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環境先進国スウェーデンの取り組み|地球リポート|Think the Earth

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地球リポート

from スウェーデン vol. 02 2001.04.26 環境先進国スウェーデンの取り組み

地球に関する情報で、ポジティブで少しためになることはないかなぁと考えていたら、4年前から購読している“スウェーデン環境ニュース”が目に入りました。 この、日本で手に入る数少ないスウェーデンの環境情報源は、時には悩み、痛みを伴いながらも、 持続可能な社会づくりを目指して前向きに歩んでいるスウェーデンの姿を、わかりやすい言葉で伝えてくれています。 そこで、このニュースの発行人、レーナ・リンダルさんにスウェーデンの「今」についてお話を伺いながら、持続可能な社会づくりのヒントを探ってみました。

目次へ移動 北欧の中立国スウェーデン 多彩な横顔

国土の広さは45万平方キロメートル。日本の国土の約1.2倍でスペインやタイと同程度の大きさですが、 その80%は山や川、森林に覆われており、人口は東京都よりはるかに少ない890万人。 1818年から200年近く戦争をしていない国、スウェーデンについて、いくつかの事実を探してみました。

(左)エーランド島は古くから風力を利用してきた土地で古い風車が今も残っている風力発電所は現代の風車ですね...(右)雪の中でも動く!風力発電 (ゴットランド島)

その1:
米IDCと米World Times による2001年版の「情報社会指数(ISI)」ランキングで、昨年に続き、1位を獲得。
http://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=IDC_P7066(in English)
http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2001/0209/isi.htm

その2:
列国議員連盟 Inter-Parliamentary Union(IPU)の統計Women in Parliamentによると、国会議員に占める女性の割合が世界でもっとも高い。
http://www.ipu.org/wmn-e/classif.htm (in English) http://www8.cao.go.jp/whitepaper/danjyo/plan2000/h12/1-1.html

その3:
1998~1999年度の対GNP比のODA(政府開発援助)実績が世界4位
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo/nenji99/n8_3.html http://www.ssb.no/en/uhjelpoecd/arkiv/art-2001-03-05-01-en.html (in English)
http://www.asiapacific.ca/data/devt/donor_dataset4_compare.cfm (in English)

その4:
1998年の電通総研による日・米・英・独・仏・スウェーデン6カ国の価値観比較調査で、「10年後の自国は今より良くなっていると思うか ?」という質問にそう思うと答えたスウェーデン人は58.6%。1位の米国(63%)についで2位。 http://dci.dentsu.co.jp/pdf/value2.pdf http://dci.dentsu.co.jp/publication/wvs/index.asp(世界価値観調査について) (2005-, Dentsu Communication Institute Inc.)

また、日本では福祉先進国というイメージも強く、インターネット書店『アマゾン.com』のサーチエンジンで「スウェーデン・福祉」に関する日本の書籍を検索すると、152件が検出されました。

そして、私が最近注目しているのは「環境先進国」としてのスウェーデンです。 スウェーデン生まれで、東京在住歴11年のレーナ・リンダルさんに、スウェーデン最新環境事情を聞いてみました。 レーナさんは、1982~84年まで京都に滞在。一度帰国していた時に、環境問題への意識の高まるスウェーデンの変化を経験しました。 その一方で、企業による熱帯林の破壊、ODAによる環境破壊、原発問題などを抱える日本の状況にいてもたってもいられなくなり、89年に再来日。 環境NGOでのボランティアや国会関係の仕事などを経た後、日本にスウェーデンの先進的な環境情報をオンタイムで伝える、"スウェーデン環境ニュース"を1997年から発行しています。

レーナ:財政が苦しくて一部民営化したりしたけど・・・今でも、スウェーデンは日本や他の国に比べて福祉の進んだ国だといえると思います。 環境に取り組み始めたのは、福祉よりもっと根本的な、人間が生きる基本的条件となる水や空気の安全が脅かされていることに、スウェーデンの人たちが気づき始めたからです。 福祉を推進して国や国民が学んだのは、『予防の原則』でした。問題が大きくなる前に未然に防いだ方が最終的な負担も減るということを身をもって経験していたので、 環境問題に対しても同じ考え方で取り組みました。

