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Food

昆虫食に成長抑制、クリエーターが考える「未来の食」とは

2013.10.07 ユイキヨミ

左から:マライエ・フォーゲルサング、アルネ・ヘンドリクス、シタ・バウミク、スザンナ・ソアレス、クールト・ファン・メンスフォルト photo by Kiyomi Yui

今ロッテルダムで盛大に開催されている「ワールド・フード・フェスティバル」(10月27 日まで)。これは、ワークショップやインスタレーション、映画上映などの多彩なプログラムを通して、「食」をいろいろな角度から考え、楽しむイベントです。

この中で先日、「未来の食」を考えるディベートが行われました。進行役を務めたのは、「イーティング・デザイナー」のマライエ・フォーゲルサングさん。彼女が選んだクリエーターたちが招かれて、斬新なアイディアが交わされました。そのユニークな提案のいくつかをご紹介します。

ポルトガル人デザイナーのスザンナ・ソアレスさんは、昆虫の粉末をペースト状に加工したものを、3Dプリンターで美しい形状の食べ物を作りだすというプロセスを考案しました。粉末昆虫と混合する材料次第で、クッキーやケーキなど、いろいろな食べ物に加工できるというコンセプトです。新しいタンパク源として注目されている昆虫食について「環境への負荷が大きく安全な生産が難しい肉を、これまでのペースで消費し続けるのは不可能。そこで注目されている昆虫食ですが、特に欧米諸国では『気持ち悪い』という抵抗感の克服は高いハードルです」とスザンナさん。科学的なリサーチチームとのコラボレーションで制作を続ける彼女は、虫を軽くローストした後粉末にし、 美しく造形することで受け入れやすいものにできないかと考えました。

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スザンナさんが考案した3Dプリンターは、フェスティバル会場に展示されている photo by Kiyomi Yui

アルネ・ヘンドリクスさんは、オランダ人のアーティスト。最近は、ビジュアルと文章の組み合わせやインスタレーションなどを通して、「人間はより短身へと進化するべき」という持論を展開しています。「現代の人々は、長身であることを健康の象徴と混同している。世のお母さんたちも子どもにたくさん乳製品を与えて、大きくなりなさいと教育している」とアルネさん。考えてみれば、乳製品を過剰摂取することで身長を伸ばそうとするのは不自然なことなのかもしれません。

人の身長は、いろいろな要因に左右されますが、彼のリサーチによれば、食べもの由来の要因は全体の15%。そして、身長が10%高くなると体重は30%以上増え、「フットプリント」もまた倍増していく計算になると言います。これまでも人間は、長い年月をかけて環境に応じて長身になったり、短身になったりしてきました。アフリカには、平均身長が150センチ未満の部族がいますが、彼らの体には、分泌される成長ホルモンを無視する機能があるということ。過酷な自然の中に生きる彼らにとって、必要な進化だったはずだとアルネさんは説明します。地上の資源が枯渇していく今、私たちもまずは「長身になりたい」という一般的な願望から検証しなおす必要があり、それだけでも人々の長身化には歯止めがかかると言います。「例えば、短身のほうがよいというアイディアが浸透すれば、世のお母さんたちも牛乳のかわりに成長を抑制する成分を含む食べ物を子どもに勧めるようになるでしょう」。もしこのアイディアが浸透すれば、酪農王国で平均身長世界一のオランダは、大きく様変わりすることでしょう。

クールト・ファン・メンスフォールトさんは、デザインやメディアを哲学や論理の表現ツールとして、抽象的な問題をユニークに可視化するクリエーター。ディベートの中では、近年のスローフードのムーブメントに一石を投じます。昔ながらの農業に対する「ノスタルジー」が強まる傾向があるけれど、後戻りするという選択はあり得ないとクールトさんは考えています。世界的に見れば、スローフードを享受できるのは一部のエリートだけ。とは言え、人々が抱くこの気持ちは、食のあり方の指針とも言える大切なものなので、それを掘り下げつつも、発展する技術を持って新しい答えを探すべきだと言います。彼は今、オランダで研究が進められている「人工培養肉」に関連したプロジ ェクトを展開中です。環境への負荷も少なく、次世代の農業革命ともささやかれるこの人工培養肉ですが、食肉産業はあまり関心を示していないという話もあるようです。クールトさんは、まだ実用化してはいないこの人工肉の「料理本」を近々発表する予定です。
 
「私たちデザイナーにできることはあるか?」というマライエさんの問いかけに、アルネさんはこう答えます。「これまでみなが疑うこともなかった固定観念に問いかけ続けることで、新しい発想を模索する機会になれば、それだけでも意義あることだと思います」
「彼らのクリエイティブマインドは、スペシャリストによる専門技術と、人々や産業の間に橋を架ける役割を担うことができるのでは?」とクールトさんは言います。

技術革新と同時に、既存する食のコンテキストを刷新する勇気をもつことも、安全な「未来の食」を考える上では大切なことだと実感させられるディベートでした。

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クールト・ファン・メンスフォールトさん photo by Kiyomi Yui



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このニュースの地域

ロッテルダム、オランダ (ヨーロッパ/ロシア

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