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日本人が見直すものづくりの現場 Continental Studio|地球リポート|Think the Earth

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地球リポート

from 中国 vol. 23 2005.08.12 日本人が見直すものづくりの現場 Continental Studio

さまざまなビジネス分野において、その急激な成長によって驚異的な存在として見られている「中国」。しかし、同時に廉価なものを作り出す “世界の工場”というイメージが先攻しがちです。そんな中国のモノづくりにテコ入れすべく立ち上がった愛知県の製材会社、岡崎製材。過去に中国から日本が受け継ぎ、進化させた家具づくりの職人技を再び逆輸入し、最終的には「アジア発のハイエンドな家具デザイン」を目指す、あるデザインプロジェクトを通して、中国の現在を考えてみようと現地取材を敢行しました。

目次へ移動 失われた中国の職人技

中国には、明朝家具を代表とされるように長い家具製造の歴史がありますが、いつの時代からか、価格競争ばかりに意識が集中し「安かろう、悪かろう」というようなモノばかりであふれるようになってしまいました。これには度重なる戦争による国土の荒廃や文化大革命などが大きく影響しているのではないかと思われますが、日本をはじめとした周辺のアジア諸国に広く影響を及ぼした中国家具の伝統が、現在ではほとんどその影を潜めてしまっています。

中国の工場でもともと建材加工のディレクションを行っていた岡崎製材の安藤竜二さんは、「本来は緻密な家具製造を行っていた国ならば、絶対に復活させられるはず。自国でその文化が廃れてしまったのならば、その技を中国から輸入し発展させていった日本の職人技を、次は逆輸入させればいいんじゃないか」と考え、中国発の家具ブランド「Continental Studio」の立ち上げに至ったといいます。

Continental Studioのデザイン・プロデューサー、安藤竜二さん。本プロジェクトの仕掛人である彼は、日本、中国のみならず、世界中を忙しく回り、常にいろいろな人とつながりながら、新しいことにチャレンジしています。

しかしながら、プロジェクトの初期段階は苦労の連続。日本では、新品の椅子がグラグラすることはないし、レストランで出される食器にキズが入っていることもないように、常に「良いもの(=まともなもの)」に囲まれて生活しています。

しかし、いくら目覚ましく発展しているとはいえ、二極化の激しい中国では、いまだ不良品と呼ばれるものが普通に世の中に流布しているという現状。特に作り手の多くが品質の良い家具の存在を知らない状態で生活しているため、その必然性すら理解することができないというのです。「その溝を埋めていく作業こそが、まず最初にしなければいけないことだった」と安藤さんは語ってくれました。

目次へ移動 眠れる獅子を揺り起こす日本人家具職人

そんな中国の家具づくりの現場に直接テコ入れする役割を担ったのが、安藤さんと同じく岡崎製材で家具のプロダクション・ディレクターとして働いていた足立耐さん。

この道数十年という、木工を知り尽くしたベテランの職人である足立さんは、Continental Studioの製造部門がある大連に飛び、ほぼ付きっきりでプロジェクトのスタートから3年間、工房で働く中国人職人たちとともに過ごしてきました。

「最初の半年間は(前段で安藤さんが述べたような意識の違いから)本当に苦労しました。しかし、根本的に彼らはもっと向上しよう、成長したいという意識が非常に高く、新しい技術を率先して学んでいこうという姿勢があり、おまけにとても手先が器用なんです」(足立さん)

大連の明龍木業有限公司という木材加工工場との合弁で運営されているContinental Studioの工房では、現在約60名の中国人職人が働いています。社長の金さんは日本との付き合いも長く、日本語が堪能。おまけに大学で木材加工を専攻していたこともあり、このプロジェクトに対して非常に積極的に取り組んでいます。

平均年齢21〜22歳という若手職人が多く働く大連工房の内部。今後はより家具部門を拡大していく予定だそうです。

「現在のレベルに達するまで3年かかりましたが、これも足立さんが大連に長期滞在し、徹底的に指導してくれたおかげです。でも、まだ満足はしていません。学ぶべき点はたくさんありますから」(金さん)

図面にはかかれていない微妙なニュアンスは、職人技でこそ表現できるもの。足立さん曰く、日本の木工技術というのは世界的に見ても最高レベルの緻密さを保持するものだそうです。

コンマ数ミリという細かい単位での仕上げを要求されるもの。経験を重ねた職人でもなかなか満足のいくものができないなか、工房の若手職人たちは「明日はもっといいものを、もっと新しい技を」という意識を持ちながら、毎日一歩ずつ向上することを心がけているそうです。

この工房の大黒柱である4人。右から順にContinental Studioの足立耐さん、社長夫人、金社長、工場長。

目次へ移動 Gallery KOOの役割

Continental Studioのプロジェクト拠点となるギャラリー「KOO」は、上海市街の南、洒落たレストランなどが並び、観光客にも人気の新天地から徒歩10分程度の場所にあります。

話題のスポットからすぐといっても、ギャラリーの周辺は電気修理や食料品の販売などを行う間口一間ほどの小さな個人商店が建ち並び、地元の人々が通りで食事をしたり、昼寝をするなど、非常に下町な雰囲気が漂う地区。

そんななかにある古い紡績工場を大々的にリノベーションし、雑然とした表通りとは全く異なるテンションを持つシックなギャラリーになっており、Continental Studioが手がける家具ブランド「KOO」の作品展示を中心に、企画展なども行われている場所なのです。

