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2019.12.27

サステナブルな社会を作るための教育とは? グリーンスクール@バリ視察レポート

今年の10月にサステナビリティをテーマに教育を行うバリ島のグリーンスクールに行ってきました。グリーンスクールについては書籍『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』でも紹介しています。創設者のジョン・ハーディ氏は、ジュエリービジネスで成功させ優雅な余生を楽しむはずが、アル・ゴアの映画「不都合な真実」を見たことで一変。強い危機感を感じて持続可能な社会をつくる人を育てるためにグリーンスクールを2008年に創立し、今年で10年目を迎えました。最初は生徒集めに苦労したそうですが、今では幼稚園から高校まで世界40ヵ国からおよそ500人もの子どもたちが集まる学校になりました(現在、日本人の生徒は18人だそうです)。2012年のTEDでも「世界に50箇所、グリーンスクールを作りたい」と話していたように、すでに世界展開が始まっていて2020年にニュージーランド、2021年には南アフリカ、メキシコに新しいグリーンスクールが開校される予定です。そしていつかは日本にも!?そんな期待を持ちつつ、今回の訪問レポートをお届けしたいと思います。全部で3つのツアーを体験してきました!

グリーンスクール見学ツアー

グリーンスクールは、バリ島の中心街の一つであるウブドから少し離れた熱帯雨林の中に校舎があり、空港から車で1時間ほどかかります。そんなに立地にも関わらず、グリーンスクールに見学に来る人はあとを絶ちません。毎日実施されるツアー(有料)に世界中から参加者が集まります。私たちが参加した時もドイツ、インド、韓国、マレーシアなど様々な国籍の人が20名以上集まっていました。学校に着いてまず目を奪われるのが竹で作られた美しい校舎です。バリで育った大きな竹を使い、バリの大工が作りました。竹は成長が早く、二酸化炭素を吸収するので環境にもいい素材です。校舎だけでなく、橋や遊具、机、椅子など様々なものが竹で作られています。壁や窓はなく、自然光や風が通るとても気持ちのよいオープンな空間が広がります。また、「一人になれる時間がほしい」という生徒発案のアイデアで中庭に一人用の小さな小屋が作られたり、ニワトリを育てることでウェルビーイングを学ぶ、など普通の学校とは違う切り口で生徒たちが学べる空間や施設が整っていました。

グリーンスクールのエントランス
ツアー参加者の目印になるペンダント
いつでも自然を体感できる校舎。まるでプライベートヴィラに来たような心地よさ。

グリーンスクールでは、学校の施設内ですべて循環するシステムづくりを目指し、ごみはゼロ、電気も水も100%自給自足を目指しています。近所のロコファーマーと協力して野菜やお米を作り、生徒たち自身で食事を作ることもあります。キッチンで使われるのはオーガニックなココナッツオイル。様々な宗教の子どもたちがいるので、ベジタリアンフードの用意がちゃんとあり、生徒のアイデアで料理のメニューが生まれることもあります。トイレはコンポストになっていて、畑の堆肥として活用されていますし、校内のソーラーパネルや水力発電によって使用する電力のおよそ60%を賄うことができています。食、水、エネルギー、ゴミなど、生徒たちの発案で校内の仕組みはどんどん進化しているそうです。残念ながらちょうど学校が休みの期間だったため生徒の姿は見られませんでしたが、生徒発案のプロジェクトの掲示がいくつもあり、生徒が主体的に取り組んでいる姿が想像できました。

校内に設置されているソーラーパネル
生徒たちによる手作りのSDGsパネル
こんなにたくさんのプロジェクトが!
校内にはStudent Projectと書かれた看板がいくつもある
グリーンスクールで身につく9つのスキル

Kembali(ケンバリ)ツアー

2018年1月、中国がそれまで受け入れていたプラスチックごみの輸入を禁止したことがきっかけで世界中で脱プラスチックの動きが生まれています。バリ島も深刻な状況です。現在、1日に4千トンのプラスチックごみが埋め立て地に運び込まれていて、このままでは5年間で埋め立てる場所がなくなってしまうそうです。インドネシア全体ではプラスチックのリサイクル率は7%と非常に低く、国としても大きな課題になっています。

