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地球リポート

from 東京 vol. 57 2011.05.12 EARTHLING インタビュー:山崎直子(JAXA宇宙飛行士)

2010年4月、スペースシャトル「ディスカバリー」で宇宙へ旅立ち、国際宇宙ステーションに2週間滞在をした山崎直子さん。幼い頃からの夢を実現し、地上に戻ってきた彼女に、これから先の人間と宇宙の関係について思うことは何か、新たな50年におけるフロンティアとは何なのかをお聞きしました。【取材日:2011年2月23日 聞き手:神武直彦(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科准教授)】

※本インタビューは2011年4月に予定されていたイベント EARTHLING 2011にあわせて2011年2月23日に収録されました。イベントは震災の影響で2011年7月30日に延期になりました。イベントの詳細はEARTHLING 2011をご覧ください。同じ内容がThink the Earth Paper Vol.8にも掲載されています。

目次へ移動 地球という生きものと対等にある

----世界中のほとんどの人は、まだ宇宙に行ったことがありません。でも、何が宇宙なのかと考えると、地球も宇宙ですし、いま、ここも宇宙の一部ですよね。だから宇宙にはもう行っているよね、としたときに、それでもなお「宇宙に行った」という感覚はどういうところから生まれるんですか?

山崎 おっしゃる通り、ここも宇宙の一部なんですよね。自分の体も星と同じ成分でできていると小学生のときに知って感動したんですけれど、つまり全部、宇宙なんです。だから宇宙に行くという言い方はあまり正しくなくて、「宇宙の中で地球の重力圏を脱出する」という感じが近いですね。

----重力圏を脱出すると何が変わるのですか?

山崎 そこはもう、全然"違う"んです。重力圏を脱出するまで、宇宙船はどんどん速度を上げて加速していくのですが、エンジンを切った瞬間、ふっと無重力になる。その落差がものすごく大きいんです。私が座っていたのはスペースシャトルのミッドデッキで、窓はちょっと遠くにあったので地球がよく見えたわけではないのですが、その落差で、「宇宙だ!」というのをまず感じました。その後、窓の前に行って地球を見たとき、ああ、ほんとうにきれいだなあと感じました。

----それは予想していた通りでしたか? 

山崎 もちろんきれいなんだろうな、とは思って行くんですけれど、実際に見ると圧倒されましたね。視覚だけではなく、五感全部で圧倒されました。

 昨年の2月、宇宙ステーションの端に地球観測用のキューポラという窓が新しく取り付けられました。私たちのミッションは昨年4月でしたので、その直前のことです。キューポラは上半身が全部入るようなドーム型をしていて、180度プラネタリウムみたいに景色が見えるようになっているんです。位置的には地球と逆さに立っている感じなのですが、キューポラに入ると、地球が真上に見えるんですね。飛行機で地上を飛ぶと眼下に景色が広がって、高いところにいるな、という感じになりますよね。でも宇宙だと上下の感覚がないため、どの姿勢をとっても違和感がないんですけれど、「地球が真上に見える」というのは結構ショッキングな構図なんです。そういう見え方を体験すると、「宇宙にいる」という感覚は、地上より高いところにいるのではなく、地球という生きものと宇宙船とが向き合っている、対峙している、互いが対等であるような感じになるんですね。その感覚は自分でもすごく面白いなと思いました。

057-002.jpg キューポラの中で船内を見上げる山崎宇宙飛行士(写真:NASA)

----宇宙空間でけんかしたり、ネガティブな感情のぶつかり合いはあるんですか。

山崎 あるときはありますよね。でもひとつのチームでミッションを達成しようという共通の目的意識が高いですし、結構忙しいので、けんかしている場合じゃない(笑)。長期滞在をしていると微妙なすれ違いがおきたり、グループ的なダイナミックスがあるということは聞きます。なので、どんなに忙しくても、毎日夜ご飯は一緒に食べましょうと。食事はちゃんと食卓で顔を合わせてとろう、というようにみんな気を使っていますね。

----普通の家庭と一緒ですね(笑)。

山崎 そうなんですよ。今回私は2週間のミッションで忙しく、毎日は無理だったのですが、2週間で3回は全員で食事をとったんです。最初にロシア人飛行士がロシア料理を振る舞ってくれたので、2回目は野口さんと私とで日本食を振る舞おうということで、手巻き寿司を作ったんですね。南極の昭和基地で使っている保存食を宇宙にも持っていっていて、玉子焼きや生姜焼きを具にして、ご飯で巻いて食べました。そうやってみんなで一緒に食卓を囲むというのが、宇宙でも一番楽しいですね。

