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『気候変動+2℃』特別対談:アル・ゴア×山本良一|地球リポート|Think the Earth

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地球リポート

from 東京 vol. 32 2007.02.05 『気候変動+2℃』特別対談:アル・ゴア×山本良一

『不都合な真実』という映画、もうご覧になったでしょうか。環境問題に関心を持ち続けてきたアメリカの元副大統領アル・ゴアが、地球温暖化が、人類が取り組むべき緊急課題であることを、わかりやすくメッセージするドキュメンタリー映画。経済を優先するために京都議定書から離脱し、テロとの戦いに邁進するブッシュ大統領の顔ばかり目立つようになってしまった昨今のアメリカの印象とは違う、もうひとつのアメリカを見ることができます。豊富なデータを駆使して聴衆に訴えかけるゴア氏の熱意に打たれ、見終わった時に勇気を与えられる作品です。

2007年1月、この映画の宣伝のために来日したゴア氏と、『気候変動+2℃』の責任編集を務めた山本良一教授の対談が実現しました。今回の地球リポートは、その対談の内容をお届けします。

目次へ移動 2007年は運命の年

  • 山本:
    2006年は、温暖化が更なる温暖化を招き始めたことが実際に様々な観測から裏付けられた年として記憶されることになるでしょう。そして、2007年はエルニーニョと地球温暖化の進行によって、観測史上最も暑い年になるだろうと予測されています。このような意味で、2007年は人類にとって、運命の年になるだろうと考えています。

    私が責任編集を務めた書籍『気候変動+2℃』には、このまま高度経済成長を続けていった場合の気候シミュレーションを載せているのですが、ヨーロッパ諸国が設定している「気候ターゲット2℃」は、あと20年で突破されてしまうという結果になっています。このように温暖化が加速している状況を、世界の政治家や経済界のリーダーたちはどのくらい真剣に受け止めているのでしょう。

  • ゴア:
    地球温暖化に対する世界中の人びとの考え方に、変化が起こり始めています。ビジネス界のリーダーのなかにも、この問題に対して指導的な役割を果たす人が出てきています。しかし、今のままでは十分ではありません。この危機の深刻さを認識していない人がまだ大勢いますし、頭ではわかっていても、それがどれほど緊急の事態かを感じ取れない人も多くいます。重要なのは、地球温暖化がいかに切迫した問題かということを認識し、行動を起こすことです。

目次へ移動 倫理的想像力が試されている

  • 山本:
    世界の政治と経済のリーダーが直ちに行動を起こすべきだと私も思うのですが、その認識が広がる鍵はどこにありますか。

  • ゴア:
    いま地球に起きている温暖化の問題は、人類史上、誰も経験したことがないものです。誰も経験したことのない問題に立ち向かうためには、想像力が必要です。つまり、私たちの倫理的想像力(Moral Imagination)が試されているのです。

    世界の人口は100年にも満たない間に4倍に増え、現在のテクノロジーは私たちの祖父の代が使っていたものより何千倍も強力なものになりました。私たちは今、目先の満足、短期的な結果ばかりを追いかけ、現在の行動が長期的にもたらす結果については責任を負おうとしません。そのために、私たちの文明が地球生態系を劣化させる事態を招いてしまいました。

    地球の生態系の中でもっとも脆弱なのは、地球を包む、ごく薄い大気の層です。それを私たちは地球温暖化の原因となる汚染物質で満たそうとしているのです。これがどういうことなのか、なぜ深刻な問題なのか、なぜ緊急に行動をとらなければならないかを、より多くの人々に理解してもらわなければなりません。理解し、想像力を働かせることこそが、十分な行動を起こしていくために不可欠なことなのです。

目次へ移動 今ならまだ、温度計が上がるのを止められる

  • 山本:
    今年1月8日のカナダの新聞に「このまま地球温暖化の暴走が進むと、2012年までに45億人の人々が死ぬかもしれない」という記事が載りました。この数字の算出根拠は示されていませんが、新年早々、大きな驚きでした。

  • ゴア:
    2012年までに出るとされる死者の数については、まったく当てになりませんし、私はそのようなことにはならないと思います。地球温暖化はもう止められないから打つ手は何もないと思わせるような意見の裏付けとして、事実のごく一部だけが使われることがありますが、絶望感を煽るようなことはすべきではありません。大切なのは、「今すぐに行動を起こす必要に気づくこと」なのです。

  • 山本:
    メタンハイドレードの融解が、地球温暖化の暴走の引き金を引くのではないかと心配されています。

  • ゴア:
    ツンドラ地帯に凍った二酸化炭素とメタンが大量にあることは確かです。特にシベリアに多いのですが、アラスカの北部にもあります。こうしたツンドラの凍土が融けると、二酸化炭素が大気中に大量に放出されます。シベリアの凍った炭素とメタンがすべて融けた場合、大気中の二酸化炭素の量は2倍に増えます。凍った炭素やメタンハイドレートは、同様の地形を持つ浅い海にも大量に存在します。いわゆるティッピングポイント(=小さな変化が大きな変化を起こす劇的な瞬間)を超えると、望ましくないフィードバックが起き、問題が拡大する可能性があります。大事なことは、ティッピングポイントを超えてしまわないことです。

    今ならまだ、温度計が上がるのを止めることができます。私たちが今すぐ行動を起こすことで、ツンドラの凍土の大部分を凍った状態のままにしておくことができるのです。

目次へ移動 政治的意思は再生可能な資源だ

  • 山本:
    ゴアさんは温暖化の問題に30年以上取り組んでこられ、京都議定書の取りまとめにも強力なリーダーシップを発揮されましたが、ブッシュ政権はそれを批准しませんでした。もしゴアさんが大統領になっていたら、地球温暖化の問題はどれほど違っていたかと思わずにはいられません。


