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2019.02.19 | 山田由美

防災・減災の新潮流 グリーンインフラを実践する英ヨークシャー

2015年、英北部のヨークシャーで大洪水が起き、多くの住民が家を追われた:Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by alh1

2019年1月、イギリスのロンドンから鉄道で北へ2時間ほどのヨークシャー地方で大きな環境プロジェクトが始まることが発表されました。この地方は2015年に大雨による浸水害を経験し、経済損失も出ましたが、ヨークシャー・デイルズ国立公園をはじめ豊かな自然の残る地域。地元は自然の力を使い、3000を超える世帯や事業所が被る可能性のある洪水害リスクを減らすことで260万ポンド(約3億7千万円)の減災効果を目指す方向性を選択したのです。

以前、米ボストン市の事例でもご紹介しましたが、近年自然の力を利活用して地域を守っていこうとする取り組み(グリーンインフラ)は、持続可能な減災手段として大きなトレンドとなっています。

自然の力で洪水抑制をするためには、主に下流域で浸水した時の水の深さを低くするか、避難のために浸水のピークに達する時間を遅らせることを目指します。メカニズムとしては、降った雨を浸透させる、蒸発させる、流速を落とす、貯める、流れのぶつかりを少なくするといった方法を個別に、または組み合わせて使います。

例えば、「ゴープリー貯水池」には151ヘクタールの森を計画。そのほか、泥炭地や荒れ地のうち85ヘクタールを再生、そして650以上の「水漏れダム(Leaky dam)」の建設を予定しています。

世界各地に水源確保目的など、さまざまなタイプの水漏れダムがありますが、ヨークシャーでは、洪水時に水のエネルギーを食い止めるバリア機能を持つ木組みのダムを「水漏れダム」と呼んでいます。文字通り水は抜けさせますが、川の流れに対して丸太などを(平均水位より上方に)垂直に設置し、増水時の流れを受け止めて水の速さを緩和します。地元の木材を使うことが推奨されており、小型なものは人手でも設置が可能。サイトに基本設計図や予算が公開されています。

また、木の枝を束にしたものを3000メートルに渡って設置することで、川の土手や傾斜部分を安定させる自然の護岸計画や、羊や牛の持続的放牧ができるようフェンスで囲った場所を確保する計画も進んでいます。もちろん、これらは従来の工学的な解決策と併用しますが、セットで防御システムという考え方です。

西ヨークシャー・ナショナルトラストの地域マネージャーであるクレイグ・ベスト氏はこう語っています。

「伝統的な洪水防止策としては、防御壁のようなハードインフラを作ってきました。でも、私たちは自然の洪水管理の機能でも、自分たちの暮らしを守れるということに気づいてきたのです。しかも、ほかの様々な自然環境の恩恵も受けられるのです。景観を再生すると同時に、新たな野生動物の生息地を作るという仕事ですが、一度出来上がれば、町や村が集中する下流域に向かう河川水量を著しく減らして洪水を防ぐことができるのです」

シャクシギやキバシヒワのような鳥類がみられるようになったり、湿性植物エリアも期待できるとのこと。それらは今後観光資源にもなるでしょう。

国立公園に指定されているヨークシャー・デイルズ。多様な景観を持ち、保全に対する関心が高いエリアでもある。
:Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by Jenny Mackness

ただ、コンセプトにはすごく共感できるのですが、一体グリーンインフラは地域にどういった条件の場所にあればうまく機能するのでしょうか?

その一手法を政府の諮問機関である「ナチュラル・イングランド」が示しています。この団体は環境・食糧・農村地域省がスポンサーですが、横断的に国内の自然や景観を保護するための支援をしており、過去に自然を活用したインフラであるグリーンインフラを、ヨークシャー地域で描くためのマッピングプロジェクトを実施。その手法や結果を提示しています。

具体的なグリーンインフラ部分の絞り込みは以下のように手順化されていました。

1)グリーンサイト、指定区などのグリーンインフラ資源のエリアをマッピングします。
例えばトラストエリア、保護区、地域のグリーン空間が該当します。この作業で既に保全されているエリアを確認できます。

2)グリーンインフラになりそうな箇所をマッピングします。
例えば、以前開発された場所、再建エリア、廃線・廃坑エリア、過去の埋立地です。潜在的に使えそうなエリアが把握できます。

3)コリドー(グリーンインフラに使えそうな自然空間)をマップに描き込みます。
地元と隣接自治体からの参加者で集まって議論しながら検討します。境界を越えてグリーンインフラを考えることができます。

4)コリドーを3階層(地域、準地域、地区)に整理します。
議論を持ち帰って、コリドーの境界線をチェックしたり、グリーンインフラとしての機能があるかを確認して階層をつけます。機能というのは例えば、オープンスペースがあるか、生物多様性があるか、生産性があるか、洪水抑制力があるかなどです。

5)コリドーの機能の文書化
機能があるのだという確固たる証拠を明示するのが目的です。

上記で可視化された情報は今後計画判断を進めていく上で、非常に重要な資料になることは間違いありません。

自然の力を借りて、自分たちで災害から身を守っていくには実際にどう計画を進めたらよいのか。なだらかな平地のヨークシャー地方と日本の浸水想定エリアは状況こそ違いますが、エビデンス・ベースで客観的に自然に向き合う姿勢も参考になる取り組みです。

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山田由美
山田由美

神奈川県在住 地図データを使った環境分野の分析を20年程続け、今は複数の大学で研究員として勤務しています。 社会人博士課程にも在籍しています。生物多様性保全すべき場所はどこなのか?という問いに地図上でここです!と答えられるようにするのが私の研究のゴールです。

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