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2019.07.02 | 宮原 桃子

子どもたちにすすめたい絵本 Vol.3 ~性の多様性~

絵本は、子どもの成長とともにあります。子どもたちは、絵本から楽しさや刺激をもらうだけでなく、社会や世界のことなど、多くを学んでいきます。説明的な情報やデータではなく、物語を通してさまざまな視点や気づきを持てるのも、絵本の醍醐味でしょう。「Vol.1 平和と多様性」「Vol.2 世界の貧困と環境」に続く今回のテーマは、「性の多様性」です。

思春期に入り好きな子ができた時、子どもたちは自分自身や周りの性のあり方に直面するでしょう。差別や孤独に悩む、LGBTの子どもたちもいるかもしれません。しかし性は、男か女か、異性愛か同性愛かといった二極化ではなく、グラデーションのように多様です。子どもたちが、小さなころから性の多様性に触れ、受け入れていくきっかけになるような絵本をご紹介します。

『王さまと王さま』 絵と文:リンダ・ハーン/スターン・ナイランド 訳:アンドレア・ゲルマー/眞野豊 (ポット出版)

結婚相手を探す王子様が、世界中のお姫様に会うものの心を決められず、ついに出会った運命の人は王子様というストーリー。カラフルな色彩とポップな絵が子どもの心を惹きつける、オランダの絵本です。この絵本の魅力は、王子様と王子様の出会いを、誰もがすっと受け入れ、祝福する幸せなお話にあります。誰かがありのまま生きて幸せになることに、本来は何の葛藤も、差別も、否定もないはず。そんなあるべき社会の姿を感じられる一冊です。


『タンタンタンゴはパパふたり』 文:ジャスティン・リチャードソン&ピーター・パーネル 絵:ヘンリー・コール 訳:尾辻かな子、前田和男 (ポット出版)

ニューヨークのセントラル・パーク動物園に、あるペンギンのカップルが誕生しました。周りと違うのは、2匹がオス同士であったこと。産卵期になり、見よう見まねで石を温める2匹を見て、飼育員は他のカップルが育児放棄した卵を巣に入れます。パパになっていく2匹のお話は、90年代の実話です。周りのペンギンカップルとは少し違うけれど、同じように幸せに暮らすペンギン一家の姿が描かれています。

『くまのトーマスはおんなのこ ジェンダーとゆうじょうについてのやさしいおはなし』 作:ジェシカ・ウォルトン 絵:ドゥーガル・マクファーソン 訳:かわむらあさこ (ポット出版)

少年エロールとくまのトーマスは、いつも一緒の仲良し。ある日、ふさぎ込んでいたトーマスがこう言いました。「心の中ではいつもわかっていたの。自分は男の子じゃなくて、女の子のくまだって。私は自分らしくいたいの」。エロールや周りの友達は、少しずつ変わっていくトーマスをすっと受け入れます。いつもと変わらずに遊ぶ毎日。「ぼくは気にしないよ。きみが女の子でも男の子でも。大事なのは、きみがぼくの友達ってことさ」というエロールの言葉は、私たちに大切なことを教えてくれます。バイセクシュアルの著者が、18カ月の息子に家族の多様なあり方を伝えたいと、自ら制作し、クラウドファンディングで出版した絵本です。

『ピンクがすきってきめないで』 文:ナタリー・オンス 絵:イリヤ・グリーン 訳:ときありえ (講談社)

主人公の女の子は、黒が大好きで、ピンクにはうんざり。好きなものは、化石や恐竜、クレーン、虫…。ママは、「男の子顔負けね」と言います。そして友達のカールは花が好きで、オーギュストは人形遊びやお裁縫をしています。そんな男の子たちに、大人は「そういうのは女の子のもの」と言います。性別の枠にはめようとする大人たちに、モヤモヤする主人公の心の声は、一人ひとりの多様性をありのまま認めることの大切さを伝えています。

『いろいろかぞく』 トッド・パール作 ほむらひろし訳 (フレーベル館)

「大きな家族もあれば、小さな家族もある」という言葉から始まるこの絵本。家族と一言で言っても、親子で似ていない家族、離れて暮らす家族、ママふたりの家族、パパかママがひとりの家族、養子を迎えた家族…など本当にさまざまです。でも、家族で抱きしめあったり、おめでたいことをお祝いしたり、助け合ったりするのは、どんな家族も一緒。性の多様性と深くリンクする、家族の多様性を描いています。カラフルでかわいい動物たちや人の絵があふれ、楽しくハッピーな気持ちで読むことができます。

『いろいろいろんなかぞくのほん』 メアリ・ホフマン文 ロス・アスクィス絵 すぎもとえみ訳 (少年写真新聞社)

この絵本は、「家族」を一つの切り口に、人や住む場所、学校、仕事、食べ物、服装、習慣、余暇の過ごし方など、さまざまな側面から多様性を伝えています。あらゆる多様性をフラットに受け入れるマインドや意識を育てることが、性の多様性を自然に受け入れる心につながっていく。そんなことを感じられる一冊です。

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固定観念に捉われない小さな頃から、絵本を通して性の多様性を知ることで、子どもたちは多様な人びとの在り方を自然に受け入れていくように思います。私も、冒頭にご紹介した『王さまと王さま』を、小学生の娘に読み聞かせたとき、娘は最初「なんで男と男が結婚するの?」と聞きました。「世の中には色々な人がいて、男の人が好きな男の人もいるし、女の人が好きな女の人もいるんだよ」と伝えると、「ふーん、そうなんだ」とすっと物語を受け入れていました。絵本の読み聞かせが、こうしたテーマについて親子で話すきっかけになるのもいいですね。

最後に、あらゆる多様性を受け入れながら暮らす上で、大切なヒントをくれる絵本をご紹介したいと思います。

『いっしょにおいでよ』 ホリー・M・マギー文 パスカル・ルメートル絵 なかがわちひろ訳 (廣済堂あかつき)

世界中で憎しみあい、傷つけあう大人たちの姿を見た少女が、両親に「どうしたらいいの」とたずねます。「いっしょにおいで」と連れて行ってくれたのは、いつもの駅やお店、そして我が家。ちょっと誰かにあいさつしてみる、笑いあう、手伝う、色々な国の食べ物や人に触れる、一緒に絵を描く…。そんなちょっとしたことで、人と人の間にある小さな壁や、自分の心の中にある壁を乗り越えていきます。

私たちの小さな一歩が積み重なって、多様な人びとが、お互い気持ちよく暮らせる社会に変えていけると、この絵本は勇気をくれます。絵本の最後に添えられた、国際難民支援会の故イヴェット・ピエルパオリさんの言葉も、そんなことを伝えてくれています。

「一人ひとりの行動は、雲のように軽くはかない。けれど雲が集まれば、空の色を変えていく」

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宮原 桃子
宮原 桃子(みやはら ももこ) 地球リポーター

日本貿易振興機構(JETRO)に勤務後、フェアトレードファッション・ブランド「People Tree」にて、バングラデシュ・インド・ネパールにおける生産管理に従事。現在は、企業のサステナビリティ推進を支援する「 エコネットワークス」に、コンテンツプロジェクトマネージャーとして参画。ライフワークとして、フェアトレード絵本「ムクリのにじいろTシャツ」を制作したほか、親子向けにフェアトレードを学ぶワークショップを企画する「フェアトレードガーデン世田谷」(本部・東京)の運営に携わる。社会や世界で起きていることを「自分ごと」として感じ、考え、行動する。そんなきっかけになるような記事をお届けしたいと思います。

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