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2019.05.08 | 岩井 光子

どんぐりが育む「生きる力」と災害時の相互支援

子どもたちに一番身近な木の実と言えば、どんぐりではないでしょうか? 形も大きさも様々などんぐりは、横一列にずらっと並べて眺めるだけでも、どこか愛嬌があって楽しくなってしまうのです。

JP子どもの森づくり運動は、2008年に立ち上がりました。どんぐりはブナ科コナラ属樹木の種の総称ですから、土中に埋めれば発芽しますが、そのことは意外と大人も忘れてしまっているものです。子どもはどんぐりからニョロッと根が出てくる様子を興味深く観察することでしょう。

傘(殼斗)をかぶったどんぐり。子どもたちは殼斗を“どんぐり帽子”と呼ぶ

どんぐりの芽吹きには新鮮な驚きと発見があることから、代表理事の清水英二さんは近隣で拾ったどんぐりをポットやプランターに植えて育ててみませんかと全国の幼稚園、保育園、こども園に呼びかけました。苗は3年間育てた後、了解を得た地域の公園や森などに植樹します。


「がんばれー」などと苗に声を掛けながら、植樹する子も。植樹場所は専門家のアドバイスを受け、生態系に配慮している

大木に育つまでには苗同士の競争もありますし、非常に長い時間がかかりますが、子どもたちは種から大事に育てた経験が心に残るので、大きな樹木が無事に育つまでにいかに長い時間が必要であるかをおのずと理解します。どんぐりを通じて森に親しみ、野外活動に親しみながら成長して、ゆくゆくはたくましく「生きる力」を培ってほしいというのが、この運動が目指す大きなゴールです。

現在では北海道から沖縄まで、全国の120余の幼稚園、保育園、こども園が参加するこの運動が、東日本大震災後の2012年に新たにどんぐりと復興支援を絡めて始めた活動が、東北復興グリーンウェイブでした。東北の被災地の子どもたちが拾ったどんぐりを、今度は自分たちで育てるのではなく、全国の子どもの森づくり運動のネットワーク園に預けて苗に育ててもらうのです。3年経った苗は被災地の園に返送され、受け取った東北の園児たちが地元に植樹をします。どんぐりが子どもたちの手から手へと受け継がれるリレー方式の森づくり運動です。


2018年に岩手県宮古市の赤前保育園(現・あかまえこども園)で行われた東北復興グリーンウェイブの植樹会で。園児たちが3年前にどんぐりを拾った裏山は地域の避難場所でもある

岩手県山田町から、同県宮古市、福島県へと広がった東北復興グリーンウェイブは、これまでに環境省の「グッドライフアワード」で環境大臣賞グッドライフ特別賞を受賞したり、「国連生物多様性の10年日本委員会」の連携事業に認定されるなど、数々の評価も受けてきました。

東北の子どもたちは、預けたどんぐりが苗に育って戻ってくることで、自分たちのことを思って協力してくれる友だちが、全国各地にいることを実感できます。「生きる力」に加えて、子どもたちに「共に生きる力」も育んでもらおうというのが、東北復興グリーンウェイブの目指すところです。

あかまえこども園での植樹は、同園と津軽石保育所の合同で行われた。植え方は“どんぐり博士”が丁寧に教えてくれる。運動の特別協賛は日本郵政グループ

さて、こうして園児の心の中に育まれてきた仲間意識を、今後はさらに実際の災害発生時の支援体制にも活用していこうと2016年にスタートしたのが、「災害時相互支援協力協定」です。

協定は、東北復興グリーンウェイブに参加する3園の間で結びます。うち1園が何らかの災害で被災した場合、残りの2園が協力し合って物資を届けるなどの支援を行います。3園同時に被災してしまうと協定が機能しなくなってしまいますから、協定はできるだけ距離の離れた3園の間で締結します。2016年5月に第1号として、岩手県山田町の「山田町第一保育所」と東京・世田谷区の「春明保育園」、福岡県の「若久青い鳥保育園」の間で協定が結ばれ、現在第4号まで同様の協定が結ばれました。災害時の支援協定は、県や市などの自治体内で締結される例はありますが、このように広域で、しかも幼稚園、保育園、こども園などの間で結ばれることは非常に珍しい、と思います。

熊本地震では、支援窓口となった福岡の若久青い鳥保育園に救援物資が届けられた

既に協定が稼働した例もいくつかあります。2016年に起こった熊本地震後は、岩手の山田町第一保育所とその系列園を合わせた3園と、春明保育園から、熊本地震直後に災害支援の拠点となった青い鳥保育園に次々と支援物資が送られました。また、協定園を通して、別の被災園に支援が送られた例もあります。2018年の西日本豪雨では都内の中目黒駅前保育園が、協定を結ぶ広島県内の園から情報提供を受け、被害の大きかった安芸郡坂町の小屋浦みみょう保育園へ義援金と、園児たちの描いた励ましの手紙を届けました。

西日本豪雨では、中目黒駅前保育園の天野隆史園長が園児たちの励ましの絵手紙を届けた

この協定の枠組みを提案したのは、子どもの森づくり運動の研修会などで防災講師を務めるタフ・ジャパンの鎌田修広さんです。鎌田さんは消防体育訓練の講師として、メンタル、身体面から消防士の指導を長年務めてきたベテランです。災害時の協力協定は、仙台市宮城野区福住町がご近所町内会などとの間に結んだちょっとした覚え書きが、東日本大震災直後に支援を取り結ぶ縁となり、おおいに役立ったという実話にヒントを得たものだそうです。


鎌田さん

鎌田さんによれば、防災は「事前にどれだけアクションがとれるかが勝負」だと言います。実際に大きな災害に遭遇すると、人は災害心理が働いて、なかなか体が動かなかったり、子どもの命を守るためにとるべき行動がとれなくなってしまうことがあります。そのため、鎌田さんが普段幼稚園、保育園などに呼ばれて防災訓練を行う際は、火災が起きてから煙が回る時間、園児を避難誘導するまでの時間などを実際に計測して検証してもらい、日頃行っている避難方法や避難経路が本当に有効なのかを細かく分析してもらいます。体を動かして検証することで、園の保育士さんたちも問題点を軌道修正でき、避難の経験値を増やすことができるのです。

同じように、支援協定も事前に覚え書きしておくことで、それが園同士のひとつの経験値として、非常時には支援体制が機能します。2園でなく、3園の間でトライアングルの関係性を結ぶことで、支援体制はより強固になると考えたのは、鎌田さんのアイデアだそうです。

どんぐりをテーマに子どもたちに森の「生きる力」を育てようと始まった活動は、10年の節目で子どもの命を守る防災活動にまで発展してきました。福岡では、この災害時相互支援協力協定を地域住民とも結び、災害に強いまちづくりを一致団結して目指すようになりました。

鎌田さんはこう言います。「保育士の皆さんが地域に気を遣い過ぎているなと感じることも多々あります。そんなとき、防災という支援が“支縁”となり、お互いの距離を縮めるきっかけになり得るのです」。実際、火災を想定した防災訓練で、園舎だけでなく、近隣の住宅も守るために本気で取り組む園職員の姿を地域の人たちが目の当たりにしたことで、騒音などに対する苦情がなくなり、一気に両者の距離が縮まった例もあったそうです。どんぐりを通した森づくりも、防災活動も、子どもの命を真ん中に置いた活動としては、深く共鳴し合っていますから、両者のかかわりは地域を巻き込みながら今後も密度を増していくのではないでしょうか。

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岩井 光子
岩井 光子(いわい みつこ) ライター

地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!

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