  • ゴア:
    おっしゃるように、温暖化の問題を最優先にしていたと思いますし、おそらく今とは違う結果になっていることが多くあったでしょう。もちろん、現政権とは異なる過ちも犯したかもしれませんが、私たちが当時発していた警告については、過ちを犯さずに済んだはずです。それよりも今、私たちが直面している最も重要な課題は、気候の危機に対し、一刻も早く、しかも大胆に行動を起こすよう、世界全体を動かすことです。

  • 山本:
    映画と同時に刊行された著書『不都合な真実』の中で、ゴアさんは「私たちは、この危機の解決に向けて取り組みを始めるために、必要なものはすべて手にしている。例外があるとしたら、政治的意思だけだろう。しかし、米国では、政治的意思は再生可能な資源である」と述べられています。その言葉を多くの人が支持しています。

    アメリカでは「地球温暖化はジョーク」とまで言った共和党のジェームズ・インホフ議員が環境委員会の委員長を辞め、代わりに民主党のバーバラ・ボクサー議員が地球温暖化政策についてもリーダーシップを発揮すると聞いています。民主党が中間選挙で勝利したことで、アメリカの地球環境問題に対する政策は変わりますか。

  • ゴア:
    変わると思いますし、明るい兆しが既に見えてきています。新しい議会がより責任ある方法を採ろうとする動きが始まっています。しかし、ブッシュとチェイニーによる現政権はバーバラのアクションに反対の立場をとっていますので、議会とホワイトハウスとのあいだに論争がおこるでしょう。でも私は、新生議会の新たな政策に大いに希望を持っています。

  • 山本:
    日本の現内閣はイノベーション推進を基本政策の中心に置き、中でもエコ・イノベーション、環境に配慮した、環境効率の高い製品サービスをいかに創出するかが重要だと考えています。エコ・プロダクツを国際的に普及させるため、国際グリーン購入ネットワークを設立し、アジア、太平洋諸国、特に中国とインドに拡大させようとしています。地球温暖化をストップさせるための薬は、エコ・イノベーションとエコ・プロダクツの普及(グリーン購入)だと、私は考えています。

目次へ移動 世界の人々は、必ず行動を起こすだろう

  • 山本:
    日本のビジネスのリーダー、あるいは政治家のみなさんに、アドバイスをお願いしたいのですが。

  • ゴア:
    時代の転換点となった議定書が、日本がホスト国をされた会議で生まれたことで、「京都」の名は長く歴史に残るでしょう。課題はまだ山積しているとはいえ、これまで日本は素晴らしいリーダーシップを示してくださいました。そのことに大いに敬意を抱いていますので、アドバイスといわれると躊躇してしまいます。自分の国の政策でさえ変えられないでいるのに......

    ただ、日本のようなリーダーであっても、さらに大きな努力を求められていることは確かです。温暖化は、地球全体の緊急事態です。すべての国が、二酸化炭素排出を削減し、代替品の開発を加速しなくてはなりません。私がここで言う代替品とは、環境汚染を起こさずに生活の質を高められるものであり、自然資源の消費を抑制しながら、持続可能な成長を可能にするものです。日本の政界や経済界のリーダーの皆さんには、さらに高い目標を目指されるよう、期待しています。そして、アメリカはそれよりも、さらに多くの努力をしなければなりません。そのためにも、私は取り組みの大半を私自身の国、アメリカの政策転換に向けて活動していこうと考えています。

  • 山本:
    映画『不都合な真実』は地球温暖化への警告であると共に、それに立ち向かおうとする勇気を与えてくれる素晴らしいドキュメンタリーです。今後、この問題に対する解決の見通しをゴアさんはどのように持っていますか?

  • ゴア:
    地球温暖化という危機に対して、世界の人びとは必ず反応し、行動を起こすでしょう。私は楽観的な見通しをもっています。まだ時間はあります。でも、仕事は今すぐに始めなければなりません。



アル・ゴア(Al Gore)
元アメリカ副大統領
1976年米国下院議員に選出され、84年と90年、上院議員に選出される。93年、米国第45代副大統領に就任し、8年間その職務を果たした。環境問題の論客としても知られ、92年の著書『地球の掟?文明と環境のバランスを求めて』はベストセラーに。アップル・コンピュータの取締役およびグーグルの上級顧問も務めている。

山本良一(Ryoichi Yamamoto)
東京大学生産技術研究所教授
東京大学工学部冶金学科卒業。工学博士。文部科学省科学官、エコマテリアル研究会名誉会長、日本LCA(ライフサイクルアセスメント)学会会長、グリーン購入ネットワーク名誉代表など、多くの要職を兼務。『地球を救うエコマテリアル革命』など著書多数。『1秒の世界』『世界を変えるお金の使い方』『気候変動+2℃』の責任編集も務めた。

映画『不都合な真実』
2007年1月20日(土)より、TOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて全国ロードショー(配給:UIP映画) 映画『不都合な真実』は、2006年に全米で公開され、当初は77館という小規模なスタートだったが、全米BOX OFFICE TOP10にランクインされて以後、約600館にまで拡大。アメリカのドキュメンタリー映画史上、記録的な大ヒット作品となった。世界最大のオークションサイト、eBAYの創始者であり、ハリウッドのプロデューサーとしても知られるジェフ・スコールが講演に感動して映画化の話が進んだというエピソードも興味深い。2006年度アカデミー賞に2部門ノミネートされている。



編集:Think the Earthプロジェクト 上田壮一/岡野民
撮影:柳沼浩胆
協力:ダイヤモンド社

※ 本対談は、週刊ダイヤモンド(2007/2/3号)にも掲載されています。

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