グリーンスクールにはごみ問題に取り組むプログラム「Kembali(ケンバリ)」があります。「Kembali」とは、インドネシア語で「戻る」という意味で、地域を巻き込みながら、教育を通じて、ごみを資源として新しいモノに作り変えています。

「Kembali(ケンバリ)」プログラムの説明図

グリーンスクールの生徒たちは毎朝ごみをもってきて、分別をすることから一日が始まります。校内にあるリサイクル施設にごみを持ってきて21種類のカテゴリーに分別し、EcoBaliという団体と連携して資源の再生を行っています。また近隣の9つの学校の生徒は、ごみを5kg持ってくると放課後の英語の授業に3ヶ月間無料で参加することができるプログラム(Trash for Class programme)があります。このプログラムのおかげで地域のごみが集まりやすくなり、さらにグリーンスクールの生徒だけでなく、地域の子どもたちもごみが資源だということを実感できる仕組みになっていました。現在は月に1.5トンのごみを集めているそうです。こうした取り組みの中、2014年にグリーンスクールで学んでいた当時10歳と12歳のメラティ、イザベラ姉妹が「バイバイ・プラスチックバッグス」というプロジェクトを起こし、2019年からデンパサール市ではプラスチック袋(レジ袋)が廃止されることになりました。

アルミ、プラスチック、紙、牛乳パック、ガラスなどを分別して保管する場所。スタッフから「日本はもっと細かく分別しているところがあるのでは?」と質問があり、徳島・上勝町の事例を教えてあげました。

プラスチックを分解する機械

プラスチックを分解する仕組み。砕いて溶かすことで、全く新しい形をつくることができる

グリーンスクールには学校の設備とは思えない最新の機械が揃った工房スペースがあります。ここで生徒自らが手を動かして、モノを作り出すことが日常的に行われています。たとえばペットボトルのキャップを溶かして3Dプリンタ用のフィラメントをつくり、生徒たちがデザインしたプロダクトを試作しています。リサイクルの他にもソーラーパネルの電力で走る船やハーブでエッセンシャルオイルを作ったりしています。作った製品がいかに長く使えるか、ということも重要なポイントです。生徒がイノベーションを起こすためには、様々なプロトタイプを作り、トライ&エラーを繰り返すことが重要だと教えてくれました。

3Dプリンターやレーザーカッターなど、生徒たちがプロトタイプを作るための道具が揃っていました

ケンバリツアーでは、こうした普段の授業の様子や校内の循環システムを伺った後、いつも生徒たちがやっているように、学校の周辺を歩いてごみ拾いをしました。ほんの少し歩いただけで、驚くほどたくさんのごみが見つかりました。一般的にバリ島では、家の敷地内にごみをまとめ、その場で焼却するという暮らしをしているそうです。そのため、学校の外ではごみ問題に対する課題意識がまだ広がっていないようでした。最後は、チラシを使ってエコバッグを作りました。

ごみ拾いの様子

ごみはあちこちに落ちていました

スタッフのみなさん、丁寧にエコバッグの作り方を教えてくれました

15分ほどの作業でエコバックが完成しました

バイオバスツアー

ナシ・ゴレン(焼きめし)やミ・ゴレン(焼きそば)に代表されるバリ島の料理はほとんどがフライ料理で、調理にはヤシ油(パームオイル)が使われています。インドネシアは1年に4,700万トンのパームオイルを生産し、2位のマレーシアと合わせるとパームオイルの世界シェアは80%以上です。家庭ではもちろん、インドネシアのホテルやレストラン、屋台などで日常的に使われており、使った油は下水から川へ、そして海に流れ込み海の生態系に影響を与えサンゴが死にかけている、という問題があります。そしてもうひとつの知られざる問題は、劣化したパームオイルがブラックマーケットで再販売されていることです。50回以上繰り返し使い、酸化により劣化した油をなんと塩素で漂白し、新しい油としてペットボトルに詰めて売っているのです。こうした塩素を使って漂白した質の低い油は血管を詰まらせ、脳梗塞を引き起こし、長く摂取しているとがんになる可能性が高くなる恐れがあります。しかし、通常のパームオイルの半額(1リットル40セント)ほどの値段で売られているため、一般の家庭や小さな食堂などで使われています。この問題は、マレーシアや中国でも起こっているそうです。

