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2018.12.04 | 山田由美

港町ボストンが示す、生態系を利用した新しい治水の考え方

Boston Waterfront:Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by Shelby L. Bell

2018年10月、米ボストン市のWalsh市長が商工会議所で会見し、新たな気候変動対策「Resilient Boston Harbor」について発表しました。この記者会見で、Walsh市長自らが熱くリーダーシップを執ってきたプラン「Climate Ready plan for South Boston」が改めて脚光を浴びています。海浜地区に災害時の海面上昇による浸水を吸収できるだけの公園を用意し、都市減災を目指すという画期的なチャレンジです。

実はこの計画には前段の話があります。

海に面するボストン市にとって気候変動による洪水の増加は、すでに都市にとって現実的な脅威となっていました。資産・建造物の損失予測は今後増大が予想されます。洪水リスクから人々の生活や経済を守るタフな都市として発展していく手段を考えることは、市にとって急務の課題であったのです。

Boston Ave. & Mobile St.
Longmont flooding 2013:Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by Bryce Bradford

そして同市は、最高で約120億ドル(約1兆3600億円)の費用をかけて、約6キロの防潮堤を建設する計画を作成。2050年までに最大約50センチの海面上昇に耐えられるようコンクリート構造物での防御を考えました。

ところがマサチューセッツ・ボストン大学の学部横断組織sustainable solution lab.がその案に対して実現可能性を検討した結果、「水が入ってこないようにゲートを閉めるような壁を多額のコストをかけて作っても長期的には海面上昇が進み、町を守れない」と警鐘を鳴らす結論を発表したのです。

そこで市は考え方を180度転換し、水をくい止めるのではなく引き受けてしまう場所を作ることにしました。水際の土地を広大な公園とし、平時は市民がレクリエーションを楽しみ、動植物に生息地を提供し、ハリケーンなどにより海面が上昇する時にはその水を貯留するというもの。氾濫原性(※)の土地が元来持つ生態系サービスの調整機能をうまく利用したもので、自然のバリアシステムです。もちろん必要に応じて既存の防波堤による防御の必要性も述べていますが、ハイブリッドなシステムは従来の構造物のみの防御よりはるかに持続可能なものとなるでしょう。

※氾濫原 海や川などの水域から流れてきた水が氾濫する範囲の平地。洪水時に浸水するリスクを抱えるが、肥沃で文明が栄えてきた地でもある。

自然が本来持つ機能を活用して減災・防災に取り組む考え方は「生態系を活用した減災・防災(Ecosystem-Based disaster risk reduction、Eco-DRR)などとよばれ、国際的にも持続可能な手段として、ここ数十年間注目されてきました。

ボストン市と同じく度重なる氾濫に悩まされて来た低湿地の多いオランダも水と闘うのはやめ、水のスペースを確保する「Rooms for the River」というアイディアに転換しました。この“Dutch Solution”は世界でも先進事例として人と自然の両者にメリットをもたらす形に進化しています。

近年、この考え方は国内外で制度上の提唱がされています。2015年、仙台行動枠組み(2015)でも「生態系に基づいたアプローチの実施」が重要な行動として明示され、国内でも同年、閣議決定された国⼟形成計画・国土利用計画に「グリーンインフラ」の活用が明記されました。(※コンクリート建造物を「グレーインフラ」と捉えることに対し、自然環境を基盤とした解決方法をグリーンインフラと称します)

気候変動による災害の激化を経験しつつも、人口減少社会を歩み始めた日本。構造物の維持管理費がいずれ投資額を上回るとされ、既存の方法では将来的負担が大きいとわかりながら、浸水想定が予想される土地にもまだまだ開発の圧力はやみません。

災害に脆弱な場所を開放し、減災効果をもたせることは経済的な合理性もあり、地域の文化的価値の向上、生物多様性保全にも寄与します。

ボストン市の決断は、災害からの防御の仕方を今一度考えなおすきっかけになるのではないでしょうか。

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山田由美
山田由美

神奈川県在住 地図データを使った環境分野の分析を20年程続け、今は複数の大学で研究員として勤務しています。 社会人博士課程にも在籍しています。生物多様性保全すべき場所はどこなのか?という問いに地図上でここです!と答えられるようにするのが私の研究のゴールです。

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