よく噛む」とは、おいしいものを味わいながら食べるということだと、山口さんの説明は続きます。おいしいものを食べているときには、誰しもゆっくりと丁寧に食べるもの。自然とよく噛んで味わっているものなのです。「おいしいね」という会話も始まります。おいしいものを食べているのですから、不機嫌に話す人はいません。皆、笑顔になり、自然と場の雰囲気が和むはず。ゆっくりと食べることで、多くを食べずとも、満腹感を得られ、暴食防止にもなるのです。

2. は、食材を選ぶときの注意。何も高級食材を使え、とおっしゃるのではありません。ちょっとばかり丁寧に食材を選ぶこと。加工食品を買うときには、必ず添加物表示を見る。賞味期限を見る。どこを見れば、新鮮な食材かどうかわかるのかを知る。新鮮かどうかは味に直接影響します。また、どこの産地のものなのかにも気をつける。食材そのものに気を配ることで、おいしいものが手に入るのだと、山口さんは話します。「スイカを買うときにコンコンと叩いてみるでしょ。すべての食材に対して、そのくらい意識して欲しいですね」

3. は、核家族化の時代の新しいルールだと、山口さん。男性も一緒に買い物に行って、キッチンに立つ。そうすればテーブルに着いたときに、会話がはずむ。コミュニケーションがとれる。夫婦が料理をしていれば、子どもも料理に自然と興味をもつ。一緒に買って、一緒に作って、一緒に食べよう、というプロセスが家族の中にあれば、楽しい食卓になるはず。たとえ惣菜を買うにしても、一緒に買いに行くことが大切なのです。

こう考えてみると、1.2.3.のいずれもが、食事を楽しむためのプロセスのひとつであることがわかります。基本は「食事を楽しむ」ということなのです。

目次へ移動 終わりに〜食育すべきは大人?

「食育の基本は家庭にあります」と名栗給食センターの小林さんが話していました。1日の3分の1食が、様々なことに留意された楽しい食事でも、残り3分の2は家庭での食事。家庭の役割が重要なのは、言わずもがなです。家庭での食事が、わが子にとって楽しみなものではなかったら?子を持つ親として、想像するだけで悲しくなります。

お二人のお話を聞くまで、食育とは子どものためのものだと思っていました。でも、小林さんのこの言葉といい、山口さんのお話といい、実は食育を受けなくてはならないのは、大人なのではないかと思うようになりました。

私たち大人が、日ごろの食生活を見直してみることが一番大切なことかもしれません。子どもに教えるのではなく、まずは自分たちから。親が、食についてもっと関心を深め、食事を楽しめば、子どもたちも当たり前のことのように、食に興味を持つのではないでしょうか。

お二人の話を聞き終えて、こんなことからしてみよう、と思ったこと。

◎ 小売店で買い物をする(山口さんのお勧めです。お店の人からおいしい食材についての情報をもらえそうです。)
◎ 子どもと一緒に料理を楽しむ(時間優先でなかなか難しいけれど。)
◎ いろんな人と食事をする機会を持つ(親子だけの食事では、なかなか子どもに食事のマナーは身につきませんが、いつもとメンバーが違うだけで、子ども自身ピリッとするようです。たまには緊張感を持たせるのも良いかもしれません。)

こんなふうに箇条書きにしてみると、気持ちに余裕を持ちさえすれば、特別難しく考える必要はなさそうです。

実のところ、仕事や子育てに追われ、毎日充実した食事を用意するのは私にとっては至難の技。忙しさにかまかけて、料理の手を抜く日もあります。それでも、我家の食卓が一番、と思えるような、毎日のおいしい食卓、楽しい食事、を心がけることを大切にしようと思いました。



参考文献
感じる食育 楽しい食育』 サカイ優佳子・田平恵美 コモンズ
笑う食卓』vol.1/2 ブティック社



杉本あり 略歴
大学卒業後、出版社勤務を経てイタリアへ留学。インテリアデザインを学ぶ。イタリア滞在中に学んだことは、デザインと生活は密接な関係にあるということ。 エコ・デザインなど「暮らし」と「デザイン」をテーマに取材・執筆をしている。
著書に 「イタリア一人歩きノート」「イタリア一人暮らしノート」(大和書房) 「フィレンツェ 四季を彩る食卓」(東京書籍)「ゆるライフのため息」(PHP研究所)など。現在、子育て真最中。



取材・写真 杉本あり (一部写真は名栗給食センター提供)

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