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2020.02.04 | 山田由美

「コメを食べる鳥」を呼び戻せ 香港の水田が生物多様性の宝庫に

里山の環境をよみがえらせた香港のロングバレー。現在、探鳥地としても人気 ©️Kit Lam@HKBWS

かつて、中国大陸の南部で食用のために捕獲しすぎたことが一つのきっかけになり絶滅寸前になったがいます。シマアオジという体長約15センチの小さな鳥です。

この鳥は渡り鳥で、主にロシアなどで繁殖し、越冬のために中国南部や東南アジアに渡ってきます。日本でも北海道の草原でかつて繁殖が見られましたが、今その姿を見ることはもはや難しく、IUCNのレッドリストでも絶滅危惧種の「Critically Endangered」という分類に挙げられています。これは極度に高い絶滅リスクに直面している野生種の「深刻な危機」を意味しています。

胸が黄色いことから英名では“Yellow-breasted Bunting”と呼ばれるシマアオジ ©️Oldcar@HKBWS

シマアオジが渡りの途中で立ち寄る「中継地」や渡り先の「越冬地」の多くは湿地性の稲作地帯。秋に飛来して米を食べるシマアオジは害鳥とされ、さらには米を食べたことによる食味の良さから一網打尽に捕獲され食されてきたのです。1980年代以降市場での売買が急増。地域で「米の鳥」と呼ばれたこの鳥を食べるお祭りすらありました。

シマアオジが激減したことを受け、中国広東省はこの鳥を「広東省重点保護陸生野生動物」に指定して法的に保護のレベルを強化しています。現在、この鳥を食べるのは一部の高齢世代ですが、闇市場での売買は相変わらず続いています。一度激減した個体群はそう簡単に回復できず、シマアオジにとっての脅威は依然「人間の捕獲」なのです。

「シマアオジを食べないで!」と呼びかけた香港観鳥会製作のポスター

ただ、もう一つの要素が絡み合っていることも示さなければなりません。実はこれも人間の活動と密接な関係があります。それは水田という「生息地の喪失」です。例えば香港ではコメの市場価格が下がり続け、農家は米よりも栽培に時間が掛からず、かつ利益率のよい「野菜」を栽培することに営農形態をシフトしていきました。結果、香港の水田の生息地はほとんど消滅したといわれています。これでは捕獲が止まったとしても繁殖地としての機能を維持することができません。

この状況を受け、香港野鳥会(HKBWS)と地元のNGO、Conservancy Associationなどが香港北部のロングバレー(Long Valley)という場所で、2005年、とあるプロジェクトを始動させました。それは豊かな水を湛える氾濫原で水田を営み、シマアオジを迎える取り組み。政府から財政的な支援を受け、農家と協力し、2009年水田の回復から始まったこの取り組みは、今10年の月日を経て、ポジティブなインパクトを見せ始めています。

当初計画を聞かされた農家は「だれも自分の水田の穀物を鳥に食べさせようだなんてしないよ」と一笑に付しました。ところが数年後「自分の水田に鳥が目指してくること」をハッピーだと感じるような変化が起こります。2005年に確認された鳥の種数は230だったのが、2019年には317まで上昇。鳥だけでなく両生類、昆虫を含む生物相の豊かさが増し、結果的に生物多様性が向上。土地の生態的価値は間違いなく上がりました。農家だけでなく地域全体のコミュニティが関わるようになり、シマアオジの生息環境に配慮した有機米の栽培という新しい経済活動も見えてきました。

香港野鳥会は、科学的にこの成功を定量化するために、足環を付けたシマアオジの追跡調査を行って渡りのパターンを調べています。結果この地は今や安定的な中継地として使われていることが判明しました。

重要なのは、このシマアオジという一種類の鳥の名前のもと、全体の保全活動が形を成していったということです。ここではシマアオジがフラッグシップ種という地域の保全を進めるための象徴の役目を果たしましたが、日本やその他の国でもきっと他の種が成功のストーリーを牽引してくれることでしょう。

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山田由美
山田由美

神奈川県在住 地図データを使った環境分野の分析を20年程続け、今は複数の大学で研究員として勤務しています。 社会人博士課程にも在籍しています。生物多様性保全すべき場所はどこなのか?という問いに地図上でここです!と答えられるようにするのが私の研究のゴールです。

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