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電車を接種会場に? ワクチンパーティーも登場 ! ドイツの接種率アップ大作戦
2020年末から、施設で暮らす高齢者や医療従事者を「第一優先グループ」としてスタートしたドイツのワクチン接種。今年の6月7日からは優先順位もなくなり、希望すれば誰もがワクチン接種センターやかかりつけの医院などでワクチン接種が可能になりました。その後しばらく接種率はぐんぐん右肩上がりだったのですが、7月も中頃に入ると接種のペースが落ち始めました。2021年9月現在、2回目の接種まで終了した人は62.2%ですが、今ひとつ接種率が伸びていません。
7月末、早く夏休みが始まった州から新規の感染者数が増え始めたこともあって、8月10日に各州の州首相とメルケル首相が今後のパンデミック対策の方針を協議。現在無料で行われている迅速抗原検査を10月11日から有料化し、ワクチン接種を促すことを発表しました。いわゆる「クイックテスト」と呼ばれるこの抗原検査の有料化は、最終的にはワクチン義務につながるのでは?と批判もされ、大きな議論を巻き起こしました。
現在ドイツ全土で「3Gルール」「2Gルール」と呼ばれる防疫措置が導入、適用されています。3つのGとは、ワクチン接種済み(Geimpfte)・感染から快復済み(Genesene)・24時間以内の迅速抗原検査、あるいは48時間以内に実施したPCR検査の陰性結果の所持者(Getestete)のこと。2Gはワクチン接種済み、感染から快復済みのみを指します。
州によって対応は異なりますが、例えば現在ベルリンでは、飲食店の店内での食事や、美容室などの身体的な接触を伴うサービスの利用、病院や介護施設、フィットネスセンターなどを訪れる場合、もしくは50人以上が屋内に集まる催しや、屋外でも100人以上が集まるイベントでも、この3Gのいずれかに該当する必要がありました。つまり、これまでは、ワクチンを接種しなくても迅速抗原検査かPCR検査が陰性なら、様々なイベントへの参加や飲食店の店内での食事が可能だったのです(クラブやダンスイベントなどでは2Gのみ)。
ちなみにベルリン市内には約1250カ所もの検査所があり、検査の費用は国が負担していました。これが有料化されると、レストランの店内に座って食事したい、イベントに参加したいなど、いずれの場合にも追加でコストがかかる、ということになります(ワクチン接種ができない人や、ワクチン接種がまだ一般的に推奨されていない子どもや妊婦などについては引き続き無料。検査の価格は現在未定)。
ワクチン接種のためにわざわざ出かけたり、アポをとるのも面倒、時間も取りづらいーという人のために、ドイツ各地でクリエイティブなアイデアが出されています。イベントが減って困窮していたクラブDJなどを重点的にワクチンセンターにリクルートするなどの試みを行なっていたベルリンでは、センターのスタッフも務めたDJたちのアイデアもあって、8月9、11、13日に深夜まで予約不要でワクチン接種できる「ワクチンパーティー」を開催。特に30代までの若い層が集まり、盛り上がったそうです。
さらには、8月30日には市内中心部を走るリングバーン(環状線)がワクチン接種センターに! 停車やブレーキで揺れるのでは、とも思いましたが、新型の車両は停車もスムーズで揺れはほとんど見られず、会社の近くで接種し、安静の時間を経て自宅近くで下車できたり、楽に安心して接種できたという声も。東部ザクセン州のケムニッツでは9月11日と12日の週末、市内を走る路面電車が「ワクチン列車」となり、「うちの家の前まで来てくれるなら……」とこれまでワクチン接種に乗り気ではなかった人も、重い腰を上げて接種する機会になったそうです。
そして、9月13日からドイツ各地ではアクションウイークがスタート! 音楽ファン向けには、シュトゥットガルトのオープンエアのジャズフェスティバルの会場や、ハンブルクのコンサートホール、エルプフィルハーモニーで。スポーツ好きなら、ノルトライン=ヴェストファーレン州のブンデスリーガの試合が行われるサッカースタジアムやヘルタ・ベルリンのホーム試合が行われるオリンピックスタジアムでも接種が可能になっています。さらに、ワクチン接種者を対象とした宝くじ(最高賞金額100万ユーロ以上!)もスタートしているほか、車が当たる懸賞を始めたところも。ショッピングや映画館のクーポン券などは、パンデミックの影響を受けている地域の経済にも貢献するというメリットもあります。
ベルリンではドネル・ケバブの店でワクチン接種できる上、クーポン券プレゼントというアクションもスタート。7月末には、チューリンゲン州でも名物のチューリンゲン風焼きソーセージを振る舞うワクチン接種が話題を呼びました。ドイツ各地でそれぞれ名物のソーセージとビールを振る舞う接種アクションが行われたら接種率がさらに上がる気もしてきますが、ワクチンを接種していない、できれば接種したくないという人たちの心理的要因は、ソーセージでは解決できないかもしれません。
接種率を上げるためには、ワクチンのメリットやリスクについて正しい説明をより幅広く広めることも重要でしょうし、接種や副反応で欠勤せざるを得なくなることを恐れている人に対しては、勤務時間内に接種し、休みやすい環境作りを政府が支援することも必要でしょう。シングル家庭向けに子どもを預けられるサービスの整備も急務です。できるかぎり強制をせず、一人ひとりが納得してパンデミック対策のためにワクチンを接種しようと思ってもらえるように、ドイツ政府は今後も様々なアイデアを試していくようです。
ドイツ ベルリン在住 東京出身。2000年からベルリン在住。ベルリン美術大学在学中から、ライター活動を始める。 現在雑誌『 Pen』や『 料理通信』『 Young Germany』『#casa』などでもベルリンやドイツの情報を発信。テレビのコーディネートも多数。http://www.berlinbau.net/