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2018.10.29 | 河内 秀子

夢を貫くか、正直に生きるか プロサッカー界の同性愛嫌いを描いた映画から見えること

オーストリアでは来年から、同性婚が合法化します。現在では欧州18カ国で同性婚が合法化しており、アイルランドではゲイを公表している首相が誕生するなど、ヨーロッパでは同性愛者に対してオープンだという印象を受けます。

しかし、そんな21世紀のヨーロッパでも、ホモフォビア(同性愛嫌悪)が根強い場所があるのです。それは、男子プロサッカー界。

10月、プロサッカー界のホモフォビアにスポットを当てたスイス映画「マリオ」がドイツでも公開され、静かな話題を呼んでいます。

この映画の主人公は、スイスのジュニアチームでフォワードを務めるマリオ。1部リーグの契約へのプレッシャーと期待がかかる彼のチームに、ドイツから助っ人のフォワード、レオンが移籍してきます。ツートップとして素晴らしいコンビネーションを見せる2人は、フィールドの外でも心を通わせ、いつしか恋に落ちていきます。

チームに馴染まないレオン(右)を心配した監督から、一緒にルームシェアをするように言われたマリオ。レギュラーの座を奪われた別の選手からのやっかみもあり、いじめが始まる Foto:Pro-Fun

2人の関係に気づいたチーム関係者は「自分たちは同性愛に対して、何の偏見もない」と言いながらも、「でもスポンサーや、ファンが反対するかもしれない」と、マリオたちに、真実はどうあれ口外しないこと、女性と一緒に公共のイベントに出るなどして、異性愛者であることをアピールしろ、などと強制します。

親友のジェニー(右)にガールフレンド役を演じてくれるように頼むマリオ Foto:Pro-Fun

「ゲイだなんて、君の市場価値は最底辺だよ!」と移籍代理人に言われ、プロサッカー選手として一部リーグで活躍するという夢と、同性を愛する自分の心に正直にいること、の間で揺れるマリオ。

マリオの親友や母は、マリオのカミングアウトに対して好意的。素敵な人と知り合って良かった、やっと愛せる人が見つかったんだねと、彼の恋を応援してくれるのですが……。

マリオを演じたマックス・フーバッハーは、今年度のスイス映画賞で主演男優賞を受賞 Foto:Pro-Fun

監督のマルセル・ガイスラーは、「誰と話しても、2018年のいま、プロのサッカー選手として同性愛者を公言することの何が問題なのか、わからないというんですよ」と言います。

プライドパレードには企業の参加も多く、仕事場における意識改革は進んでいるという話をご紹介しましたが、スポーツ界でも同様の改革は見られないのでしょうか?

オリンピック憲章には、LGBTに対する差別禁止の要項が盛り込まれ、2013年、スポーツにおけるホモフォビアに反対する「ベルリン宣言」には、ドイツサッカー連盟会長やブンデスリーガのバイエルン・ミュンヘンやヘルタ・ベルリン、FCウニオン・ベルリンのマネージャー陣も署名をしています。

「でもW杯を見てください。2018年の開催地ロシアでは同性愛者が差別され、2022年開催予定のカタールは、同性愛行為は違法で懲役が科されているほどです。プロ選手の選手生活は平均で16年ですが、2〜3年おきにどんどん所属チームを変えていきますよね。ゲイであることをカミングアウトした選手は、能力があっても“難あり”と格付けづけされ、キャリアアップに繋がらないのは目に見えています。こんな状況で誰が、すすんでカミングアウトするでしょうか?」

2014年、ドイツ代表も務め、欧州各地のトップリーグで活躍したドイツ人サッカー選手、トーマス・ヒッツルスペルガーが、現役引退とともに同性愛をカミングアウト。大変に勇気ある行為だと高く評価されました。

しかし、残念ながら彼のカミングアウトを経ても、状況は全く改善されていないと言います。90年代に2部リーグで活躍しながらも、ホモフォビアにあって辞めざるをえなかった選手、マルクス・ウルバンは「本当に辛かった」と当時を振り返ります。

「もっと上に行きたいと思ったら、スーツを着た人たちに囲まれて『お前は、お前でいてはいけない』と否定されるのです」

彼は、現在、スポーツと社会における多様性を呼びかける団体Verein für Vielfaltの会長を務めており、この映画の製作段階でアドバイスもしました。この切なく辛いラブストーリー「マリオ」は、残念ながらとても現実に近いそう。表立って同性愛を批判できなくなったため、逆により巧妙に隠されるようになったと、ウルバンは警鐘を鳴らします。

一方、2015年にはゲイ・レズビアン・サッカー欧州選手権も開催。今回、映画の撮影に協力した北ドイツ、ハンブルクの2部リーグ、FCザンクトパウリのスタジアムでは映画のプレミア上映も行われ、「ゲイのサッカー選手はうちのチームではスターになれる!」と、カミングアウトを推奨する宣言をしています。

この映画の影響で、急にゲイのサッカー選手達がカミングアウトを始めるようなことはないでしょう。しかし、少しずつ時代は変わってきている、変わらなければいけないという空気が感じられます。

監督のマルセル・ギースラー。本作はシカゴ国際映画祭で監督賞ノミネートなど、スイス国内外で高い評価を受けた Foto:Pro-Fun

この「マリオ」のように、夢と恋の板挟みになって、自分の心に嘘をついて生き続け苦しむ人たちが、これ以上増えないように、祈るばかりです。

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河内 秀子
河内 秀子(かわち ひでこ) 地球リポーター

ドイツ ベルリン在住 東京出身。2000年からベルリン在住。ベルリン美術大学在学中から、ライター活動を始める。 現在雑誌『 Pen』や『 料理通信』『 Young Germany』『#casa』などでもベルリンやドイツの情報を発信。テレビのコーディネートも多数。http://www.berlinbau.net/

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