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2022.12.24 | 岩井 光子

未利用魚の浮き袋をビールに活用 フィンランド環境先進都市の試み

欧州グリーン首都2021に選ばれた環境先進都市、フィンランドのラハティ市は首都ヘルシンキを100キロ北上したところにある人口12万の中都市。環境保護認定を受けたノルディックスキー・ワールドカップの開催地として記憶している人も多いかもしれません。

取り組みは1970年代、急速な工業化で汚染が進んだヴェシヤルヴィ湖の水質回復を目指した官民連携プロジェクトにまでさかのぼります。このプロジェクトが今では家庭ごみのリサイクル率99%を誇る同市の先進的な環境政策の出発点となっていて、市内には水やバイオテクノロジー、廃棄物の回収方法に関する研究所などが点在しています。湖の富栄養化を防ぐために実施した選択的漁獲で水質改善に成功した市は、一掃したワカサギやローチなどの淡水魚も捨てることなく、加工業者や市民に無料で配りました。2021年にも7万kgを除去しています。

5月、そのローチという、コイ科の淡水魚の浮き袋を活用したクラフトビール「FIND THE FISH」が誕生しました。ローチは浮き袋を乾かし、ビールを透明にするアイシングラスに活用します。アイシングラスとは、ビール中の酵母やたんぱく質を取り除く天然の清澄剤のことで、魚の浮き袋から抽出したコラーゲンを主成分とするゼリー状の物質。知られているのはチョウザメの浮き袋ですが、中央フィンランド漁業地域活動グループがローチをアイシングラスの原料にするアイデアを思いつき、市内のクラフトビール醸造所「ANT BREW」が開発しました。こうして漁業者とビール醸造所をつなぐ、新しいバリューチェーンができたのです。

同市の先進性を象徴するようなビールで話題性は十分ですが、味の方はどうなのでしょう? ANT BREWマネージャーのカリ・プットネンさんは、「メロンや柑橘系のホップのアロマが豊かに香るブロンドエールタイプのビールで、とてもおいしく仕上がりました。もちろん魚料理との相性は抜群です」と話します。市内3店舗で提供するヴェシヤルヴィ湖の魚料理に合わせて飲むことを意識して作ったそうです。

FIND THE FISHは、ANT BREWがプロデュースするWasted Potentialシリーズの8作目。これまでにもジュースを搾ったオレンジの皮や熟れすぎたザクロ、イチジクのピューレなどフードロスを活用したベルギースタイルのビール、公園で拾い集めたガチョウのふんを麦芽を燻蒸する過程で活用した黒ビール、自生するコケや野草を使った酸味のあるビールなどが発売されています。「これをビールに?」と、誰もが驚くインパクトのある原料のビールから、同市が進める循環型経済のレベルの高さが垣間見えます。ラハティの意欲的な取り組みを語り合うのに、これほどふさわしいビールはないかもしれません。

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岩井 光子
岩井 光子(いわい みつこ) ライター

地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!

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