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石油採掘にNo! 熱帯雨林保護に立ち上がったアマゾン先住民女性リーダーの功績
アマゾン先住民ワオラニ族の女性リーダー、ネモンテ・ネンキモさんは2020年、地球環境の保護に貢献した人を顕彰する国連「地球大賞」とゴールドマン環境賞を次々と受賞しました。また、タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」の1人に選ばれるなど、彼女の功績は、世界中の先住民にとって大きな希望になっています。
悠久の大自然の恵みを利用して暮らしてきたアマゾン先住民は、今から500年前にヨーロッパ人と遭遇して以来、伝染病や奴隷狩り、地下資源の採掘などによって、生活や、ときには生命まで脅かされてきました。1541年、アマゾンに向けてエクアドルのキトを出発した遠征隊の一員で、世界ではじめてアマゾンについて記したとされるガスパール・デ・カルバハールの記録〔1〕には、アマゾン川の川岸に数多くの先住民の集落を目にした、とあります。
さまざまな説があるものの、彼らが豊かな自然のなかで繁栄していたようです。しかし、国際人権NGOアムネスティ・インターナショナルよると、1500年頃、ブラジルの先住民の人口は100~300万人ほどだったと推定されていますが、ヨーロッパ人との衝突によって、およそ100の民族が姿を消し、現在の人口は20万人ほどに縮小したといいます(調査によって数値は異なります)。
現代、先住民は侵略者との戦いを司法の場に移しました。2018年半ば、南米エクアドル東部のパスタサで暮らすアマゾン先住民ワオラニ族は、自分たちの領地を承諾なしに油田開発業者に売り渡そうとしたエクアドル政府を相手に、裁判を起こそうと立ち上がったのです。ワオラニ族のリーダーであり、先住民の権利と文化のための非利益団体「Ceibo Alliance」の共同設立者でもあるネモンテ・ネンキモさんは、オンラインで世界中から約40万の署名を集め、原告の代表者となって司法に訴え、2019年4月、ついに裁判で自分たちの権利を勝ち取りました。
裁判の結果、50万エーカー(約2000平方キロメートル)の土地が保護されるだけでなく、エクアドル政府は今後、所有者との自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意なしに、ほかのどの領地も競売にかけることができなくなりました。このネンキモさんらワオラニ族の功績は、世界中で権利を訴えてきた先住民や彼らを支援する団体にとって画期的な先例になると大きく称えられています。
ところが今、アマゾン先住民は、油田探査などでやってくる外部者がもたらす新たな脅威に直面しています。世界中がパンデミックに陥っている新型コロナウイルスがアマゾンに持ち込まれているのです。アムネスティの報告では、エクアドルのアマゾン先住民29万人のうち、新型コロナウイルスの感染者は約3300人、死者は80人(2020年8月時点)とされていますが、検査を受けた人数が少なく感染が広まっていることから、実際の感染者数はもっと多いといいます。
日本から見ると、地球の反対側にあるアマゾンは、世界でも一番遠いところと感じるかもしれません。しかし、地下資源に依存した今の経済システムのなかに私たちの生活があることを考えると、傍観者でいるわけにはいかないと思うのです。
神奈川県在住。翻訳者、ライター。 2010年からThink the Earthのリポーターとして世界の持続可能な取り組みのニュースを発信。気候変動、エネルギー、生態系など幅広い分野で世界の動きを追っていきます。翻訳書『ポストキャピタリズム:資本主義以後の世界』(東洋経済新報社)など。