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地球リポート

from アメリカ vol. 43 2008.12.14 持続可能な水素経済を目指すハワイ州の取り組み

ハワイといえば観光地の定番ですが、原油価格の急激な変動やアメリカ本土の経済不況により、主要な収入源である観光産業が落ち込んでいます。また、さまざまな物資を輸入に頼っており、食料とエネルギーの自給自足の実現が、ハワイ州におけるサステナビリティにとって急務になっています。

そんな中、観光に替わる新たな産業として力を入れているのが、地熱、風力、水力などの再生可能エネルギーと水素社会へのシフトを目指したインフラ整備です。特に豊かな再生可能エネルギーによって製造される水素は、次世代カーの燃料や持続可能な農業への応用が期待されています。

州の法律にも明確に明記されるなど、「水素経済へのシフト」が現実的なトピックになっているハワイ州。今回は水素社会を目指すキーパーソンにお会いし、夢物語ではない具体的な話を伺ってきました。

目次へ移動 「地球のへそ」ハワイ島

ハワイ島に住む h2テクノロジーズのガイさん

太平洋のど真ん中に位置し、ポリネシアン・トライアングルの北端を担うハワイ諸島。ワイキキビーチなど観光地としてあまりにも定番ですが、自然のエネルギーが湧き出すようなスピリチュアルなスポットとしても注目されています。そしてビッグアイランドと呼ばれるハワイ島に、水素経済に向けたビジネスを手がける h2テクノロジーズがあります。実はこの会社、僕がクリエイティブ・ディレクターを務めるウェブメディアgreenz.jpを運営する株式会社ビオピオの大切なビジネスパートナー。水素経済を目指すというビジョンに共鳴し、"未来会議"と称して定期的に情報交換を行いながら、日本とハワイをつなぐプロジェクトを進めています。

COOであるガイ・トヤマさんは、「水素経済は決して遠い未来の話ではない。今だからこそ可能なんだ」と強く主張します。豊かな自然を有効に活用して、世界のロールモデルを目指すハワイの取り組みを肌で感じ、僕自身もその現実味を感じることができた貴重な旅でした。

目次へ移動 チカラに満ち満ちたビッグアイランド

東側のヒロサイドはうっそうとしたジャングルが

6時間あれば島を一周できる島ながら、溶岩とビーチ、ジャングル、乾燥した山あいと、あっという間に移ろっていく景色がとても印象的。それもそのはず、ハワイ島は13の気候区分のうち、砂漠と北極以外のすべての気候が存在すると言われています。冬には雪も積もる巨大な山々が島の真ん中で雲を遮る。その影響で、西側のリゾート地コナは常に乾燥し、東側のヒロでは常に雨が降るので、毎日のように虹が出現します。

マウナ・ケア山頂からのご来光。クルマで4000mを登りきります。

そびえる、というよりもなだらかに佇む二つの山。原住民にとって聖地でもある標高4205mのマウナ・ケアは、北半球でもっとも星空がキレイに見える場所で、日本のすばる望遠鏡を始め、世界各国の天文台が設置されています。裾野に当たる太平洋の海底から測ると標高は10000mを超えるとか!また、大気中の二酸化炭素計測所がある標高4169mのマウナ・ロアは、標高25,000mという火星のオリンポス山に次いで、山の体積が太陽系で2番目に大きな山なのだそうです。

ガイドさんが、「地下のマグマが必死に出口を探して、たどり着いたのがハワイ島なんだよね」と説明してくれましたが、キラウェア火山などいまだに噴煙を吐き出すこの島は、まさに地球大というスケールの自然環境が存在します。この圧倒的なチカラが、自然に宿るとされる聖なる力「マナ」につながっていて、ハワイにおける環境保全活動やエネルギー政策の根底に流れているのだなあと素直に感じました。

目次へ移動 ハワイのエネルギー事情と未来への投資

とはいえ、そんなハワイにあっても課題はたくさんあります。一番大きな問題は、エネルギーの外部依存です。

目次へ移動 家計を圧迫する石油

ガイさんによれば、ハワイには石油や天然ガス、石炭といった化石燃料が存在しないにも関わらず、ハワイ州で使用するエネルギーの90%は石油に依存し、そのうち71%はアメリカ国外から輸入した石油となっています。これは全米の中で最も高い数字です。