-1996年には、首相自らが、積極的に「持続可能な社会」のモデル国を作ることで国際貢献をしていくことを表明していますが・・・。

レーナ:首相が先頭をきって表明したというより、市民や企業の取り組みが既に先行していて、首相の宣言はそれに後押しされたのだと思います。日本で【スウェーデン環境ニュース】の発行を始めて4年経ちますが、スウェーデン政府は、掲げた目標はきちんとフォローしているし、ニュースのネタはつきることがありません。

目次へ移動 バイオガスが自動車燃料として実用化

最近のレーナさんのニュースでは、エネルギーに関係する記事が多いようです。レーナさんが最近のスウェーデンの取り組みで注目していることを聞いてみました。

レーナ:車の問題は長い間議論されていなかったけど、既に具体的な対応が始まっています。ガソリン燃料に小麦から精製したエタノールを混合したり、バイオガスや天然ガスを利用したり、何人かのグループで車を共同利用するカーシェアリングの取り組みなどがはじまっています。 また、車に乗る人による環境団体 (The Swedish Association of Green Motorists) もできました。

-ガソリン燃料の話は画期的ですね。どれくらい普及しているのでしょうか?

レーナ:ヨーテボリ市では、バイオガス*や天然ガスを活用したタクシーの開発・普及に市とエネルギー公社・タクシー会社・ VOLVO Car Corporation*が協力して取り組んでいます。 生ごみからバイオガスを作り、ごみ収集車や公用車への利用に力を入れているのはボロース市です。 ストックホルムのガソリンスタンドでは「小麦から作ったエタノールを混合したガソリン」や 「下水処理場から採取したバイオガス」の自動供給機がふつうのガソリンと一緒に売られています。エタノール混合のガソリンはこれからストックホルム周辺でもっとたくさん販売がはじまる予定です。 例示したのは主な事例ですが、スウェーデンはほとんどすべての自治体が持続可能な社会づくりプラン(ローカルアジェンダ21)を策定しており、いろいろな取り組みをしています。

ヨーテボリ市を走るガソリン/ガスのハイブリドタクシー

ちなみに、ヨーテボリ市でガスを供給しているFordonsgas 社 (フォードンスガース= vehiclegas) のデータによると、普通のガソリンが9.99クローネ/リットル、ディーゼル燃料が8.72クローネ/リットルなのに対し、1リットルのガソリンに相当するバイオガスや天然ガスの値段は6クローネです。環境配慮型の燃料が、むしろ割安なのです。(注:1クローネ=約12円)

* バイオガスとは
発酵可能な有機物資源(家畜の糞尿、生ごみ、規格外の農産物など)を酸素の無い状態で発酵させ、取り出す可燃性ガスの事です。 成分はメタン(天然ガスの成分)が65%程度と、残りはほとんど二酸化炭素で、燃料として使用できます

* VOLVO Car Corporation
VOLVOとひとくちに言っても、"Volvo Group" "Volvo Car Corporation" の2つの組織に分かれます。普通"ボルボ"と聞いて思い浮かぶのは、乗用車を作っている後者の方で、99年からFord Motor Company の傘下に入りました。Volvo Groupの方は、車の販売から、交通システムを考えたり、移動手段としての車を提供するサービスの販売に方針転換しつつあります。

目次へ移動 進んでいるのは環境対策だけではない

実用化の進んだスウェーデンの様子を見てもらうために、昨年から、レーナさん自らエコツアーを企画しています。

エコツアーの参加者は、スウェーデンの雄大な自然にもふれる(ストーラ・シェーファレット国立公園 (Stora Sjofallet)にて

レーナ:みなさん、環境技術の実用例を学びたいと思って行かれるようなんですが、(特に日本は)既に立派な技術を持っているんですよ。
スウェーデンが長けているのは、教育・情報公開など、システムやソフト面なんです。 現場の人たちと対話をして、そこを是非学んで欲しいと思っています。

