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「タネ」を巡る2人の物語 – 伝統野菜を守る若き起業家と協生農法の実践者
4月16日、体験農園コトモファーム(神奈川県藤沢市)にて、「タネ」をテーマにしたトークショーが開催されました。登壇したのは、伝統野菜の種販売をおこなう小林宙(こばやしそら)さんと、『雑草ラジオ』(英治出版)の著者であり、この記事のレポーターでもある瀬戸義章です。
株式会社えと菜園が運営するコトモファームは、無農薬の野菜作りを実践したり、さまざまな講習会やイベントに参加できる自然体験型の農園です。現在、およそ250の会員がここを訪れ、春夏秋冬、さまざまな野菜栽培と収穫を楽しんでいます。
春の陽気となった日曜日の昼下がり、コトモファーム会員のうち、自ら育てた野菜のタネを採種する「たねたねくらぶ」のメンバーに向けて、2人のゲストを招いたトークショーがおこなわれました。
現役大学生の小林宙さんは、なんと中学生で「鶴頸種苗流通プロモーション」を立ち上げ、起業した人物です。“和多田瓜”や“会津丸茄子”など、日本各地で昔は盛んに栽培されていた野菜の「固定種」を販売しています。
「滅んでしまった生物の遺伝子を元通りにすることはできません」と熱心に語る小林さんの事業は、代々受け継がれてきた地域の歴史・生活が込められた種を守ることに繋がっています。
しかし、実はこうした活動のきっかけは、小学生のころ、小遣い稼ぎのために野菜や苗を育てて販売するところから始まったそう。それがやがて伝統野菜の存在を知り、日本全国の種苗店を訪ねて歩き、この世界にのめり込むようになっていきました。
最近では「文化事業にも取り組み始めたんです」と言う小林さん。Webサイトに展示室を立ち上げ、明治・大正期の種苗カタログなどの珍しい資料を公開しています。
2人目の語り手である私、瀬戸義章は、コトモファームの会員でもあり、協生農法という生態系の力を発揮させる栽培に取り組んでいます。何十種類という有用植物のたねをあえてバラバラに蒔き、混植させることで、まるで里山のように豊かな畑を実現することが目的です。
私がこうした変わった農法に取り組んだきっかけは、「社会問題への向き合い方」を考えるためでした。津波を防ぐためにコンクリートの高い高い壁を築く。有害動物を根絶させるために天敵を輸入する。経済成長のために工場を建てる。解決のための方法が、別の問題を引き起こしてしまうことがあります。社会の複雑さを肌で学ぶにはどうしたらいいのだろう。見つけたのが、「手近な複雑」である自然環境でした。
協生農法の畑から、「自然はコントロールできない」という、当たり前の気づきを得ながら、私は国際的な防災の活動に取り組みました。日本とインドネシアをつなぎ、新たな法律が制定されるまでに至った活動は、『雑草ラジオ』という本にまとまっています。
「たね」をテーマにしたコトモファームでのイベントは、まったく異なるアプローチの活動が交わるものとなりました。それは、「農」が食料だけでなく、さまざまな文化を生み出す源泉になることを思い出させてくれる出来事でした。
1983年 神奈川生まれ。"ゴミ"がテーマ。 長崎大学で環境科学を学び、上京。粗大ゴミをリユースするサービス「エコランド」の広報に携わる。2009年グッドデザイン賞受賞を担当。2010年末に退職し、東南アジア諸国のリユース・リサイクル・ゴミ事情を取材してまわる【ゴミタビ】を実施した。 帰国した矢先に東日本大震災が発生。仙台で復興支援事務局に携わりながら、災害廃棄物の処理について発信していく。