目次へ移動 たくさんの人が宇宙に行く時代

----空を見上げると、地上からも宇宙ステーションが見えます。実際に行ってから見ると、行く前とは思うことに何か違いはありますか。

山崎 あそこに人がいる。人があそこまで行けるんだというのは、何か不思議な気がしますね。空を見ていると、宇宙ステーションが横切っていくのも星のように見えます。でもその星は人がつくったもので、その中で人が生活している。人の力ってすごいなと思いますね。

057-003.jpg 国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」にてクルーの集合写真(写真:NASA)

----多くの人が宇宙ステーションを「理想のおうち」とイメージするかもしれませんが、すごい音もするし、空気も変えられないし、たぶん、そんなに居心地のいいところではないんじゃないかと思うんです。山崎さんは学生時代に宇宙ホテルの設計等の研究をされていたということで、実際の住み心地というか、居住性の点で感じられたことはありますか?

山崎 まずスペースシャトルで宇宙ステーションまで行くんですけれど、スペースシャトルは先端にあるコックピットの部分がものすごく狭いんですね。その下のミッドデッキが居住空間で、7人が3日間、宇宙ステーションに到着するまで生活します。まぁ狭いとはいっても、上下左右使えるので、そんなには気にならないんですが......。

 宇宙ステーションはスペースシャトルに比べれば、全然広くて快適です。宇宙ステーションの真ん中の部分が人が居住できるところなのですが、ジャンボジェット機にして大体2機分の容積があるんですね。ただ、閉じられた空間なので、空気がこもっているというか、匂いがこもっていてホコリっぽいなという印象はありました。とにかく、人工的な空間なんです。ほんの少し緑もありますが、それも人工的な緑であって、一歩宇宙船の外に出れば死んでしまう環境の中で、この宇宙船の中だけが生かされている空間だなという感じはします。

----人が宇宙に行くというのは、地球と同じ環境を一緒に持っていくということ。そのうえで、人が宇宙で暮らす時代が来るのはどのくらい先だと山崎さんは捉えていますか?

山崎 私自身意外だったのが、宇宙での生活って結構普通なんです。朝起きて、顔をふいて、歯を磨いて、ご飯食べて、仕事をして、夜寝袋で寝て......と、ルーチン化して日常になるんですね。そういう意味では、宇宙で暮らす時代はすぐ来ると思います。実際に今も6カ月単位で人が宇宙ステーションで生活している。それよりも、どれくらい沢山の人が宇宙に行く時代になるか、というほうが大きいのかなと思います。まずは、弾道飛行から始まりますよね。上まで行って戻ってくるのから始まって、400キロくらいの低軌道で周回し、ずっと滞在するというようになるまでには...... あと50年くらいかなと思います。

----行かなければならない理由さえできれば、10年後でもあるような気がするんですが。

山崎 それはそう思います。もうひとつは、地球を離れることによって、地球のことがわかるんですね。一度自分の場所を離れること、宇宙に行くことは地球を見直す大きな目になりますし、この宇宙ステーションというのは、ミニチュアの地球みたいな感じがするんですね。いろいろな国籍の人もいますし、その中で水もリサイクルして、尿も飲み水に変えて、空気もできるだけ再利用する。まだ食べ物は補給に頼っていますが、宇宙ステーションでの生活を存続させる技術というのは、これからの地球のための技術につながっていくと思うんです。

目次へ移動 開かれた宇宙に向けた2つのミッション

----今後、宇宙飛行士のニーズはどう変わっていくと思われますか?

山崎 これからのミッションを考えたとき、宇宙飛行士の役割としては2つ方向性があるかなと思います。ひとつはフロンティアを拡大していくミッション。今はスペースシャトルにしても、宇宙ステーションにしても、地上から400キロメートル上空。まだまだ低軌道なんですね。それよりも遠く、月であるか、小惑星であるか、火星になるか、そのすべてになるのか、より遠くのフロンティアを拡大していく方向です。
 もうひとつが、地球の低軌道の宇宙ステーションなり、あるいはもっと別の宇宙ステーションができるのかもしれませんが、それを活用していくミッション。たくさんの人が観光という形で宇宙へ行ったり、長く滞在するようになっていくという方向です。
 地球低軌道のほうは、おそらくどんどん民間の力も入れるようになり、より開かれていくでしょうね。遠くのフロンティア拡大はどうしても国主導のプロジェクトになる可能性が高いと思います。火星まで行って帰ってくるとなると、何年もかかるミッションですよね。より強い精神力も求められますし、協調性も求められます。自分自身の健康も管理しないといけないということで、医学系の宇宙飛行士も必要となるでしょう。火星や月を探査するとなると、地質学に秀でた人が求められるかもしれません。それぞれのミッションによってニーズは変わってくるかなと思います。

