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気象予報士は異常気象と気候変動の関連をどう伝えてきたか
観測史上初となる記録的な暑さや大雨が相次ぐ今年の夏。その理由を詳しく知りたいと思う人は増えているはずですが、異常気象の裏で起きている根本的な気象パターンそのものの変化、温暖化や気候変動との関連を指摘する報道はまだ少ないように感じます。天気のプロである気象予報士やキャスターは今、気候変動とどう向き合おうとしているのでしょうか?
NHKの「ニュースウォッチ9」始め、テレビやラジオでお天気コーナーを担当していた気象予報士で気象キャスターの井田寛子さんは、日本のマスメディアが気候変動を十分伝えていないと感じて行動を起こした一人。2014年、ニューヨークの国連本部で開かれた気候サミットに出席して刺激を受けたことを機に、「メディアが気候変動をどう伝えているか」について大学院で研究も進めていました。
井田さんは2024年、全国メディアで気象情報を伝える気象予報士やキャスター130人にメールでアンケートを実施しました。すると、気候変動問題に関心のある人は99%。気候変動の影響や危機を感じている人は90%以上。番組で気候変動を伝えるべきだと感じている人も80%を超えましたが、実際に番組で伝えたことがある人は60%にとどまり、ギャップが明らかになりました。「放送時間が限られる」「専門的で難しい」など主な理由からは、報道番組の課題も浮かび上がりました。
「気象予報士は単独で活動していたり、事務所も違ったり、局も違ったり。つながりがあるようで、あまりそういう話はしたことはありませんでしたが、アンケートで思いは同じであることがわかり、自信を持ちました」。井田さんは同年6月の環境デーに合わせ、気象予報士や気象キャスターの仲間44人と記者会見を開きました。アンケート結果を公表すると共に、連帯によって突破口を開こうと決意も込め、「もっと報道で温暖化や気候変動について言及していこう」と意思表明をしたのです。
環境デーに合わせて「気候危機に関する気象予報士・気象キャスター共同声明」が発表された。右端が井田さん。各局の気象情報コーナーでおなじみのキャスターの顔も見受けられる反応は大きく、声明後は「同じ思いでいました。一緒に伝えましょう!」と多様な分野の人たちから声をかけられたそうです。「私たちは伝え手として求められているとすごく感じました。私自身は現在番組を持っているわけではないのですが、学校や幅広い分野の企業で話をする機会が増えました。温暖化のベースで何が起きているのか、科学的な話を聞きたがる人が本当に増えたと感じます」
それから1年経った2025年6月、声明を行ったメンバーが再集結してオンラインイベントを開催。局のプロデューサーが声明に賛同し、気候変動情報を日常的に取り入れることができた番組事例などが報告されました。

世界的な報道連携プロジェクト「The 89 Percent Project」の一環として、1年前の共同声明に参加した気象予報士とキャスターがオンラインイベントを開催
例えば、関西の朝日放送で長年気象情報を伝えてきた正木明さんは、会見後の10月から朝の情報ワイド番組の中で、各地の気温図と温暖化指数で地域を色分けした地図を並べ、地域の天気に気候変動がどう影響したのかを見せる試みを始めました。
正木さんが番組で使用しているのは、気候変動の影響を研究・報告しているアメリカの環境NGO「Climate Central」が毎日出している温暖化指数の世界地図。写真は今年8月24日の日本を切り取ったもので、赤が濃いほど温暖化の影響が強いことを示すFMラジオのJ-WAVEでは、「気候変動へアクション! WEATHER INFORMATION」プロジェクトが声明後の8月に立ち上がり、気象予報士の東海林克江アナウンサーが1日7枠の気象情報コーナーのうち、2枠で気候変動に関する情報を毎日紹介するようになりました。また、ネット配信番組を制作する民間の気象情報会社、ウェザーニュースでも2025年4月から気象データやシミュレーションを用いて、100年後の暮らしや未来への影響を詳しく解説する気候変動番組「100年天気予報」が始まっています。
井田さんが所属するNPO法人「気象キャスターネットワーク」では、2004年から温暖化や環境のことを主に子どもたちに普及啓発する団体として活動を続けてきましたが、最近では気候変動にまつわる勉強会や情報交換も増やしているそうです。
