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地球ヴィジョン

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2017.08.23

「人類」を超えるまなざしと「地球生命」としての自覚

日本科学未来館 館長/宇宙飛行士 毛利 衛

私が館長をしている日本科学未来館では、まるで宇宙にいるかのように地球を眺めることができます。最先端材料の有機ELで輝く200万分の一の地球、ジオ・コスモスです。このシンボル展示の目的は来館するすべての皆さんに自分の存在と地球とのかかわりを考えていただくことです。なぜなら21世紀、科学技術で急速に変化する私たちの社会が実はすべて地球環境に依存していることを再認識してほしいからです。

 1992年、私が初めて地球を宇宙から周回したとき、太陽が当たっている側には人間の存在を感じさせるものはあまり見えませんでした。
 しかし、光が当たっていない側、すなわち夜の地球の上にさしかかると、一転、人間の発するオレンジ色の光が地表に輝きだします。夜の地球上には人間の気配がはっきりと現れるのです。当時、地球上の人間の数は54億でした。
 私が再び宇宙へ飛んだのは2000年。夜の地球で輝くオレンジ色の光はその数を増していました。人の数と消費するエネルギーが10年足らずで急速に増加していることを明確に認識しました。

 二度にわたる宇宙でのミッションを終え、地上に戻ってきた私は日本科学未来館の館長になり、当時最先端材料のLEDを使ってハイビジョンの高精細画素数を持つ球体ディスプレイ、ジオ・コスモスを作りました。それからさらに10年が過ぎ、地球上の人間の数は2000年の61億から2011年には70億になりました。そこで地球をさらに高精細に映し出すために4Kスーパ-ハイビジョンに相当する現在のジオ・コスモスに作り変えました。夜の地球の様子がとてもよくわかるようになりました。そして2017年、いまや世界人口は75億になろうとしています。国連の予測によれば、2050年には100億に迫るとされています。
 しかし、数を増やしつつあるオレンジ色の光を宇宙から見た私には、「このまま順調に増えていくことはないだろう」という不安もありました。100億に届くよりも前に地球上の人間の数が、急減する時が来る気がしています。

 そうした惨事をもたらすのは、もしかしたら大地震や火山の大噴火かもしれません。さらに、自然災害とは別に人類自身がつくりだすハザード、つまり人災もあります。
 人類社会がつくりだすハザードというと、テロ、戦争や原発事故を思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、私たち人類が生みだしたのはこういったものだけではありません。人間の活動が原因となった気候変動はいま、巨大台風の頻発や海面上昇、大洪水をもたらしています。人が原生林の開発で奥深くまで入り森林伐採したために未知の感染症が人間社会に運びこまれたこと、そして人と動物との距離が縮まりすぎたことによる人畜共通感染症のリスクが現在拡大しています。そして、そうした感染症は人ともののグローバルな移動が簡単にできるようになったため、またたくまに世界中に蔓延します。最近ヒアリが大きな問題になっていますが、それは目で見つけることが可能です。しかし、目に見えない微生物のグローバルな移動は簡単には止められません。さらにそれらを駆逐しようとして人間が作り出した抗生物質や薬剤に耐性を持つ病原菌がこれから増えてゆきます
 人類社会は人間という種の存続すら脅かされるほどの多様なハザードをつくりだし、それに取り囲まれているのです。

 必ずしも右肩上がりに人口が増えなくてもいい。しかしせめて地球上の生命として人間が持続的に生き延びていくにはどうしたらいいか。新たな生き方を模索すべき時期が来ています。その鍵を握るのは、「人間が、これまでとは違う視点を獲得すること」だと私は思います。

