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地球リポート

from 福島 vol. 59 2011.12.07 福島の子どもたちを救え  〜猪苗代で始まった「外遊び支援」の試み

草木のにおいをかぎ、生き物を見つけ、泥んこになって土とたわむれる。五感を育み、生きる力を育てるには自然との関わりが欠かせないと、近年とくに自然体験を重視した幼児教育の場が広がっています。けれども今、自然とたわむれたくてもそれがかなわない子どもたちがいます。福島の子どもたちです。外を駆け回りたい年齢の子どもたちが、放射能に怯え、屋内で過ごす日々が続きます。心身への影響が心配されるなか、県内の子どもたちに外遊びをさせるための活動が動き出したことを知りました。比較的放射線量の低い地域に日帰りで子どもたちをバスで連れて行き、思い切り外遊びをさせることをめざすものです。猪苗代に拠点を置くNPO法人こどもの森ネットワークが事務局となり、新たに協働体「福島の子どもの外遊び支援ネットワーク」を立ち上げて、外遊び支援に取り組む計画です。NPO法人こどもの森ネットワーク理事長の橋口直幸さんの案内で、ある日の活動を取材しました。

目次へ移動 暮らしが一変した福島の子どもたち

福島第一原発の事故以後、福島の子どもたちの生活は大きく変わりました。食べ物は大丈夫なのか、外で遊んでも平気なのか。砂場は? 水は? いくら安全が強調されても、親の不安が消えるわけではありません。玩具会社ボーネルンドが0歳から6歳の子をもつ母親を対象に9月に実施した調査によれば、昨年より外遊びを減らした親は全国平均で14.5%、福島県で75%にのぼります。そして、56.7%が外遊びを減らしたことで子どもの成長に不安を感じると答えています。

感受性の強い幼児期に自然と密接にかかわることは、好奇心を刺激し、協調性を育むとされ、近年とくに自然体験の大切さが強調されています。アップダウンのある森や林を歩いたり、木登りをしたりすることで基礎体力の向上にもつながります。1990年代半ばにデンマークで生まれた「森のようちえん」をモデルにした幼児教育の場が全国に広がっている背景には、心身ともに豊かな子に育ってほしいという親たちの願いがあります。

猪苗代に拠点を置くNPO法人こどもの森ネットワーク理事長の橋口直幸さんは、2000年から磐梯高原をフィールドに森の楽校フォレストランドを開催。幼児を対象に外遊びの楽しさを伝える「森のようちえん」、原生林の奥にある川や滝で遊ぶ「リトルアドベンチャー」、木の実を食べたり昆虫を探したりして自然に親しむ「里山遊び」など、さまざまな自然体験プログラムを開催してきました。

059-002.jpg 「自然は人間教育そのもの」と語る橋口さん

目次へ移動 外遊びができないストレスが体を悪くする

そんな橋口さんにとって、外で遊びたくても遊べない子どもたちがいることはとても気がかりでした。

「今は原発事故後の第二段階にあると思います。新たな放射能の放出はないであろうことを前提にしても、一度降った放射性物質は除染しないかぎり、その数値は下がりません。室内遊びしかできないとストレスがたまって、健康への悪影響も心配されます。除染がなかなか進まない中でなにができるのか。せめて週末だけでも子どもたちを外で遊ばせてやりたいという思いでした

幸い、猪苗代町は比較的放射線量が少ないため、橋口さんの活動の場である猪苗代に、ともかく子どもたちを連れてこようと。それも継続的な活動でなくてはいけないと、枠組みづくりに動き出します。

バスを手配するだけでも費用がかかり、幼稚園や学校が自ら負担するのは大変です。とはいえ 寄付だけでは 継続的な活動はむずかしいと、平成23年度福島県地域づくり総合支援事業に申請。活動が認められて、この10月に「外遊び支援」が本格的にスタートしました。来年3月までに全35回、延べ1500人(引率の大人を含む)を、協働体を中心とした県内の自然体験施設数箇所に招く計画です。

059-001.jpg 紅葉シーズンの磐梯山(写真提供:NPO法人こどもの森ネットワーク)