オアフ島では慢性的な渋滞が

1997 年のハワイ州の統計では、石油を買うのに一年間に10億ドル(1000億円)を費やしていて、そのうち26%が電力に、55%が陸海空の運送/輸送に使われているそうです。電車のインフラが整っていないハワイでは90万台の車が走っていて、ホノルル付近は特にいつも大渋滞。ガソリン価格は本土よりも慢性的に25%ほど高くて、レンタカーに乗っていても財布が痛いなあという印象でした。現実的に家計も観光業界も、ほとんどガソリン代に圧迫されています。だからこそ「トランスポーテーションの分野で脱オイル=水素や燃料電池が実現できれば、ハワイの産業はガラリと前を向くはず」(ガイさん)なのです。

目次へ移動 100%の自給が可能な自然エネルギーのポテンシャル

ネルハ・ゲートウェイ(NELHA GATEWAY)の外観。ハイウェイから太陽光パネルがよく見える。

ここで、天がハワイに与えたチカラの出番です。「100%再生可能エネルギーを実現できる、アメリカでも数少ないポテンシャルを秘めている」とガイさんが言うように、地熱、風力、水力などの再生可能エネルギーへの転換がこの地では可能なのです。彼が今が勤めているハワイ州立自然エネルギー研究所(NELHA)が中心となって、さまざまな基礎技術の研究やグリーンビジネスの誘致が進んでいます。

2008年10月、「2030年までに州内で使用するエネルギーの70%を、化石燃料から再生可能エネルギーによる供給に移行する案」にハワイ州とハワイ電力が合意しましたが、ハワイ島の地熱発電やマウイ島の風力発電など、各島々のポテンシャルを再発見し、その特徴を生かしていくエネルギー戦略がいよいよ具体的に動き出しました。将来的には各島間を海底ケーブルでつなげて電力を供給する計画もあるようです。

目次へ移動 ハワイの優位性と未来への投資

加えて、ハワイにおけるグリーンビジネスへ投資を集めるための制度も充実しています。例えば、ACT221という仕組みは、ハワイ州が認定したグリーンビジネスに対して、投資した金額すべてが税額控除となり、さらに同じ金額の還付金が5年以内に戻ってくるという、投資家にとってこの上ないインセンティブ。単純に計算すると元本を一切失わずに、未来のビジネスのリターンが期待できるということになります。新しいビジネスを花開かせるために、ハワイ州の将来を賭けた意気込みが伝わってきますね。

再生可能エネルギーについて説明してくれるガイさん

他にも既にハワイ大学など最先端の自然エネルギー研究施設があり、ベンチャー企業をインキュベートできる土地も豊富にあること。また、アメリカと日本をつなぐ環太平洋ビジネスの拠点という地理的なメリットも考えると、化石燃料に乏しい島国ならではの問題を、溢れる自然のチカラと水素を組み合わせた再生可能エネルギーで解決するという"世界のロールモデル"となる可能性は十分にあるといえそうです。

目次へ移動 そもそも水素って何?

さて、ここで水素について軽くおさらいしておきましょう。

アメリカを代表する文明批評家ジェレミー・リフキンの著書『水素エコノミー--エネルギー・ウェブの時代』は、僕がオススメする必読書のひとつです。そこには水素社会の可能性が輝かしく描かれていますが、中でも僕たちが興奮しているのは、「分散型電源と局所的かつ世界的なエネルギー・ウェブ」によって実現される双方向エネルギー共有の可能性です。

ちょっと小難しいですが、ここ数十年のインターネットと双方向コミュニケーションによる情報の共有という流れと結びつけるとわかりやすいでしょうか。一言で言えば、「エネルギーの民主化はいかに可能なのか、そしてそこから人類のマインドはどう進化(深化?)するのか」ということかもしれません。「水素社会になれば、石油に起因する戦争はなくなる」という見方もありますが、社会構造がグローカルな分散ネットワーク型へと向かう中で、水素が未来のキープレイヤーであるのは間違いありません。

目次へ移動 水素は未来のエネルギー?