 私たちの直接的な祖先である新人類が数十万年前に地球上に登場してから氷河期が終了する一万年ほど前までは、それぞれが家族単位で自分の命をつないでいくことで精いっぱいでした。当時は、ほかの動物と同じく狩猟をして食料を確保するために移動しながらの生活でした。
 氷河期が終わり、地球環境が安定した時、人間は農業を発明しました。科学技術の知恵による、動物から人間に進化するための大イノベーションでした。春に種を播き秋に穀物を収穫する農耕生活のおかげで人間は定住でき、集団生活が可能になりました。それにより、一人ひとりが個々の力だけで生き延びるのではなく、より多くの個が助け合いながら生き延びられるように、人間は社会をつくりました。人間が集団として生き延びていくための知恵を育み、それを文化として築き上げたのです。宗教や芸術だけでなく、科学や技術、政治や経済、スポーツやビジネスも生き延びるための知恵つまり「文化」と言えます。人間は自然環境が安定して、「個」の視点から脱し「人類」として生き延びていく視点を獲得したのです。

 しかし、いまや「人類だけ」のレベルにとどまっていては、人間が地球で持続的に生き延びることはできないと私は思います。科学や技術の進歩で生き延びよう、とか、国と国とが議論を重ねて生き延びようというのは、「人類だけ」のレベルでの解決法です。そこには限界が見えつつあります。
 いま必要なのは、「人類」という枠組みを超えて、自身を「地球に生きる生命のひとつ」としてとらえ直すことではないでしょうか。「人類が生き延びるため」に「地球生命体の一員として、生命が生きられるこの地球環境とともに生き延びるにはどうしたらいいか」という視点をもつ人が増えれば、人間は「人類」という種として大きな一歩を踏み出せるはずです。

 「地球上で人間が生きられないなら、よその星に行ったらいいじゃないか」という考え方もあるでしょう。しかし、私が宇宙経験で得た確信のひとつは、人間だけでは決して地球の外で持続的に生き延びることはできない、ということです。人間は火星探査に行くことは可能ですが世代を超えて持続的に生き延びることは、今の体の形ではできません。
 スペースシャトルの中で私が生きていられたのは、地球環境を模倣した生命維持装置として宇宙船環境を作り、地球から運ばれた資源を使って徹底的に科学技術で制御していたからです。しかも短期間で地球環境に再び戻ってくるのが前提です。宇宙では世代を超えることはおろか、一人の一生すら過ごすことはできないのです。

 地球という惑星とそこで生まれた生命はすべて、お互いに影響を与え合ってこの40億年もの長い期間を過ごしてきました。人間もそのつながりの一部にすぎません。ですから地球の環境をまるごと、空気や水だけでなく地球上の多様な生命たちをすべて一緒に持っていけなければ、地球を離れた宇宙で生き延びることはできないのです。

  「人間の個」という枠組みを超え、「人類」という枠組みも超え、「地球生命体」という視点を手に入れようとするとき、逆説的に聞こえるかもしれませんが、重要なのは「個」の価値観や「個」の知恵です。
  「個」がグローバルにつながり、新たな価値観や生き延びていく知恵を瞬時に共有することで、人類全体として生き延びる知恵が出てくるのだと私は思います。

 それを可能にしてくれるのがインターネットでありAIの賢い利用です。新たな視点、新たな生き方が地球上のどこかに生まれたとき、それは一国の施策として、またはある組織の行動として、長い時間をかけて社会に浸透していくのではなく、個と個の間で急速にグローバルな人類社会として共有され、広まります。
 私たちが手にしたこの新しいツールによって、21世紀に入って「地球生命体」の視点でものを考える人の数は急速に、しかも確実に増えています。しかし科学技術で生まれたインターネットやAIはあくまで人間の道具であり、生命としての人間を超えることはあり得ないという、私たちの地球生命としての自覚が何より大切です。

毛利 衛

毛利 衛

日本科学未来館 館長/宇宙飛行士

1948年生まれ。理学博士。北海道大学助教授 核融合研究者だった85年に日本初の宇宙飛行士に選ばれる。92年にスペースシャトル・エンデバー号に搭乗。98年にはNASA宇宙飛行士の資格を取得し、2000年に再びエンデバー号に搭乗。同年10月に日本科学未来館館長に就任。03年、しんかい6500にて深海実験。同年、南極で世界初の皆既日食生中継を行う。07年、南極昭和基地開設50周年事業に参加。内閣総理大臣顕彰、日本放送協会放送文化賞など受賞多数。著書30冊以上。
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