橋口さんはもともとアウトドア雑誌のライターをしていました。取材でよく訪れていた磐梯山が気に入り、1994年に猪苗代に移住。その後、湿原を紹介した自分の記事がきっかけで心ならずもモラルの低い観光客を呼び込んでしまったと思えることがあり、自然が荒らされることに自己矛盾を感じるようになったと言います。

「自然のすばらしさを紹介することが、逆に自然にとって悪いことなのではないか」と感じたそうです。自然を守るためには一方通行で発信するのではなく、長期的にメッセージを伝えることが大事だと考えて方向転換、ネイチャーガイドとして活動をはじめます。ガイドとして一日に接するのが10人だとして、10回やれば100人にメッセージを伝えられると考えたのです。

ガイドとしての活動を続けるうち、もっと大事なのは子どもたちを導くことだと思いいたります。価値観が固まっていない子どものほうが自然のメッセージを敏感に感じ取れる。幼いうちに自然を体験ができる場を、とNPO法人こどもの森ネットワークを設立しました。

橋口さんは言います。

「自然には多くの学びの場があります。私自身も森から多くを教わりました。本物の体験の強さは何ものにも変えられない。園庭や公園と野外の森では多様性が違う。多様な環境で、多様な経験することで、社会や学校での変化に適応する力が高まるといわれています」

とはいえ、ただ子どもたちを自然に放てばうまくいくわけではありません。自然を理解している指導者が導くことが気づきにもつながるのです。

橋口さんが「外遊び支援」で心がけているのは、子どもたちに放射能を意識させないこと。通常の生活で、子どもたちはすでに放射能を意識しながら暮らさざるを得ない状況に置かれています。そうした状況から解放させ、思い切り自然の中で遊ばせてやるのが活動の主目的です。線量は事前に計測し、雨水や落ち葉のたまりやすい場所などは避けます。

橋口さん自身、原発事故後、先行きが見えない不安はあったと言います。けれども、会津の人たちは我慢強いのであまり口に出さない。Iターンの自分だからこそできることがあると、橋口さんは福島に残る決心をしました。

目次へ移動 子どもたちが数値を気にする現実

私たちが訪れた11月14日は、「外遊び支援」の3回目。これまでいわき市、福島市の子どもたちがバスでやってきました。この日は須賀川市にある「プリムラ保育園」の子どもたちを招きます。   遊ぶ場所は猪苗代駅から車で10分ほどの「昭和の森」。猪苗代湖が見える絶景ポイントとして知られる自然の里です。駅からの景色には磐梯山がそびえ、道の両脇に広がる田んぼには、白鳥たちが集まっていました。冬に備え、稲刈りをした後の落ち穂を食べているのだそうです。

059-003.jpg3歳から6歳の子どもたちがやってきました。遊ぶ前に注意事項をよく聞いて

059-004.jpg子どもたちはあっという間に散らばっていきました

当日はあいにくの曇り空。残念ながら猪苗代湖も霞がかってよく見えません。それでも子どもたちにとっては、特別な日になるはずです。3歳児から6歳児まで、総勢36人が大型バスで1時間かけてやってきました。

プリムラ保育園はもともと自然とのかかわりを大切にしていて、昨年も橋口さんの協力のもと、園の近くの里山で「森のようちえん」活動を行いました。今年は無理だとあきらめていたのですが、橋口さんが外遊び支援を始めたことを知り、より安心な猪苗代まで足を伸ばしたそうです。

059-005.jpg 何が見つかったかな? サポーターの土屋さんと

059-006.jpg 059-007.jpgまつぼっくりこんなにいっぱい拾ったよー

バスから降りた子どもたちは、はじける笑顔でさっそく四方八方へと走っていきます。呼び戻すのが大変なほど。まつぼっくりやどんぐりを見つけては歓声をあげ、石の下にダンゴムシを見つけて、おそるおそる触ってみます。大きなきのこを見つけてくる子も。きのこは食べちゃだめだよ、と教えて元の場所に戻します。

どんぐりや葉っぱを拾いながら、ちょっと心配そうな顔でこちらを振り返る女の子がいました。「これ放射能ついてない? 触っても大丈夫?」。4歳の幼い子どもの口から、放射能という言葉が出ることに胸を突かれました。年長の子が年少の子に「触っちゃダメだよ」と諭したり、「息を吸ってもいい?」と聞くこともあるそうです。