お店で売られていたパームオイル。AQUAはミネラルフォーターのブランド名です。こうしたペットボトルに入っているパームオイルは漂白されている可能性がとても高い

そこでグリーンスクールでは、40以上のレストランやホテル、大学とパートナーシップを組み、使用済みの油を10リットル1.5ドルで引き取っています。たとえばそのうちの一つ、フォーシーズンズホテルからは、1週間でおよそ700リットルの油が集まるそうです。こうして集めた油を使ってバイオディーゼル燃料をつくり、それを「バイオバス」と呼ばれるスクールバスの燃料として使っています。残ったグリセリンはまだグリーンスクールでは処理できないため、韓国に輸出して、石けんやローション、歯磨き粉などに姿を変え、またインドネシアに逆輸入されます。生徒たちは使用済みの油を使って、石けん、キャンドルなどをつくったり、グリセリンからマッサージオイルを作っています。今回のツアーでは、グリーンスクールの小学生が学んでいるのと同じ、使用済みの油を使ったバイオソープを作りました。

左の黒いビンが使用済みの酸化したパームオイル。これを分離させてできたのが、右のバイオオイル

生徒が作ったバイオソープ。彫刻がとても美しい

バイオバスのアイデアを発案したのは生徒でした。現在、ウブドやデンパサールなど6つのルートを複数のバスが走り、朝と夕方は生徒とスタッフを送り迎えし、昼間の空いた時間は地域住民が乗れるコミュニティバスとして運用されています。使用済のパームオイルを燃料にしてスクールバスに活用することで、海の汚染を防ぐだけでなく、生徒の送り迎えに使われる燃料も節約することができ、さらに運賃から利益を得るなどビジネスとしても成功しています。


校内外を走るバイオバス。500人の生徒が通うために、なくてはならない存在です

使用済みの油から作られるバイオディーゼル燃料はディーゼルエンジンにしか使えませんが、インドネシアはバイクが主流です。そこで、生徒の一人がバイクでも使えるバイオガソリンが作れないかと考えました。グリーンスクールには500人の生徒と200人のスタッフがいて、毎日ご飯を食べています。その食べ残しを発酵させて、バイオエタノールを作りました。現在はこのバイオエタノールからバイオガソリンを作ることに挑戦中です。今はまだ少量で時間もかかりますが、純度の高いバイオガソリンを作ることに成功しました。ゆくゆくはファンドを募り、生産量を増やして販売を始める計画です。実は最近このプロジェクトで、スウェーデンとフィンランドのアワード=Children‘s Climate Prizeを受賞しました。その賞金を充てて、さらに改良しようと考えているそうです。

左がバイオガソリン、右がバイオエタノール

3つのツアーを体験して

話を聞けば聞くほど、どのアイデアも生徒のやりたい!や疑問から新たなプロジェクトが生まれていることがとても印象的でした。数年前にも「ゴミから燃料は作れるが、ゴミからバイクそのものを作ることはできないの?」と生徒たちから問いかけがあったそうです。そこでグリーンスクールが生徒の発案にお金を出して、バリで初めてディーゼルエンジンで動くバイクが誕生しました。グリーンスクールの教師は生徒に教えるという立場だけでなく、ファシリテーターとして彼らのアイデアの実現に力を貸す役割の人もいます。そのため、グリーンスクールの子どもたちは次々にチャレンジング(クレイジー)なアイデアを生み出すことができるのです。生徒の主体性を徹底的に考え、現実社会の課題解決と生徒自身の学びを両立させるプログラムはさすが世界有数のプロジェクト型学校だと感じました。

ゴミからバイクを作ろうと考えたのは女子生徒の発案でした。講師の方に写真を見せてもらいました

グリーンスクールを入ってすぐの場所には「Choose Your Futute」の文字が掲げられていました。未来は自分で選ぶもの。今後、持続可能性を考えることは若い人たちの「当たり前」になると思います。少子化になっていく日本では、学校は今まで以上に「選んで入る」場所になるのではないでしょうか。みなさんは、どんな視点で学校を選びたいと思いますか? 自宅からの距離や学校環境、教育方針、色々な視点があると思います。そのひとつに「サステナビリティ」をテーマにした学校の選択肢が日本にもたくさんできるといいなと思いました。

未来は自分で選ぼう、という力強いメッセージ

(笹尾実和子)
協力:河本雄太

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