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2021.01.15 | 岩井 光子

世界初! カーボンニュートラルを目指すフィンランドの交響楽団

©️Maarit Kytöharju

ヘルシンキを100キロほど北上したところにある人口12万ほどの都市ラハティ。フィンランドの国民的作曲家・シベリウスの国際音楽祭開催地として、シベリウスファンにはおなじみのこのまちを本拠地とするのが、ラハティ交響楽団。同楽団は今、世界で初めてカーボンニュートラルを目指す交響楽団としても関心を集めています。


ラハティ交響楽団の本拠地・シベリウスホール ©️Jenni Kiukas

活動が動き出したのは2015年。楽団は春に気候変動対策プログラムやキャンペーンを企画する民間団体「Myrskyvaroitus」(日本語で「嵐警報協会」の意味)と初会合を持ったばかりでしたが、タイミング良く、市内のラッペーンランタ大のピルヴィ・ヴィオライネンさんが音楽業界のカーボンニュートラルを修士論文のテーマにすることを思いつき、ケーススタディーとしてラハティ交響楽団を取り上げたいとアプローチしてきたのです。ヴィオライネンさんは秋に開かれたMyrskyvaroitusとのワークショップに合流。資料収集と調査を行って楽団のカーボンフットプリントを算出し、論文を作成しました。

論文によると、楽団の主なCO2排出源はコンサートに来場する観客の交通手段と楽団員のツアー公演の移動手段でした。ヴィオライネンさんは、楽団はカーボンニュートラルを目指して削減目標を明確にし、関係者の意識を変えるべきであると提言しました。

大いに触発された楽団関係者は、活動全体を見直しています。交通の項目で環境負荷の約60%を占める観客の来場手段については、公共交通機関や自転車の利用を呼びかけ、楽団員が自転車のヘルメットを被ったPVも撮影されました。また、ツアー公演についてはサンクトペテルブルクやストックホルムなどの近郊地は電車で移動するようにし、遠方の公演先でやむを得ず飛行機を使う場合は、他の項目で排出量を減らし、相殺していくように努める、としています。


自転車のヘルメットを被って演奏する楽団員。コンサートホールへの来場にマイカー以外の交通手段を利用しようとユニークな方法で呼びかけた ©️Lassi Häkkinen

他にも電気の使用量、照明や音響の委託先、印刷物の発注先など様々な項目でCO2排出削減の可能性を精査していくなか、2017年には国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局が展開する「Climate Neutral Now」イニシアティブと協働で「グリーンボタン」プロジェクトを始めます。オンラインでコンサートチケットを買う際にこのボタンを選択すると、収益の一部が気候変動に関する国際キャンペーンに寄付される仕組みで、2018年にはクラシック音楽界の先進的な取り組みに贈られるNEXTイノベーション賞を受賞しました。

楽団が拠点を置くラハティ市は一昨年、欧州グリーン首都2021に選ばれた環境先進都市。その歴史は1970年代、急速な工業化で汚染が進んだヴェシヤルヴィ湖の水質回復を目指した「ヴェシヤルヴィ湖プロジェクト」までさかのぼります。官民連携で進めたこのプロジェクトが、今に続く先進的な環境教育・研究の基盤となっていて、市内には水やバイオテクノロジー、廃棄物の回収方法に関する研究所などが点在しています。

楽団も出演するラハティ市のPV

フィンランドは2035年のカーボンニュートラル達成を目指す、と世界で最も野心的な目標を掲げていますが、ラハティは国よりもさらに10年早い2025年に達成することを公言。市民一人ひとりが1990年と比べて2025年までにCO2排出量を半減させることを目指しています。達成年まであと4年。楽団のゼネラルマネージャーであるテーム・キリオネンさんは、「アートを通して気候危機という重要な問題を人々に問いかけられるのであれば、行動しないわけにはいかない」と話しています。前例のないオーケストラのチャレンジからも、市民が一丸となって間近に迫ったゴールに突き進んでいることがわかるのです。

NEXTイノベーション賞授賞式で。右端がキリオネンさん ©️Eric Van Nieuwland

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岩井 光子
岩井 光子(いわい みつこ) ライター

地元の美術館・新聞社を経てフリーランスに。東京都国際交流委員会のニュースレター「れすぱす」、果樹農家が発行する小冊子「里見通信」、ルミネの環境活動chorokoの活動レポート、フリーペーパー「ecoshare」などの企画・執筆に携わる。Think the Earthの地球ニュースには、編集担当として2007年より参加。著書に『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社刊)。 地球ニュースは、私にとってベースキャンプのような場所です。食、農業、福祉、教育、デザイン、テクノロジー、地域再生―、さまざまな分野で、地球視野で行動する人たちの好奇心くすぐる話題を、わかりやすく、柔らかい筆致を心がけてお伝えしていきたいと思っています!

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