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----サイエンティスト、エンジニア以外の方が宇宙に行くと、何か変わるんじゃないかなと思うのですが。

山崎 そう思いますね。今、宇宙飛行士の条件が、日本でもアメリカでも理系の大学を出ていることになっているんですけれど、いずれは変わって欲しいですよね。特に芸術の感性を持っている人が宇宙に行くと、もっといろいろなことを発信できるだろうし、新しい文化も生まれるのではないでしょうか。今後50年のうちにそういう変化は起こり得ると思います。

----多くの人が宇宙に行くとなると、更にテクノロジー以外のことも必要になってくると思いませんか?

山崎 そうですよね。今までは、人もある意味システムの一部として完全に組み込まれていて、機械化されてしまっているところがあったと思うんですけれど、さまざまな個性をもった、たくさんの人が宇宙に行くようになると、とてもそういうモデルじゃやりきれないですよね。地球上はまだ環境的に広いし、いろいろなマージンがある。だけど宇宙船の中は、今よりも少し大きくなったとしても、人工的な空間であり、かつリソースが非常にクリティカルだし、何かひとつ故障すると、すぐに命に直結するような場所なんです。対応策を何重に組んだとしても、その危険は地球とは比べものにならない。だから、宇宙船の中で人が長期にわたってどう生活し、生まれ、一生を過ごしていくのかは、非常に興味深いことだなと私は思いますね。

----それにしても、過去に前例のないフロンティアなプロジェクトには、一般的に言われているプロジェクトマネジメントではカバーできない何か違うエッセンスが必要となるはずだと思うんですね。そこでの共通の知というのは何なのか。リーダーシップとフォロワーシップなのか、好奇心なのか、山崎さんはいろいろな宇宙飛行士の方を見られていて、宇宙飛行士の共通の技能はどういうところにあると思いますか。

山崎 宇宙飛行士はそれぞれ結構個性はあって、性格という意味だと、ばらばらなんですね。でも、共通のエッセンスは私もあると思います。それは、おそらく判断力なのかな。優先度をつけて行動できること。何かが起こることは想定内、宇宙ではどんなことでも起こり得る。だから、ちょっとやそっとのことではたじろがないし、何か起こったときに、ここまでに押さえようという、そのセーフティーネットというか、ミニマムのラインを自分でしっかり考えている人が多いと思います。たとえば、何が起こってもとりあえず生きて帰ってくるぞとか、宇宙ステーションは存続させるぞ、とか。そのミニマムラインをしっかり押さえた上で、あるときは冷酷に、他のことは切り捨てたり、優先度をつけたり。そういう判断をできることですかね。

目次へ移動 フロンティアは未知に向かい、臨んでいくこと

----山崎さん自身のフロンティアというのはどういうところにあるのでしょう。

山崎 単純に考えれば、より遠くに、というのがフロンティアなのかもしれないですけれど、物理的な距離とはまたちょっと違うような気もしているんです。私にとっては、少しでも未知なことに向かい、臨んでいくのがフロンティアなのかなと。
 そういう意味では、これから私にとってのフロンティアは、一部のいわゆる宇宙族だけではなく、もっとたくさんの人が宇宙に行けるようになること。それによって活動領域が広がり、「人の可能性にはいろいろな切り口がある」ということに繋げていくことなのかなという気がします。何人かの特定の人が行くだけですと、それはフロンティアにはならないんです。行ったという冒険で終わってしまいます。
 そして、もっともっとたくさんの、それこそ地球全体を考える人たちが宇宙に目を向けるようになること。結局は宇宙でもどの分野でも、最終的には人の気持ちというのが大きくて、技術やシステムをつくっているのも人ですし、自分自身も含めて、人とのつながりを見つめ直しながら新しい可能性を広げていきたい。私自身もまだまだこれからなので。

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山崎直子 略歴
1970年千葉県生まれ。96年東京大学宇宙工学専攻修士課程修了後、NASDA(現JAXA)に勤務し、JEMプロジェクトチームで「きぼう」日本実験棟の開発業務などに従事。2001年JAXAで宇宙飛行士として認定。2006年NASAよりMS(搭乗運用技術者)として認定。2010年スペースシャトル「ディスカバリー号」による国際宇宙ステーション(ISS)組立ミッションにMSとして参加した。現在、東京大学で航空宇宙工学に関する研究に従事。


聞き手:神武直彦(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科准教授)
写真(ポートレイト):吉澤健太
編集:岡野 民(Think the Earthプロジェクト)

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