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2023.08.13 | 仲川 美穂子

元国連職員が定年後に挑む 人と環境にやさしい生き方 ~兵庫の小さな山村より

ニューヨーク、ナミビア、モルジブ、バングラデシュ、カザフスタン、東ティモール。国連職員として、世界各地で子どもの教育、健康、栄養、衛生状態等の向上に30年も尽力してきた久木田純さん。その経験を活かして持続可能な開発目標(SDGs)の形成にも関わり、SDGsが国連サミットで採択された2015年、ちょうど60歳の定年を迎えました。

気候変動や大量消費・廃棄による環境問題が次世代に及ぼす影響を世界各地で目の当たりにしてきた久木田さんが目指したのは、人と地球にやさしい生き方の実践です。この8年、久木田さんは兵庫県の小さな山村で、「サステイナブルな暮らし」を模索してきました。

自宅の庭で木製カップを作る久木田さん

まずは、生活の拠点となる家。新築はCO2排出量が多いため、大工さんの手を借りて古民家を改修。温室効果ガスをなるべく出さないよう熱効率を計算し、暖房は集落の仲間と伐倒した間伐材などを利用した薪ストーブ、お風呂は最新の太陽熱温水器を使用しています。「中期的にはカーボンニュートラル、その後はカーボンネガティブ*を目指します」と、この夏はソーラー発電機を設置して自作小屋のオフグリッド化**を進める一方、炭素を埋めるバイオ炭の利用にも取り組んでいます。

*カーボンネガティブ:温室効果ガスの吸収量が排出量を上回っている状態。
**オフグリッド:電力会社の送電網(グリッド)に繋がらない、電力を自給自足していること。

古民家にはエアコンがない。夏の暑さは簾で緩和する
雨水も300リッターのタンクを設置し、水の自給率を上げる

そんな久木田さんは、食にも「地産地消を優先し、食べものを家庭内、集落内で循環させる」というこだわりがあります。夫婦で畑を耕し、野菜や果物を育て、ミツバチや鶏を飼い、鶏糞、落ち葉、生ごみはコンポストで肥料にして、有機栽培をします。そして、冬には地元でイノシシと鹿の罠猟(わなりょう)、解体、精肉。ある日の食卓は、「庭のあちこちに出てきたフキノトウの天ぷら、厳冬を生き延びた甘いほうれん草の胡麻和え、烏骨鶏の卵、ぺんぺん草と原木椎茸の茶碗蒸し、お隣のおばあちゃんにもらった里芋とイカの煮物、いつもの野草茶」と野趣あふれ、自然の恵みそのものを噛みしめているようです。

滋味あふれる、ある日の食卓

「サステイナブルな暮らし」をしたいけれど、ここまではなかなか…と思う方もいらっしゃるかもしれません。実際、久木田さんは今の生活をカタチにするまで試行錯誤を繰り返し、そして今も挑戦を続けています。「正直、大変ではないですか?」と尋ねたところ、「むしろ、楽しいですよ」と、ためらいのない返事。古民家改修、石垣づくり、農業、狩猟免許取得、自家発電。「リスキリング(reskilling=新しいスキルの習得)には、生きがいを見出すアイデアが詰まっています」

自作の小屋での太陽光発電もリスキリングで挑戦

今年、68歳になる久木田さん。「初孫の小さな手を握った時、この世界をよりよくするために、まずは自分から始めようと思いました」とふり返ります。「サステイナブルな暮らし」とは、人類にも環境にも心地よい循環を築いていくこと、そのために必要な工夫をすること、その努力が暮らしをより豊かなものにしていくという、まさに終わりのない循環なのかもしれません。

久木田さん一家。循環の暮らしは受け継がれていく

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仲川 美穂子
仲川 美穂子(なかがわ みほこ) 地球リポーター

数十年前、まだインターネットがなかった時代。「地球の歩き方」を握りしめて東南アジアを旅し、自分が知らなかった地球のローカルな暮らしや食文化、アートに関心を持つように。日本、フィリピン、ベトナム、ガーナ、バングラデシュ、チュニジアなどで国際協力の仕事をしながら、現地のひとたちとの触れあいを大切にしてきた。世界にはさまざまな境界線があれど、その境界線の揺らぎや滲み、交わりに心惹かれる。いろいろな物差しが混在するコミュニティの幸せとは何か。微力ながらも、ひとりでも多くのひとが一緒に考えられるきっかけづくりをしたい。

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