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2018.04.27 | 岩井 光子

シアトル発 パーマカルチャーで育む「食べものの森」がコミュニティを変える 

©Beacon Food Forest

マイクロソフトを生んだビル・ゲイツの出身地であり、Amazon.comが本社を構える米ワシントン州シアトル市。巨大企業の好景気にあやかろうと人口流入が止まらず、2015年から16年の人口増加率は全米1位。求人は好調ですが、都市近郊の住宅価格が跳ね上がり、住まいを失う貧しい家族も増えています。シアトルのあるキング郡はホームレスが増加しており、2017年には1万1000人を超え、ニューヨーク、ロサンゼルスに次ぐ、ワースト3でした。

現在、世界の人口の半分が都市部に暮らしています。人々は川が海に注ぎ込むように豊かさを求め、都市部へ移動し続けているので、2030年にはその割合は60%に達すると言われています。シアトルのように人口流入が激しいまちで多消費型の暮らしを続けていけば、都市インフラは限界に達し、環境も悪化します。すべての住民が安全で快適な暮らしを送るためには、行政を始め、さまざまな立場の市民が、一緒になって未来のまちを構想していく必要があるのです。

シアトルでは2009年、そんな都市課題に新しい視点からのアプローチを試みる興味深いプロジェクトがスタートしました。「ビーコン・フード・フォレスト」です。シリコンフォレストとも呼ばれる巨大IT企業の集積地、シアトル市の公園に生まれたフード・フォレスト(食べものの森)とは、一体どんなプロジェクトなのでしょうか?

今後の構想を話し合うデザインチーム ©Beacon Food Forest

ビーコン・フード・フォレストは、シアトル・ティルス(※1)が主宰するパーマカルチャー(※2)講座の受講生たちが、最終プロジェクトとして市に提案したデザインマップが足掛かりとなりました。場所は、ジェファーソン公園西の傾斜地。これまで芝刈り機が通るくらいだった7エーカー(約3万平方メートル)の芝生のスロープを、誰もが果物や野菜を自由に収穫できる森に生まれ変わらせるという、とても斬新な案でした。

※1 シアトルティルス オーガニック・ガーデニングや街のエコロジーを推進する非営利団体。オレゴンやワシントンにもある。子ども向けから大人向けまで各種園芸&農業教室などを実施。ティルスは英語の古語で「精神や魂を養う」の意味も。
※2 パーマカルチャー 1970年代にオーストラリアのビル・モリソンが考案。パーマネント(永続する)、アグリカルチャー(農業)、カルチャー(文化)、からの造語。作物だけでなく、動物や水、エネルギー、住まい環境など、生活全般をデザインの対象とし、人の手間をはぶきつつも、持続可能な暮らしを設計していく。

当初は夢のように思われたアイデアでしたが、シアトル市地域課の基金を活用できることになり、プロのデザインチームも加わって案は精査されました。追加資金の目処も立ったことから、実現に向けて動き出したのです。

昨年5月のビーコン・フード・フォレスト ©Beacon Food Forest

ビーコン・フード・フォレストのユニークな点は、実のなる樹木をパーマカルチャーの手法に則って植えているところです。森の高層には果樹やナッツ類を、低層にはベリー類などの低木や食用の多年性植物を、バラエティー豊かに密植させることで、互いが成長を支え合います。森を訪れる鳥のふんは自然の栄養補給となり、多様な虫たちが特定の害虫の発生を抑えます。うまくバランスのとれた生態系を築くことができれば、人間の管理の手間も少なくて済むようになります。

つまり、フード・フォレストはお腹をすかせているホームレスの人たちに鮮度の高い果物や野菜を提供できるメリットはもちろんのこと、他にも様々な副産物をもたらしてくれるのです。例えば、大地に根を下ろした木々の根は、雨水を浸透させて土壌を健やかにしますし(シアトルでは、アスファルトに覆われていない地面に雨水を貯める雨水庭園のプログラムも以前からあります)、外来種の撤去などの手入れを地域のボランティアが担うことで、住民は環境に対する理解も深めていきます。園内にある森の虫たちの働きや雨水の浸透などをイラストで示した看板は、多くの人種が住むシアトルにふさわしく、複数の言語に翻訳されていました。

ジェファーソン公園の運営メンバーで、ランドスケープの園芸家として長く仕事をしてきたグレン・ヘリヒーさんは、フード・フォレストのデザインマップを受講生たちと共に作り上げ、計画のイニシアティブをとってきました。ヘリヒーさんはこう言います。「地域のコミュニティや子どもたちにとって、近くに食べものを調達できる場所があることは恵まれていることだと伝えたい。食べものを何千マイルも遠くから運んでくる必要はない。もっと身近な場所、“ここ”で育てることができる。そこに気づけば、グローバルな食のシステムにのみ込まれずに済む」

ヘリヒーさん ©Beacon Food Forest
©Beacon Food Forest

スタートから8年近くが経ち、細かった苗は太くなり、フード・フォレストは深い森を形成しつつあります。いろんな草花やハーブが咲き乱れ、蜂が飛び回り、多様なベリーが実り、樹上からは鳥の声が聞こえてきます。月一度のワーキングパーティーでは100人近いボランティアが作業に汗を流し、軽食を楽しみながら交流を深めています。

©Beacon Food Forest
ワーキングパーティーで ©Beacon Food Forest

ヘリヒーさんは言います。「自分にとって居心地の良い場所(コンフォートゾーン)から出て、行政と一緒にプロジェクトを進めたり、人前で話したりすることは、始めは勇気がいった。でも、今ではこの場所が心地良くなったし、行政の人たちのこともよくわかるようになった」。一方、市の担当者にとっても、前例のない試みを進めるための運営体制を一から作ることは、非常に根気とエネルギーのいる作業だったはずです。

©Beacon Food Forest

フード・フォレストには、実にさまざまな当事者がかかわっています。パーマカルチャーに詳しい活動家、環境や食料問題に関心のある市民ボランティア、ホームレスの人々、市の区画農園や公益事業部、地域課といった部署の担当職員、そして、プロのデザインチーム、などなど。立場の違う住民たちが、お互いにそれまでのコンフォートゾーンから思い切って外に出ることで、協力し合う新しいまちの姿が見えてきています。森と同時にコミュニティもリデザインしているフード・フォレストには、これからのまちづくりのヒントがたくさん含まれているように思うのです。

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岩井 光子
岩井 光子(いわい みつこ) ライター

地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!

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