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2017.08.04 | 岩井 光子

交通弱者のニーズに応えたい、超小型EV「リモノ」がまちの未来を変える?


ヨーロッパで人気のL6e。ロンドンではEV車は渋滞税が免除される規定があり、こうした優遇策もEVが主のL6eの売り上げを後押しする  Creative Commons,Some Rights Reserved, Photo by Revolve Eco-Rally

日本の高齢ドライバーは年々増え、2020年には75歳以上の運転免許保有者は600万人に達すると見込まれています。高齢者の交通事故が社会問題化するなか、高齢ドライバー本人や、その家族の不安を和らげる自動車とは、もはや車体の大きな高級車ではなく、“ちょっとした移動”に便利な超小型の低速車なのかもしれません。軽自動車よりも、手軽に所有でき、気軽に乗りこなせる四輪車。子育てや介護で送り迎えの多い女性たちも含め、原付きバイク以上、軽自動車未満のこうしたパーソナルモビリティの潜在的なニーズは高いはずですが、この空白を埋める法的な車種区分は、日本ではまだ定まっていません。

国土交通省は2012年に、1〜2人乗りの超小型モビリティのガイドラインを定めました。翌年「公道走行を可能とする認定制度」が創設されると、関心を寄せる自治体や企業が続々と名乗りを上げ、先行導入しました。セブン―イレブン・ジャパンはトヨタの超小型電気自動車(EV)「コムス」を、日々の買い物が困難な地域の宅配に活用。横浜市は、日産の2人乗りEV「ニュー・モビリティ・コンセプト」を置いたステーションを作り、観光客や地域住民対象のカーシェアリングを試みています。制度の文面を見ると、一部、二輪自動車の基準適用や、衝突安全性に関する基準緩和もありますが、運行は、制度に公募した地方公共団体が設定したエリアに限ることが条件となっています。


超小型モビリティでなく、1人乗りミニカー規格で一般発売されたトヨタ「コムス」。企業の配達車などとして、見かけることも増えた  Creative Commons,Some Rights Reserved, Photo by JOHN LLOYD

こうした超小型低速車は、ヨーロッパでは既に幅広い層に普及しています。EU圏には「L6e」というマイクロカー(light quadricycles)のカテゴリーがあります。 大人2人乗りで、車両重量350キロ以下、最高時速45キロ以下、最高出力4キロワット以下(動力が電気の場合)。都市部で人気を集めるマイクロカーの売れ行きは、特にフランスでは政府のEV優遇策にも後押しされ、好調で、ここ10年間の年平均成長率は4.9%だと言います。フランスやイギリスなら、16歳以上で原付きバイク免許を所持していれば誰でも運転できるとあり、原動機付き自転車に近い位置付けです。

日本でも昨年5月、このEUのL6e規格を強く意識した超小型電気自動車「rimOnO(リモノ)」のプロトタイプがお目見えしました。大人2人乗りで、長さ2.2メートル、幅1メートル、高さ1.3メートル、車両重量320キロ、最高速度時速45キロ。ハンドルは原付きバイクと同じバーハンドルにし、アクセルとブレーキを踏み間違えるリスクを減らしています。一番の特長は、内部の骨組みこそ鉄製ですが、ボディが柔らかな布製であること。帝人フロンティアからテント用ファブリックの提供を受け、スマホカバーのように“着せ替え”の可能性を広げました。もちろん防水性、対候性、耐久性にも優れた素材で、ちょっとこすったくらいでは目立ったキズはつかないと言います。製作陣が「“かわいい”をとことん追求した」と強調するだけあって、赤いステッチが見えるその外見は、アニメのキャラクターのようで、展示会では子どもが真っ先に走り寄ってきます。


弾力のあるボディが特長の「リモノ」。製作は、元経済産業省の伊藤慎介さん(右)、元トヨタ自動車デザイナーの根津孝太さん(左)たちが立ち上げたベンチャー「リモノ」社。根津さんは2012年、ボンネットをパネル式にし、着せ替え可能にしたコンセプトカー「Camatte(カマッテ)」で鮮烈な印象を残したカーデザイナー。当時から着せ替えのアイデアは温め続けていたという

夢のあるパーソナルモビリティをプロトタイプに落とし込み、これまで超小型モビリティに関心の薄かった女性層や子どもたちの注目も十分に引き寄せたリモノですが、リモノ社CEOの伊藤慎介さんは、ベンチャーが業界に参入する難しさを語ります。ハンドル操作を原付きバイクに近寄せ、二輪車に近い四輪車をイメージしていますが、現在の超小型モビリティの制度で適用される基準緩和が将来的にも続くかどうかはあいまいで、多額の開発投資が無駄になる不安はぬぐいきれません。また、走行エリアが地方公共団体の利用目的に限定される現状では、量産体制に舵(かじ)を切るのは難しいとも。資金調達にも苦心しています。公道走行試験にかかる費用を集めようと、7月上旬まで全国8店舗のパルコを回ったクラウドファンディングは、最終的に目標額の4000万円には手が届きませんでした。

「路頭に迷ってしまった…」、伊藤さんは肩を落としますが、そもそも交通弱者の目線に立った超小型低速車として、乗り物(Norimono)から “No”(拒否・禁止)を取り去ってネーミングしたリモノ。日本は交通事故死のうち、歩行死者の割合が先進国のなかで抜きん出て高いというデータがあります。リモノの軽量化を図り、ボディを布で覆ったのは、日本の車社会における車と人との関係性への問題提起でもあった、と伊藤さんは鋭く指摘します。超小型モビリティが走る未来を考えることは、車と人間の日々の暮らしとの関係性、そしてまちづくりをひっくるめて設計することに他ならないのかもしれません。「こんな車が欲しかった」、高齢ドライバーや子育て中、介護中の母親たち、感度の高い若者たち―、多くの層に求められているニーズは「肌で感じた」と、伊藤さんは言います。超小型モビリティは、歩行者と車、そして、まちの未来に、リモノのボディのごとく柔らかな関係性をもたらす可能性を大いに秘めていると思うのですが…。

岩井 光子
岩井 光子(いわい みつこ) ライター

地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!

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