水素は宇宙で最も豊富にあり、最も軽い元素です。燃やしても、電気と水と、ごく微量の窒素しか発生せず、地球温暖化に寄与しないサステナブルなエネルギー源とされています。燃料電池車のFCXシリーズを開発するHondaがカリフォルニアに自社の水素ステーションを持って公道でテストしたり、FedEXや UPSが運送に燃料電池車の導入を進めたりするなど、特にクルマの分野では研究が進んでいますね。最近のgreenzの記事では、水素クルマ椅子が話題になりました。

ただ水素は単体では自然界にほとんど存在しないので、水の電気分解や天然ガスからの水蒸気改質などの化学反応を利用することになります。現状で主流の天然ガスからの製造は、結果的に二酸化炭素を発生させるので、水の電気分解の方が望ましいとされていますが、その反応を起こすために膨大な一次エネルギーが必要です。また貯蔵と供給、ポータブルな発電機である燃料電池の効率など、さまざまなフェーズで、まだ世界がしのぎを削っている段階で、コレという技術が確立しているわけではありません。

目次へ移動 水素懐疑論

そんな状況にあって、環境のオピニオンリーダーでもあるレスター・ブラウンをはじめ、水素に対する懐疑論はたくさんあります。何においても批判がある方が健全ですが、そこまでペシミスティックになる必要はないのではないかと僕なんかは思ってます。そこで今回ハワイで話を聞いた、エネルギー政策の提言に関わるメードリン・オースティンさんが編集した『FREEDOM FROM MID-EAST OIL(中東の石油からの解放)』という本に、ちょうどよくあるツッコミに対する、適切な答えがあったので、一部抜粋してみました。詳細が気になる方は、これも是非オススメしたい本です。

  • うわさ1:爆発性があり危険である
    → 水素は軽いので熱を放出せずにすぐに空中を上昇する。よっぽど今の可燃性燃料の方が危ない。
  • うわさ2:効率が悪くコストが高くつく
    → Wellhead-to-wheels(坑口から車輪まで)を考えると、水素はガソリンよりも3倍効率が良い。
  • うわさ3:ゼロから始めなければならず、インフラ整備に時間が掛かる
    → 現存するパイプラインなら問題なく使える。今すぐコンバートが可能なインフラがあるので決してゼロからではない。

この本でも、実際に消費者のレベルで目に見えて変化が起こるのは、2015年以降としていますが、環境面でのサステナビリティと間近に迫った実現性、そして何よりも公平なエネルギーがもたらす人間社会の意識変革を考えると、水素なしに目の前の社会問題の根本的な解決はない、と個人的に強く思っています。

目次へ移動 水素のつくり方をめぐって

あのブッシュ大統領も水素・燃料電池技術諮問委員会(HTAC)という肝いりプロジェクトを進めていましたが、「水素には敵がいない」とよく言われます。しかしここで注意深く見る必要があるのは、「どうやって水素をつくるのか」ということです。

HTACが1次エネルギーとして前提としているのは原子力エネルギーです。一方ハワイ州が究極のゴールとするのは、再生可能エネルギーを活用し、水の電気分解によって水素を製造することです。発電そのものでは二酸化炭素を発生しない"クリーン"とされる原子力が、本当にサステナブルなのかは議論の余地があるでしょう。原子力と水素は、エネルギーを一極集中にするか、分散型にするかという未来社会のコンセプトの違いと言えるかもしれません。

水素社会のインフラ整備を実現するまでにさまざまな提案が出るでしょうが、過渡期に必要な代替案なのか究極のゴールにつながるアイデアなのか、いろんな議論の中で見極めていくことが大切だと思います。

目次へ移動 動き出したハワイの水素ハイウェイ計画

最後にh2テクノロジーズが進める、ちょっと未来のワクワクする仕事を紹介したいと思います。

目次へ移動 h2テクノロジーズの仕事とその周辺

水素発生装置とエンジニアのチェスター・ロウリーさん

h2テクノロジーズは、水素に関連して2つのビジネスを行っています。ひとつめは電気分解による水素製造とガソリン車やディーゼル車の水素車へのコンバージョンといったエンジニアリング。ふたつめは、水素経済のインフラづくりです。