「会員の中には気候変動や温暖化のことになると知識不足で伝えることが怖いという人もいます。放送で気候変動に言及できない理由の一つに、『すぐ聞ける専門家がいないこと』もあったので、勉強会で先生とつながりをつくっておき、放送の時にいつでも解説していただけるような体制づくりにも取り組んでいます」と井田さんは言います。
科学的な裏づけと伝えるタイミング
気象キャスターは報道番組の中でも気さくで親しみやすい印象があることから、なんとなく天気予報を聞いている人たちにも情報が届きやすく、気候変動に関心のない人が関心を持つきっかけになる可能性があります。関心のある人はマスメディア以外のネットメディアなどからもどんどん関連情報を深掘りできる時代ですが、「そうでない人たちに温暖化や気候変動に関する情報を耳に入りやすくすることに関しては、まだまだマスメディアは力があると思います」と、井田さん。
「お天気お姉さん」などと人気を集め、気象キャスターはタレントに近かった時代もありましたが、今、気象キャスターは気象学や気候科学の研究者と視聴者の間に立つ「つなぎ役」としての役割がより求められていると感じます。科学的な裏づけをきちんと取った情報をわかりやすく伝え、信頼を得ること。そして、視聴者の耳に届くようにするためにも伝えるタイミングを選ぶことが重要だと井田さんは指摘します。
世界的には、近年頻発する異常気象に地球温暖化がどのくらい影響しているのかを数値化する「イベント・アトリビューション」という手法が科学的な裏づけとして用いられています。特に最近の猛暑や大雨は、温暖化がなければ起こりえなかったと言い切れるケースが増え、年々その影響は顕著になっています。
昨年、国内の研究者有志が結成したWAC(極端気象アトリビューションセンター)は、この手法で因果関係を公表。例えば、今月3日には、7月中下旬に日本列島を襲った記録的高温は地球温暖化がなければ、起こりえなかったと発表しています。こうした公式発表と気象キャスターが連携し、因果関係を科学的な裏づけと合わせて伝えられるようになったことは大きな変化の一つです。ちなみに先ほどの正木さんが番組で使っている温暖化指数も、イベント・アトリビューションの分析を色分けして視覚的にわかりやすくしたものです。
そして、報道のタイミングに関しては、理解した先の行動を促すためにも重要と井田さんは指摘します。「40℃を超えるような酷暑日が続くと、皆さんもちょっとこれはおかしいし、原因があると感じる。そういうタイミングで気候変動を伝えていくと理解されるし、自分たちも何かしなければと行動のスイッチが入ると思います。やはり解決策につながる行動に誘(いざな)っていかないと不安要素だけが残ってしまう。アクションを促す一言まで言えるかどうかが課題だと私たちもすごく感じています」
井田さんが出演した「2050年の天気予報」ver.2より。2014年にNHKがver.1を制作したが、当時描いた真夏日が連続する危機は既に現実のものになってしまった。今年JCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)などが制作したリニューアル版では、「酷暑のため、外出自粛令が発令された」など、現ペースで二酸化炭素を排出し続けた場合に起こる暮らしへの厳しい影響が予測されている ©「2050年の天気予報」製作委員会
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声明から2年。成功例もあったものの、全体としてはマスメディアの気候変動への関心はまだ薄く、気象予報士や気象キャスターが短い放送時間の中で温暖化や気候変動をどう工夫して伝えていくか、依然として課題が残っていると井田さんは言います。
「脱炭素に向け、皆さんの行動や社会システムも変えていかなければいけない中、伝える時間を持っている私たちが災害報道だけで終わってはいけない。また、夏が来れば厳しい暑さと災害がやってきて、結局その繰り返しですよね。異常気象で年々深刻化する災害は、皆さんが最も実感しているところだと思うので、その背景にある温暖化と気候変動を、何かを変えたいという気持ちに届くような伝え方をしていくことが、私たち気象予報士の役目なのではと思っています」
地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!