熊田富美子園長によれば、保育園周辺の放射線量はそれほど高いわけではないとのこと。それでも、親にとっては不安なもの。外遊びには慎重な保護者もいるため、外遊びをするかしないかについては保護者の希望を尊重し、通常の園生活では、外で遊ぶ子と遊ばない子に分かれて行動します。

ここには、小さい子どもたちの「日常」が奪われている現実がありました。実際、外に出ないことによる子どもたちへの健康被害も心配されています。郡山市によれば、外遊びができないために、成長期である幼児たちの体重が増えていないという調査報告もあります。

目次へ移動 子どもたちの笑顔がすべての答え

子どもたちにとっては放射能よりも、ストレスのほうが体への影響が大きいのではないでしょうか。福島に残ると決めたからには親が決心しましょう、と親御さんには伝えています」と、熊田園長は言います。

「親や先生たちの動揺が子どもたちに伝わると、それが子どもたちのストレスになって免疫力が低下して、体が弱ってしまうほうが心配です」

この夏は園でのプール遊びは中止。園で出す給食も、地震の前は地産地消として県内の野菜やお米を使っていたのが、今は福島県外の材料を選ぶようになりました。あの日を境に、すべてが変わってしまったことに、子どもたちを預かる身として無念でいることが伝わってきます。

この日は園児みんなが一緒に外で遊べたことがうれしかったと、熊田園長は言います。

「(今日の活動の成否は)子どもたちの表情がすべての答えです。つらいことが多いですが、こうして支援してくれる人がいるのはとてもうれしいことです。みんなに支えられることが、お母さんたちの支えにもなっています」

「むやみに怯えない、そして決心すること」が大切だと、穏やかに語る熊田園長の姿に、子どもたちの前で大人が弱気を見せてはいけないのだという信念を強く感じました。

059-008.jpg「子どもたちの笑顔が答えです」と熊田園長

この日は小雨が降ってきたこともあり、外で遊ぶ時間は1時間半ほどでしたが、小さい子どもたちには十分な時間です。「楽しかった?」と聞くと、目をきらきらさせて「楽しかった! また来たい!」と口々に答えてくれました。

目次へ移動 自然の恵みをアートに変えて

059-010.jpg今度は工作の時間です(緑の村内の「創作体験館わくわく」にて)

昼食の後は、橋口さんが震災前から活動の一環としてきた「森の工作どんぐり」の時間です。木の枝やまつぼっくり、どんぐりなど木の実を使って、自由に作品をつくります。飾りを上に高く積み上げていく子もいれば、「春」を表現した子もいて、子どもたちの柔軟なアイデアに驚かされます。それぞれが見事なアート作品を完成させました。

059-011.jpgどれにしようかな――めざせ芸術作品!

059-012.jpgみてみて、こんなに素敵なアート作品ができました

059-009.jpg楽しい時間を過ごしてご機嫌です

目次へ移動 自然とは「自分を肯定してくれる」存在

この日の活動を2人の若者が支えていたことも、とても印象に残りました。

1人は地元の猪苗代出身で、東京の大学を卒業したばかりの土屋勇輝さん。アルバイト先から就職の誘いを受けていましたが、3.11の地震を受けてそれを断り、ともかく何か自分にできることがしたい、と故郷に帰ってきました。橋口さんと知り合ったのは、避難所となっていた総合体育館(一時は500人が避難)に飛び込みでボランティア活動をしていたときです。橋口さんは町役場に掛け合って、避難所に子どもの遊び場を作るなど精力的に活動してきました。それを土屋さんも手伝ってきたのです。

米農家を営む父親からは「お前に何ができるんだ」と叱責されたとか。それでも今は、家業の傍ら地元のためにさまざまな活動に取り組む息子に理解を示してくれています。

059-013.jpgいてもたってもいられないと福島に戻ってきた土屋さん

もう1人が、福島大学4年生の西海明香里(さいかいあかり)さん。小学校教諭、保育士、幼稚園教諭の資格取得に向けて勉強する傍ら、1年ほど前から森のようちえんの活動を手伝ってきました。