僕たちも驚いた最近のビッグニュースは、「特別歳入担保債」の発行に対して、h2テクノロジーズのための法案が成立したことです。「特別歳入担保債」とは、ある特定の目的のプロジェクトについて社債を発行する場合、債権を買った人に対する利息が免除になる仕組みです。この債権が発行できるとハワイ州のお墨付きとなり、投資に対する信用力を得ることができます。しかも水素経済への移行を「歴史的な機会」として捉え、「水素ハイウェイの達成を早める」など、水素経済への意気込みが法案の文面からもよく伝わる内容になっています。先述したACT221も申請中で、コトがスムーズに運べば仕事の規模もますます大きくなるでしょう。

チェスターさんがハロウィンのためにつくった音の鳴るレーザー装置

CEO 兼発明家のタク・ワダさんが中心となって設計された電気分解による水素発生装置は、既にモックアップが完成し、チェスターさんの家にある工房で研究が進んでいます。「ここまでは電線が来ていないから、裏で流れているウマウマ川から水をくみ上げた小水力発電で、家の電気をまかなっているんだ。そこで余った電気を使って水素をつくっているんだよ。この家に関して言えば、本当にエネルギーの自給率は100%になっているね。次はスーツケースくらいの大きさにつくって、投資家に見せて回るんだ」とチェスターさんは意気込んでいます。

NELHAに展示中の水素エンジンにコンバートした原付バイク

水素カーへのコンバージョンについては、その足がかりとして水素エンジンにコンバートした原付バイクを走らせることに成功しています。コンバートした車は日本の法律では改造車扱いになってしまうようですが、数百万円で新車の燃料電池車を買うよりも、数十万円で水素カーにコンバートする方が、現存するクルマの台数を考えると環境負荷的にもリアリティがありますね。今ある天然ガス車もまったく手を入れずに、15%までは水素を混ぜても効率も安全性も問題ないことが判明したので、既にほとんどが天然ガス車である日本のタクシー業界も、近い将来水素カー中心に変わっていくかもしれません。

NELHAの広大な敷地で、さまざまな実験が進行中。

ガイさんが中心となって進めているインフラづくりでは、実際にハワイの電力会社、ガス会社、州政府の間に入って、水素ハイウェイ構想を進めています。手始めとしてNELHAの敷地にガソリン、バイオエタノール、天然ガス、そして水素を補充できるオルタナティブな燃料ステーションが、数年後に登場することになるでしょう。「電力会社から余剰電気を安く買い、水素発生装置で水素をつくって燃料にする。このパッケージを世界に広めたい。」と彼は言いますが、いくつかの日本企業とも具体的な話が進んでいるようなので、日本にいる僕たちにもできることがたくさんありそうです。

目次へ移動 "Island of Adventure" から "Island of Innovation" へ

サステナブルな社会の基盤となりうる水素経済へのシフトは、住民、行政、企業それぞれにおいて明確なメリットがない限りスムーズには実現しないでしょう。再生可能なエネルギーが豊富なハワイはあくまで特殊なケースで、電力会社の存在感が大きい日本では、なかなか受け入れられないかもしれません。しかし、決して夢物語ではないということが、ハワイでの取材を通じて心揺さぶられた重要なメッセージでした。

実はアメリカの水素への取り組みは、「マツナガ水素研究開発法」(1990)から本格的に動き出しました。これは、ハワイ州選出の民主党上院議員だった日系人のスパーク・マツナガ氏が、亡くなる直前に議員立法で成立させた法案です。20年の時を経て、いよいよそのハワイから水素をベースとした持続可能な社会のビジョンが発信されることになります。

ナノマテリアル、バイオテクノロジーだけでなくエネルギーウェブを支えるインターネット技術など、水素経済の周辺にはさまざまなイノベーションが期待されています。観光に支えられた"Island of Adventure"から持続可能な社会のロールモデルとしての"Island of Innovation"へ。この確かな軌跡を、今後もウォッチしていきたいと思います。



兼松佳宏 プロフィール
greenz.jpクリエイティブディレクター/株式会社ビオピオ取締役。79年秋田生まれ。現在「デザインとビジネスとサステナビリティ」をつなぐをテーマに、デザインや執筆、イベントプロデュースなどを行っている。
greenz.jp
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取材・執筆・写真:兼松佳宏(greenz.jp)

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