スウェーデンが誇れるのは、コミュニケーションの能力。そして、何事もきちんと説明し、ごまかさないと言うこと。 作業服を着たおじさんが、工場の環境対策について、誰にでもわかる言葉で丁寧に説明していることに、多くの日本人は驚かれますが、 自分の考えを人に伝える教育が行き届いているスウェーデンでは、これは当たり前のことなんです。政府や企業の広報も、おしゃれで誰でも理解できる工夫がされています。バスや電車の中で、あるいは町中で、 自治体や廃棄物処理会社がゴミの分別や有害廃棄物の取り扱いについて説明している広告を、日常的に見かけます。容器包装業界の依頼で、環境教育の財団が容器包装リサイクルの説明パンフレットを作成するなんていう連携もしています。

(左)廃棄物処理会社が電車内の広告で有害廃棄物の処理の仕方をPR(右)『有害廃棄物の処理については市の作ったパンフレットの45ページを見ましょう』と、街角のポスターで呼びかけ

リサイクルや環境計画を説明した、自治体や処理業者のパンフレットデザイン性も優れている

-いくら良いことを広めようとしたり、法律を決めても、一人一人に理解してもらわないと、実践されないですからね。

レーナ:子供の頃から、学校や家庭で、自分の意見を相手に説明する、とか、情報はどのようにしたら手にはいるのか、 といった訓練・教育を受けてくるのです。 学校に市民団体の人がやってきて、政府に対して意見を言いたいときはどうしたらよいかとか、 どうやったら必要な情報が手にはいるかということを教えてくれるんです。・・・自分自身が、変える力や発言する権利を持っていると知ることによって、未来に対するあきらめや不安を取り除こうという考え方なんです。

-前向きな考え方ですね。未来に対して希望を持つことは、持続可能な社会を築くうえでも重要な要素であるような気がします。 最後に、レーナさんからこんな提案をいただきました。

レーナ:日本で「消費者」というと、女性、特に主婦の方を思い浮かべることが多いでしょう? でも、ものを食べて、毎日生活している皆さんひとりひとりが「消費者」なんです。毎日飲むビールを、週に一回くらい有機ビールにしたり、会社で飲むコーヒー・紅茶をフェアトレードショッピング (http://www.fairtrade-jp.org/About_Fairtrade/About_Fairtrade.html) で買ったものにしたり、誰でもできることが必ずあるはずです。

有機栽培小麦で作ったエコビール。普通のスーパーでも買える。値段も普通のビールとそれほど変わらない

レーナさんにお話を伺ってみてわかったのは、スウェーデンは環境先進国という一言では言い表せないのだなということです。「誰でも同じように情報にアクセスできる社会」「誰でも安心して暮らせる社会」、そして「未来に希望が持てる社会」を築くために、 環境にできるだけ無理をさせない持続可能な社会づくりが大切なのだという結論を、スウェーデンの人たちは導き出したのではないかと感じました。

インタビューにご協力いただいたレーナさん、本当にありがとうございました。

レーナ・リンダル (Lena Lindahl) さん
スウェーデン生まれ。1982~84年まで京都に滞在。89年に再来日。環境保護団体でのボランティア等を経て、 90年から4年半にわたり、地球環境国際議員連盟(GLOBE International*)日本事務局に勤務。日本の政治を通じて日本を変えることの難しさを感じると同時に、外国からの情報が変化の刺激になることも実感。スウェーデンの建設的で前向きな環境対策を日本に伝えるため、97年~「スウェーデン環境ニュース*」を発行。
現在は、ニュースの発行、執筆、講演活動を通じてスウェーデンの環境保護活動や政策を日本で紹介しながら、外国企業向けに日本の環境政策の調査、報告をしています。 特定非営利活動法人(NPO) ナチュラル・ステップ・ジャパン* 副理事長(2000年6月) 夏には、本文中にもご紹介した「スウェーデンエコツアー」を企画中 問い合わせは VZQ11450@nifty.ne.jp まで

* スウェーデン環境ニュース http://www.netjoy.ne.jp/~lena/
* GLOBE JAPAN http://www4.osk.3web.ne.jp/~globejp/
* ナチュラル・ステップ・ジャパン http://www.tnsij.org/index.html
・ ナチュラル・ステップ http://www.naturalstep.org/ (in English/Swedish/Japanese)

取材: Think the Earthプロジェクト 原田 麻里子
写真: Think the Earthプロジェクト 上田 壮一

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