「デザイン専門ギャラリーは、中国では初めての試みだったこともあり、当初は外国人(特に西洋人)の来客ばかりが目立ちました。時を経るに従い、次第に現地の方々にも受け入れられるようになり、最近ではデザインに興味があるという学生さんなども足を運んでくれるようになってきました。彼らのなかには、各展示作品のデザインコンセプトをもとに熱心にトークしていく人や、自分が遊びで書いたデッサンを持って来てこちらの意見を聞いてくる人などもいます。上海の若い世代は非常に"モノをつくりだす"ということに興味があるようにも感じます」と語るのは、上海の大学を卒業した後、KOOで働き始めたというスタッフの須賀詩歩乃さん。

Continental Studioは、大連における"職能"の伝達、そして上海における"デザイン精神"の伝導の2つを主軸に、KOOというブランドによって本格的なアジア発、世界に向けたデザイン家具を発表しようとしているのです。

昨年末にはより新しい才能を発掘するために、デザイン家具のコンペティションを開催。現在は、その優勝者の家具を工房で実際に制作し、夏以降に発表&展示していく予定だということです。

家と家具の関係をコンセプチュアルに表しているKOOの内装。表通りの喧噪とのギャップも非常におもしろい。

KOOスタッフの須賀詩歩乃さん。彼女以外にもうひとり、中国人スタッフがこのギャラリーでは働いています。

目次へ移動 中国でものづくりの大切さは定着するのか?

KOOの第1回デザイン家具コンペで優勝したのは、アートディレクター、Kamwah Chanさん。香港出身の彼は、30年近くに渡りヨーロッパで著名ファッション誌のアートディレクションを手がけた後、香港を経由して2年前から上海に住んでいます。

世界中でものづくりの現場に携わってきたKamwah Chanさんは、目下、上海で建設予定の大学プロジェクトに参加しています。

「ヨーロッパは、便利で安全で、明確な文化がある。しかし同時に新しいことへチャレンジしようとするパワーは失われつつあります。確かに中国はコンサートやギャラリーなども少なければ、なにかしらと面倒な部分が多い。でも、その性質は大きく異なれど、欧州同等もしくはそれ以上の住む価値がこの国にはあると思うんですよ」(Chanさん)

現在、雑誌『ELLE』中国版のADをはじめ、建築設計なども手がけるChanさん。ものづくりのプロである彼の目に、混沌とした中国のものづくりの現状は果たしてどのように映っているのでしょうか?

「中国には、ものを作り出す能力と意欲は確かにあります。しかし、何も考えずに単に作り出しているだけでは、世に出回っているブランドのコピー商品となんら変わりはありません。デザインで重要なのはそこに行き着くまでの過程をしっかりと考えること。そうした過程への対価であるという認識が定着したときに、ものづくりの大切さやデザインへの本質的な意義が見いだせるのでしょう」

さまざまな国で経験を積みながら、常に前向きにチャレンジしてきた彼だからこそ、いまは同じように前進し続ける上海に賭けているのかもしれません。

KOOのコンペでChanさんが企画した家具のコンセプトとなった中国のキッチンの様子。小さな家具を積み重ね、ひとつの大きな多機能家具へと転換させるというアイデアを、Chanさんは現代風にアレンジしました。彼がデザインした家具は、今秋にも発表予定です。

目次へ移動 モノの大切さを伝えるカフェ

ChanさんやKOOの須賀さんがインタビューの際に、「また違う"新しい上海"が見られる場所だよ」として教えてくれたのが、虞湾区紹興路にある「le petit cafe」。まだオープンしたばかりだというシンプルなつくりのカフェは、無印良品で商品企画開発の仕事を行っていたという代島法子さんがつくったお店。

目印の黒い看板(というか扉?)の横の階段を2階に上ると広々としたシンプルなカフェ「le petit cafe」に到着。

「日本メーカーで長年、中国の工場を通してものづくりの現場に携わってきたのですが、ものをつくり消費し続ける社会構造になんとなく疑問がでてきて。

そう思った代島さんは、退職後、訪中。この場所でなにか"ものの大切さ"を伝える場所を提供することができないかと、「le petit cafe」をスタートしました。

突然の訪問にも関わらず、いろいろお話ししてくださった代島法子さん。

実はこのカフェに置いてある家具類の一部は、粗大ゴミとして捨てられていたもの。発展の一途をたどる上海の町は、建設ラッシュで新しいものが次々につくり上げられると同時に、このように処分される家具類も多いのです。代島さんはそうした現状に対する「ちょっとした抵抗」として、町を歩き回り、捨てられている家具を少しずつ拾い集めました。「お金をかけなくても、ちょっとの手間とアイデアさえあれば、いいものがつくれることを証明したかったんです」

カフェの運営はビジネスではなく、活動であると彼女は語ります。今後はこの場所を使って、意識を共有できる地元の作家の作品を展示したり、イベントなども行っていく予定です。

この日のランチメニューは、オムレツとサンドウィッチの二種類から。

目次へ移動 ものづくり≠ごみづくり

「ものづくり」はひとつ間違えば「ごみづくり」という行為になりかねません。すでにひとつの大きな成長を遂げたことにより、常に"新しいごみ"が生まれ続ける日本と比較しても、発展途中にある中国は、まだ解決できる余地が残っていることでしょう。ものづくりへの意識の向上とともに、都市部を中心に環境団体がさまざまな活動を開始するなど、ものそのものの大切さを考えるという意識も生まれています。

しかし、13億人という膨大な人口を誇る中国において、正当なものの価値を均等に伝承していくことは容易ではありません。中国発のハイレベルなものづくりを目指すContinental Studio、つくりだすという行為そのものをもう一度考え直してみようとする代島さん。日本人がはじめた小さな運動が、今後どのように波及していくのか?

ゆっくりと、そしてじっくりと見守っていきたいと思います。



取材・写真 猪飼尚司

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