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2023.04.13 | 岩井 光子

人が立ち入らない38度線は生態系の宝庫 グーグルで学ぶDMZの自然

朝鮮半島の非武装地帯(DMZ)は1953年の休戦協定後、軍によって人の侵入が厳しく制限されてきました。東西約248キロにおよぶ幅4キロほどのDMZには有刺鉄線のフェンスと見張りの兵士が立ち、100万個を超える地雷が眠っているといわれます。

両国は依然として緊張状態にあり、自由な行き来はかないませんが、休戦協定から人が介入しなかったことで、かつて激戦地だった一帯の自然は自ずと回復していきました。そして、皮肉なことに、今では国内外の生態学者が目を見張る生物多様性豊かなエリアとなったのです。軍から許可を受けた調査団が観測した野生生物は6168種に上り、267の絶滅危惧種のうち38%に当たる102種が、国土の1.6%ほどのこのエリアで確認されたそうです。DMZ生態研究所のキム・スンホ所長は、「DMZは南北二つの朝鮮にとっては悲劇の象徴だが、野生生物にとっては稀な安息地となった」と話しています。

国を東西に横切るDMZの地形は、山や沼地、湖、干潟と変化に富む環境のため、生息する生物もさまざまです。主なところではタンチョウヅル、ジャコウジカ、イヌワシ、キエリテン、シロイワヤギ、ヤマネコのほか、2019年にはツキノワグマの子どもも初確認されています。

休戦協定から70年を記念し、公開された「DMZ」プロジェクト

1953年の休戦協定から70年を記念し、DMZ生態研究所や国立生態院など韓国に拠点を置く9つの文化機関とGoogle Art & Cultureは3年前に共同プロジェクトを立ち上げ、2月下旬にその成果が公開されました。朝鮮戦争の歴史、DMZに生息する希少な動植物の映像資料、DMZをテーマにしたアート作品の3部構成で、DMZの歴史から未来までを高精度な映像やアートを通して学び、考えてもらおうという意欲的な企画です。

2月末に無人カメラがとらえた希少な動植物の最新画像が公開された  National Institute of Ecology/Google Arts & Culture

Google Art & Cultureはもともと世界のミュージアムコレクションをオンラインで鑑賞できるようにしたインタラクティブなサービスなので、各種機能でDMZの環境や生物を深掘りできるのが興味深いところです。例えば絶滅危惧種のユーラシアカワウソはオンライン展示のページにあり、AR(拡張現実)でその体つきの特徴をさまざまな角度から観察できます。DMZの境界領域にある盆地、通称“パンチボウル”の散策路や、国境地帯にある韓国唯一の高層湿原、龍邑は現地の川のせせらぎや風の音、鳥のさえずりを聞きながらストリートビュー機能でバーチャル探索を楽しむことができます。


ユーラシアカワウソは、人間同士が緊張関係にある南北朝鮮を結ぶ川を自由に行き来する姿が観測されている National Institute of Ecology/Google Arts & Culture
長年248キロのフェンス沿いの植物調査をしてきた研究者の視点から見るページも興味深い  DMZ botanic garden/Google Arts & Culture

人が介入しないことで再生を果たしたDMZの生態系は、環境再生をテーマにする世界の研究者にとっては非常に興味深い事例です。韓国ではDMZに平和公園を築く構想があり、今月21日には周辺に造成した全長526キロにおよぶ観光道路「DMZ平和の道」を全面開放するという報道も見かけました。

長年DMZ周辺の生態を調査している外国人研究者からは北朝鮮と合意が取れない状況下で一方的に開発計画を進めるよりも、まずは一帯の自然を保護する政策を優先するべきだという意見も出ています。休戦協定締結から70年の節目となる今年、DMZを平和復興の足がかりにしたいと考える韓国の今後の動きに注目していきたいと思います。

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岩井 光子
岩井 光子(いわい みつこ) ライター

地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!

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