「子どもたちと一緒に自然の中で遊ぶことで、自分も自然と向き合うことができました。子どもたちの関心の深さには学ぶことが大きく、違った目線を教えられた気がします」

059-014.jpg子どもたちに自然に対する姿勢を教えられたと語る西海さん

「自然と向き合うとどんなことを得られますか?」 そう尋ねると、ちょっと考えて「自分が肯定されている気がします。すべてを受け入れてくれるというか」と西海さん。

土屋さんもそれには大きくうなずきます。「自然は寛大なんですよ。生きる力を育ててくれる。東京に行って初めて、自然と相対することがない社会があることがショックだった。人間のルールしかない社会があった。自分は自然と切り離せない環境で生まれ、海や山、川すべてがフィールドだったから。学生時代に環境教育活動などもやってみたが、どこか違うと感じていた。ここでは本当の自然を教えられる。自然を知っている子にはもろさがないんです。知らないフィールドで鍛えられることで、心も強くなれる」

自分という存在を無条件で肯定してくれる自然が、子どもたちにとってどれほどかけがえのない存在なのか。自然と共に生きてきた2人の言葉には説得力がありました。橋口さんも、「自然はすべてを受け入れてくれる」と言います。自己肯定を育むには、包容力のある自然は絶好の教材というわけです。それなのに、自然の風の心地よさに包まれるどころか、風向きを心配する子どもたちがいるという悔しさが言葉の端々ににじんでいます。

目次へ移動 1年や2年で終わる問題ではない

けれども逆にそんな状況だからこそ、自然の力が子どもたちの心を解きほぐす頼もしい味方になってくれるかもしれません。「外遊び支援」の活動を一過性のものにしたくないと橋口さんは言います。夏休みや冬休みの長期休みに県外に子どもたちを連れ出す活動もありますが、もっと日常的な支援の場も必要です。福島県の子どもたちに継続的に外遊びの活動を支援していくには、億単位の予算が必要だと言います。

「決して小さくない額ですが、福島の子どもたちのためになんとかして予算を確保して、長期的に取り組んでいきたい。これは1年や2年で終わる問題じゃないんです。同じような活動をしている団体をつないでネットワークをつくり、福島県内広域で活動できる仕組みを整えるべく動いています」と、橋口さんは言います。

今回現地を訪れて、最も胸が痛んだのは、子どもたちが放射線量を気にしながら暮らしていることでした。福島原発から離れた地域では、たとえ大人たちが不安を抱いていても、幼い子どもたちまでは伝わっていません。

デイヴィッド・ソベルは著書『足元の自然からはじめよう』の中で、「重要なのは子どもが自然の世界と結びつく機会をもつこと、自然を愛することを学び、自然に包まれて居心地の良さを感じることだ。環境破壊について教えるのはそれからでいい」と書いています。

福島の子どもたちは、小学生どころか幼児の段階で、環境破壊の恐ろしさを知ってしまいました。そして、この状況がいつまで続くかわからないという不安につつまれています。子どもたちは、美しい福島の自然という遊び場を失っただけではなく、人生の大切な時間を奪われてしまった、そう感じずにはいられませんでした。

もちろん、私たちが見たのは福島の今のほんの断片です。もっと線量が高い地域に住む子どもたちのより過酷な実情を伝えられるものでもありません。それでも、大人である私たちが二度とこうした事態が起きないよう、声を上げていかなければいけないことを痛感させられました。そして、福島で今を生きる子どもたちのために、金銭的・精神的・物理的な支援を続けなければいけないことも強く感じました。子どもたちの大切な時間と未来をこれ以上奪わないために。

関連URL
NPO法人こどもの森ネットワーク http://kodomo-mori.net/
森の楽校フォレストランド http://www.fr-land.com/

著者プロフィール
小泉淳子
ニュース週刊誌の記者・編集者を経て、現在は書籍の編集に携わる。教育問題やカルチャーなどを取材。環境や人にまつわる問題を多面的な視点で発信していきたいと考えている。


取材・執筆:小泉淳子
写真・編集:上田壮一(Think the Earth)

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